咳が出るけど熱はない原因
咳が出るけど熱はないとき、気管支や喉の炎症、アレルギー症状などさまざまな原因が考えられます。
咳は外部からの異物や痰(たん)を出すための体の自然な反応です。短期間で自然におさまる場合は過剰に心配する必要はありません。しかし咳が長引く場合は医療機関を受診して治療することで治りやすくなるでしょう。
咳は乾性咳嗽(かんせいがいそう)と湿性咳嗽(しっせいがいそう)の2種類に分けられ、どちらの咳なのかで原因を予測できます。
乾性咳嗽(かんせいがいそう) |
湿性咳嗽(しっせいがいそう) | |
特徴 |
乾いた咳が出る |
痰がからむ咳が出る |
原因 |
咳喘息(せきぜんそく) アトピー咳嗽 肺炎 逆流性食道炎 心因性咳嗽 医薬品 |
感染症 慢性気管支炎 気管支喘息 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 副鼻腔炎・後鼻漏 肺がん |
関連記事:咳と痰が絡むのはなぜ?どのくらい症状が続いたら受診するべきかも解説
関連記事:咳や喉の痛みが出るときに考えられる病名一覧|風邪から感染症、がん、外的要因など
感染症
咳が出る感染症にはさまざまなものがあります。
-
かぜ
-
インフルエンザ
-
新型コロナウイルス感染症
-
気管支炎
-
細菌性肺炎・ウイルス性肺炎
-
百日咳
-
肺結核
感染症にかかった場合、咳にともない発熱や頭痛、だるさ、食欲低下などの症状が出ることがあります。しかし症状が咳のみで熱がない場合でも、実際は感染症だったというケースも多いです。
感染症による咳では痰が出ることが多く、咳が出る期間も7~10日と比較的短期間であるのが特徴です。しかし百日咳・マイコプラズマ肺炎・クラミジア肺炎など、一部のウイルスや細菌による気管支炎を起こすと、1か月以上咳が続くこともあります。2週間以上咳症状が続く、咳が悪化する場合はこれらの感染症も考慮する必要があります。[2][3]
感染のしかたは咳やくしゃみからの飛沫感染(ひまつかんせん)と、原因菌やウイルスが付着した手などを介して感染する接触感染がほとんどです。普段から手洗いやうがいをおこない、咳が出るときはマスクの着用を心がけましょう。
慢性気管支炎
たばこや大気汚染などによる刺激で気道に炎症が起き続けた結果、慢性気管支炎にかかることがあります。炎症にともなって過剰に分泌された痰を排出するために咳が生じます。[4]
診断基準 |
「1年のうちで咳や痰が3か月以上続く状態」が2年以上続いていて、ほかに原因となる病気がない |
咳以外の症状 |
|
原因 |
|
咳喘息・気管支喘息
咳喘息・気管支喘息はどちらも気管支の炎症により慢性的な咳があらわれる病気です。
咳喘息の症状は咳のみですが、気管支喘息では咳に加えて「ゼーゼー」「ヒューヒュー」音がする喘鳴(ぜんめい)や息苦しさもあらわれます。[5]
気管支喘息 |
咳喘息 | |
症状の特徴 |
|
|
病気の原因 |
| |
咳が出るメカニズム |
気道が炎症を起こすことにより、過敏になりわずかな刺激で咳が出る |
咳喘息と気管支喘息の原因や咳が出るメカニズムはほぼ同じです。咳喘息が十分に治療できていないと、大人の場合30〜40%が気管支喘息に移行するといわれています。[6]
梅雨時季にはアレルギー物質となるダニやカビが繁殖しやすくなるため、こまめな掃除と症状のコントロールが必要です。
関連記事:長引く咳はもしかして喘息?咳喘息と気管支喘息の違いについて解説
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性気管支炎に肺気腫が合わさると慢性閉塞性肺疾患(COPD)となります。[4]原因のほとんどはたばこです。
COPDでは有害物質による長年の刺激で気道や肺が炎症を起こし、長引く咳や痰、息苦しさや息切れがあらわれます。下記に該当する項目があり、長引く咳や息切れがある方は医療機関を受診しましょう。
COPDのリスク因子[7]
-
息切れを感じることがある
-
咳をしたときに痰やネバネバしたものが一緒に出る
-
以前に比べて息切れや苦しさが原因で運動量が減った
-
今まで100本以上のたばこを吸った
-
50歳以上
アトピー咳嗽(がいそう)
気道の炎症により、喉のかゆみやイガイガするような違和感、乾いた咳が慢性的にあらわれます。名前のとおりアトピーのある人に出やすい咳です。
症状は夜間や朝起きた後に出やすいですが、エアコン・たばこ・運動・ストレス・会話などから誘発されることがあります。
症状は咳喘息に非常に似ていますが、違いとして下記が挙げられます。
アトピー咳嗽と咳喘息の違い[8]
-
咳喘息は気管支喘息に移行することがあるが、アトピー咳嗽から気管支喘息へ移行はしない
-
咳喘息では気管支を拡張する薬が効果を示すが、アトピー咳嗽では効果を示さず、抗アレルギー薬や吸入ステロイドが効果を示す
副鼻腔炎・後鼻漏(こうびろう)
鼻水が鼻の奥から喉に落ちて不快感が出る症状を後鼻漏といいます。原因には副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎があります。後鼻漏により喉が刺激され、咳や痰が出るのです。[9]
副鼻腔炎を発症する人の80%以上が後鼻漏を合併しており、そのうちの28~41%の人に咳の症状があらわれたという報告があります。[10]
副鼻腔炎では黄色や緑色で粘度の高い鼻水が出て、目のまわりや頬が痛むことも多いです。
肺炎
細菌やウイルスなどの感染症により、肺に急性の炎症が起きることを肺炎といいます。肺炎で起こる症状の1つが咳です。
とくに65歳の高齢者は肺炎にかかりやすく重症化しやすい傾向にあります。さらに高齢者の肺炎では症状が強く出ないことも多く、気付いたときには命にかかわるリスクがある病気です。そのため65歳以上の方は肺炎球菌ワクチンが推奨されています。
肺炎の原因 |
細菌・ウイルス・真菌などによる肺の感染 |
咳以外に出現する症状 |
|
肺炎にかかりやすくなる要因 |
|
肺がん
肺がんでは長引く咳や少し血の混じった痰出ることがあります。
肺がんで出現する咳や痰以外のおもな症状は以下のとおりです。
-
胸の痛み
-
息苦しさ・息切れ・動悸
-
発熱
-
だるさ
ただし肺がんで必ず出る決まった症状というものはなく、初期では症状が出ないことも多いです。
肺がんのリスク因子はたばこです。たばこを吸う人はそうでない人と比べて男性では4.5倍、女性では4.2倍の肺がんのリスクがあるという日本のデータがあります。たばこを吸っている期間が長いほど肺がんになるリスクが大きくなりますが、禁煙をすればそのリスクは小さくなることもわかりました。[12]
大気汚染やアスベストなどの有害化学物質も肺がんのリスク因子です。
逆流性食道炎
逆流性食道炎とは胃酸や胃の内容物などが逆流して食道に炎症を起こしたり、咳や胸焼け、口の酸っぱさなどの症状が出たりする病気です。
なぜ逆流性食道炎で咳が出るかというと次の2つの理由が考えられます。[13]
-
上がってきた胃酸が喉を刺激することにより咳が出る
-
胃酸が喉まで上がらなくても、食道の神経が過敏になっているため、反射的に咳が出てしまう
逆流性食道炎で咳が出る場合は咳止めなどの効果が期待できないため、逆流性食道炎そのものを治療する必要があります。
逆流性食道炎の咳の特徴 |
夜間は胃酸の分泌が活発になるのと、横になると胃酸が逆流しやすくなるため夜間に咳が出やすくなる[13] |
逆流性食道炎のリスク因子 |
|
逆流性食道炎で咳以外に出る症状 |
など |
症状を改善する方法 |
|
心因性咳嗽(しんいんせいがいそう)
心因性咳嗽は心理的な要因から咳が続く症状です。緊張やストレスを落ち着かせるため無意識に乾いた咳をしている可能性が考えられています。そのため睡眠中には咳があまり出ず、咳止めも効きにくいのが特徴です。[15]
咳が続いているが、咳の原因となるような身体的な異常や病気が発見されない場合に初めて心因性咳嗽を疑います。そのため診断に時間がかかることが少なくありません。
症状の改善には十分な休息や適度な運動などストレスを緩和する生活や、必要に応じて不安やイライラを抑える薬などを治療で使用することもあります。
関連記事:急にむせる咳の原因は?対処法や検査方法についても解説
医薬品
以下のように医薬品の副作用で咳が出ることがあります。
-
副作用により咳反射が亢進する
-
副作用で喘息が出現し咳が出る
-
副作用で肺炎が起こり咳が出る
非常にまれですが、医薬品を服用していて咳が続く場合は一度医師または薬剤師に相談してください。
副作用で咳が出る可能性がある医薬品
分類 |
使われる症状 |
医薬品の例 |
特徴 |
ACE阻害剤 (アンギオテンシン変換酵素阻害薬) |
|
(レニベース)
(エースコール)
(タナトリル) など |
服用して数週間~数か月後に乾いた咳が出やすい。[16] |
NSAIDS (非ステロイド性抗炎症薬) |
|
(バファリン)
(ポンタール)
(ボルタレン) など |
服用後1~2時間以内に鼻症状、咳、呼吸困難などが出現する。[17] |
咳が出るのに熱はないときの受診目安
長引く咳にはさまざまな病気が隠れている可能性があります。原因がわかることで適切な治療につなげられます。
-
どのような咳(乾いた咳、湿った咳、痰がからむ咳……など)
-
いつから出ているのか、いつ出ることが多いのか
-
持続して出るのか、発作的に出るのか
適切な診断ができるように、自身の症状をしっかりと伝えましょう。
受診するタイミングや何科に行こうか迷った場合は「2週間以上咳が続いたら呼吸器内科を受診する」と覚えておいてください。
咳が2週間以上続く場合は受診
2週間以上咳が続く場合は、かぜなどの一時的な症状以外の可能性があると知っておきましょう。
咳は症状が継続する期間によって以下の3つに分類されています。[1]
-
症状出現後3週間未満の咳:急性咳嗽(きゅうせいがいそう)
-
症状出現後3週間以上・8週間未満の咳:遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)
-
症状出現後8週間以上の咳:慢性咳嗽(まんせいがいそう)
急性咳嗽の時期に咳がおさまらない場合は感染症以外の病気が原因と考えられます。治療が必要となることが多いため早めに受診しましょう。
関連記事:長引く咳が止まらない原因は?早く治すための対策を解説
まずは呼吸器内科の受診がおすすめ
長引く咳がある場合、まずは大人なら呼吸器内科を、子どもなら小児科を受診しましょう。
呼吸器内科で受けられる専門的な検査にはおもに5つ挙げられます。
-
胸部レントゲン検査・胸部CT検査
-
血液検査
-
呼吸機能検査
-
呼気検査
-
喀痰検査
まずは呼吸器内科で異常がないか検査するのがおすすめです。呼吸器内科で異常がない場合は、逆流性食道炎・副鼻腔炎・心因性・アレルギーなどほかの可能性も考えて内科や耳鼻科、心療内科などの受診を検討しましょう。
医薬品の副作用や持病による咳の可能性も考慮して、主治医に相談するのも一つの方法です。
咳が続くときに自宅でできる対処法
咳が長引く場合は、まずは受診を検討してください。受診するまでの間や、治療中にまだ咳が出ているときに自宅でできる対処方法を紹介します。
対処法 |
ポイント |
部屋の湿度を上げる |
|
こまめに水分補給する |
|
刺激になる食べ物は控える |
|
たばこ・アルコールは控える |
|
まとめ|咳が出るのに熱はない症状が続く場合は医療機関で検査がおすすめ
咳が出るのに熱はない症状が続く場合、さまざまな原因が考えられます。中には重大な病気が隠れていることもあるため、2週間以上咳が続く場合は医療機関を受診しましょう。
咳の原因は、感染症・アレルギー・副鼻腔炎・逆流性食道炎・薬・心因性と多岐にわたります。何科を受診したらよいか迷った場合は、まずは呼吸器内科で相談するのがおすすめです。
咳以外の症状や、どのような咳が出るか、咳が続く期間なども適切な診断の助けになります。咳が続く場合は、適切に受診して症状を伝えるようにしてください。
症状がつらくなったときに病院が休みだったらどこを頼ればよいのか困ってしまいますよね。
夜間や休日でもすぐに医師に相談ができるように、ファストドクターのアプリをダウンロードしておきませんか?
参考文献
[1]咳嗽に関するガイドライン(第2版)|日耳鼻119:157-162:2016
[2]急性咳嗽の鑑別:感染性咳嗽を中心に|日本内科学会雑誌109巻10号p2096
[3]成人百日咳|感染症の診断と治療、予防|日本内科学会雑誌第102巻第11号p2832
[4]慢性気管支炎・肺気腫|わかりやすい病気のはなしシリーズ7|一般社団法人日本臨床内科医会
[8]アトピー咳嗽|アレルギー用語解説シリーズ|アレルギー46‐47.2021
[9]後鼻漏症状に関する診療についてのアンケート調査 Questionnaire on Diagnosis and Treatment of Postnasal Drip
[10]成人の長引く咳について|プライマリ・ケアにおける内科診療|日本内科学会雑誌第97巻第4号
[12]中年期男女における喫煙と組織型別肺がん罹患の関連(詳細版)|International Journal of Cancer2002年99巻245-2519p9p11
[13]胃食道逆流症(GERD)による咳嗽|日本内科学雑誌109巻10号
[14]逆流性食道炎の危険因子の検討ーメタボリックシンドローム、症状に関連しての検討ー
[15]心因性咳嗽の臨床的検討|日耳鼻124:1485-1491:2021
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。