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実は深い関係にある?!糖尿病と肝臓のお話

糖尿病の合併症といえば、神経障害や網膜症、糖尿病性腎症などが代表的ですね。足の壊疽や脳梗塞・心筋梗塞などの動脈硬化による病気を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、それ以外にも糖尿病と密接に関わる病気があります。その一つが、肝臓病です。

また、肝臓が悪い患者さんは血糖値が上がりやすいと言われています。「肝性糖尿病」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。

糖尿病と肝臓は、お互いに切っても切れない深い関係にあるのです。

この記事では、糖尿病と肝臓、それぞれがそれぞれに及ぼす影響について解説していきます。

記事監修

名倉 義人 医師

○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院

○資格
救急科専門医

○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会

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糖尿病は肝臓病の原因にもなる?NAFLD/NASHとは?

肝臓病の原因といわれると、まずお酒や肝炎ウイルスを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、最近注目されているのが、お酒や肝炎ウイルスによるものではない肝臓病、NAFLD(ナッフルド/ナッフルディー)です。

NAFLDとは、nonalcoholic fatty liver diseaseの略で、日本語では非アルコール性脂肪性肝疾患といいます。メタボリックシンドロームがある方の脂肪肝のことで、アルコールやウイルス、薬など他の原因がないものとされています[1]。

肥満、生活習慣病の増加などにより、NAFLDの患者さんは日本で増えてきているのです。2009年〜2010年に行われた、検診を受けた方のNAFLDの有病率の調査では、1989年〜2000年の頃より10%も増加が認められたとのことでした[2]。

NAFLDは次の二つに分類されます。

  1. NAFL(ナッフル:nonalcoholic fatty liver、非アルコール性脂肪肝)→ほとんど病状が進行しないもの
  2. NASH(ナッシュ:nonalcoholic steatohepatitis、日アルコール性脂肪肝炎)→病状が進行していくもの

特にNASHは進行していくと、肝硬変になり、そこから一部の人に肝癌が起こるとされているのです。ただし、NAFLとNASHは相互に移行することがわかっています[1]。NASHでも、原因に対応していけば進行を防ぐことができるのです。

このNAFLD/NASH、最大の原因は肥満です。その他にも、メタボリックシンドロームや、それに関連した2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症などが挙げられています。2型糖尿病はその中でも、NAFLD/NASHの発症、さらに進行にも非常に大きな影響を及ぼす重要な因子です[1]。

糖尿病で脂肪肝が起こるメカニズム

2型糖尿病において、NAFLD\NASHと大きく関わる要因が、「インスリン抵抗性」です。インスリン抵抗性というのは、インスリン(糖の代謝に関わり血糖値を下げるホルモン)が分泌されていても、十分に効果が発揮されないことを指します。血糖値が下がらずに高いままとなってしまうのです。余った糖は中性脂肪となり、肝臓に蓄えられます。これが脂肪肝を起こす仕組みです。

インスリン抵抗性の大きな要因は肥満です。糖尿病の方に肥満があると、NAFLD /NASHを起こすリスクが非常に高いと考えられます。

糖尿病患者さんが気をつけておくべき血液検査! 肝臓に関わるのは?

糖尿病の治療中に脂肪肝になっていないかどうか、肝機能障害がないかどうか知るために、定期的に検査を見ていく必要があります。では、どのような検査があるでしょうか。

一つの方法は腹部エコーの検査です。ただし、受診のたびに行うには時間も人手も必要になり、現実的ではありません。

糖尿病の経過観察のために通院中の方であれば、毎回血液検査を行うため、血液でわかることがあれば良いですね。肝臓に関わってくるような検査はいくつかありますが、ここでは特にNAFLD/NASHの早期発見のためのものについてご説明します。

①ALT(GPT)

肝逸脱酵素と呼ばれる、肝細胞の中に含まれる酵素です。肝臓がダメージを受けると、壊れた肝細胞から血中に出ていくため、数値が上昇すると「肝障害がある」ということがわかります。

2023年6月に日本肝臓学会総会で、「奈良宣言2023」が出されました[3]。その内容は、健康診断などでALT>30 U/Lを認めた場合、かかりつけ医の受診を促すものです。NAFLD/NASHのみならず、さまざまな肝臓の病気を早期に見つける目的でこのような推奨がされたのです。なお、ALT>30 U/Lは健康な成人でも15%ほどで認めることも併記されており、必ずしも重篤な肝臓病を示唆する所見ではありません。しかしながら、これを契機に必要な原因検索を受けることが重要です。

②血小板

本来は血を固める成分ですが、肝硬変で低下することが知られています。肝臓の線維化、つまりどれだけ固くなっているかを見る参考になります。

血小板が20万 /mm^3(あるいは、20万/μLと表記される場合もあり)を切っていると、肝の線維化が進んでいる可能性があります[1]。

③FIB-4 index

こちらも肝臓の線維化の指標です。これは一般的な血液検査の項目ではありませんが、計算で算出することができます[4]。計算には、上記のALT、血小板数のほか、年齢ともう一つの肝逸脱酵素であるAST(GOT)を用います。計算式は下記ですが、複雑なのでインターネット上で数値を入力するだけで計算できるサイトもご利用ください。https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/medicalinfo/eapharma.html

年齢 × AST (IU/L)/(血小板 (10^9/L) × √ALT (IU/L))

※血小板数は10^9/L=0.1万/mm^3

FIB-4 indexが1.3以上になると、肝臓が線維化している可能性があるので、専門医の受診を検討することになるのです。

こういった血液検査や、腹部の超音波検査所見を参考に、NAFLD/NASHの可能性がないかどうかを見ていきます。

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糖尿病では、肝臓癌が多いって本当?

NASHから肝硬変となると、肝臓に癌が発生するリスクがあります。糖尿病の患者さんを糖尿病がない方と比較すると、肝臓の癌が起こるリスクは1.97倍という研究結果の報告があります[5]。ただし、これは全員がNAFLD/NASHと関連した癌ではありません。それでも、糖尿病がある場合は肝臓の癌には十分に留意する必要があります。

特にNAFLD/NASHでは線維化が強いと発癌のリスクが上がるといわれています。そのため、線維化が強い方は半年〜1年に1回程度の腹部超音波検査を受けることが勧められているのです[1]。

肝臓が悪いと糖尿病になる? 肝性糖尿病とは?

ここまでは、糖尿病の影響で肝臓病が起こることを解説してきました。しかし、実は逆の関係もあります。肝硬変があると、糖尿病が起こりやすくなるのです。ここからは、肝臓が原因で起こる「肝性糖尿病」について解説します。

糖尿病とも関わる、肝臓のグリコーゲン合成とは?

食事でとった糖分が消化されるとブドウ糖になります。血中に吸収されたブドウ糖は、門脈という血管を通り肝臓にやってくるのです。同時に、膵臓からはインスリンが、やはり門脈から肝臓へと送られます。肝臓に流れ込んできたブドウ糖の6〜8割は、インスリンの働きにより”グリコーゲン”と呼ばれる糖のかたまりになり、肝臓に蓄えられます。残りのブドウ糖はインスリンと一緒に全身に送られるのです。インスリンは体のあちこちにある筋肉などにブドウ糖を取り込ませる働きをします。この結果、高くなった血糖値が下がるのです。

また、肝臓は空腹時に血糖値が下がりすぎないようにブドウ糖を作り出す「糖新生」が可能な場所です。食後にインスリンが分泌されると、糖新生は抑制されます。

肝性糖尿病のメカニズム

肝硬変になると、肝臓の細胞が減ってしまい、グリコーゲンの合成能力が下がってしまいます。また、門脈から肝臓への血液の流れが悪くなり、インスリンが肝臓に届きにくくなります。ブドウ糖は肝臓をすり抜け、食後を中心に高血糖を起こすのです。インスリンの効果が及ばないことで、糖新生も抑制されず、こちらも血糖値が上昇する原因になります。このようにして起こる糖尿病が、「肝性糖尿病」です[6]。

肝性糖尿病では、グリコーゲンが十分に蓄えられておらず、長時間絶食が続くと低血糖が起こってしまうのも特徴です。

Q & A

糖尿病と肝臓の関係は?

糖尿病では肝機能低下が起こりえます。なぜかというと、「脂肪肝」が起こるからです。血糖値が高い状態が続くと、余剰な血糖が中性脂肪になります。中性脂肪が肝臓に多く溜まってしまった状態が脂肪肝です。

また、肝硬変などで肝臓の状態が良くないと、糖の代謝がうまくいかなくなります。多くの糖は肝臓にグリコーゲンという形で蓄えられています。ところが、インスリン抵抗性があると、グリコーゲンの合成がうまくいかなくなり、本来肝臓に取り込まれるはずのブドウ糖まで血中に流れていってしまいます。そのため、食後の高血糖が起こりやすい状態になります。肝臓が原因になって起こる糖尿病を肝性糖尿病と呼んでいます[6]。

このように、このように、肝臓と糖尿病の関係はとても深く、それぞれがそれぞれに影響を与えることが知られています。

糖尿病ではどこの臓器が悪い?

糖尿病に最も大きく関わる臓器は膵臓です。血糖値を下げるホルモンである「インスリン」と膵臓のβ細胞というところから分泌されます。1型糖尿病では、このβ細胞が破壊されてしまい、インスリンが分泌できないことが主な原因です。

2型糖尿病では、インスリンが効きづらい状態(インスリン抵抗性)が起こるため、血糖値が下がりにくくなります。インスリン抵抗性が長くある状態が続くと、必死でインスリンを出し続けてきた膵β細胞が疲れてきてしまうのです。そのため、インスリン分泌の低下も起こってきます。

そのため、程度の差はあれども、糖尿病では膵臓、特にβ細胞が悪くなってしまっていると言えるでしょう。

ただし、糖尿病が続くと、その他の臓器にも影響が出てきます。

ここで取り上げた肝臓はダメージを受ける代表です。その他にも、細い血管の流れが悪くなってしまうので、下記のようなことが起こります。

また、糖尿病により動脈硬化が起こると、心筋梗塞や脳梗塞などを起こしやすくなります。

このように、糖尿病があることで、複数の臓器が大きな影響を受けることになります。

糖尿病における肝臓の働きは?

食事に含まれる糖分は、ブドウ糖という最小単位に分解されて血液中に吸収され、肝臓にやってきます。肝臓は、インスリンの働きを受けて、大部分のブドウ糖をグリコーゲンという糖のかたまりに変えて蓄えるのです。残ったブドウ糖が血中に出ていきます。

ところが、肥満などの要因でインスリンが効きにくくなってしまうことがあります。インスリン抵抗性と呼ばれる状態です。インスリン抵抗性のため、肝臓のグリコーゲン合成能が落ちてしまうと、より多くのブドウ糖が血中に出ていくことになるのです。これが血糖値が上昇する一因になります。

さらに他の組織でもインスリンが効きづらくなるため、血糖値がなかなか下がりにくくなってしまうのです。この状態が長く続くと、なんとか血糖値を下げようとインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が頑張り続けることになります。しかし、最終的に疲れてしまい、インスリンをうまく出せなくなってきてしまうのです。

糖尿病の中でも、生活習慣と関わる2型糖尿病は、インスリン抵抗性とインスリン分泌の低下の2つの要素が関わっているのです。肝臓は、この両者が起こるきっかけになり得ます。

肝臓がやられるとどうなる?

肝臓は体にとって重要なタンパク質を合成したり、有害な物質を解毒したりする作用があります。

肝臓が悪くなると、体に必要なタンパク質が作られなくなるのです。アルブミンという、血液中に水を引きつけておく作用があるタンパク質が不足すると、血管の外に水が出ていきます。その結果、腹水と言って、お腹の臓器の周りに多量の水が溜まってしまいます。また、出血時に血液を素早く凝固させる凝固因子も合成できなくなり、出血傾向が現れるのです。

有毒物質の解毒ができなくなると、それが体の中に蓄積します。これらが脳に到達すると、肝性脳症といって不穏状態になったり、意識障害が起こったりするのです。

消化管など、お腹の中の臓器からは肝臓に門脈という血管が伸びています。肝硬変が起こると、門脈を通る血流が悪くなり、門脈の圧が高くなります。その結果、門脈以外のところへ流れる血液が増えていくのです。その結果起こるのが静脈瘤です。特に、胃や食道などにこの静脈瘤ができ、さらに大きくなると、破裂して吐血をしてしまうことがあります。

まとめ

糖尿病と肝臓は、非常に深い関係があることがお分かりいただけましたか?

糖尿病で治療中の方は、体重管理と糖尿病の治療をしっかり行い、NAFLD/NASHの発症を防ぎましょう。定期的な検査の中で、脂肪肝が起こっていないか、肝機能悪化がないかを見ていく必要があります。。肝硬変に至ると、糖尿病患者さんの余命にも関わりかねないので、早期に発見して対応することが重要です。

肝臓の病気でも、血糖値が高くなったり、糖尿病が発症する可能性があります。特に、食後の血糖上昇は要注意です。主治医の先生ときちんと相談し、必要に応じて検査を受けてください。

参考文献

[1]日本消化器病学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020.

[2]Eguchi Y, et al. J Gastroenterol 47, 586–595, 2012.

[3]第59回日本肝臓学会総会. 奈良宣言特設サイト 医療関係者向け. https://site2.convention.co.jp/jsh59/nara_sengen/iryou.html
(2023年7月31日閲覧)

[4]Sumida Y, et al. BMC Gastroenterol. 12:2, 2012.

[5]Sasazuki S, et al. Cancer Sci. 104(11):1499-1507, 2013.

[6]種市 春仁, 藤原 史門, 佐藤 譲. 糖尿病. 51:203-205, 2008.