ナレッジ・レポート

【論文発表】救急搬送とオンライン診療を組み合わせた新たな医療提供モデルの有効性に関する筑波大学との共同研究論文が公開されました

#オンライン診療

 ファストドクター株式会社と国立大学法人筑波大学(学長:永田 恭介)による共同研究成果が、国際的な救急医療学術誌「Prehospital Emergency Care」に掲載されました。本論文では、コロナ禍の北海道旭川市において実施された、救急搬送とオンライン診療を組み合わせた新たな医療提供モデルの有効性が検証されています。

※ 救急搬送とオンライン診療を組み合わせた新たな医療モデル図示:論文より和訳して作図

  • 公開日:2025年2月7日付でオンライン先行公開
  • 論文タイトル:Combining Conventional and Telemedicine Medical Services to Reduce the Burden on Emergency Medical Services in Rural Areas: A Retrospective Cohort Study (へき地の救急医療サービスの負担軽減のための従来型医療と遠隔医療サービスの併用:後ろ向きコホート研究)
  • 執筆:Inokuchi R, Sakamoto A, Sun Y, Iwagami M, and Tamiya N (筑波大学)
  • 全文確認:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10903127.2025.2460205

研究の背景と目的

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下では全国的に救急要請件数が急増し、特に地方部では救急車が出動できない事態も発生していました。旭川市はこうした課題に対処するため、自宅療養中の軽症のCOVID-19患者から119番通報があった場合に、従来の救急出動と並行してオンライン診療を実施する新たな体制を2023年11月から2024年1月にかけて導入しました。本研究の目的は、救急通報にオンライン診療を組み合わせた新たな体制が、救急医療の負担軽減や搬送適正化にどのような効果をもたらしたかを検証することです。

研究方法

 本研究は、後ろ向きコホート研究(レトロスペクティブコホート研究)として実施されました。対象は2022年11月から2023年1月にかけて旭川市で119番通報を行った、自宅療養中の軽症COVID-19患者です。通報時には救急車の出動と同時に、消防指令センターの要請を受けて、ファストドクター提携医療機関の医師がオンライン診療を開始し、救急車による搬送の必要性を判断しました。研究チームは、「病院に搬送された症例」と「オンライン診療により搬送不要と判断された症例」のそれぞれの患者特性やオンライン診療に要した時間などを比較し、統計解析を行いました。

研究結果

 解析の結果、「救急車で病院に搬送された群」と、「オンライン診療によって搬送不要で済んだ群」との間で以下のような差異が明らかになりました。

  • 搬送の有無:調調査対象となった136名のうち、73名(53.7%)が救急車で病院に搬送され、残る63名(46.3%)はオンライン診療の結果、病院搬送を要さなかった。この結果は、約半数の患者において救急搬送が不要であったことを示している
  • 年齢差:年齢の中央値は、搬送群が83歳(IQR 57–90)、搬送不要群が37歳(IQR 26–60)であり、搬送群の方が明らかに高齢である傾向がみられた。
  • 低酸素症の有無:酸素飽和度の低下など低酸素血症の症例は、搬送群で17件(23.3%)、非搬送群で2件(3.2%)と大きな差がみられた
  • オンライン診療時間:オンライン診療に要した時間の中央値は、搬送群で13分(IQR 8–20分)、非搬送群では15分(IQR 13–22分)であり、緊急性の高い患者ほど診察が迅速に終了している傾向があると考えられる
  • その他の比較:患者の性別や基礎疾患、主訴、119番通報からオンライン診療開始までの時間といった項目には、両群間で有意な差は認められなかった​

 このことから、救急隊とオンライン診療の連携により軽症患者の相当数に対して、救急搬送を回避できていることがわかります。また、救急搬送が行われた患者群は、搬送されなかった患者群と比べて高齢であることが多く、低酸素症状の頻度も高いという違いから、年齢や酸素飽和度といった要素が、搬送の必要性を判断するうえでの重要な指標となっていることが示唆されました。

ファストドクターの役割

 本実証実験において、当社は医療提供体制を提供するプラットフォームを運営する企業として以下のような重要な役割を担いました。

  • オンライン診療サービスの提供: 提携医療機関に所属する医師が24時間365日対応のオンライン診療を旭川市の救急現場に提供し、患者は自宅で速やかに遠隔診療を受けることが可能となった
  • システム構築の支援:救急隊が現場からオンラインで医師とつながるための通信プラットフォームを構築・運用し、消防指令センターと当直医をリアルタイムで結ぶ仕組みを実現した
  • データ協力:本実証で蓄積された診療データを提携医療機関から共同研究チームに提供し、結果の分析・論文化に協力した。診療の実データがあったことで、客観的な効果検証が可能となった。

本研究の意義と今後の展望

 本研究の結果、オンライン診療を組み込んだ救急対応が地方における医療資源の負担軽減に寄与しうることが示されました。実際に、旭川市ではオンライン診療の活用によって約半数の救急搬送を削減でき、地域の医療・保健体制の逼迫を回避することに貢献したと報告されています。

 この旭川市モデルは、日本初の取り組みであり、他地域への展開にもつながる実践事例といえます。救急とオンライン診療を組み合わせた手法は、平時の救急医療や過疎地域における医療支援にも応用が可能であり、今後は、さらなる官民連携のもとで緊急医療体制の強化や政策立案への貢献が期待できます。

 ファストドクターでは本研究で得られた知見を踏まえ、各地の行政・医療機関との協力を一層推進し、持続可能な地域医療体制の構築に寄与してまいります。

ファストドクター株式会社

日本最大級の医療支援プラットフォーム「ファストドクター」を運営するヘルステック企業。5,000名以上の医師が参加するこのプラットフォームは患者のほか、医療・介護施設、自治体、公的研究機関、製薬や保険業界など、医療業界の多岐にわたるステークホルダーの皆さまにご利用いただくことで、地域医療を強化する新たな医療インフラの構築を実現します。

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