糖尿病性白内障とは?原因や症状、治療法について解説!
白内障というと高齢者が罹患する疾患というイメージがあると思いますが、糖尿病に罹患している人は、年齢に関わらず白内障になりやすいということをご存知でしょうか。
「科学的根拠に基づく白内障ガイドライン策定に関する研究」という研究で、糖尿病患者の白内障の発症率が高いかどうかについて検討されていますが、糖尿病者は非糖尿病者よりも有意に白内障を発症し易く、糖尿病患者は白内障手術を受ける頻度が非糖尿病者よりも高いことが報告されています。
また糖尿病性白内障は、加齢や外傷などによって引き起こされる白内障よりも進行が早いといわれており、早期発見・早期治療が非常に重要になってきます。
糖尿病の方や血糖値が高めだという方は、糖尿病性白内障の症状や特徴などを理解し、異変を感じたらすぐに医療機関を受診するようにしましょう。
名倉 義人 医師
○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院
○資格
救急科専門医
○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会
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糖尿病性白内障とは?
白内障は、目のレンズの役割をしている水晶体が白く濁って視力が低下する病気で、さまざまな原因で起こりますが、その中でも糖尿病に併発した白内障を「糖尿病性白内障」といいます。
はじめに、なぜ糖尿病性白内障になるのかや症状、特徴などについて詳しく解説していきます。
糖尿病性白内障の原因は?
糖尿病性白内障の原因はまだ明確には分かっていませんが、血糖値が高い状態が続くと、水晶体の中に糖や糖化タンパクが蓄積しやすくなり、水晶体内の浸透圧が高くなることで水分量が増えて、水晶体が濁りやすくなるのではないかという説が有力です。
また糖代謝の異常によって、細胞膜が破壊されて水晶体が濁っていくという説や、酸化や糖化が原因であるという説もあります。
糖尿病性白内障の症状は?
糖尿病性白内障は、初期段階では自覚症状がない場合も多いのですが、徐々に視力の低下が始まります。また視界がかすんだりぼやけたりする、明るいところで目が見えにくくなる、光を異常にまぶしく感じるなどの症状が現れます。
また症状によって以下の4種類に分類されており、糖尿病白内障の場合は、後嚢下白内障や皮質白内障であることが多いです。
・皮質白内障
加齢による白内障の多くは皮質白内障といわれていて、水晶体の周りからゆっくり濁ってきます。
かなり進行してから水晶体の中心が濁るため、視力低下などの初期症状はほとんどみられませんが、まぶしさを強く感じる方もいるようです。白内障の中で一番症状がでにくいといわれています。
・後嚢下白内障
水晶体を包んでいる嚢の後ろ側がすりガラス状に濁る白内障です。急速に症状が進むのが特徴で、初期の頃からまぶしさを強く感じたり視力の低下などの自覚症状が早く現れます。暗いところでよくみえるようになります。
・核性白内障
核性白内障は水晶体の中心部分から褐色に均等に濁るため、診断されづらいのが特徴です。まぶしさはほとんど感じず、暗いところでみえにくく感じます。
・前嚢下白内障
水晶体を包む前嚢の中央部に濁りが生じるもので、パソコンなどの影響で30代から40代の若年層に増えています。進行が早いのが特徴で、原因はまだ解明されていません。
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糖尿病性白内障の特徴は?
一般的に白内障は高齢の方が罹患しやすいのに対して、糖尿病に併発する糖尿病性白内障は20〜30代の若い人でも罹患することがあるのが特徴です。
また、加齢や外傷などによって引き起こされる白内障よりも進行が早い傾向があります。
加齢による白内障では、目のレンズである水晶体が徐々に固くなって濁るのに対して、糖尿病性白内障では水晶体が柔らかいまま濁っていくという特徴もあります。
糖尿病性白内障の種類は?
白内障が糖尿病によるものだと断定することは難しく、高血糖や糖尿病以外に白内障に罹患する原因がないとされる場合に糖尿病性白内障と診断されます。また糖尿病性白内障は、真性糖尿病白内障と仮性糖尿病白内障の2つに分類されます。
・真性糖尿病性白内障
生まれつきの自己免疫疾患などによって膵臓の細胞が破壊され、血糖コントロールが難しくなるⅠ型糖尿病に伴う白内障をさします。長期にわたって高血糖が続くことで発症し、罹患者は若年層も多く、進行のスピードが早いのが特徴です。20代〜30代でⅠ型糖尿病を患い白内障を発症した場合は、加齢による白内障の可能性が低いため「真性糖尿病性白内障」と診断されます。
・仮性糖尿病白内障
仮性糖尿病性白内障の罹患者は40代から糖尿病を患っている方が大半で、加齢によるものなのか、糖尿病が原因なのか判断が難しいため仮性糖尿病性白内障と診断されます。白内障の原因が糖尿病だった場合は、進行が早い傾向があるため、進行の度合いを見ながら治療が進められます。
糖尿病性白内障の診断方法について
糖尿病性白内障の診断では、まず視力が低下していないかどうかを調べるため視力検査が行われます。
しかし視力検査だけでは、ほかの疾患なのか白内障なのか断定できないため、「細隙灯顕微鏡」という装置で、水晶体の透明度や濁りの度合いを確認します。
糖尿病に罹患している場合は、糖尿病性網膜症などほかの眼疾患の可能性もあるため、必要に応じて網膜電図検査、超音波エコー検査による眼底の診察、眼圧検査や視野検査などをする場合もあるようです。
糖尿病性白内障の治療方法について
糖尿病性白内障の治療は、点眼薬による治療、白内障手術、レーザー白内障手術の3つがあります。
現段階で一度混濁してしまった水晶体を改善する効果は点眼薬にはないため、手術が行われるのが一般的です。
糖尿病性白内障の手術は、加齢などによるほかの白内障の手術と比較して術後の感染症や目の炎症などの合併症のリスクが高くなるため、血糖コントロールなど経過に注意しながら行われます。
点眼薬での治療、白内障手術、レーザー白内障手術それぞれの治療法についてもう少し詳しく解説していきます。
①点眼薬治療
点眼薬治療はあくまでも白内障の症状の進行を抑えるために行われる治療法で、既に低下してしまった視力を回復させたり、白内障により濁った水晶体を改善したりすることはできません。
現時点で白内障に用いられる目薬は、水晶体の濁りを防止するピレノキシン製剤(カタリン、カリーユニ)と、水晶体の透明度を保つグルタチオン製剤(タチオン)の2種類です。
・ピレノキシン製剤
水晶体が混濁するのを防ぐ製剤で、白内障の症状の進行を抑えることを目的として使用します。
結膜炎や刺激感、眼瞼炎、接触皮膚炎、搔痒感などの副作用が現れることがありますが、こちらは点眼を中止すれば改善します。
・グルタチオン製剤
白内障の進行に伴って減少するグルタチオンの不足を補い、水晶体の混濁の原因である不溶性タンパク質の増加を抑えて、水晶体の透明な部分を維持することで、白内障の発症や進行を抑えることができます。
②白内障手術
糖尿病性白内障の手術は、日本で年間に何件も行われており、手術機器や方法についても十分進化しているため比較的安全性の高いものだといわれています。
白内障の手術では「超音波水晶体乳化吸引術」といわれる方法が多く用いられますが、水晶体嚢に穴をあけて中の水晶体を粉砕して吸い出し、水晶体の代わりに人工眼内レンズを移植するというものです。糖尿病性白内障手術は15〜30分程度で終わることが多く、入院せずに日帰りで行われることもあります。
白内障手術の成功率は90%と非常に高いですが、失敗に終わる原因としては術後まれに網膜剥離、緑内障、ぶどう膜炎などの合併症が生じることがあるためで、これは手術自体が成功しても一定確率で起きてしまう合併症となります。
特に糖尿病性白内障の場合はその確率が高くなるため、血糖コントロールを行うことが重要です。術後早期には、角膜浮腫や眼圧の上昇などが起きることがあり、軽い症状であれば術後1週間程度で改善します。
また重篤な合併症としては、細菌感染による眼内炎があり、術後1週間以内に発症した場合は適切な処置をしなければ失明してしまうこともあります。
③レーザー白内障手術
一般的な手術では医師がメスで切開しますが、レーザー白内障手術ではコンピューターを用いて水晶体を解析し、その結果にあわせてレーザーを照射します。
そのため一般的な白内障手術に比べて、白内障手術に必要な超音波による水晶体の分割、吸引時間が減少し、眼への負担が少なくなるのが特徴です。 白内障の症状が進行している場合は白内障手術の前にレーザー治療を行うこともあります。
ただし、レーザー白内障手術の費用は保険適応外のため、糖尿病性白内障手術費用が高額になったり、通常の白内障の手術より時間がかかったりする場合もあるようです。
糖尿病白内障の手術を受けないほうがよい場合はありますか?
糖尿病を罹患している人や白内障の症状が進行している人、緑内障の手術などほかの目の手術を受ける人などは一般的に早く手術を受けた方が良いといわれていますが、反対に糖尿病白内障の手術をすぐに受けない方が良い場合もあります。
この例としては、白内障の症状があまり進行しておらず白内障の症状に左右差がある場合、また手術をしない方の目の近視が強い状態である場合は、手術をして眼内レンズを入れると、入れなかった方との左右差が大きくなり、ものの大きさが左右で極端に違ってみえる不同視などが問題になることがあります。
コンタクトレンズを使用できる時にはこれは問題にはなりませんが、そうでないときはもう片方の白内障の症状が進行するまで待ち、両目を同時に手術するのが理想的です。
またその他の例としては、糖尿病性網膜症を罹患しておりその状態が安定していない場合、手術をすることで網膜に悪影響を与えてしまうことがあるため、網膜症の症状が安定するまでは白内障の手術を待つ方が良いでしょう。
また、白内障の手術をすると角膜内皮細胞という角膜の内側の細胞が少し減ってしまいます。
もともとこの角膜内皮細胞の数が少ない場合、この数が極端に減ることで角膜が濁って視力が低下してしまい、この場合は角膜移植による治療が必要になってしまうため、あまり急いで手術しないほうがよいと判断されます。
医療機関を受診する基準は?
糖尿病を罹患している方は、定期的に眼科を受診し検診を受けるようにし、もし目に異常を感じたらすぐに眼科を受診するようにしましょう。糖尿病性白内障は進行が早いため、早期発見・早期治療が重要です。
糖尿病性白内障で失明することはある?
糖尿病白内障は手術によって治療することが可能なため、失明することはほとんどありません。糖尿病によって失明する可能性がある疾患としては網膜症や、網膜症の進行過程で起きることのある黄斑症や血管新生緑内障などがあります。
糖尿病性白内障で失明する可能性が低いからといって、目のかすみや視力低下などの症状があってもそのままにしておくと、失明する可能性のある糖尿病網膜症などの別の眼合併症の発見が遅れることがあるため、違和感を感じたら、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
糖尿病性白内障の予防方法は?
糖尿病性白内障は、現時点では原因が分かっておらず確実な予防方法はありませんが、糖尿病が目に限らず様々な臓器に悪影響を及ぼすことは確実ですので、まずは糖尿病などの生活習慣病にかからないようにするということが重要です。
暴飲暴食や運動不足、飲酒、喫煙、ストレスなどが引き金になる可能性があるため、少しずつそういった生活習慣を改善していきましょう。
また糖尿病に罹患している場合は、血糖コントロールを行うことが重要です。血糖コントロールを行うために、適度な運動をする、バランスの良い食事を心がける、食物繊維をしっかり摂る、甘いものを食べすぎないなどに注意して、健康的な生活を送りましょう。
Q&A
糖尿病性白内障についてよくある質問にお答えします。
糖尿病性白内障で失明することはありますか?
糖尿病性白内障で失明することはほとんどありません。しかし糖尿病性白内障の症状があってもそのままにしておくと、失明する可能性のある糖尿病網膜症などの別の眼合併症の発見が遅れることがあるため、症状が出ている場合は医療機関を受診することをおすすめします。
糖尿病性網膜症と糖尿病性白内障の違いは?
糖尿病性網膜症は、糖尿病性腎症や糖尿病性神経障害と同じ糖尿病の3大合併症の一つで、糖尿病の方の罹患率が高い病気です。
糖尿病白内障はレンズの役割をしている水晶体が混濁してしまうことで、その透明性に障害がおこる疾病であるのに対して、糖尿病網膜症はフィルムのような役割を担っている網膜の細い血管への血液の流れが悪くなることで、網膜の働きや機能が損なわれる疫病です。
糖尿病性網膜症は症状が進行すると、失明してしまう可能性があります。
糖尿病性白内障はどのように見えますか?
水晶体の濁り方によってさまざまな症状があらわれますが、視力低下や目のかすみ、ぼやけなどの自覚症状があります。また、明るい場所でものが見えにくくなったり、近視が悪化したように感じたりすることもあります。
糖尿病でも 白内障の手術を受けることができますか?
糖尿病の症状や度合いによっては、すぐに白内障の手術を受けられないこともあるようです。これは、糖尿病に罹患していない人に比べて糖尿病に罹患している方では、白内障手術を受ける場合に合併症のリスクが高くなるからです。
特に糖尿病により血糖コントロールができていない場合には感染症にかかりやすく、傷口が化膿しやすい、傷口が治る速度も遅いなどの症状が見られることがあり、手術前には血糖値のコントロールが必要になります。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という1、2か月の血糖値の平均を示す数値が高い場合は、専門医の診察を受け、血糖コントロールが安定してから手術が行われます。
白内障と糖尿病は関係がありますか?
糖尿病性白内障発症のメカニズムはまだわかっていませんが、糖尿病の人は白内障に罹患する確率が高く、また高血糖状態が続くことによる糖化や酸化、糖尿病による糖代謝の異常などが白内障を引き起こしている可能性があることが分かっています。
糖尿病や糖尿病性白内障の予防・改善のために、日常において適度な運動をしたりバランスのとれた食事を摂るなど健康的な生活を送るようにしましょう。
まとめ
糖尿病に罹患すると、目だけではなく腎臓や神経など体にさまざまな影響を及ぼすため、適切な治療を受けることや生活習慣の改善を行うことで血糖コントロールを行うことが非常に重要です。
この記事で解説しました糖尿病に併発する白内障である「糖尿病性白内障」についてのポイントをまとめると以下の通りです。
- 白内障は高齢者だけがかかる病気ではなく、糖尿病に罹患している場合は20〜30歳の若い方でも糖尿病性白内障に罹患する可能性がある。
- 糖尿病性白内障では、視界がかすんだりぼやけたりする、明るいところだと目が見えにくくなる、光を異常にまぶしく感じるなどの自覚症状が見られる。
- 糖尿病性白内障は、老化や外傷による白内障よりも進行が早い。
- 糖尿病性白内障の場合は、目薬による治療で悪化を遅らせたり、手術によって治療を行うことができる。
- 糖尿病性白内障手術を行う場合、糖尿病の方は罹患していない人に比べて感染症や炎症を起こすリスクが高いため、術前の血糖値のコントロールや術後の体調管理を行う必要がある。
糖尿病性白内障を放っておくと、糖尿病性網膜症など失明する可能性のある疾患が隠れていることもあるため、目がかすむ、見えにくくなったなどの違和感を感じたら、早めに眼科を受診するようにしましょう。