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糖尿病の合併症「糖尿病性腎症」とは?原因や症状、治療法をわかりやすく解説

糖尿病がある方は、3大合併症のひとつ「糖尿病性腎症」について聞いたことがあるのではないでしょうか。

「どんな症状が出るの?」「治療はどうやって行うの?」

糖尿病の方は、誰もが糖尿性腎症を発症する可能性があるため、原因や症状、治療法など、さまざまなことが気になりますよね。

糖尿病性腎症は、初期には自覚症状がないのが大きな特徴です。そのため、定期的に検査を受けないと発症に気付けません。自覚症状が現れる頃には、腎機能低下が進行しています。

慢性的に腎臓の機能が低下すると、透析や腎移植が必要になります。早期に発見して適切な治療を行い、腎機能低下を抑えることが非常に重要です。

この記事では、糖尿病性腎症の原因や症状、病期について解説します。検査方法や治療法についてもくわしく解説していますので、糖尿病性腎症が気になる方は、参考にしてみてください。

記事監修

名倉 義人 医師

○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院

○資格
救急科専門医

○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会

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腎症とは?発症の原因とメカニズム

糖尿病性腎症の原因は、糖尿病の血糖コントロール不良によって、高血糖が長期間持続することです。腎臓の血管が傷付き、腎臓の機能が低下して発症します。

腎臓はソラマメのような形をしている臓器です。左右に一つずつ、腰の上あたりの位置にあります。腎臓で血液をろ過し、老廃物の除去に重要な働きをしているのが「糸球体(しきゅうたい)」です。

高血糖が長期間持続すると、糸球体の小さな血管が硬くなり、詰まったり破れたりして傷付き、腎機能が低下します。

腎臓は尿を作る臓器として知られていますが、身体を正常に保つために、ほかにも重要な働きを担っています。

腎臓の働き

腎臓の血管が傷つくと、これらの働きが傷害され、貧血や高血圧、食欲不振などのさまざまな症状が現れます。

糖尿病性腎症の症状は?血尿は出る?

初期では尿検査をするとタンパク尿が出ますが、自覚症状はありません。

血尿がみられるケースは少ないです。血尿が認められる場合は、糖尿病以外の腎疾患が疑われるため、くわしい検査が必要です。

腎機能が低下すると、水分や老廃物の排泄、血圧の調節、電解質バランスの維持などがうまくできません。その結果、むくみや息切れ、倦怠感といった多様な症状が現れます。

腎機能低下が進行し、水分や老廃物の排泄ができなくなってくると、「尿毒症」という症状が現れます。尿毒症は生命を脅かす可能性もあるため、注意が必要です。

排泄できなかった老廃物が体中を巡り、さまざまな症状が現れます。尿毒症の症状は以下の通りです。

糖尿病性腎症の病期ごとの症状は以下の通りです。

病期症状
第1期(腎症前期)・無症状
第2期(早期腎症期)・無症状・尿検査でタンパク尿が出る
第3期A(顕性腎症前期)・ほとんどが無症状・尿検査でタンパク尿が増加する
第3期B(顕性腎症後期)むくみ、息切れ、息苦しさ、倦怠感血圧上昇など
第4期(腎不全期)むくみ、息切れ、息苦しさ、強い倦怠感、血圧上昇、吐き気、皮膚の掻痒感、食欲低下、精神的不安定など
第5期(透析療法期)腎機能が著しく低下し、透析療法が必要

糖尿病性腎症の検査は?

糖尿病性腎症の検査には、尿検査と血液検査があります。これらの検査の結果から、糖尿病性腎症の病期(ステージ)を決定し、治療方針の参考にします。

尿検査

尿検査では、尿中にタンパク質が混ざっていないかを調べます。

タンパク質の一種であるアルブミンは、正常では尿と一緒に排泄されることはありません。糸球体の血管の障害が進行すると、ろ過機能に影響を及ぼし、アルブミンが尿中に排泄されるようになります。

「微量アルブミン尿検査」では、腎機能低下がどのくらい進行しているか調べることが可能です。尿中のアルブミン量によって以下のように分類されます。

アルブミン量
正常アルブミン尿30 mg/gCr以下
微量アルブミン尿 30〜299 mg/gCr 
顕性アルブミン尿300 mg/gCr以上

 微量アルブミン尿の段階で治療を行えば、進行を抑えられますが、顕性アルブミン尿の段階になると、治療は困難です。

微量アルブミン尿検査は、尿中のアルブミン量がごくわずかでも見つけ出せます。定期的に尿検査を受ければ、早期発見が可能です。

糖尿病内科や腎臓内科がある病院・クリニックで、通常の尿検査と同じ方法で、簡単に検査できます。糖尿病をお持ちの方は、定期的に検査を受けましょう。

血液検査

血液検査では、腎機能の指標となる「糸球体ろ過量(GFR)」を調べます。正確な量を調べるには、採血や24時間の畜尿が必要となるため、負担がかかる検査です。

そのため、1回の血液検査で血液中のクレアチニン(筋肉に含まれるタンパク質の老廃物)濃度を年齢や性別で換算した「推算糸球体ろ過量(eGFR)」が用いられます。

糸球体の老廃物を排泄する能力を評価するための検査です。この値が低いほど、腎臓の働きが悪いということになります。

糖尿病性腎症の診断基準とステージ

尿検査・血液検査の結果から、糖尿病性腎症のステージ(病期)を分類します。病期によって治療方針が異なるため定期的に検査を受け、治療の効果や腎機能障害の進行を確認する必要があります。

糖尿病腎症のステージは以下の通りです。

病期 尿アルブミン値(mg/gCr)あるいは尿タンパク値(g/gCr)血液検査 (eGFR)(ml/分/1.73㎡)
第1期(腎症前期)正常アルブミン尿(30未満)30以上
第2期(早期腎症期)微量アルブミン尿(30~299)30以上
第3期(顕性腎症期)顕性アルブミン尿(300以上)あるいは持続的タンパク尿(0.5以上)30以上
第4期(腎不全期)問わない30未満
第5期(透析療法期)透析療法中 

出典:「糖尿病性腎症合同委員会:糖尿病性腎症病期分類の改訂について」

糖尿病性腎症の治療法

 腎臓は血糖値だけでなく、高血圧・脂質異常症・肥満・喫煙など、さまざまな因子の影響を受けます。したがって、血糖コントロールや血圧管理、食事療法、生活習慣の改善などを総合的に行うことが重要です。

病期ごとの治療法は以下の通りです。

病期治療法
第1期(腎症前期)血糖コントロール
第2期(早期腎症期)厳格な血糖コントロール降圧治療
第3期A(顕性腎症期)厳格な血糖コントロール降圧治療、タンパク質制限
第4期(腎不全期)降圧治療低タンパク食、透析療法導入
第5期(透析療法期)透析療法腎移植

血糖コントロール

 糖尿病性腎症の悪化を防ぐためには、血糖コントロールが重要です。血糖値の目標値は体格や年齢、病状などによって一人ひとり異なります。

高齢の方の場合、低血糖による危険を避けるため、血糖値の目標を緩やかに設定した方が良いです。反対に、若い方や妊娠中の方は、厳しい方が良いとされています。

血糖コントロールの基本は、低カロリー食、運動療法です。まずは食事療法・運動療法を行い、血糖値に応じて、糖尿病薬の服用やインスリン注射を行います。

薬の種類は、体格やインスリンを作る力がどのくらい残っているかなどによって決定します。インスリン注射は、体内でインスリンを作る量が不十分で、飲み薬では十分な血糖コントロールができないケースの場合に必要です。

血圧管理

糖尿病性腎症が進行すると、糸球体のろ過作用が低下し、血圧が上昇します。血圧が上昇すると、腎臓の血管が傷付くため、ますます腎機能が低下してしまうという悪循環が起こります。

高血圧による脳卒中(脳出血・脳梗塞)や虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、糖尿病性腎症のさらなる悪化を防ぐために、血圧管理は非常に大切です。

糖尿病性腎症患者の血圧の目標は、130/80mmHg 未満とされています。

減塩食に取り組んだり、血圧を下げる薬を服用したりして、血圧を適切に管理していきます。

食事療法

高血糖の改善には、食事療法が特に重要です。病期によって制限の内容などが異なるため、医師や栄養士の指導を受け、病期に応じた食事療法を継続的に行う必要があります。

①エネルギー量
主に糖質を減らした低エネルギー食で血糖値をコントロールを行います。

食事療法は、病期によって内容が異なりますが、いずれの病期においても、主食・主菜・副菜のそろった食事がよいとされています。

バランスの良い適切な量の食事を、1日3回、規則正しく摂ることが重要です。

②塩分制限
減塩も糖尿病性腎症の食事療法 にとって重要です。塩分を過剰摂取すると血圧が上昇し、腎機能低下の原因になります。

1日の塩分摂取量の目標は、6g未満です。むくみが強いときは、3gまで減量が必要になります。

塩分を制限すると、「薄味で物足りない」と感じる方は多いです。そんな時は、減塩調味料を利用したり、レモンやお酢などの酸味を活用したり、だしの旨味を活かした味付けにするなどの工夫をするとよいでしょう。

③タンパク質制限
タンパク質は、骨や筋肉をつくる大切な栄養素です。体内で利用された後は老廃物として排泄されるため、過剰に摂取すると腎臓に負担がかかります。腎機能低下が進行してくると、タンパク質の制限が必要です。

タンパク質を摂取するとカロリーが少なくなるため、栄養不良になることも考えられます。カロリーが不足すると筋肉が分解され、窒素代謝物が増えて腎臓に負担がかかってしまいます。

過度な栄養不足を避けるため、徐々に制限を行っていくことが大切です。

④カリウム制限
腎機能が低下すると、電解質の調整に障害が起こり、カリウム値が上昇します。カリウムが身体にたまると、不整脈を起こす可能性があるため注意が必要です。

食事療法では、カリウムを多く含む食品の摂取を控えます。カリウムは野菜や果物に多く含まれている電解質です。

カリウムは水やお湯に溶けるため、調理の工夫で摂取量を減らせます。野菜は細かく切って流水にさらしたり、たくさんのお湯で茹でこぼしたりすると良いです。

⑤脂質制限
脂質異常症も腎機能低下を進行させる要因になります。脂質異常症とは、中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝に異常が現れる病気です。

血液中に脂質が多い状態になると、血管が傷付いて動脈硬化が進行し、腎臓機能に影響を及ぼします。内服薬や脂質を制限した食事で、脂質のコントロールを行う必要があります。

⑤水分制限
むくみが強い場合や心不全がみられる場合は、水分制限が必要です。どの程度の制限を行うかは、症状や病期によって異なります。

腎臓・心臓に負担をかけないように、医師の指示のもと、水分摂取量をコントロールします。

水分制限は腎症がある程度進行してから行うケースが多いです。初期では水分制限がないことがほとんどです。

運動療法

糖尿病腎症の方は、吐き気やだるさ、食欲低下によって栄養摂取量が不足するため、筋肉や体力が落ちやすいです。

筋肉・体力が維持されている患者は、生命予後が良いという報告があり、糖尿病性腎臓病患者にとって運動療法はとても重要です。

筋肉量の維持、体力の向上、心血管系の疾患の予防を目標に、有酸素運動や筋力トレーニングを行います。

ただし、重度の腎障害がある方は運動療法の対象にはなりません。病状が安定している方でも、血圧が上がるような激しい運動については注意が必要です。

運動療法は、主治医の指示のもとで、無理なく安全に続けることが大切です。

生活習慣の改善

過度の飲酒や喫煙は、血管を収縮させたり、血圧を上げる要因になります。

糖尿病性腎症の重症化を予防するために、アルコールは適量摂取を心がけ、喫煙はやめましょう。

また、体重を適正に維持することも大切です。

内臓脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪からインスリンの働きを妨げる物質が放出され、血糖値が上がりやすくなってしまいます。

体重は、標準体重を目標にします。標準体重は、BMI(肥満度を表す体格指数)22です。

体重がかなり多い方では、まずは5%減らすことを目標に設定します。

標準体重(kg)= 身長(m)×身長(m)×22

糖尿病性腎症は治る?

自覚症状がなく、尿検査で微量アルブミン尿が出る初期の段階であれば、尿検査の数値が正常に戻ることが多いです。厳密な血糖コントロールにより、腎機能を改善できます。

腎臓の働きが慢性的に低下した状態、「慢性腎不全」になると、腎機能の回復は見込めません。主に進行を遅らせる治療を行います。

腎機能が著しく低下し、「末期腎不全」にいたると、自分の腎臓では生命を保てません。腎臓の働きを補うため、透析療法や腎移植といった腎代替療法が必要です。

透析療法は、週の半分近くを治療の時間に費やすことになり、食事にも注意が必要です。

仕事や旅行などにも制限があり、これまでの生活が一変します。 

透析や腎移植を避けるために、できるだけ早い段階で糖尿病性腎症を発見し、早期治療を行う必要があります。

定期的に検査を受け、自分の腎臓の状態を把握するのが大切です。

糖尿病腎症を予防するには?

まずは、糖尿病性腎症予防の必要性を理解することが大切です。

正しい知識を身に付け、定期受診を継続し、血圧や血糖、脂質のコントロールを行ないます。

また、生活習慣を改善し、糖尿病性腎症の発症リスクを低下させるのも重要です。具体的には、健康的な食生活や、適度な運動、節酒、禁煙などを行います。

糖尿病腎症の発症リスクとなる要因は以下の通りです。 

定期的に受診し、腎機能を知ることが早期発見にもつながります。発症リスクを低下させ、糖尿病腎症を予防しましょう。

糖尿病性腎症のガイドラインとは?

日本では、透析患者数が増加傾向にあり、糖尿病性腎症を含む「慢性腎臓病(CKD)」が、心血管疾患の発症や死亡のリスクとなっています。

そのような背景を受け、日本腎臓学会編集の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」が刊行されました。

このガイドラインは、医療従事者に向けて、慢性腎臓病(CKD)治療の指針を示すものです。5年ぶりに改訂されたガイドラインでは、新しい薬剤や治療に関する新たなエビデンスが追加されました。

糖尿病性腎症においては、アルブミン尿の測定や利尿薬の使用、血糖管理などについての指針が示されています。

日本腎臓学会では、一般の方向けにも、腎臓病にならないための基礎知識や腎臓病ガイドを提供しています。 

日本腎臓学会のホームページから見れますので、参考にしてみてください。

糖尿病性腎症についてのQ&A

糖尿病性腎症についての良くある質問にお答えします。

なぜ糖尿病腎症になるのか?

糖尿病をお持ちの方は、誰でも糖尿病性腎症を発症するリスクがあります。

腎臓のろ過装置である糸球体は、細い血管が多いため傷付きやすいです。糖尿病で高血糖の状態が長期間持続し、腎臓の血管が傷付き、腎機能が低下することで発症します。

糖尿病腎症の症状は?

初期は自覚症状がありません。腎機能低下が進行すると、むくみや息切れ、倦怠感、吐き気、食欲低下などのさまざまな症状が現れます。

腎機能低下が進行し、老廃物が身体に蓄積すると「尿毒症」という症状が現れるケースがあり、注意が必要です。全身のむくみや呼吸困難、吐き気、食欲不振などがみられ、重篤になるとけいれんや意識障害などが現れることもあります。

糖尿病腎症は早期に発見し、適切な治療を行うことで、進行を防げます。

糖尿病がある方は、定期的に検査を受け、腎臓の機能を評価してもらいましょう。

糖尿病性腎症になったらどうなる?

糖尿病腎症を発症し、腎機能低下が進行すると、水分や老廃物を排泄する機能が弱まります。水分や老廃物が身体にたまりやすくなるため、むくみや吐き気、食欲低下などさまざまな症状を引き起こします。

自覚症状が現れるほど進行すると、腎機能の改善は困難です。薬や食事療法で進行を遅らせる治療を行います。

腎機能が著しく低下した「末期腎不全」まで進むと、自分の腎臓では生命が維持できません。腎臓の働きを補うため、透析療法や腎移植が必要になります。

糖尿病腎症3期の症状は?

第3期になると、むくみや息切れ、血圧上昇、食欲低下などの症状が現れます。第3期以降では、進行を遅らせることはできても、腎機能の改善は期待できません。

第2期までに糖尿病性腎症を発見し、早期治療を行う必要があります。

まとめ

糖尿病の三大合併症の1つである糖尿病性腎症は、初期では自覚症状がありません。症状が現れる頃には腎機能低下が進行し、治療が困難な状態になる可能性があります。

著しく腎機能が低下すると、自分の腎臓で生命が維持できなくなり、最終的には透析療法や腎移植が必要になります。

腎機能が低下する前に治療を行えるよう、定期的に医療機関で検査を受け、糖尿病性腎症を早期発見することが重要です。

糖尿病がある方は、誰でも糖尿病性腎症を発症するリスクがあります。合併症を予防するために、食事療法や運動療法、内服治療などを継続し、血糖コントロールを行いましょう。