咳と痰が絡む症状が出る原因
咳と痰は、体内に侵入した異物から体を守るための大切な防御反応です。
細菌やほこりなどの異物が気道に入ると、痰は異物をとらえるために分泌が増え、粘り気が強くなります。咳は、痰とともに異物を体外に出そうするために起こるのです。
咳や痰の引き金となる原因は、大きく以下の3つにわけられます。[1][2]
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感染性:ウイルスや細菌による感染症
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アレルギー性:気管支喘息、咳喘息など
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その他:生活習慣による慢性閉塞性肺疾患など
《咳や痰絡みの原因となる疾患と、症状の特徴》
原因となる疾患 |
症状の特徴 | |
感染性(ウイルス性) |
風邪(普通感冒) |
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ウイルス性肺炎 (インフルエンザなどから発症) |
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急性気管支炎 |
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感染性(細菌性) |
マイコプラズマ肺炎[7] |
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百日咳[8] |
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肺炎 |
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急性気管支炎 |
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アレルギー性 |
気管支喘息 |
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咳喘息 |
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アトピー性咳嗽(がいそう) |
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アレルギー性鼻炎 |
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その他(一部抜粋) |
慢性閉塞性肺疾患(COPD) |
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慢性副鼻腔炎 |
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逆流性食道炎 |
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咳と痰が絡む症状にはさまざまな原因があります。
咳や痰は、これらの原因から体を守る重要な防御反応です。症状の強さや継続期間、他の症状の有無に応じて、適切な治療を受けることが大切です。
熱はないのに症状が続いて治らない場合
熱はなくても咳や痰が続く場合、なんらかの病気の可能性があります。
気道の粘膜が炎症を起こしていたり、余分な分泌物がたまっていたりして、体がその異物を外に出そうとしているため、咳や痰が出ていると考えられるからです。
通常、風邪であれば3週間以内に治ります。[2]肺炎や急性気管支炎であれば、発熱や強い倦怠感をともなうケースが多いでしょう。[2]
一方、熱がない場合は「ほっといたら治るだろう」とつい軽く考えてしまいませんか?受診を先延ばしにする方も多いかもしれません。
「原因がわからず、熱はないけど咳や痰が続いている」ときこそ、体からの大事なサインと考えるべきです。咳や痰が3週間以上続くようなら、念のため医療機関に受診することをおすすめします。
子どもが発熱しているときは早めの対応が必要
子どもが発熱しているときは、早めの対応が必要です。とくに咳や痰をともなう場合、気道や肺に炎症が広がっている可能性があるからです。
通常、子どもの痰絡みの咳は、10日以内に50%、25日以内に90%が改善するとされています。[3]しかし咳が長引くうえに発熱があれば、肺炎や気管支炎になっていることが考えられます。
次のような特徴の熱が続くときは、肺炎や気管支炎の可能性があります。
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朝から昼間には熱がないのに、夕方から夜にかけて高熱が出る
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微熱が続く
気道や肺に炎症が起こり、過敏な状態が続くと慢性化しかねません。
「熱は夜だけだから問題ないでしょう」「微熱だから大丈夫」と軽視せず、症状が続くようなら医療機関を受診して、悪化や慢性化を防ぎましょう。
2024年は長い猛暑の影響で咳と痰に困る人も
2024年は、長引いた猛暑の影響で、咳や痰の症状を訴える人が多い傾向です。
季節の変わり目は気温や湿度の変化が大きく、自律神経に負担がかかりやすくなります。
とくに猛暑が長く続くと、急な環境変化に体が適応しにくくなり、自律神経が乱れて、咳や痰の症状が出やすくなります。
実際、急激に気温が下がった2024年10月時点では、咳や痰に悩む人が増加したという報道もありました。
自律神経を整えるために、規則正しい生活を心がけましょう。疲れをためないよう十分な睡眠や、バランスのよい食事も大切です。気温差が激しい日は、衣服で体温調節をおこなうとよいでしょう。
咳と痰が絡む症状を少しでも早く治す方法
咳や痰の症状を少しでも和らげ、早い回復を目指すためには、薬物療法と適度な加湿が効果的です。
風邪などの感染症の多くは、免疫力を高めることで自然に回復します。咳や痰の症状は、通常3週間以内におさまります。[2]
しかし数週間にわたって咳や痰が続くと、生活に支障をきたすこともあるでしょう。体力を消耗し、回復が遅くなるかもしれません。
とくに子どもの場合、夜中にせきこんで十分な睡眠がとれず、つらい思いをすることもあります。付き添う親も、寝不足や不安な日々が続くでしょう。[3]
「咳止め」や「痰切り」の薬は、根本的な原因を治すわけではありませんが、咳や痰の症状を緩和できます。また乾燥で症状が悪化することがあるため、加湿を心がけるのも効果的です。
症状を和らげながら、体力と免疫力の向上を待つと、より早い回復が期待できます。
薬物療法で対処する
咳や痰を和らげる方法として、薬で対処することがあります。
一般的な大人の風邪でも、咳や痰の症状が治るまでには3週間程度かかります。[2]根本的な原因を治すわけではありませんが、現在のつらい症状を和らげながら体の回復を待つために、薬の使用は有効です。
使用される薬には「痰を出しやすくする薬(去痰薬)」「咳を和らげる薬(鎮咳薬)」があります。[1]
去痰薬(きょたんやく)には、カルボシステインやアンブロキソール、ブロムヘキシンなどがあります。
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カルボシステイン:痰自体の粘り気をおさえ、痰の量も減らす。
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アンブロキソール:粘膜の滑りをよくし、痰を排出しやすい環境をつくる。
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ブロムヘキシン:痰の粘り気を分解し、粘りをおさえる。
鎮咳薬(ちんがいやく)には、麻薬性と非麻薬性という2種類の分類があります。
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麻薬性(コデイン、ジヒドロコデインなど):
強い咳止め効果が期待できる一方で、便秘や眠気などの副作用を起こすことがある。
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非麻薬性(チペピジン、デキストロメトルファン、エプラジノンなど):
麻薬性鎮咳薬よりも効果はゆるやか。副作用が少なく、耐性や依存性の心配はない。
ただし去痰薬や鎮咳薬は痰や咳の症状を和らげる「対症療法」であり、原因そのものを取り除く「治療薬」ではありません。
症状がひどい場合は原因をつきとめて、その原因に対して適切に治療する必要があります。
たとえば症状がひどい咳喘息と診断された場合、医療機関ではステロイドの吸入薬を処方することがあります。[1][11]ステロイド吸入薬は、気道の炎症をおさえるための「治療薬」です。
症状が落ち着いても、医師の指示にしたがって、しっかりと吸入を続けましょう。
薬物療法では、症状に応じた適切な薬の選択が大切です。去痰薬や鎮咳薬の一部は、市販薬として購入できますが、どの薬が症状に合っているか判断するのは困難です。
また市販薬には複数の成分が配合されているため、飲み合わせの心配もあります。購入する際は自己判断せず、ぜひ薬剤師に相談してください。症状のひどい場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
水分をとる・保湿をする
咳や痰を楽にするためには、湿度を保ち、水分をしっかりと摂取することが効果的です。
喉や気道の粘膜が乾燥すると、防御力が低下し、わずかな刺激にも敏感になるため、咳が出やすくなります。痰は粘り気が増すため、咳の悪化を招きかねません。
そこでこまめに水分をとると、喉のうるおいが保てるため、痰の粘り気が減り排出しやすくなります。乾燥対策に、濡れたタオルを干すなどして部屋の湿度を保つのも効果的です。
寝るときにはぬれマスクなどを使用し、保湿を心がけるのもよいでしょう。ただし子どもがぬれマスクを使用するときは、窒息の危険があるため常に見守るようにしてください。
水分摂取と適切な保湿ケアで、咳や痰の症状を和らげることが期待できます。安全に注意しながら、ぜひこれらの方法を試してみてください。
咳と痰が絡む症状が続いたときの受診目安は?
咳と痰が続くときの受診目安は、以下の2つです。
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痰の色
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咳がどのくらい継続しているか
痰に血が混じっている場合や3週間以上続く咳がある場合は、慢性的な病気が考えられるため、診察を受けてください。緑色の痰も、感染が悪化していることが疑われるため、早めに受診しましょう。
感染が原因の場合、咳と痰は自然に落ち着きますが、あまりにもひどく生活に支障があれば、薬で症状を和らげながら回復を待つこともあります。睡眠がとりにくいような状況であれば、医療機関に相談してみてください。
以下では痰の色と咳の継続期間から考えられる疾患と、受診が必要な目安を解説します。
痰の色を確認
咳と痰が続く場合、痰の色を観察し、受診の目安にしましょう。
痰の状態は、病気を想定する手がかりとなります。色がついていたり、濃くなったりした場合、受診の検討が必要です。
痰の色は、以下の4つに分類できます。
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白色
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黄色
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緑色
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赤色
痰の色 |
考えられる疾患 |
痰の特徴 |
白色 |
気管支喘息、初期の気管支炎 |
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黄色 |
ウイルスや細菌感染による急性気管支炎・肺炎 慢性閉塞性肺疾患、気管支拡張症 |
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緑色 |
細菌感染による急性気管支炎・肺炎 慢性閉塞性肺疾患、気管支拡張症 肺結核、肺がんなど |
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赤色 |
肺がん、肺結核、気管支拡張症 肺炎、肺梗塞、心不全など |
または、ほとんどが血そのもの(喀血:かっけつ)
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痰が黄色の場合は、感染症の可能性があります。体の免疫がウイルスや細菌と戦っている証です。もし濃くなれば、症状が悪化していると考えられるため、受診を検討してください。
痰が緑色の場合は、細菌感染が進んでいる可能性があるため、できるだけ早めに受診しましょう。
痰に血が混じっている場合は、重い病気の可能性もあります。肺がんや肺結核などの病気が考えられるため、すぐに受診することが必要です。
痰の色をチェックすると、受診の必要性を判断しやすくなります。「黄色から濃く変化してきた」「痰が緑色だ」「血の混じった痰が出てきた」といった場合は、放置せず医療機関へ受診しましょう。
どれくらい継続しているのか
咳が3週間以上続くようなら、受診を考えましょう。3週間以上たっても治らなければ、慢性疾患の可能性が出てくるからです。
咳は継続期間により、以下の3つに分類されます。[10][11]
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急性咳嗽(きゅうせいがいそう):3週間以内
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遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう):3週間〜8週間
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慢性咳嗽(まんせいがいそう):8週間以上
咳がどのくらい継続しているかによって、考えられる疾患を予想できます。
咳の種類 |
咳の継続期間 |
考えられる疾患 |
特徴 |
急性咳嗽 |
3週間以内 |
感冒、急性気管支炎、インフルエンザ、細菌性肺炎、急性副鼻腔炎 |
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遷延性咳嗽 |
3〜8週間 |
喘息、咳喘息、逆流性食道炎 COPD、慢性気管支炎、慢性副鼻腔炎アトピー性咳嗽、上気道咳症候群 |
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慢性咳嗽 |
8週間以上 |
喘息、咳喘息、逆流性食道炎 COPD、慢性気管支炎、慢性副鼻腔炎肺結核、肺がん、間質性肺炎 |
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急性咳嗽は、3週間以内におさまる咳です。多くの場合、ウイルスや細菌の感染が原因で起こります。咳症状のほとんどが急性咳嗽に該当します。
感染性の場合、通常は自己免疫力により回復するため、特別な治療は必要ありません。休養をとり、体力の回復を待ちましょう。
ただしインフルエンザのように感染力の高い場合は、周囲への感染を防ぐためにも、受診することをおすすめします。症状が悪化すると治療が必要になることもあるため、経過には注意しましょう。
遷延性咳嗽は3週間から8週間続く咳を指し、感染以外の慢性的な病気の可能性も考えられます。
たとえば喘息やアトピー性咳嗽、逆流性食道炎などがあげられます。
早めに医療機関へ相談し、検査や診察を受けましょう。
慢性咳嗽は8週以上持続する咳を指します。原因となる疾患は遷延性咳嗽とほぼ同じですが、慢性的な病気が原因である可能性が高くなります。
肺がんや肺結核の疑いもあるため、医療機関への受診が必要です。
長引く咳すべてが必ずしも当てはまるわけではありません。感染が原因でも、百日咳のように慢性の咳が続くこともあります。
感染症以外が原因の慢性疾患でも、初期段階では急性咳嗽があらわれるケースもあります。複数の原因が絡み、診断が難しいこともあるでしょう。
適切な治療を受けるには「早期発見・早期治療」が重要です。とくに3週間以上続く咳や痰絡みの症状があるときには、受診を検討しましょう。
何科を受診するべき?
軽い咳なら内科を受診しましょう。長引く咳や他の症状がある場合は、呼吸器内科や耳鼻科も検討してください。
症状の強さや継続期間、他の症状の有無に応じて適切な診療科を選ぶと、検査や治療がスムーズに進むでしょう。
たとえば咳や発熱、鼻水といった風邪全般の症状がある場合には、内科が適しています。判断に迷う場合も、内科で相談すれば、必要に応じて呼吸器内科や耳鼻科に紹介されることがあります。
咳が3週間以上続いたり、息苦しさがあったりする場合は、呼吸器内科の受診がおすすめです。咳とともに鼻水や鼻づまりがひどい場合は、耳鼻科を受診するとよいでしょう。
咳の原因はさまざまで、診療科の選択が難しい場合もあります。本記事を参考にしながら、症状に合わせて診療科を選びましょう。迷ったときは、かかりつけ医に相談すると安心です。
よくある質問
咳や痰が絡む症状について、疑問や不安は多くあるでしょう。
「何度も絡む痰をどうしたらいいの?」「まさかコロナでは?」と心配される方もいるかもしれません。
以下では、咳や痰についてよくある質問に、理由とともにお答えします。
咳で出る痰は出し切った方がいい?
咳とともに出てきた痰は、そのまま出すのが望ましいでしょう。
痰には病原菌や炎症を起こす物質が含まれており、これらの有害物質を体外に出すことで感染の進行を防げると考えられます。
ただし無理やり咳をして、痰を出し切ろうとするのは避けてください。無理に咳をすると、体に負担がかかる可能性があります。
痰に色がつく場合は、病気のサインかもしれません。医療機関への受診を検討してください。
痰の絡んだ咳は何日で治る?
痰の絡んだ咳は、通常3週間以内におさまります。原因の多くは細菌による感染症であり、 3週間以内に自然治癒することがほとんどです。
一方、慢性症状になると、咳は8週間以上続きます。なんらかの病気が考えられるため、医療機関を受診してください。
咳と痰が絡む症状だけで熱はないけどコロナの可能性はあるの?
熱がなくても、咳や痰が絡む症状があればコロナ感染の可能性はあります。コロナ感染後の後遺症(こういしょう)の可能性も否定できません。
コロナでは、発熱しないケースや咳や痰だけがみられることもあり、人によってさまざまな症状があります。また感染しても軽症や無症状のケースや、罹患後(りかんご)症状として咳や痰が長引く人も報告されています。[16]
2024年11月時点では、コロナ感染中も罹患後症状の場合も、おもに対症療法が中心となります。[15][16]
咳止めや痰切りの薬により、咳や痰などの症状を和らげながら、体力や免疫力の回復を待ちます。
症状がつらい場合は、コロナ感染や後遺症の可能性も考え、医療機関で診察を受けましょう。
インフルエンザの可能性は?
咳や痰だけで、熱や他の症状がなくても、インフルエンザの可能性は否定できません。
インフルエンザでは、一般的に38℃以上の発熱や全身の痛みがみられますが、ワクチンを接種した人は症状が軽い場合もあるからです。
また糖尿病などの基礎疾患がある人や高齢者は、発熱しないケースも報告されています。[9]
咳や痰が絡む症状があれば、インフルエンザウイルスが体内に侵入し、気道や肺に炎症を引き起こしている可能性は十分考えられます。
とくに、高齢者や子どもは、他の重い病気につながりやすいため、咳や痰が悪化するようなら早めの受診が重要です。周囲への感染を防ぐためも、インフルエンザが疑われる場合は受診しましょう。
まとめ|痰と咳の自身の症状を確認して早めに医療機関へ相談を
咳や痰は、体に入った菌やほこりなどの異物を外に排出し、体を守るための大切な防御反応です。
症状が長引いているのに放置していると、重症化する場合もあるため「痰の色」と「咳の継続期間」に着目して、受診を検討しましょう。
痰が緑色である、血が混じっている場合は、感染の進行や重い病気が考えられるため、医療機関を受診してください。
3週間以上続く咳は、感染性でなく慢性的な病気の疑いも出てきます。8週以上症状が続いている場合は、慢性疾患の可能性が高いため、早急に医療機関で相談しましょう。
さらに子どもが肺炎や気管支炎になると慢性化しやすく、回復に時間がかかる場合もあります。つらい症状が続くだけでなく、睡眠不足で生活の質を下げることにもなりかねません。
症状が悪化したり長引いたりする場合は、医療機関の診察を受けましょう。感染症が流行する時期に向けて、咳や痰に悩んだときは本記事を参考にして、適切に対応してくださいね。
症状がつらくなったときに病院が休みだったらどこを頼ればよいのか困ってしまいますよね。
夜間や休日でもすぐに医師に相談ができるように、ファストドクターのアプリをダウンロードしておきませんか?
参考文献
[2]Q2 せきとたんが3週間以上続きます - 呼吸器Q&A
[9]Clinical Signs and Symptoms of Influenza | Influenza (Flu) | CDC
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。