ナレッジ・レポート

【登壇レポート】東京都医師会シンポジウム 一次医療の充実に向けた「かかりつけ医機能」と「病院前機能」の強化

#オンライン診療 #在宅医療

 当社代表医師の菊池 亮は2025年5月24日、東京都医師会 在宅医療委員会主催のシンポジウム「大都市における一次医療の充実に向けた在宅医療の役割」において、「一次医療の充実に向けたかかりつけ医機能と病院前機能の強化」と題した講演及び、パネルディスカッションの登壇を行いました。

 本稿では、講演内容をもとに、都市部・地方部での実例を交えながら、24時間体制の構築支援やオンライン診療の活用を通じた持続可能な一次医療体制の実現について解説します。

 なお、医療従事者向け総合医療情報 m3.com でも本シンポジウムの様子を紹介いただいています。
【東京】通院困難予備群を救え、一馬力からメガ在宅まで総動員首都の在宅医療を支える分業・連携

1. 開催概要

主 催:公益社団法人 東京都医師会
開 催:2025年5月24日(土)
テーマ:在宅医療委員会企画シンポジウム「大都市における一次医療の充実に向けた在宅医療の役割」
会 場:東京都医師会館
登 壇:辻村 泰成 先生 ( 牛込台さこむら内科 院長 )
    佐々木 淳 先生 ( 医療法人社団悠翔会 理事長 )
    弓野 大 先生  ( 医療法人社団ゆみの 理事長 )
    西田 伸一 先生 ( 東京都医師会 理事 )
    杉下 由行 様 ( 東京都保健医療局 医療改革推進担当部長 )
    香取 照幸 様 ( 一般社団法人未来研究所臥龍 代表理事 )
    菊池 亮 ( ファストドクター株式会社 代表医師 )
U R L :https://www.tokyo.med.or.jp/38053

2. 本稿のサマリ

  • 一次医療は、かかりつけ医の高齢化や夜間・休日対応の負担が深刻化している。救急相談センターや夜間休日診療所がその補完を担っているものの、対応範囲や体制には限界があり、軽症患者が救急外来に流入するなど、構造的な課題が生じている
  • 本稿では、「かかりつけ医機能」と「病院前機能」の役割を整理し、当社が提供する夜間・休日体制の支援モデルやオンライン診療による補完事例を紹介。既存の医療インフラや地域医師会と連携しながら、持続可能な一次医療体制の構築に向けた方向性を示す

3. 本シンポジウムの趣旨

 東京都医師会では、令和5年度より諮問委員会として運営している「在宅医療委員会」において、会長諮問「2040年問題を見据えたうえで、東京都の一次医療提供体制のあり方を考える」について議論を重ねてきました。今回のシンポジウムは、その答申を広く社会に共有することを目的に開催され、都市部における一次医療の現状と展望について、医療・行政・民間の各分野から意見が交わされました。
 

4. 一次医療の充実に向けたかかりつけ医機能と病院前機能の強化

 菊池からは「かかりつけ医機能」と「病院前機能」を以下のように定義し、それぞれの役割と課題、当社の補完的取り組みについて発表しました。

  • かかりつけ医機能:継続的な診療や在宅医療など、日常的に患者の健康・医療を支える機能
  • 病院前機能:病院での治療に至る前段階で、緊急時の初期対応や相談を担い、医療資源の適正利用を促す機能

 「かかりつけ医」は地域医療のゲートキーパーとして極めて重要な役割を果たし、日常的な診療体制を支える存在です。 一方で2020年時点における診療所1施設あたりの医師数は全国平均で1.38人※1であり、その多くが単独開業体制であることがわかります。さらに、開業医の平均年齢は62.5歳※2と高齢化が進み、厚生労働省が「国民のニーズ」として明記している夜間・休日の対応を含む体制確保については、限られたリソースの中で多くの努力がなされているものの、持続可能性に課題が生じています。

 病院前機能についても、たとえば「救急相談センター」は、その導入や継続運営が自治体の財政状況や体制整備の実現性に委ねられており、限定的な地域での展開にとどまっています。また「夜間休日診療所」は、日中に通常診療を行う開業医が当番制で担っているケースが多く、その負担の大きさから空白日が生じることもあります。こうした状況から、現場の尽力にもかかわらず、軽症であっても救急外来に頼らざるを得ないという体制上のひずみが顕在化しています。

※1:令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告|厚生労働省
※2:令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計|厚生労働省

かかりつけ医機能が発揮される制度整備の施行について|厚生労働省

5. 当社の立ち位置 空白時間帯の補完と24時間体制の構築支援

 ファストドクターは、これらの機能を補完する存在として負担の大きい夜間や大型連休を含む休日に、以下の側面から支援を行っています。

  1. 一般診療における補完
    ・夜間や休日に提携医療機関によるオンライン診療を通じて初期対応を担い、必要に応じて救急やかかりつけ医と連携
  2. 在宅医療における補完
    ・夜間・休日のオンコール対応や緊急往診の代行支援により、在宅医療における24時間体制の構築を支援
  3. 病院前機能における強化
    ・救急相談センターや夜間休日診療所の運営支援、空白日のバックアップ体制構築


 これらの取り組みにより、かかりつけ医が対応困難な時間帯でも、地域住民が適切な医療にアクセスできる体制を整備しています。こうした点をふまえ、以下では当社の補完的な取り組みの具体例を紹介します。

6. 実例:医師少数地域の補完

 こうした機能強化は、医師の不足や地域間偏在が深刻化する地方部においても有効です。地方部では輪番制で担われる休日当番医の確保が難航するケースや、2024年施行の「医師の働き方改革」に伴って中核病院が救急外来の24時間体制を維持できなくなるケースが増えています。

ファストドクターは、「病院前機能」の補完・強化を目的に、オンライン診療を活用した2つの仕組みを展開しています。

  1. 医師が不在となる時間帯に、オンライン診療による直接対応
  2. オンライン診療をトリアージとしても機能させ、必要な患者のみを対面診療へ接続

 佐賀県伊万里市の救急病院では、外来診療におけるトリアージ支援の一環として、オンライン診療を活用した初期対応モデルを導入しています。これは、ウォークイン患者に対して看護師が軽症と判断した場合、患者の同意を得たうえで、医師によるオンライン診療を提供する仕組みで、2024年初旬の運用実績では、こうした症例の約7割がオンライン診療のみで完結しており、現地での医師の診療介入を必要としませんでした。2025年5月時点での当直医の月間労働時間を約18時間削減することができ、医師の負担軽減にも貢献しています。

参考:那覇市立病院、オンライン診療を活用し地域の夜間小児救急体制を整備
   外来患者オンライン診療 救急維持と働き方改革両立

7. 実例:東京都在宅医療推進強化事業での連携

 東京都が主導する「在宅医療推進強化事業」は、高齢者人口の増加に伴う在宅医療ニーズの急増を見据え、地域における24時間体制の構築を支援する施策です。本事業では、夜間・休日も切れ目のない在宅医療・介護の提供体制の構築の推進として、以下のような取り組みが支援対象とされています。

  • 支援対象となる取り組み例
    夜間や休日の緊急時対応を行う往診対応医療機関の活用
    ・夜間帯に医師や訪問看護師等との連絡調整を担う窓口の設置・運営
    ・オンライン診療やICTを活用した病診連携の推進

 ファストドクターは本事業のもと、現在までに6つの地域医師会と連携し、夜間・休日の緊急対応の代行体制整備や、患者情報連携の仕組みづくりに取り組んできました。これにより、地域の「かかりつけ医機能」の24時間対応力の強化に貢献しています。

参考:江東区医師会とファストドクター、在宅医療の24時間体制強化に向けて連携開始
   世田谷区医師会・玉川医師会とファストドクター、在宅医療の24時間体制強化に向けて連携開始

8. 今後に向けて 分業・連携による一次医療の持続可能性の確保を

 2040年に予想される医療需要のピークにむけては、ますます需要の増大が見込まれる中で、「一人の医師がすべてを担う」体制から、医療機関や職種、自治体や民間などが役割を補完し合う分業・連携型の体制への転換が不可欠です。

 ファストドクターは今後も、医療リソースとテクノロジーを活用した補完的な仕組みを通じて、かかりつけ医、救急相談センター、救急病院など既存の医療インフラと連携しながら地域医療を支え、持続可能で質の高い一次医療体制の実現に貢献してまいります。

菊池 亮

ファストドクター株式会社 代表取締役・医師

2010年帝京大学医学部医学科卒業。帝京大学医学部附属病院、関連病院にて整形外科に従事後、2016年にファストドクター株式会社を創業し代表取締役に就任。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、一般社団法人日本在宅救急医学会評議員。

ファストドクター株式会社

日本最大級の医療支援プラットフォーム「ファストドクター」を運営するヘルステック企業。5,000名以上の医師が参加するこのプラットフォームは患者のほか、医療・介護施設、自治体、公的研究機関、製薬や保険業界など、医療業界の多岐にわたるステークホルダーの皆さまにご利用いただくことで、地域医療を強化する新たな医療インフラの構築を実現します。

関連記事

【学会発表】救急業務とオンライン診療の連携に向けた法的整理:日本遠隔医療学会 Spring Conference
2025.03.14
  • ナレッジ

【学会発表】救急業務とオンライン診療の連携に向けた法的整理:日本遠隔医療学会 Spring Conference

  • #オンライン診療
  • #学会発表

ナレッジ・レポート 【学会発表】救急業務とオンライン診療の連携に向けた法的整理:日本遠隔医療学会 Spring Conference #オンライン診療  当社執行役員・公共政策部長の福島 直央は2025年2月8日に開催された日本遠隔医療学会 Spring Conference 2025において、「救急業務とオンライン診療の連携に向けた法的整理」と題した発表を行いました。  本稿では、その学会発表の内容をもとに、救急搬送の現状と課題、オンライン診療の活用による解決策、そして平時での適用に向けた法的整理のポイントについて解説します。

【学会発表】公的夜間休日診療の持続性向上に向けた都市部医師によるオンライン診療支援:日本遠隔医療学会 Spring Conference
2025.03.14
  • ナレッジ

【学会発表】公的夜間休日診療の持続性向上に向けた都市部医師によるオンライン診療支援:日本遠隔医療学会 Spring Conference

  • #オンライン診療
  • #学会発表

ナレッジ・レポート 【学会発表】公的夜間休日診療の持続性向上に向けた都市部医師によるオンライン診療支援:日本遠隔医療学会 Spring Conference #オンライン診療 #学会発表  ファストドクター株式会社は地方自治体と連携し、都市部の医療リソースを活用したオンライン診療支援を通じて、地方部の夜間・休日医療体制を補完する取り組みを進めています。特に医師不足や勤務医の働き方改革により地方の救急医療提供体制が逼迫する中、オンライン診療支援が公的な夜間休日診療の持続性向上に寄与すると考えています。  本稿では、地方部の医療体制の現状と課

【学会発表】「24時間365日オンライン診療の有用性:かかりつけ医の補完について」(第28回 日本遠隔医療学会)
2025.01.08
  • レポート

【学会発表】「24時間365日オンライン診療の有用性:かかりつけ医の補完について」(第28回 日本遠隔医療学会)

  • #オンライン診療
  • #学会発表

ナレッジ・レポート 【学会発表】「24時間365日オンライン診療の有用性:かかりつけ医の補完について」(第28回 日本遠隔医療学会) #オンライン診療 2024年11月9日・10日に開催された「第28回日本遠隔医療学会学術大会」において、当社代表の水野より、ファストドクター提携医療機関のオンライン診療患者を対象とした調査結果をふまえ、オンライン診療がかかりつけ医の機能を補完し、持続可能な地域医療体制の構築において重要な役割を果たしていることを提起しました。 発表内容(要旨)