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採血・注射が怖い!原因と攻略方法

「今から注射をしますね」と言われると、胸がどきどきしてしまう。大人になっても、注射に対する恐怖や不安は根強く残るものです。注射が怖い、痛いと感じるのは、実は多くの人々が共通して抱える感情です。

では、なぜ私たちは注射を怖がるのでしょうか?そして、その恐怖を乗り越える方法はあるのでしょうか?この記事では、注射に対する恐怖の心理背景や、それを和らげるための方法について詳しく解説します。

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記事監修

名倉 義人 医師

○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院

○資格
救急科専門医

○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会

採血・注射が怖い人は珍しくない

採血・注射が怖い人は、実は珍しくはありません。アメリカで2098人の大人を対象におこなわれた研究では、対象者のうち63.2%もの大人が針が怖いという経験をしたことがあると回答しています。

さらにそのうちの52.2% が採血を、49.0% が献血を、33.1% がワクチン接種を避けていました。

参考:Alsbrooks K, Hoerauf K. Prevalence, causes, impacts, and management of needle phobia: An international survey of a general adult population. PLoS One. 2022 Nov 21;17(11):e0276814. doi: 10.1371/journal.pone.0276814. PMID: 36409734; PMCID: PMC9678288.

別の論文では、世界中から針恐怖症の人の割合を調べた35本の論文を元に、針恐怖症の人の割合を以下のように推計しています。

青少年20~50%
若年成人20~30%

さらにこの論文では、次のような結論が導き出されています。

  • 年齢が上がるにつれて針恐怖症の割合は減る
  • 全年齢で男性よりも女性の方が針恐怖症の割合が多い

参考:McLenon J, Rogers MAM. The fear of needles: A systematic review and meta-analysis. J Adv Nurs. 2019 Jan;75(1):30-42. doi: 10.1111/jan.13818. Epub 2018 Sep 11. PMID: 30109720.

もっと小さな子どもたちでは、ほとんどが注射や採血に恐怖を感じていますが、年齢と共にその割合は減っていくようです。注射や採血が怖いのは、あなただけでなく多くの人が経験してきていることなのです。

採血・注射が怖くなる原因

注射・採血が怖くなる原因は、以下の3つが推察されます。

  • 過去に強い痛みや恐怖を感じた
  • 過去に具合が悪くなった
  • 痛みを感じたり、具合が悪くなった人を目撃した、経験談を聞いた

小さな子どもたちのほとんどが注射や採血の時に、怖がったり泣いたりします。そして、その多くは痛みや、特殊な雰囲気、針を刺される恐怖心に対しておこっています。

注射で泣いたり嫌がったりしたときの正しい対処方法に接していれば、多くの子どもたちは成長の過程で泣いたり、怖がったりすることが減っていくでしょう。しかし、上記のような経験をすると、心に傷を負いトラウマやPTSD(Posttraumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)などを生じることもあります。

最悪の場合、心身に不調が現れたり、日常生活に支障をきたしたりするかもしれません。
参考:PTSD eヘルスネット 厚生労働省

もしかしたらあなたも?採血・注射が怖い“注射恐怖症”とは

注射が怖い人のなかには、注射をするという強い恐怖心や不安・緊張などから、全身にさまざまな症状が現れる“注射恐怖症”の人がいます。

注射恐怖症は“注射に対しての恐怖心がとくに強い”という、限られた状況において恐怖心が強くなる現局性恐怖症の一種です。現局性恐怖症には、高所恐怖症や先端恐怖症、閉所恐怖症などがあり、それ以外の状況では過度の恐怖心を感じることは少ないです。

注射恐怖症の診断は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)の基準に基づいておこなわれます。

自己判断で、注射恐怖症とは診断できませんので注意が必要です。

特定の状況または対象に対する著明かつ持続的(6カ月以上)な恐怖または不安

さらに,以下が全て認められる:

  • その状況または対象は、ほとんど常に,直ちに恐怖または不安を引き起こす。
  • 患者がその状況または対象を意図的に回避している。
  • 恐怖または不安が現実的な恐れと(社会文化的な背景を考慮しても)釣り合わない。
  • 恐怖、不安、および/または回避が、著しい苦痛を引き起こしているか、または社会的もしくは職業的機能を著しく損なっている。

なぜ、注射恐怖症を発症するかは明らかになっていません。

しかし、緊張や痛みを感じたときに迷走神経のバランスが崩れ、血圧が下がったり気分が悪くなったりしやすい人や、採血・注射でとても怖い経験をした人などが発症しやすいといわれています。

また、家族や親族で注射恐怖症の人がいると、高確率で注射恐怖症を発症する可能性があることも報告されています。

注射恐怖症の症状

注射恐怖症の人は、注射前に以下のような症状が強く現れます。

  • コントロールできないほどの、不安や恐怖
  • 息が早くなる
  • 息苦しい
  • 冷汗をかく
  • 胸がドキドキする
  • 胸が苦しく感じる
  • 吐き気がする
  • 身体がしびれた感じがする
  • 気が遠くなるような、ぼーっとした感じがする
  • 気を失う

このような症状を、注射のたびに複数自覚する方は、もしかすると注射恐怖症かもしれません。

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注射恐怖症の人の心理

注射恐怖症の人は、採血や注射などを数日後にしなければならないと知っただけで、強い恐怖心や不安感が生じます。

本当はダメだとわかっていても採血・注射を避けたり、学校や仕事を休んだり、恐怖心を和らげるためにお酒をたくさん飲んだりなど、誤った回避行動をとってしまうことがあります。

注射恐怖症の人の採血・注射の攻略方法

注射恐怖症を攻略するには、まずは、ご自身が注射恐怖症であるか診断をうけ、適切な治療を受ける必要があります。

なぜなら、注射が怖いという気持ちは多くの人が抱えていますが、心身に不調をきたしたり、日常生活に支障が及ぶ、必要な注射・採血を回避するのは病的な状態だからです。

そのうえで、以下の治療をおこないます。

  • 暴露療法
  • 薬物療法

暴露療法とは、採血や注射を過剰に怖がっている自分と向き合い、緊張や不安・恐怖を和らげるスキルを身につけながら、注射恐怖症を克服していく治療方法です。

具体的には、以下のステップがあります。

  • “怖い”と感じる自分を認める
  • なぜ怖いと思うのか、どのような時に恐怖心が増すのかを理解する
  • 不安軽減のルーティンを見つける
  • “採血・注射が怖くない”経験を積み重ねる
  • 過度に怖がらなかった自分を褒める

治療では段階的に採血や注射に慣れるように、お一人おひとりのペースに合わせて時間をかけます。

暴露療法は、医師の指示通りに実行した現局性恐怖症の患者の90%以上に効果があるといわれていて、注射恐怖症を治す唯一の治療方法といわれています。

薬物療法とは、恐怖心や緊張が増す状況がおこる1~2時間前に緊張を和らげる薬を服用する治療方法です。べンゾジアゼピン系薬剤やβ遮断薬などを服用します。

薬物療法は、あくまでも症状を緩和する目的でおこないます。そのため、服用のタイミングが悪かったり、過度な恐怖心・不安を抱える場合には、効果が期待できない場合もあるため注意が必要です。

まとめ

注射に対する恐怖や不安は、痛みの予感、過去の経験、またはその場の緊張感など、さまざまな要因から生まれます。しかし、知識や準備、そして適切なリラックス方法によって、その不安は和らげることができます。

注射は病気を治療したり、予防したりするためにかかせません。採血や注射への恐怖心が、ご自身でコントロールできない場合は、ぜひお近くの病院へご相談ください。注射の瞬間は一瞬ですが、その前後の心の準備や対応が、心地よい医療経験へと繋がることを忘れずに、次回の診察や検査に臨んでみてください。

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参考資料:

人はいつから注射が怖くなるのか? ○波光 涼風・神原 広平・尾形 明子 (広島大学) キーワード:注射恐怖, 大学生, 回顧法
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/83/0/83_2D-028/_pdf/-char/ja

注射恐怖の重症例に対するエクスポージャーとAppliedTension
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbt/33/2/33_KJ00008938101/_pdf/-char/ja

McLenon J, Rogers MAM. The fear of needles: A systematic review and meta-analysis. J Adv Nurs. 2019 Jan;75(1):30-42. doi: 10.1111/jan.13818. Epub 2018 Sep 11. PMID: 30109720.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30109720/