糖尿病の予防に運動はいいの?効果的な運動の種類と方法について解説!
糖尿病は、肝臓で作られる「インスリン」というホルモンがうまく分泌されなかったり働きが低下したりすることで、血液中のブドウ糖が増え高血糖状態になる疾患です。
1型と2型に分かれており、日本人の糖尿病患者の多くは2型糖尿病と言われています。2型糖尿病は食べすぎ、肥満、運動不足、ストレスなどの生活習慣が原因です。
糖尿病が悪化すると、命に関わる大きな病気につながります。 糖尿病にならないためにも、悪化させないためにも、食事や運動から生活習慣を改善していくことが大切です。
本記事では運動が糖尿病治療や予防にどのような効果をもたらすのか、解説していきます。
名倉 義人 医師
○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院
○資格
救急科専門医
○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会
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糖尿病予防のための運動効果は?
糖尿病の治療や予防には運動がいいと言われますが、どのような効果があるのでしょうか。2型糖尿病はインスリンの働きが弱まり、血糖値が高くなります。
運動をすることで、下記効果を得られます。
- 血液中のブドウ糖が細胞や筋肉に吸収され、血糖値が低下する
- インスリンの効き具合(インスリン抵抗性)が改善される
- 肥満解消や予防につながる
- ストレスが解消される
- 心肺機能が向上する
- 高血圧や脂質異常症の改善につながる
- 運動機能が向上する
1型糖尿病はインスリンを作り出す細胞が壊れてしまっているため、運動によるインスリンの機能回復は難しいです。しかし、運動をすることでほかの病気になるリスクが減ったり、ストレスが軽減されたりとプラスになる要素が多くあります。そのため、1型も2型も運動習慣をつけていきましょう。
糖尿病に効く運動は?
前述の通り、糖尿病の予防や治療には運動が大切です。では、どんな運動をするのがいいのでしょうか。
糖尿病の予防には有酸素運動とレジスタンス運動がいいと言われています。どちらか一方だけてなく、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせるとより効果的です。それぞれの運動を紹介していきます。
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有酸素運動
有酸素運動は、全身の筋肉を使う運動のことです。有酸素運動をすると、細胞や筋肉に糖が取り込まれやすくなります。また、弱い力が継続的に筋肉にかかり続けるので、エネルギー源として体脂肪が使われ、体脂肪が燃焼されます。このことで、食後の血糖値が高い状態が緩和されるのと、インスリンが効きやすい体になるのです。
下記の運動が有酸素運動に分類されます。
- ジョギング
- ウォーキング
- サイクリング
- 水泳
水泳は有酸素運動とレジスタンス運動の両方を兼ね備えているので、おすすめの運動です。
また、ほかの運動に比べ膝を痛める心配が少ないです。
有酸素運動のなかでいちばん手軽に始められるのはウォーキングではないでしょうか。ウォーキングをするときのポイントを次で解説します。
ウォーキングのポイント
糖尿病の治療や予防には、有酸素運動が効果的とお話しました。有酸素運動のひとつであるウォーキングですが、いつも通り歩くのではなく、正しいフォームで歩くことが大切です。正しいフォームになるためのポイントを説明します。
・背筋を伸ばして胸をはる
・あごを軽く引き、前を見る
・肘を軽く曲げ、腕を振る
・歩幅を広げ、かかとから地面に設置する
・重心を前に移動させてつま先で蹴りだす
いつもの歩き方が習慣化されてしまって、最初は違和感を感じるかもしれません。しかし、正しいフォームで歩くことで有酸素運動の効果を最大限に得られたり、けがをしにくかったりといいことづくしです。ぜひ実践してみてください。
レジスタンス運動
レジスタンス運動は筋肉に負荷を繰り返しかける運動のことです。レジスタンス運動によって筋肉が発達すると、糖を効率的に取り込めるようになります。効率的になることで、糖の取り込み量が増え、食後の血糖値を下げるのを早めるのです。また、筋肉がつくと基礎代謝量が上がり、エネルギー消費量が増加します。そうなることで、インスリンの効果が高まり血糖値が下がりやすくなります。レジスタンス運動はいわゆる筋力トレーニングです。どんな筋力トレーニングが効果的かご紹介します。
筋力トレーニング
足や腰などの大きな筋肉を中心に、全身の筋肉を鍛えられるトレーニングが勧められています。筋力トレーニングは室内で行えるので、外出しなくても家の中で糖尿病に効く運動ができます。
- スクワット
- 腹筋
- 踵上げ下げ
- 腕立て伏せ
上記以外にもトレーニングはあります。適切なトレーニングがわからないときは、医師や理学療法士などに相談してメニューを決めましょう。
筋力トレーニングは間違った姿勢や方法でやってしまうと、膝や腰などを痛める可能性があるので、専門家から教えてもらった正しいやり方で行ってください。
適切な運動量は?
有酸素運動とレジスタンス運動が糖尿病の治療や予防に効果的だと説明しましたが、どのくらいの運動量が必要なのでしょうか?有酸素運動とレジスタンス運動の適切な運動量を解説します。
有酸素運動の運動量
有酸素運動は、中等度レベルの運動を1回20分以上実施するのがいいとされています。中等度のレベルとは、運動していて「ややきつい」または「楽である」と感じる程度のことです。
脈拍数も運動強度の目安となり、下記計算方法で出せます。
(220-年齢)×0.5=運動の時に目安にする脈拍数(回/分)
不整脈や神経障害がある方などは、脈拍数で強度を決定できない場合があるので医師に相談しましょう。
運動の頻度は、週に150分以上、週に3日以上行うのが推奨されています。週に2日以上、運動しない日が続くのはおすすめしません。ウォーキングの場合は、1回15~30分で1日2回行いましょう。1日約1万歩が適当とされているので1万歩を目指して、日常生活を送ってみましょう。
脈拍数や運動量、歩数などはスマートフォンのアプリで記録できるので、活用するのもひとつの方法です。
レジスタンス運動の運動量
レジスタンス運動は、10~15回1セットから始めましょう。徐々にセット数を増やしていきます。息を止めずに、呼吸を意識することが大切です。頻度は週2~3回が適切ですが、連続した日程では行わないようにしましょう。心疾患や合併症などがある方、高齢者は高強度のレジスタンス運動は危険なので、注意が必要です。
インスリンを増やす運動はある?
運動はインスリンの分泌を増やすというよりは、インスリンが効きやすい体に改善されるという理解のほうが正しいです。
糖尿病は食べすぎや肥満、運動不足などが原因で、血糖値が高くなりインスリンが効きにくくなります。インスリンは血糖値を下げてくれるホルモンのことです。
インスリンが効きやすい体に改善するためには、有酸素運動とレジスタンス運動をするのがよいと言われています。
運動でインスリンの分泌が増えるわけではありませんが、インスリンの働きがよくなり、糖尿病の治療や予防になります。
運動する時間はいつが最適?
運動をするタイミングは基本的にはいつでも大丈夫です。
食後に高血糖になる方は、食後1時間ごろに運動を行うのをおすすめします。
1型糖尿病の方や低血糖の薬を服用している方は、低血糖にならない時間帯を選びましょう。
運動を継続させることが大切なので、時間に縛られず続けられる方法を見つけて継続していきましょう。
日常生活の中でできる運動
運動するためにまとまった時間がとれない方や運動が苦手な方は、日常生活の動作を運動に変えてみましょう。有酸素運動やレジスタンス運動と同様の効果が得られる動きが日常生活の中にあります。
- 早歩き
- 自転車で通勤
- 1駅手前の駅や停留所で下車して歩く
- エレベーターやエスカレーターではなく、階段を使う
- 歩いて買い物に行く
- 窓ふきやお風呂掃除などこまめに行う
- 洗濯や掃除機中に膝の屈伸運動をする
- テレビを見ながら筋トレ・ストレッチ
いきなり大きな目標をたててしまうと、なかなか達成できずあきらめてしまう可能性があります。
継続してできることが大切なので、自分ができそうと思った運動から始めていきましょう。
運動しないとどうなる?
糖尿病の方や予備軍の方が運動しないとどうなるのでしょう。
前述したとおり、運動をすることで
- 血液中のブドウ糖が細胞や筋肉に吸収され、血糖値が低下する
- インスリンの効き具合(インスリン抵抗性)が改善される
- 肥満解消や予防につながる
- ストレスが解消される
- 心肺機能が向上する
- 高血圧や脂質異常症の改善につながる
- 運動機能が向上する
などの効果が得られます。
運動をしないと、これらの効果が得られず、糖尿病が進行します。糖尿病が進行すると、命の危機に関わる合併症を引き起こしかねません。糖尿病の合併症として神経障害と網膜症、腎症の3大合併症と動脈硬化があります。それぞれの合併症について解説します。
3大合併症
糖尿病には「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」の3大合併症があります。
糖尿病によって高血糖の状態が続くと、細くて脆い毛細血管が傷つきます。特に網膜と腎臓、手足には毛細血管が集まっており、合併症を引き起こす可能性が高いです。
糖尿病の罹病期間が長いほど発症しやすくなります。
糖尿病神経障害
手先や足先、足裏の痛みやしびれ、麻痺などが起こります。ほかにも立ちくらみや発汗障害、下痢、便秘、排尿障害、勃起障害などの症状が現れるのが特徴です。
感覚が鈍くなるので、足の傷に気づかずに放置していると壊疽(えそ)になり、足を切断する可能性も少なくありません。そのため、足に異変がないか毎日観察しましょう。「いつもと違うかも」と感じたら医療機関を受診してください。
糖尿病網膜症
網膜内の血管に障害がおき、視力が低下します。進行すると失明する疾患です。
網膜症が重症化するまで、視力低下などの自覚症状が出てこないと言われています。そのため、糖尿病になったら年に1回は眼科で網膜症の検査を受けましょう。網膜症を早期発見して適切な治療をうければ、失明するのを防げます。
糖尿病腎症
腎臓は血液をろ過して、老廃物を尿として体から排泄する働きがある臓器です。糖尿病腎症になり、腎機能が低下するとむくみや疲れ、貧血などの症状が現れます。
どんどん腎機能が低下して体から老廃物を排泄できなくなると、人工透析が必要となります。
人工透析患者の原因の第1位が糖尿病腎症です。
動脈硬化
動脈硬化は動脈の血管が硬くなることです。
糖尿病により高血糖が続くと、血液がドロドロになり血管が傷ついて詰まりやすくなります。血管が傷つき炎症を起こすと、コレステロールが蓄積し血管に塊ができます。塊によって血管の壁が厚くなったり硬くなったりして、動脈硬化が起こるのです。
血管にできた塊によって血管がつまると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などを発症します。
特に2型糖尿病の方は、高血圧や肥満など、動脈硬化の原因となる因子を複数持っていることが多いです。
そのため、動脈硬化が原因となる病気(心筋梗塞や脳梗塞など)になりやすいです。
また、糖尿病神経障害の影響で痛みが感じにくくなると、狭心症や心筋梗塞の症状に気付かず、発見が遅れてしまいます。発見が遅くなると命の危機に関わるので、早期発見して治療するのが大切です。早期発見するために、定期的に医療機関を受診しましょう。
糖尿病が進行すると命に関わる重大な病気になりかねません。そうならないためにも運動や食事などから生活習慣を見直しましょう。しかし、糖尿病患者の中には運動を禁忌とされている人もいます。糖尿病の種類や進行状態・合併症の種類などをしっかり理解し、運動を始める際も一度医師と確認することが大切なことであると言えるでしょう。
運動が禁忌となるのは?
糖尿病には運動が効果的ですが、運動をしないほうがいい場合があります。
- 腎機能が低下している
- 血糖値が高い
- 関節や筋肉の痛みが強い
- 合併症が進行している
- 骨や関節に病気がある
- 心臓病や肺の病気がある
- 感染症がある
- 足の指やつめの変形、壊疽(えそ)がある
上記以外にも運動を制限することがあります。運動療法を始める前に、メディカルチェックを受け医師や理学療法士の指示に従いましょう。
Q&A
糖尿病にならないための運動は?
糖尿病にならないためには、日ごろから運動することが大切です。有酸素運動とレジスタンス運動の両方を実施するのがいいでしょう。
運動する時間がとれない方は、日常生活の動作を運動に変える方法が合っているかもしれません。
一駅分歩いてみる、階段を使う、テレビを見ながら筋トレしてみるなど、少しずつ変えていき習慣化させましょう。
糖尿病にいい運動は?
糖尿病にいい運動は、有酸素運動とレジスタンス運動です。どちらか片方だけでなく、両方行うほうが効果的です。有酸素運動にはウォーキングや水泳、ジョギング、サイクリングなどがあります。レジスタンス運動は筋力トレーニングのことで、スクワットや腕立て伏せ、踵上げ下げなどが挙げられます。
水泳は有酸素運動とレジスタンス運動の両方を兼ね備えており、膝を傷めにくいのでおすすめです。
血糖値を下げる運動はいつ行うべきか分からない方もいるでしょう。特に厳密に決まっているわけではないので自分の好きなタイミングで良いかもしれませんが、おすすめは食後1時間だと言われています。
糖尿病予防 運動 なぜ?
糖尿病予防に運動がいい理由は、運動することによって下記効果を得られるからです。
- 血液中のブドウ糖が細胞や筋肉に吸収され、血糖値が低下する
- インスリンの効き具合(インスリン抵抗性)が改善される
- 肥満解消や予防につながる
- ストレスが解消される
- 心肺機能が向上する
- 高血圧や脂質異常症の改善につながる
- 運動機能が向上する
運動はなぜ糖尿病にいいのか?
糖尿病はインスリンというホルモンがうまく分泌されなかったり働きが低下したりすることで、血液中のブドウ糖が増え、高血糖状態になる疾患です。運動をすることで、血糖値が低下したり、インスリンのはたらきがよくなったりと糖尿病の症状を改善させる効果を得られます。また、糖尿病の原因となる肥満やストレスの解消にもつながります。これらの理由から、運動は糖尿病にいいとされています。
まとめ
糖尿病の予防や治療に効果がある運動について解説しました。
糖尿病予備軍かもと感じている方、これ以上糖尿病を進行させたくない方、ぜひ運動を取り入れましょう。運動のハードルを上げずに、日常生活の一部を変えるだけでも運動になります。
糖尿病に関する食事・運動、治療に関わることをパンフレットにまとめた資料を配布しているサイトもありますので、見てみると良いでしょう。
リンク:国立国際医療研究センター糖尿病情報センターhttps://dmic.ncgm.go.jp/medical/120/instructiontool.html
自分ができると思った運動を選択し、継続していき健康な生活を送りましょう。
少しでも、体に異変があれば早めに受診しましょう。