【学会発表】オンライン診療による地域小児医療への貢献 と持続可能な制度設計の提案:第29回 日本遠隔医療学会学術大会
#オンライン診療
日本では少子化が進む一方で、小児の医療ニーズは依然として高く、特に地方部を中心に「小児科医の不足・偏在」が課題となっています。厚生労働省の検討会資料によれば、15歳未満の人口10万人あたりの小児科医師数は長期的に見るとわずかに増加しているものの、地域差は依然として大きい状況です(※1)。
厚生労働省が進める「新たな地域医療構想」では、地域の医療提供体制を再構築するうえで、オンライン診療等のICTを活用した外来・在宅医療の効率化について新たに言及されました。こうしたなか、オンライン診療は、地域医療を補完する手段として期待されており、医師不足地域や夜間・休日の医療アクセスとして全国各地の自治体で導入が広がりつつあります。
2025年10月24日に開催された第29回 日本遠隔医療学会学術大会において、当社代表の水野 敬志は「オンライン診療による地域小児医療への貢献 と持続可能な制度設計の提案」と題して登壇し、小児オンライン診療の実績と制度上の課題について報告しました。本稿では、その発表をもとに関連情報を交えて、小児オンライン診療の現状と制度設計の課題・提案について整理します。
1. 医師の偏在・不足とオンライン診療活用の広がり
日本の小児科医療は、長らく「医師偏在」とのせめぎ合いの中にあります。厚生労働省資料によると、15歳未満人口10万人あたりの小児科医師数は1994年と比べて約1.3倍程度に増加しているものの(※1)、依然として都市部と地方部では偏在が進んでおり、とりわけ地方部では夜間・休日の小児救急を支える診療体制の確保が課題とされています。
その一方で、体調変化は時間や曜日を選ばず、特に子どもは夜間に急な発熱や嘔吐などが生じることも珍しくありません。共働き世帯や単身赴任・ひとり親世帯の増加など、家庭のライフスタイルが多様化する中で、「必要なときに医師にすぐに相談できる環境」は、地域を問わず共通するニーズになりつつあります。
こうした状況に対し、自治体がオンラインでの医療相談や診療を活用する取り組みも広がっています。たとえば、高知県では夜間・休日に小児科医がオンラインで相談に対応する「 小児科オンライン 」を県単位で導入し、対面受診が必要なケースの選別や保護者の不安軽減に取り組んでいます。 また、茨城県日立市では、民間事業者と連携した「ひたちなか小児オンライン医療サービス」を導入し、夜間・休日に小児科医のオンライン診療を受けられる体制を構築しています。
ファストドクターでも、自治体と連携した小児医療体制の支援を多数展開しています。一例として鳥取県北栄町では、町内に小児科を標榜する医療機関が存在しないという状況を背景に、夜間・休日の小児向けオンライン診療の住民専用窓口を開設し、近隣町への移動負担を軽減する取り組みを行い、当社がその運用を支援しています。また、青森県全域での小児オンライン診療導入や、埼玉県秩父医療圏全域でのオンライン診療導入など、医療圏・都道府県単位での活用も広がりつつあります。
参考:当社が支援する取組が厚生労働省「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」資料に掲載されました
このようにオンライン診療は、「小児科医がいない/少ない」「夜間・休日に受診先が限られる」といった地域における “空白” を埋める手段として活用が進んでいます。一方で、こうした取り組みを持続可能な地域医療体制として根付かせるためには、診療報酬をはじめとする制度的な裏付けが不可欠です。 小児診療に関連する評価には「小児科外来診療料」と「小児かかりつけ診療料」の2種類がありますが、後者は通常の小児科診療にくわえ発達障害や育児相談など幅広い支援を行う医療機関が算定対象のため、本稿では、より幅広い医療機関が対象となる「小児科外来診療料」に焦点を当て、オンライン診療との制度的関係性や現行制度における課題について検討します。
2. オンライン診療における「小児科外来診療料」の壁
現行の診療報酬体系では、小児の外来診療に対して「初診料」「再診料」に加え、小児特有の負担を評価する「小児科外来診療料(初診604点、再診410点 等)」が設定されています。「小児科外来診療料」は、小児科を標榜する医療機関が6歳未満の小児を対象に外来診療を行った場合に算定できる項目で、6歳未満小児の対面診療の約7割で算定されており、小児医療の現場を支える診療報酬と位置づけられています(※2)。
この「小児科外来診療料」は、出来高払い制度下で採算確保が困難だった小児科外来医療を支える目的(※3)で、平成8年度 診療報酬改定において新設されました。これは小児科の診療報酬を出来高方式ではなく検査・処置等を含めた包括(マルメ)方式で算定するものです。この内容はその後も小児医療や救急医療の負担増に対応して見直しが繰り返され、令和2年度 診療報酬改定では、算定対象年齢が「3歳未満」から「6歳未満」へと拡大されました。これは、3歳を超えても小児特有の診察技術や保護者対応などに相応の労力と時間が必要になる実態を踏まえたものであり、小児一次医療を担う診療所への政策的支援を一層明確にしました。
一方で、2022年4月に初診が恒久的に解禁されたオンライン診療については、初診・再診ともに「情報通信機器を用いた診療」の点数設定(初診253点、再診75点 + 6歳未満加算110点 等)のみの算定にとどまり、「小児科外来診療料」は算定対象外のままです。下図のとおり、同じ6歳未満の小児であっても、「対面診療(初診+小児科外来診療料)」と「オンライン診療(オンライン初診+6歳未満加算)」の間には大きな点数差が生じます。
オンライン診療が小児医療の一部を担い始めている現在において、この構造の違いは今後の体制整備や運用に影響する可能性があると当社は考えています。
3. 小児オンライン診療のニーズと医療提供の実態
子どもは急な体調変化がおきやすく、時間や曜日を問わず受診ニーズが発生しやすいことが知られています。比較的、診療の対応時間が柔軟で、その場ですぐに医師とつながることができるオンライン診療とこうした特性との親和性は高いと考えられますが、実際にはどのように利用されているのでしょうか。ここでは、当社が支援する24時間365日対応の小児オンライン診療サービスの利用データを一例に、「6歳未満」と「6歳以上」の違いを見ながら、保護者ニーズや医療提供の実態を整理していきます。
● 受診理由
当社提携医療機関のオンライン診療における小児の受診理由を見ると、「近くの医療機関が休診・時間だった」ためと回答した割合は、6歳未満の方が、6歳以上と比べて1.4倍高い結果でした。小児は急な発熱、嘔吐、発疹などが起こりやすく、保護者には夜間休日を問わず「今すぐ受診すべきか」「翌朝まで様子をみてよいか」を判断する負担が生じます。共働き世帯の増加による親の負担や、夜間に子どもを連れて受診しづらい地理的な制約を考慮すると、「まずオンラインで医師に相談し、必要に応じて対面受診に向かう」という行動は、現代の多様なライフスタイルに適した受診行動と考えられます。
またオンライン診療は、厚生労働省の指針に基づき、医師が事前に患者と直接的に症状を確認し、オンラインで対応可能か、あるいは対面受診が必要かを判断する「診療前相談」といったプロセス(無料)が設けられますが、これによって保護者は「受診すべきかどうか」を判断する負担が軽減される点も、オンライン診療ならではの特徴です。
● 診療の所要時間
次に診療時間に着目すると、6歳未満のオンライン診療の所要時間は[平均7.68分]であり、6歳以上と比べて1.24倍を要しています。小児領域の対面診療に関する代表的な診療時間データは限られていますが、参考として、1999年に報告された夜間救急での小児科の診療時間は[平均3.8分]でした(※4)。比較すると、小児診療に求められる問診や保護者との対話といったプロセスに、一定の時間が確保されていると捉えることができます。
● 診療後のフォローアップ
診療後、医師が “積極的な経過観察が必要” と指示した場合には、看護師が架電によるフォローアップを行って症状の推移を確認しています。全体としてフォロー指示は約1%前後と限定的ですが、6歳未満では、6歳以上の約2倍の割合で指示が出されており、乳幼児は診療後の状態変化に注意が必要なケースが相対的に多いことがわかります。こうしたフォローアップによって、オンライン診療においても診療後の状態変化を継続的に確認する体制を構築しています。
こうした運用をふまえ、診療後のアンケート調査では「オンライン診療における相対的な満足度」について、約8割の保護者が5段階評価で満点と回答しています。その背景として、医療としての安心感が担保されるだけでなく、保護者の負担や不安を軽減する受診体験につながっていることがうかがえます。
この実態が示すポイントは、6歳未満小児におけるオンライン診療が、 “簡易的な医療提供” ではなく、適切な問診、緊急度判定、診療後のフォローアップを伴う医療として提供されている点です。
結語:地域小児医療を支える持続可能な制度設計に向けて
最後に、本発表が示した診療報酬上の課題と、今後に向けた提案を整理します。
下図は、一般的な風邪症状を想定した場合の対面診療とオンライン診療の点数比較を示しています。6歳未満小児の初診では、対面診療の場合「初診料+小児科外来診療料+その他加算」が算定されるのに対し、オンライン診療では「オンライン初診料+6歳未満加算」にとどまり、小児科外来診療料は算定できません。その結果、医療機関が受け取る報酬は、対面と比べて初診で約54%、再診では約81%減となり、初診・再診を通じた合計点数として701点(7,010円相当)の差が生じます。この差は制度上、「小児特有の負荷がオンライン診療では評価されていない」ということを意味します。
オンライン診療は、その柔軟な運用特性を活かし、夜間や休日における相談先の一つとして活用されるとともに、小児科医が不在または不足している地域において、新たな医療アクセス手段としての役割も担っています。しかし現行制度では、小児特有の負担を評価する仕組みがオンライン診療に適用されておらず、対面診療とは大きな点数差が生じます。
この課題に対し、当社は以下の提案を示しました。
<小児科外来診療料(情報通信機器)の新設>
小児オンライン診療が継続的に地域医療へ貢献するためには、対面診療と同様に小児特有の負担を適切に評価する仕組みが必要であり、対面診療の「小児科外来診療料」を基礎としつつ、オンラインでは実施できない検査・処置等を合理的に減算した包括評価点数を新設すること
こうした評価の見直しが進むことで、より多くの医療機関がオンライン診療に関わる余地が広がり、地域の小児医療を支える選択肢や持続性を高めることが期待されます。深刻化する小児科医の地域偏在や、夜間・休日対応を中心とした小児科医の過重な労働負荷の問題に対しても、オンライン診療は地理的制約を超えて医師資源を共有する手段として一定の役割を果たし得ます。
本稿で示したように、小児の診療では問診や説明、経過観察など多くの医療資源が必要であり、オンライン診療においても例外ではありません。小児科外来診療料の包括的な評価がオンライン診療にも適用されることで、オンライン診療が医療体制の一部としての機能を強め、対面診療を補完しながら小児医療全体の持続可能性を高めることにつながると当社は考えています。
当社は今後も、オンライン診療の適正な運用を通じて地域医療との連携を深め、誰もが公平に、必要なときに必要な医療へつながる社会の実現に寄与するとともに、オンライン診療の信頼性向上に向けた取り組みを継続してまいります。
< 参考文献・脚注 >
※1 厚生労働省 小児医療の提供体制について
https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001571927.pdf
※2 中央社会保険医療協議会 総会(第551回) 議事次第
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001140541.pdf
※3 京都府保険医協会 京都保険医新聞(第3074号)2020 診療報酬改定 こうみる5
https://healthnet.jp/paper/2020-2/paper-27286/paper-27299/
※4 古久保 真実, 大内 東 夜間急病センターの混雑状況の分析 ―電話回線と診察待ち時間について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jami/20/4/20_309/_article/-char/ja/
水野 敬志
ファストドクター株式会社 代表取締役
京都大学大学院農学研究科修了後、外資系戦略コンサルティングファーム、楽天株式会社(現 楽天グループ株式会社)にて経営戦略およびDXの経験を積む。2017年7月よりファストドクターの経営に参画、2018年6月代表取締役に就任。現在に至る。
ファストドクター株式会社
日本最大級の医療支援プラットフォーム「ファストドクター」を運営するヘルステック企業。5,000名以上の医師が参加するこのプラットフォームは患者のほか、医療・介護施設、自治体、公的研究機関、製薬や保険業界など、医療業界の多岐にわたるステークホルダーの皆さまにご利用いただくことで、地域医療を強化する新たな医療インフラの構築を実現します。