糖尿病性神経障害ってなに?症状や治療法について詳しく解説
糖尿病の3大合併症のひとつに糖尿病性神経障害があります。神経障害は網膜症や腎症に比べ、症状が軽く、油断されがちですが、放置すると命に関わる深刻な状態になってしまいます。深刻な状態にならないためにも、初期のうちから治療をすることが大切です。
本記事では、糖尿病性神経障害の症状や検査方法、薬物療法、自分でできるケア方法などを説明いたします。
正しい知識を身につけ、神経障害にならないように、なってしまっても軽症で収まるように生活していきましょう。


名倉 義人 医師
○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院
○資格
救急科専門医
○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会
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糖尿病性神経障害の症状や機序などは?

糖尿病性神経障害は糖尿病の3大合併症のひとつで、最も多い合併症です。 糖尿病性神経障害は、糖尿病で高血糖状態が続くことで末梢神経が障害を起こします。障害を起こす原因ははっきりわかっていませんが、2つの原因が考えられています。
- 代謝性因子
高血糖状態が続き体内にブドウ糖がたまることで、「ソルビトール」という物質が蓄積されます。蓄積されることによって、神経細胞が障害され神経障害が起こります。
- 血管性因子
高血糖により血流が悪くなり、神経に必要な酸素や栄養素が届かなくなり、障害が起きます。
末梢神経は手や足、皮膚に広がる神経のことで、運動神経と感覚神経、自律神経のことです。
運動神経は手足など体を動かす神経で、感覚神経は物を触って感じたり、痛みを感じる神経です。自律神経は血圧の調整や消化管を動かす神経となります。
運動・感覚神経障害と自律神経障害は多発性神経障害であり、体の遠い部分から左右対称に症状がでます。糖尿病神経障害で一番多い症状です。
一方で、単神経障害もあり、こちらは単一の末梢神経が障害され、左右非対称に症状が現れます。
それぞれの神経障害について詳しく解説します。
運動神経・感覚神経の障害

運動神経と感覚神経に障害が起きると下記症状が現れます。
- 感覚が鈍くなる
- 足がつる
- 足壊疽
- 足のしびれと痛み
- 足が冷たかったりほてったりする
- 砂利の上を歩いているような感じがする
- 足に虫がはっている感覚がある
- 足の裏に紙がはりついている感覚がある
これらの症状は 左右対称に現れ、特に安静時や睡眠時に起こることが多いです。
足のしびれなどの症状は、整形外科疾患など他の病気が原因のこともあるので鑑別診断が必要になります。左右対称ではなく、どちらか一方にしか症状がでなかったり、歩行後に症状が悪化したりする場合は、整形外科系の病気の可能性が高いです。
自律神経の障害

自律神経は心臓や消化器系、泌尿器系など臓器の調節をしており、そこを障害されると下記の症状が現れます。
- 胃の不調
- 便秘、下痢
- 排尿障害
- 勃起不全
- 立ちくらみ
- 無自覚性低血糖
- 瞳孔の異常
- 発汗の異常
- 無痛性心筋梗塞、突然死
自律神経の障害は、進行をすると命に関わる病気につながります。
症状に気づかずに見逃してしまうことが多いので、立ちくらみや排尿障害、下痢・便秘などがあったら早めに医療機関を受診してください。
単神経障害

前述した運動神経や感覚神経、自律神経の障害で現れる症状は多発性神経障害です。 多くの症状は多発性神経障害ですが、単神経障害が起こることもあります。
単神経障害は単一の末梢神経が障害され、左右非対称に下記症状が現れます。
- 外眼筋麻痺
- 顔面神経麻痺
- 手根管症候群
- 糖尿病筋萎縮
単神経障害は、糖尿病歴や血糖コントロールの良し悪しとは無関係に血管が閉塞されることでおこります。単神経障害の多くは3ヶ月以内に自然に治るのが特徴です。
症状はいつから?

糖尿病性神経障害の症状はいつから現れるのでしょうか?
糖尿病神経障害は他の合併症(網膜症、腎症)と比べ、比較的初期から症状がでます。糖尿病発症後5年くらいから、初期症状である手足のしびれなどの特徴が現れるのです。
初期のころに現れる症状として
- 両足の足先がしびれる
- 足が冷える、または熱くなる
- 自分では気づかないうちに、手足の感覚が鈍る
- 足の裏に紙が張り付いている感じがする
- 皮膚に虫がはっている感じがする
- 座骨神経痛や肋間神経痛などの神経痛が起こる
- 安静時や睡眠時に足がつる
が挙げられます。
特に足からしびれや痛みが現れることが多いです。足の痛みは指や足裏からでてきて、徐々に手などに移っていきます。
初期のうちから治療することが大切です。症状が軽いからといって、放置したり自己流で治療したりするのは控えてください。
糖尿病性神経障害の診断方法は?

糖尿病性神経障害では、自覚症状がない人が多いです。また、足のしびれや痛みなどの症状があっても整形外科系の疾患である可能性もあります。
糖尿病性神経障害と診断される基準はなんなのでしょうか? 診断基準と検査方法について説明します。
糖尿病性神経障害の診断基準

現在、糖尿病性神経障害の診断基準は確立されていませんが、糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準案が使用されることが多いです。
http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-10.pdf ガイドライン表1a
検査方法

知覚機能として下記検査を実施します。
- アキレス腱反射
膝立ちまたは四つばいの姿勢で、アキレス腱をハンマーで叩き、反射がでるか調べる検査です。 - 触覚検査
モノフィラメントを使用して、感覚低下が起きているかどうか評価します。 - 振動覚検査
音叉をくるぶしにのせ、振動を感じるか調べる検査です。 - 痛覚検査
爪楊枝や竹串などで足の指にあて、痛覚の評価をします。
また、確定診断をするには神経伝導検査を行います。神経伝導検査で明らかな異常があった場合は、糖尿病性神経障害と診断されます。
重症度分類

糖尿病性神経障害の重症度は、神経伝導異常と自覚症状、他覚所見で判断することが多いです。 進行状態を判断するために、定期的に検査を受けましょう。軽症の場合は半年~1年に1回、進行した場合は軽症よりも頻度を上げて検査を実施します。
神経障害は感覚が鈍ってしまうので、体の異常に気づかずに下記のような危険な状態になっている可能性があります。
- 無自覚性低血糖
- 無痛性心筋梗塞
- 神経麻痺、壊疽
- 突然死
自分では気づかないうちに深刻な状態に陥らないために、初期症状がでたらすぐに医療機関を受診して治療をしましょう。
糖尿病性神経障害に対して行える薬物療法について

糖尿病性神経障害は治るのか疑問に思う方もいるでしょう。
神経障害によって神経が変性してしまうと元には戻せないので、治らなくなってしまうかもしれません。
症状が軽いうちから治療すれば血糖コントロールと薬物療法で、神経障害の改善や進行を防げます。
血糖コントロールに対して使用する治療薬と、痛みやしびれに対して使用する治療薬について解説します。
血糖コントロールに対して使用する治療薬

糖尿病性神経障害は、高血糖の状態が続いて末梢神経が障害されることでおこります。
そのため、治療と予防をするには血糖コントロールが大切です。
定期的に血糖自己測定をして、血糖の変動に注意しましょう。
また、神経障害の原因のひとつとして考えられている「ソルビトール」という物質が蓄積しないように、薬物療法も実施します。
ソルビトールは「アルドース還元酵素」という酵素によって作り出されます。アルドース還元酵素の働きを抑える薬が「アルドース還元酵素阻害薬」です。アルドース還元酵素阻害薬は神経障害の原因となる物質が作られるのを防ぐ効果があります。
アルドース還元酵素阻害薬は血糖コントロールを行いながら使用します。
薬物療法や血糖コントロールを実施し、症状が改善していくと、一時的にしびれや痛みが悪化する場合があります。これは神経の働きが改善し、それまで感じなかった痛みやしびれを感じ取れるようになることで起こると言われています。
痛みやしびれが悪化しても、自己判断で治療をやめず、医師の指示に従い治療を継続しましょう。
痛みやしびれに対して使用する治療薬

痛みやしびれがひどい場合は、和らげるために薬物療法を実施します。
軽症の場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤を服用することで効果を得られます。しかし、重症の場合は非ステロイド性消炎鎮痛剤では効果が得られません。
中等度以上の症状の場合は、「イミプラミン」や「アミトリプチリン」などの三環系抗うつ薬が効果的です。
三環系抗うつ薬による鎮痛効果は、抗うつ作用によるものではありません。神経末端のノリエピネフリン再取り込み抑制作用によるものです。
しかし、副作用に注意が必要です。眠気や注意力低下、口が渇く、排尿・排便障害などの副作用がでることが多くあります。人によっては使用しないほうがいい場合があるので、医師に相談しましょう。
三環系抗うつ薬の効果があまり感じられなかった場合は、抗精神病薬と併用することもあります。
また、抗けいれん薬も有効と言われています。抗けいれん薬は単独でも併用でも効果的です。
糖尿病性神経障害に対して自分で行えるケア

前述の通り、糖尿病性神経障害の治療には血糖コントロールと痛みに対する治療を実施します。
それだけではなく、日常生活の中で自分で行うケアが大切です。
自分で行うケアとして、マッサージとフットケアがあります。
マッサージとフットケアについて解説しますので、正しい方法を身につけて継続していきましょう。
マッサージ

神経障害では、安静時や睡眠時に足がつりやすくなります。
足がつるのを防ぐには、下肢の血流がよくなるマッサージが効果的です。
足のマッサージをするときは、手で優しくやりましょう。
感覚が鈍くなっているので、強い力で行うこと、温めながら行うマッサージ機器などは使用しないでください。
また、足のマッサージをしながら足の状態をチェックすることも大切です。
フットケア

糖尿病性神経障害では足の感覚が鈍くなり、痛みなどに気付かず怪我や傷が放置されがちです。また、足は目にふれることが少なく、異変を発見するのがおそくなります。
注意したい足の病気は下記になります。
- タコ、ウオノメ
- 水虫
- 潰瘍
- 足やゆびの変型
これらの病気を放置していると、どんどん悪化して足の壊疽につながりかねません。壊疽してしまうと、足の切断につながります。
最悪の状態にならないために、日々のフットケアはとても大切です。
ポイントを説明するので、意識して生活してみてください。
- 毎日足の観察をする
入浴時や爪を切るときなど、足にケガや傷がないか確認しましょう。 - 足を清潔に保つ
入浴時には足をしっかり洗いましょう。足の裏や指の間をていねいに洗ってください。
お風呂あがりには、足についた水をしっかりふき取ります。
乾燥している場合には、クリームを塗って乾燥を防止しましょう。 - 正しいやり方で爪を切る
爪を伸ばしたままにすると、ケガのもとになります。逆に深爪も危険です。爪がまっすぐになるように切りましょう。
日常生活で意識するポイントもあります。
- 自分のサイズに合った靴を履く
サイズに合わない靴をはくと、靴擦れを起こしたりマメができたりします。神経障害があると痛みが感じづらく、気づかずに放置してしまい、悪化することが少なくありません。
足の傷やけがを作らないためにも、自分のサイズに合った靴を選びましょう。 - やけどに注意する
神経障害があると足が冷えやすくなり、熱さに鈍感になります。こたつや湯たんぽ、電気カーペットの使用には注意が必要です。
また、お風呂の温度にも注意しましょう。足から入るのではなく、一旦腕などで温度確認してから入るようにしてください。 - ケガに注意する
ケガに気付かずに放置してしまい、危険な状態になることがあります。ケガをしないように注意しましょう。 - 靴下を履く
裸足だとケガをする可能性が高くなります。足を守るためにも靴下を履いて生活してください。 - 禁煙する
タバコを吸うと、血流が低下して、十分な酸素や栄養が神経に届かなくなります。届かなくなると神経障害になる可能性が高くなってしまいます。原因をつくらないためにも、タバコはやめましょう。 - 定期的な診察をうける
神経障害が進行していないか、足に異変はないかなど、医師に定期的に診てもらいましょう。少しでも異変を感じたら、放置せず医療機関を受診してください。
日本糖尿病対策推進会議(日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会)が「足のチェックシート」を発行しています。症状を知るために活用してみましょう。
https://www.med.or.jp/dl-med/chiiki/foot/checksheet.pdf
Q&A

糖尿病性神経障害の症状は?

糖尿病性神経障害の症状には運動神経と感覚神経、自律神経が障害される多発性神経障害と単神経障害があります。
多発性神経障害では下記症状が現れます。
- 感覚が鈍くなる
- 足がつる
- 足壊疽 ・足のしびれと痛み
- 足が冷たかったりほてったりする
- 砂利の上を歩いているような感じがする
- 足に虫がはっている感覚がある
- 足の裏に紙がはりついている感覚がある
- 胃の不調
- 便秘、下痢
- 排尿障害
- 勃起不全
- 立ちくらみ
- 無自覚性低血糖
- 瞳孔の異常
- 発汗の異常
- 無痛性心筋梗塞、突然死
単神経障害で起こる症状は下記です。
- 外眼筋麻痺
- 顔面神経麻痺
- 手根管症候群
- 糖尿病筋萎縮
最初は足のしびれや痛みなど軽めの症状が出ます。軽めだからといって放置しておくと、命に関わる病気につながりかねません。
自分では気づかないうちに進行していることもあるので、定期的に検査をうけましょう。
糖尿病による神経障害とは?

糖尿病性神経障害は糖尿病の3大合併症のひとつで、最も頻度が多い合併症です。糖尿病で高血糖状態が続くことで末梢神経が障害を起こします。障害を起こす原因ははっきりわかっていませんが、2つの原因が考えられています。
- 代謝性因子
高血糖状態が続き体内にブドウ糖がたまることで、「ソルビトール」という物質が蓄積されます。蓄積されることによって、神経細胞が障害され神経障害が起こります。
- 血管性因子
高血糖により血流が悪くなり、神経に必要な酸素や栄養素が届かなくなり、障害が起きます。
他の合併症に比べ、症状が軽症のため軽視されがちですが、悪化すると命に関わる病気につながります。
早期発見し治療をすることが大切です。
糖尿病神経障害の初期症状は?

糖尿病神経障害は糖尿病発症後5年くらいと、比較的初期から症状が現れます。
初期のころに現れる症状は以下の通りです。
- 両足の足先がしびれる
- 足が冷える、または熱くなる
- 自分では気づかないうちに、手足の感覚が鈍る
- 足の裏に紙が張り付いている感じがする
- 皮膚に虫がはっている感じがする
- 座骨神経痛や肋間神経痛などの神経痛が起こる
- 安静時や睡眠時に足がつる
初期のうちから治療することが大切です。症状が軽いからといって、放置したり自己流で治療したりするのは控えてください。
糖尿病の神経障害の治し方は?

糖尿病の神経障害の治し方はまず、血糖コントロールをすることが基本です。
血糖コントロールを継続したうえで、薬物療法を実施します。
薬物療法では、神経障害の原因となる物質であるソルビトールの生成を防ぐ効果がある薬を服用します。
ソルビトールはアルドース還元酵素から作り出されており、この働きを抑える薬がアルドース還元酵素阻害薬です。
アルドース還元酵素阻害薬を服用することで、ソルビトールの生成を抑え、神経障害の進行を防ぎます。
アルドース還元酵素阻害薬は痛みやしびれに対しては効果がありません。
そのため、痛みやしびれに対しては別の薬を使用します。
軽症の場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤を処方します。
中等度以上の場合は、三環系抗うつ薬が効果的です。三環系抗うつ薬による鎮痛効果は、抗うつ作用によるものではありません。神経伝達物質が細胞へ取り込まれるのを阻害することで、痛みを感じにくくする経路が働き、痛みが抑えられます。三環系抗うつ薬を使用する場合は、副作用に注意が必要です。人によっては使用を控えた方がいいので、医師の指示に従いましょう。
三環系抗うつ薬の効果が感じられなかった場合は、抗精神病薬と併用することもあります。また、抗けいれん薬も有効と言われており、併用することがあります。
まとめ

糖尿病性神経障害の症状や検査方法、治療方法について解説しました。
神経障害は最初は症状が軽くても、進行していくと命に関わる病気につながります。気づいたときには手遅れにならないように、早期発見し治療をすることが大切です。
自覚症状がないことが多いので、日々のフットケアで自分の状態を把握し、少しでも異変を感じたら医療機関を受診しましょう。
