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子どもが注射で泣く・嫌がるのはなぜ?理由と対処方法

子供の成長の中で、予防接種や病気の治療のための注射は避けては通れないものです。しかし、多くの子供たちは注射を恐れ、病院での大泣きが日常茶飯事。親としては子供の涙に心が痛むものです。

では、なぜ子供は注射をこれほどまでに恐れるのでしょうか?また、泣くことを減らす方法はあるのでしょうか?この記事では、子供が注射を恐れる心理や背景、そして親や医療スタッフができるサポート方法について詳しく掘り下げていきます。

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記事監修

名倉 義人 医師

○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院

○資格
救急科専門医

○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会

注射で泣く・嫌がるのは正常な発達をしているから

そもそも子どもが注射で泣く・嫌がるというのは、正常な発達をしているからです。子ども、特に3歳よりも小さな子ども達は、痛みや苦痛を表現する方法を“泣く”方法でしか持ち合わせていません。

いつもと何か違う、痛いことが自分の身におこったという状況をキャッチでき、周囲に表出できる正常な発達をしているから、泣いたり嫌がったりして表現できるのです。

極端な一例かもしれませんが、発達障害の程度によっては痛みや苦痛を感じない「感覚鈍麻」という子がいて、泣かないケースもあります。さらに泣いたり嫌がったりしても、苦痛から逃げられない、自分の気持ちを受け止めてもらえない、余計につらいことがおこると感じているお子さんも、泣いたり嫌がったりしないことがあるのです。

したがって注射でなくというのは、必ずしもマイナスなことではありません。痛みや苦痛、気持ちを言葉で表現するには、幼稚園~小学校程度の心身の発達が必要です。また、それ以上に大きくなったお子さんでも、言葉で上手く表しきれない痛みや苦痛、気持ちを泣いて表現することもあります。

もう少し大きくなると、いつの間にか子どものころほど泣いたり、嫌がったりしなくなります。お子さんが注射で泣く・嫌がるのは、正常な成長・発達の過程のひとつとして捉えてあげるようにしたいですね。

子どもが注射で泣く・嫌がる理由

「子どもが注射で泣く・嫌がるのは、正常な成長・発達の過程のひとつ」とはいえ、泣くことや嫌がることをするのは、子どもにとっても周囲の大人たちにとってもストレスですよね。

実は、注射の痛みよりも、転んだことの方が痛みは強いのです。でも、多くの子どもたちが、注射の痛みのほうが強く怖いと感じています。そして、さまざまな研究から子どもたちは、「痛い」「注射が嫌」というだけで泣いているのではないということがわかっています。

子どもが注射で泣く・嫌がるのには、次のような理由が考えられます。

  • 針を刺す痛み
  • 注射自体への恐怖
  • 針で刺される恐怖
  • おとなに抑えつけられる痛み・恐怖・圧迫感
  • 頑張ろうと思っても、頑張れない自分へのジレンマ

このように、子どもが注射で泣く・嫌がるのは、針を刺す行為だけには限らないことに注意が必要です。

そして、多くの子供たちは注射の必要性や、我慢すべきことを理解しています。しかし「理解ができること」と「頑張れること」と「実際に行動できること」は全く別ものです。

たとえば「注射の時に動いたらダメ」だとわかっていても、思わず動いてしまうことがあるかもしれません。怖いのですから、生き物が危険から回避するために取る行動と考えれば仕方がありませんよね。

大きくなれば、理性や自制心で動かずにいられるようになるかもしれませんが、子どもたちにそれを求めるのはあまりにも酷です。そんなとき、子どもたちは動かずに頑張れなかった自分に悲しくなります。

そして抑えつけられたり、怒られたりしてしまうと、その悲しみが何倍にもなり泣いてしまいます。その経験が積み重なると、恐怖心や苦手意識が蓄積され“注射=怖い・嫌だ”という思いが強くなり、注射のたびに泣いて嫌がるようになってしまうのです。

またよく、注射や採血の場面で目にするのが「待って!」というお子さんの姿です。実はこの行動は注射が嫌なのではなく、本人の心の準備が整っていないから「待って!」と言っているケースが少なくありません。

このようなとき、大人のペースで子どもを抑えつけて、注射していないでしょうか?

気持ちがついていかないお子さんに無理やり注射をすると、怖い・嫌だという気持ちが強く残ります。子どもが「待って!」といったら子どもの頑張れるタイミングを待ち、一人ひとりのペースに合わせて注射をするほうが、将来的に注射を嫌がりにくくなる可能性が高くなります。

参考:事故防止のための 環境整備・スタッフ教育 事故防止のための 環境整備・スタッフ教育

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注射で泣く・嫌がる子どもの5つの対処方法

子どもが注射で泣く・嫌がるときの対処方法を、世界中の論文や医学書を参考に5つ紹介します。

注射で泣く、嫌がる子どもにストレスを感じている、どのようにかかわればいいのかわからない親御さんは、ぜひ参考にしてくださいね。

1.「痛くないでしょう」「泣かないの」など否定的な言葉を言わない

注射は痛いものです。針をさすとき、薬を注入するとき、針を抜いたあとも注入された薬が痛みを伴うこともあります。さらに、多くの子どもたちは腕を抑えつけられるのも痛みと感じています。

そんなとき、「痛くない」といわれて、実際に痛かったら子どもたちはどう感じるでしょうか?「やっぱり痛い!」と、そして親に嘘をつかれたと感じ、悲しくなり、泣いてしまうかもしれませんよね。

さらに「泣かないの!」と言われたら?もっと、悲しくなりますよね。さまざまな要因で泣いてしまった子どもたちは、もはや痛いから泣いているのかどうかさえわからなくなって、泣き止まなくなることもあり、負の連鎖につながってしまいます。

また注射を打つときに「ごめんね」と謝罪したり「悪いことしたから注射するよ」と脅迫したりすると苦痛が増えるという報告もあるため、注意しましょう。注射は痛いもので、大人でも泣きたくなるときがあります。

泣いたり嫌がったりすることは正常な発達の一部と考え、できるだけ否定的な言葉や苦痛を与える言葉を使わないようにしたいですね。

2.注射をすることを隠さない

注射をすることを隠して、病院に連れて行ったりしていませんか?小さな子どもでも、自分に起こることはわかります。3歳を超えると、これから起こることや目的・方法を子どもに理解できるように伝えることで、子どもなりに理解し対処できるようになります。

これからおこなう医療処置を子どもにわかりやすく説明する方法を“プレパレーション”といい、子どもの入院や手術をおこなう際の説明方法として推奨されているのです。

プレパレーショでは、子どもたちが受ける医療行為を絵本で説明したりぬいぐるみにおこなったりします。子どもたちは、これから自分の身におこることを疑似体験することで、理解を深めます。
さらにつらい気持ちや感情を整理することにも繋がり、子どもたちなりに治療を受ける心構えができ、泣いたり・嫌がったりしにくくなるのです。

なお、プレパレーションについて、詳しくはこちらを参照ください。

医療を受ける子どもへのかかわり方

3.優しく抱きしめる

注射のときには押さえつけるのではなく、優しく抱きしめてあげてください。注射前に抱きしめると、注射の痛みが軽減されます。

注射後に抱きしめると、頑張った自分を認めてもらえたと自己肯定感のアップに繋がり、次も頑張れるようになります。

4.子どもの気をそらす

注射以外のことに子どもの気をそらすことで、痛みやストレス、不安が軽減され泣いたり嫌がったりすることが減るという報告があります。たとえば「終わったら何をしようか?」と声をかける。

小さな子どもの場合は音が出るおもちゃで遊んだり、風船やボール・しかけ絵本など思わず手を出したり、興味・関心を引くもので気をそらす……。これは、プレパレーションの技法の一つ“ディストラクション”といわれるもので、小さな子どもにも効果が期待できます。

処置中にディストラクションを行うことで子どものス トレスや痛み,不安を軽減する効果があります。

参考
痛みを伴う処置に混乱している幼児後期の 子どもと医療者の相互交渉の特徴 小児保健研究
Presented by Medical OnlineKoller D,Goldman RD.Distraction techniques for children undergoing procedures:a critical review of pediatric research.Journal of Pediatric Nursing 2012;27:652︲681.

5.局所麻酔薬を使用する

注射の痛みを軽減する方法として、局所麻酔を使用する方法があります。局所麻酔薬はシップのように皮膚に直接貼ったり、塗ったりします。注射を打つ30分~2時間程度前に、注射を打つ部位に貼っておくことで皮膚から麻酔薬が吸収され痛みが軽減できるのです。

局所麻酔薬は、ドラッグストアやコンビニエンスストアなどでは購入できません。医師に処方してもらい、薬局で受け取る必要があります。

当院でもお子さんの注射の痛みを軽減するために、局所麻酔薬を処方していますので、子どもが注射で泣く、嫌がる場合にはぜひ一度当院へご相談ください。

まとめ

子供たちが注射を恐れ、泣いてしまうのは、痛みや不安、未知のものへの恐怖など、さまざまな要因が絡み合っています。しかし、親や医療スタッフの適切な対応や準備、そして説明によって、子供の不安を大きく軽減することができます。

この記事で紹介したのは、子供の注射に対する恐怖心の背景と、その克服のための具体的な方法です。例えば、事前の説明、お気に入りのぬいぐるみやおもちゃを持たせる、適切なタイミングでの接種など、子供の気を紛らわせる工夫が有効です。

とくに親として大切なのは、子供の気持ちを理解し、安心感を与えてあげることです。これにより、注射の経験が少しでもポジティブなものとなることを願っています。

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参考資料 研修医24人が選ぶ 小児科ベストクエッション