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【学会発表】公的夜間休日診療の持続性向上に向けた都市部医師によるオンライン診療支援:日本遠隔医療学会 Spring Conference

#オンライン診療 #学会発表

 ファストドクター株式会社は地方自治体と連携し、都市部の医療リソースを活用したオンライン診療支援を通じて、地方部の夜間・休日医療体制を補完する取り組みを進めています。特に医師不足や勤務医の働き方改革により地方の救急医療提供体制が逼迫する中、オンライン診療支援が公的な夜間休日診療の持続性向上に寄与すると考えています。

 本稿では、地方部の医療体制の現状と課題を整理し、小児救急分野でのオンライン診療活用の効果や、自治体にとってオンライン診療が有効な代替手段となり得る点について、2025年2月8日に開催された「日本遠隔医療学会 Spring Conference 2025」で当社代表・水野敬志が発表した「公的夜間休日診療の持続性向上に向けた都市部医師によるオンライン診療支援」の発表内容を基に解説します。

<学会概要>

本稿のサマリ(論点)

  • 働き方改革による大学医局からの医師派遣の削減、休日当番医の減少・高齢化により特に地方部では公的な夜間休日診療所の維持が困難となっている。
  • 相対的にリソースに余裕のある大都市部の医師をオンライン診療を通じて地方の初期救急医療に参画してもらうことで、住民にメリットを提供し、地域医療の持続性を高めることができる。
  • 医師会・薬剤師会・二次救急病院・議会との連携および住民への周知を保健所/保健センターが中心となって推進できていることがこれらの好事例の重要な要素となっている

当社は、持続可能な救急医療体制を実現するため、オンライン診療を活用した救急対応の最適化に向けた取り組みを推進していまいります。

1.  課題:地方における救急医療の逼迫と構造的課題

 ファストドクターは、夜間や休日といった一次医療の空白時間の補完、および地方部を中心とした医療資源の不足が深刻な地域におけるかかりつけ医機能の強化を目的に、自治体と連携し、都心部の医療リソースを活用した往診やオンライン診療を地域医療体制の補完的な手段として提供しています。

 地域医療の現場では、医師の高齢化や偏在、診療科の偏重、さらには医師の働き方改革の影響により、持続可能な医療提供体制の構築・維持が課題となっています。特に地方部の夜間・休日救急医療においては、限られた医療資源で多様な患者ニーズに対応する必要があり、その負担は年々増大しています。

 本稿では、医療提供体制の確保が課題となっている地域の現状を整理するとともに、オンライン診療がどのように地域医療の持続性を高め、医療資源の適切な活用につながるかについて、具体的な事例を交えて考察します。

小児救急の逼迫と地域医療の持続可能性

 総務省消防庁のデータによると、救急搬送件数は年々増加しており、特に小児救急の搬送率は顕著に上昇しており、深刻な少子化が進む一方で、小児救急の受診ニーズは高まり続けているという現状があります。 小児医療の課題の一つとして、一部の自治体では小児医療費助成制度が適用されることから、軽症でも受診しやすい状況が指摘されていますが、救急搬送の場合、搬送先の病院でかかる選定療養費は小児医療証の受給対象外となるため、このケースには該当しないと考えられます。

 都市部では一定の小児科医の確保が可能なものの、地方部では小児救急を担う医師の減少が進んでいます。特に夜間・休日の診療体制を支える輪番制では、限られた医師が診療を担い続ける負担が増大し、その維持が年々難しくなっています。

 こうした課題は、全国各地で顕在化しており、一例として当社が支援する福島県福島市(後段参照)では、2013年には20名いた小児科当番医が、医師の高齢化や勤務負担の増大を背景に2023年には13名にまで減少しており、夜間や休日の安定的な医療提供に対する懸念が生じています。


 このような状況に対し、都市部の医師リソースを活用したオンライン診療による補完は、地域医療体制を維持するための有効な手段となり得ます。特に、夜間や休日といった負担の大きい時間帯に対応し、持続可能な体制を確立するには、オンライン診療の即応性とスケーラビリティを活かした仕組みの導入が進んでいます。

2.  事例:福島県福島市 小児輪番の空白日をオンライン診療で補完

繁忙期に休日当番医の診療件数の約半数をオンラインで対応

 福島県福島市では、小児科医の高齢化や減少に伴い、夜間・休日の輪番体制に空白日が生じる状況にありました。こうした課題に対応するため、市は2023年よりファストドクターと連携し、都市部の医療リソースを活用した遠隔診療体制を構築しています。特に、年末年始や大型連休など、医療需要が集中する時期には、オンライン診療による補完を継続的に実施しています。
関連:福島市定例会見 令和5年12月21日(年末年始の小児科休日当番医をハイブリッド体制で)

 直近では、2024年末のインフルエンザ流行が過去10年で最も深刻な状況となり、全国的に医療機関の受診困難が顕在化しまし、市は年末年始の空白日に加え、その後の連休についても流行の継続を受けて追加のオンライン診療対応を緊急的に決定しました。

 その結果、年末年始のピーク時にはオンライン診療を通じて計377件の診療を支援し、休日当番医の診療件数の約半数をオンライン診療が担いました。つまり、オンライン診療によって休日当番医の負担は約3分の1軽減されたことになります。

 このようなオンライン診療を活用した地域医療の負担軽減に関する評価として、福島市長・小幡氏より、以下のコメントをいただいています。

福島市長 小幡 浩氏コメント

木幡 浩氏福島市 市長

(2025年) 1月の連休に至っても医療ひっ迫は続き、緊急的にオンライン診療を追加しました。両日とも60人近い診療実績、内科の受診者も予想以上に多く、医療ひっ迫の軽減と患者の待ち時間の短縮に役立ちました。

本市とファストドクターでオンライン診療を積み重ね、周知も工夫したことで、また1つ殻を破ることができたと感じています。

3. 事例:千葉県野田市 オンライン診療による救急医療体制の補完

千葉県野田市

 夜間・休日救急の担い手不足は、多くの自治体に共通する課題です。特に地域医療の維持を図るうえで、新たに医師を確保し、診療体制を強化することは容易ではなく、多大な時間と財政負担が生じます。一方で、オンライン診療は都市部の既存の医療資源を活用し、即時に実装可能な柔軟な代替手段となります。

千葉県野田市では、2024年4月に施行された「医師の働き方改革」に伴い、地域の二次救急病院における夜間・休日の受け入れ体制が縮小しました。これを補完する手段として、ファストドクターのオンライン診療を導入し、救急医療の継続的な提供を図っています。
関連:救急医療体制整備に関する協定を締結 市民向けオンライン診療体制も確保

 さらに市はオンライン診療の認知・普及促進に向け、自治体のホームページやSNSを通じて情報を発信するほか、利用方法を記載したマグネットを住民に配付し、緊急時に迅速にアクセスできる環境を整備しています。

 2024年の年末年始には、福島市と同様に、過去最大級のインフルエンザ流行により医療機関へのアクセスが極めて困難となりました。この状況下で、ファストドクターはオンライン診療を通じ、一日平均39件(最小5件、最大84件)の診療を実施し、地域医療の負担軽減に貢献しました。

 この取り組みに関して、野田市健康子ども部 保健センター長 峯崎光春氏からのコメントと、実際に利用された方々の声をいただいています。

野田市保健センター長 峯崎氏コメント ・ 野田市民の声

野田市健康子ども部 保健センター長
峯崎 光春 氏

 野田市では、救急医療体制を補完するため、令和6年4月から夜間休日の軽症者向けオンライン診療体制の構築をファストドクター株式会社へ委託しました。年末年始には、インフルエンザが猛威を振るっていたこともあり、1日当たり51件(令和6年12月29日から7年1月3日まで)のオンライン診療の受診がありました。

 利用した市民から感謝の声もいただいており、市民の安心や市医師会へ委託している休日当番医の負担軽減に寄与したと考えております。市及び野田市医師会では、今後も、地域医療体制を補完するものとして、オンライン診療に期待しております。

利用した市民の声
(野田市保健センター提供)

 年末年始に1歳半の子どもが下痢でどんどん体調が悪くなり、病院も見つからない中、冷蔵庫に貼っておいた野田市から届いたファストドクターのマグネットが目に留まりました。急いで保険証の写真を撮ったり登録作業を終え、そこから1時間半後には近所のドラッグストアで医師による処方の薬を受け取って子どもに飲ませることができました。1時間半後なんて年末年始の普通の病院ならやっと電話が繋がったかどうかです

 オンライン診療が初めてだったのですが、医師が私物なのかぬいぐるみを掲げて注意を引いてくださったりして、「胸の上下を見たいので服をまくってください」「保護者の方、お腹をあちこち押してあげて、表情とお腹がカメラに映るようにしてください」など指示も的確で本当に助かりました。ありがとうございました。

4. 持続可能な医療提供体制の構築に向けて

 このように、自治体が主導しオンライン診療を公的な医療体制に組み込むことで、地域住民の医療アクセスを向上させることが可能となります。さらに、自治体の視点から見たオンライン診療の利点として、以下の点が挙げられます。

  • 医療人材の確保が難しい地域において、都市部医師のリソースを有効活用できる
  • 限られた財政の中で、医療提供体制の維持・強化を図ることができる
  • 住民の安心感を高め、自治体の医療政策に対する信頼を向上させる

 上記で示した事例では、医師会・薬剤師会・二次救急病院・議会との連携、および住民への周知を自治体や保健センターが中心となって推進することが重要な要素となります。 地域の医療関係者が連携し、公的な医療サービスとしてオンライン診療の活用が定着することで、地域の医療資源を保全しながら持続可能な医療提供体制が確立されます。

 一方で、夜間・休日の救急医療の逼迫は、単なる医師不足の問題ではなく、医療提供体制全体の持続可能性に関わる構造的な課題です。自治体におけるオンライン診療の導入は、医療資源の適正な配分を促し、地域の診療負担を軽減する重要な手段となります。こうした課題に対し、当社はオンライン診療を活用した医療アクセスの拡充を推進しており、以下の3つの方針を軸に事業を展開しています。

  1. 自治体との協働によるオンライン診療の制度設計と実証事業の拡充
  2. 医療従事者への研修提供を通じたオンライン診療の質の向上
  3. 住民への適切な周知活動を通じた利用促進と受診行動の変容

 オンライン診療は、地方における医療資源の不足を補い、地域医療の持続性を高める手段となります。当社は、自治体との連携を強化し、持続可能な医療提供体制の構築を推進していきます。

水野 敬志

ファストドクター株式会社 代表取締役

京都大学大学院農学研究科修了後、外資系戦略コンサルティングファーム、楽天株式会社(現 楽天グループ株式会社)にて経営戦略およびDXの経験を積む。2017年7月よりファストドクターの経営に参画、2018年6月代表取締役に就任。現在に至る。

ファストドクター株式会社

日本最大級の医療支援プラットフォーム「ファストドクター」を運営するヘルステック企業。5,000名以上の医師が参加するこのプラットフォームは患者のほか、医療・介護施設、自治体、公的研究機関、製薬や保険業界など、医療業界の多岐にわたるステークホルダーの皆さまにご利用いただくことで、地域医療を強化する新たな医療インフラの構築を実現します。

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