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糖尿病のインスリン療法とは?適応、種類、副作用を解説

糖尿病治療にインスリンを注射で補うインスリン療法があります。インスリンは唯一の血糖値を下げるホルモンです。インスリンが何らかの理由で十分に分泌されないと高血糖状態になりさまざまな臓器に悪影響を及ぼします。以前は、インスリン療法は糖尿病治療の最後の手段とされていました。しかし近年では、早期から自己注射を開始することで膵臓の機能が回復することが分かってきました。

この記事では糖尿病のインスリン療法について適応やインスリン療法の種類、副作用まで解説します。治療を選択する際の参考にしてください。

記事監修

名倉 義人 医師

○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院

○資格
救急科専門医

○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会

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インスリン療法とは

インスリン療法は不足しているインスリンを外から補充する治療法です。インスリンを自分で注射し、健康な人のインスリン分泌に近づけるよう血糖コントロールを行います。近年では比較的軽症な糖尿病でも合併症を予防する目的で、インスリン療法を開始することが推奨されるようになりました。

1型糖尿病では膵臓の細胞が破壊されてインスリンがほとんど分泌されない、もしくは全く分泌されないため、インスリン療法は不可欠になります。2型糖尿病では食事療法や運動療法、もしくは他の薬物治療を行っても血糖コントロールが不十分な場合はインスリン療法を検討します。

インスリンの働き

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。体内で唯一血糖値を下げることのできるホルモンで、主な働きは以下の2つです。

  1. 血液中のブドウ糖を細胞に取り込み、エネルギー源として利用
  2. 1.で余ったブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪に変えて、肝臓や筋肉に蓄えるための合成を促進

血液中にブドウ糖が多い状態が続くと動脈硬化が進み血管がもろくなり、様々な病気の原因となります。インスリンは食事で血液中に入ってきたブドウ糖を細胞に取り込み、臓器に蓄えることで血液中の糖の量、すなわち血糖値をコントロールしているのです。

インスリン療法が適応される開始基準

インスリン療法は生きるために必須である「絶対的適応」と、病態やライフスタイルを考慮して必要と判断された場合に行う「相対的適応」があります。

  1. 病型に関わらずインスリン分泌がほとんどなく、生存のためにインスリンの補充が必要な状態のとき(インスリン依存状態)
  2. 高血糖性の昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態、乳酸アシドーシス)
  3. 重度の肝障害、腎障害を合併し、食事療法でコントロールが不十分なとき
  4. 重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術のとき
  5. 妊娠糖尿病で食事療法では血糖コントロールが不十分なとき
  6. 静脈栄養時の血糖コントロール
  1. インスリン依存状態でない時でも、明らかな高血糖を認める場合や、ケトーシス傾向を認める場合
  2. インスリン以外の薬物療法では良好な血糖コントロールができないとき
  3. やせ型で栄養状態が低下している場合
  4. 糖毒性を積極的に解除する場合

出典:日本糖尿病学会(編著).「糖尿病治療ガイド2022-2023」.文光堂出版.2022年4月.p.156

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インスリン製剤の種類と作用の違い

インスリン製剤は作用時間の違いなどから、以下の5種類に分類されます。また、それぞれの特徴を利用した5つの治療法についてもまとめました。治療の際の参考にしてください。

インスリン製剤特徴
超速効型インスリン食後の追加分泌を補充。食直前に注射。10分~20分で効き始める。作用持続時間が短い。
速効型インスリン食後の追加分泌を補充。食前30分に注射。効果が出るまでに30分~1時間かかる。
中間型インスリン基礎分泌を補充。食事に関係なく決まった時間に注射。ゆっくりと効き始めて効果が1日続く。
混合型インスリン基礎分泌と追加分泌を補充。超速効型もしくは速効型に中間型をいろいろな割合で混合した製剤。
持効型溶解インスリン基礎分泌を補充。1日1回注射。ほとんどピークがなく1日を通して効果がある。1日の血糖値を全体的に引き下げる。

強化インスリン療法

健康な人のインスリン分泌パターンを再現するために、血糖自己測定器を使いながらインスリンの量を調整して血糖コントロールする治療法です。インスリン療法が必要になった場合、最初に選択される治療法です。インスリン基礎分泌を中間型または持効型で1日1~2回、インスリン追加分泌を超速効型または速効型で1日3~5回注射します。インスリンの量は食事や運動の内容に応じて医師の指示の範囲内で決めます。自分で血糖測定をし、インスリンの量を決めるため、治療をきちんと理解していて、低血糖になったときに対処できることが必須です。

BOT療法(Basal Supported Oral Therapy)

飲み薬の血糖降下薬を続けながら、持効型インスリン製剤を1日1回注射する治療法です。インスリンの基礎分泌が不足しているため食後の高血糖だけでなく、空腹時の血糖値も高い2型糖尿病に適応されます。24時間効果が続く持効型インスリン注射を使うことで、空腹時の高血糖だけでなく1日を通して血糖値を下げます。これにより膵臓の負担が減り、膵機能の改善や糖毒性(※1)の解除が期待できる治療法です。

(※1)糖毒性…高血糖が原因でインスリンの効きが悪くなり、さらに高血糖を招き悪循環を起こすこと

混合インスリン療法

混合型インスリン製剤を1日1回もしくは2回注射する治療法です。混合型インスリン製剤は超速効型もしくは速効型と、中間型を配合しているため、基礎分泌と追加分泌を一つの製剤で補うことができます。

追加インスリン療法

速効型や超速効型インスリン製剤を食前に注射し、食後の血糖値上昇に対して追加分泌を補充する治療法です。速効型と超速効型は効果が出るタイミングや効果の持続時間が異なります。注射のあと、食事をきちんと取らないと低血糖症状になるため注意が必要です。

基礎-追加インスリン療法

基礎分泌を持効型溶解インスリン製剤で1日1回、追加分泌を食直前または食前に速効型または超速効型インスリン製剤で補充します。健康な人のインスリン分泌に最も近い血糖コントロールが可能な治療法です。

インスリン注射器タイプ別の取り扱い

インスリン自己注射器にはプレフィルドタイプとカートリッジタイプがあります。プレフィルドタイプはインスリン製剤が注射器と一体化したペンタイプで、インスリン製剤を交換する必要のない注射器です。一方、カートリッジタイプはペン型注入器にカートリッジ製剤をセットして使用します。カートリッジと注入器の組み合わせは製薬会社が指定したもののみ使用可能です。組み合わせを間違えると血糖コントロールができなくなるため注意が必要です。

シックデイの対処法

糖尿病治療中に感染症などで発熱や嘔吐、下痢、食欲不振になる時のことをシックデイと呼びます。シックデイでは血糖値が上がりやすくなるほか、食事が取れず低血糖になることもあるため、インスリンの量の調整が必要になります。普段からシックデイについて医師と相談しておくようにしましょう。

インスリン療法の副作用

インスリン治療で最も多い副作用が低血糖症状です。低血糖症状は適切に対処しないと命に関わるため、正しい対処法を知っておくことが重要です。またインスリン療法は肌に針を刺す特性上、皮膚にダメージを与えることがあります。

インスリン療法で主に起こる2つの副作用について解説します。

低血糖症状と対処法

低血糖症状は一般的に血糖値が70mg/dL以下になると現れる症状です。最初は冷や汗や動悸、手の震えなどが現れますが、症状が進むと強い脱力感や目のかすみ、頭痛などが現れ、その後意識がなくなり昏睡状態になり、命に危険が及ぶこともあります。低血糖症状が起きたときはすぐにブドウ糖を10g~20g、もしくはブドウ糖を含む清涼飲料水を200ml程度摂り安静にしましょう。通常は15分~20分程度で回復しますが、血糖値が戻らないときはもう一度同じ量のブドウ糖を摂るようにします。

低血糖症状を起こす主な原因は以下です。

寝ている間に低血糖症状を起こして気付かないケースもあります。就寝前の入浴や飲酒には特に注意しましょう。

皮膚の症状

インスリン注射をいつも同じ場所に打っているとしこりができて、インスリンの吸収を妨げることがあります。このしこりはインスリンボールやリポハイパートロフィーと呼ばれるものです。長期間に渡ってインスリン注射を行ってきた方に見られる傾向があり、しこり自体は体に悪影響を与えません。しかし、しこり部分に注射をすると血糖コントロールが不良になるため、注射を打つ場所は毎回2~3cmずつずらす必要があります。ただし今日は腕、明日はお腹、というように注射部位を変えると吸収に影響します。同じの部位の中でずらすことが原則です。

インスリン療法中の注意点|日常生活で気を付けること

血糖値が高くなると免疫細胞の働きが低下し、体の中に入ってきた菌やウイルスと戦えなくなり感染症にかかりやすくなります。特に注意が必要なのが皮膚感染症や呼吸器感染症、尿路感染症、胆道感染症、歯周病です。普段から清潔を心がけるようにしましょう。末端である足は感染症にかかりやすく、壊疽(えそ※2)を起こす原因になります。切り傷や深爪、靴擦れなどには十分に注意しましょう。

(※2)壊疽…血液が行き届かなくなり、皮膚や皮下組織、筋肉などが壊死で黒色や緑色に変化した状態

糖尿病の慢性合併症|血糖値が高いままだとどうなる?

血液中に糖が多い状態が続くとコレステロールが蓄積されやすくなり、血栓ができたり血管が詰まって血液の流れが悪くなったりします。血管が詰まるとそれに続く臓器が障害されてさまざまな症状が現れるのが、慢性合併症です。慢性合併症は細い血管が障害されて起こる「細小血管症」と太い血管が障害されて起こる「大血管症」の2つに分類されます。

【細小血管症】

【大血管症】

糖尿病の合併症は発症までに数年~数十年かかりますが、重症になるまで気付かず命に関わることがあるため、定期的な検査を受けることが重要です。

慢性合併症を起こさないためにできること

2型糖尿病では早い段階からインスリン療法を開始し血糖コントロールを行うと、合併症を予防できることが知られています。また、糖尿病と高血圧や脂質異常症が合併すると、心筋梗塞や狭心症などの心血管病のリスクが高まることが分かっています。そのため血糖コントロール以外にも血圧やコレステロール値の管理が重要になるのです。

糖尿病の慢性合併症を予防するためにできることは、以下が挙げられます。

血糖コントロールの目標

血糖正常化を目指す際の目標合併症予防のための目標治療強化が困難な際の目標
HbA1c(%)6.0未満7.0未満8.0未満

血圧の目標

降圧目標生活習慣の修正を1ヶ月以内で行う降圧薬を開始
血圧130/80mmHg未満130~139/80~89mmHg140/90mmHg以上

脂質管理の目標

冠動脈疾患脂質管理目標値(mg/dL)
LDL-CNon-HDL-CTGHDL-C
なし<120<150<150≧40
あり<100<130

LDL-C:LDLコレステロール

Non-HDL-C:Non-HDLコレステロール

TG:中性脂肪(早朝空腹時の採血による)

HDL-C:HDLコレステロール

出典:日本糖尿病学会(編著).「糖尿病治療ガイド2022-2023」.文光堂出版.2022年4月.p.156

GLP-1とは?もう一つの糖尿病治療注射薬

GLP-1受容体作動薬は、インスリン分泌機能が残っている2型糖尿病に適応される治療薬です。

食事を摂ると小腸や十二指腸からインクレチンという消化管ホルモンが分泌されます。インクレチンは膵臓のβ細胞にインスリンを分泌するように働きかけるほか、血糖値を上昇させるホルモン、グルカゴンの分泌を抑制します。インクレチンの働きが低下している場合、インクレチンを注射して外から補うとインスリン分泌が促され、血糖値が改善されるのです。

インクレチンは血糖値が上ったときだけ作用する特徴があり、低血糖症状が現れにくいという利点があります。インクレチンには小腸下部から分泌されるGLP-1と小腸上部から分泌されるGIPがあり、治療薬として使われるのはGLP-1です。

ただし、インスリンの替わりにはならないので注意しましょう。

Q&A

インスリン療法に関してよくある質問にお答えします。

インスリン注射療法とは何ですか?

不足しているインスリンを自己注射で補い、健康な人の血糖パターンを再現する治療法です。1型糖尿病ではインスリンが全く分泌されていない、もしくは非常に分泌量が少ないためインスリン療法は必須となります。

2型糖尿病では食事療法と運動療法を行っても血糖コントロールが不十分な場合は、インスリン以外の薬物療法やインスリン療法が適応になります。

インスリンBOT療法とはどんな療法ですか?

現在飲んでいる血糖降下剤を続けながら持効型溶解インスリン製剤を1日1回注射する治療法です。

自己注射でインスリン基礎分泌を補い、内服薬でインスリン追加分泌を補います。自己注射が1日1回なのでインスリン療法を開始する方にとっては始めやすい治療法と言えるでしょう。

強化インスリン療法とインスリン療法の違いは何ですか?

強化インスリン療法はインスリン療法の一つです。自己血糖測定器を使って自分で血糖値を確認しながら、インスリンの量を決めて注射をします。

そのため、健康な人の血糖パターンに最も近づけることのできる治療法と言えるでしょう。

ただし、自分で血糖値を測らなければいけない点やインスリンの量を判断しなければいけない点では、治療への理解がきちんとできることが必要な治療法です。

インスリン療法はどのような作用がありますか?

インスリン療法によりインスリンを補うことで糖の代謝を調節して、血糖値を一定に保つ作用があります。インスリンには以下の主な2つの働きがあり、血糖値を一定に保ちます。

インスリン療法を開始する基準は何ですか?

インスリン療法が適応になる主な基準は以下です。

インスリン療法は始めると一生やめられないですか?

インスリン療法から飲み薬だけの治療に戻せるケースがあります。1型糖尿病ではインスリンがほとんど出ないため、インスリン療法の継続が必要になります。

また、妊娠糖尿病でも食事療法で血糖コントロールできない場合はインスリン療法が必須です。

2型糖尿病ではインスリン療法でインスリンを補い膵臓を休ませると、膵臓の機能が回復することがあります。

その結果インスリンの量を減らせたり、飲み薬だけの治療に戻せたりすることがあります。

インスリン療法を始めたらインスリンは出なくなるのですか?

インスリン療法を始めたことが原因でインスリンが出なくなることはありません。

2型糖尿病で疲弊した膵臓は、インスリンの分泌量が落ちたり、分泌できてもインスリンの効きが鈍くなったりすることがあります。

しかし、インスリン療法で膵臓を休ませると膵機能が回復し、再びインスリンを分泌できるようになることがあります。

インスリン療法を始めたら食事療法や運動療法はやめられますか?

食事療法と運動療法は糖尿病治療の基本です。インスリン療法を始めたからと言って食事療法や運動量をやめてしまうと、糖毒性の原因となります。

糖毒性とは高血糖が原因でインスリンの効きが悪くなり、さらに高血糖を招き悪循環を起こすことです。特に2型糖尿病では、運動を継続するとインスリンの効きが良くなり、細胞への糖の取り込みが促進され、血糖値を改善することが分かっています。

また、食事と血糖値の関係を把握しておくことはインスリン療法中にはとても大切です。インスリン療法を始めても食事療法と運動療法は継続して、適正な体重を目指すか、維持するようにしましょう。

まとめ

インスリン療法は体の外からインスリンを自己注射で補う治療法です。1型糖尿病では不可欠な治療法ですが、2型糖尿病では食事や運動、内服治療を行っても血糖値を改善できない場合に適応されます。

近年2型糖尿病では、合併症を予防する目的で早い段階からインスリン療法を開始することがあります。

また、早期のインスリン治療は膵臓の機能を回復させることも分かってきました。現在はさまざまなインスリン製剤があり、ライフスタイルに合わせて取り入れられるように改良されています。

インスリン療法が必要になった時はタイミングを逃さず、最善の治療を選択できるようにしましょう。