下痢や発熱はあるが、嘔吐がないケースが大人にはあるの?
大人の胃腸炎では、下痢や発熱がおもな症状で嘔吐を伴わないケースもあります。
細菌性あるいはウイルス性の胃腸炎に感染した場合にあらわれるおもな症状は、嘔吐、発熱、下痢です。しかし原因となる病原体によってあらわれる症状はさまざまで、必ずしもすべての症状が出るわけではありません。たとえばサルモネラ菌や大腸菌による細菌性胃腸炎では下痢と発熱が中心的な症状となり、嘔吐を伴わないことも多いのです。
大人の場合は子どもと比べて嘔吐の症状が出にくい傾向があり、これは胃腸の発達度や免疫システムの違いによるものと考えられています。
また“吐き気と嘔吐は同時に起こることもあれば、互いに独立して起こることもある”という報告があり、胃腸炎による吐き気があらわれても嘔吐しないケースもあるのです。[1][2]
一般的に起こる胃腸炎の症状は下痢と発熱?
胃腸炎の一般的な症状は下痢、発熱です。下痢は体内から病原体を排出しようとする防御反応のひとつであり、発熱は体が病原体と戦っている証拠です。
症状の程度は人によって異なり、軽い場合もあれば重い場合もあります。また症状があらわれる順序も人それぞれで、突然の下痢から始まることもあれば、最初に微熱やだるさを感じることもあります。[3]
下痢と発熱は何日で治まる?
胃腸炎による下痢や発熱は、多くの場合3〜7日程度で自然に改善します。
ウイルス性胃腸炎の場合は比較的短期間で回復し、多くは1〜3日程度で症状が落ち着く傾向です。一方、細菌性胃腸炎の場合は5〜7日ほど症状が続くことがあります。[4][5]
ただし以下のような場合は重症化している可能性があるため、医療機関の受診をおすすめします。
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38度以上の高熱が3日以上続く
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血便や粘液便がみられる
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激しい腹痛が続く
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めまいや口渇、尿量減少などの脱水症状がある
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一週間以上症状が改善しない
下痢と発熱の症状から可能性として考えられる原因
下痢や発熱の症状から考えられる原因を6つ紹介します。
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胃腸風邪(感染性胃炎)
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新型コロナ感染症
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カンピロバクター腸炎
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腸管出血性大腸菌感染症
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ノロウイルス
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アデノウイルス
一般的に多く感染するのは胃腸風邪と呼ばれるものです。
また下痢と発熱の症状があらわれる原因となるウイルス性のものはノロウイルスとアデノウイルス、新型コロナウイルスが多い傾向にあります。
カンピロバクターや腸管出血性大腸菌はよく感染する原因菌ではありませんが、季節によって流行するケースもあることから、原因となる菌の特徴を知っておくとよいでしょう。
原因によって適切な治療法が異なるため、症状が重い場合や長引く場合は、医師に相談して正確な診断を受けることが重要です。
胃腸風邪(感染性胃炎)
胃腸風邪のおもな症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛です。また発熱や頭痛、筋肉痛などを伴うことがあり、これらの症状は急激にあらわれます。
原因としてウイルスや細菌感染、食中毒が挙げられます。1週間前後で自然に回復するケースが多いですが、乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方などでは重症化することがあり注意が必要です。
新型コロナ感染症
発熱、咳、倦怠感、味覚・嗅覚障害がおもな症状ですが、罹患者の約3割は下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状があらわれます。また呼吸器症状はなく、消化器症状だけがあらわれることもあります。
感染から発症までの潜伏期間は2〜14日(多くは5日前後)で、軽症の場合治るまでにかかる期間は7〜10日程度です。
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カンピロバクター腸炎
おもに生や加熱不十分な鶏肉を介して感染する細菌性の腸炎です。水様性の下痢、腹痛、嘔吐といった症状があらわれますが、38度以上の高熱や頭痛、脱水といった全身症状を伴うこともあります。
潜伏期間は2〜5日で、症状は約1週間程度続きます。発熱や頭痛の症状は、消化器症状よりも1〜2日程度早くあらわれることがあり、初期にはインフルエンザや無菌性髄膜炎との鑑別が必要です。[6][7]
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腸管出血性大腸菌感染症
O157に代表される腸管出血性大腸菌による重篤な感染症です。発症初期には発熱がみられず、激しい腹痛と血便が症状の特徴です。下痢を引き起こす大腸菌は下痢原性大腸菌と呼ばれ、一般的に5種類(腸管毒素原性大腸菌・腸管病原性大腸菌・腸管侵入性大腸菌・腸管凝集性大腸菌・腸管出血性大腸菌)に分類されます。
潜伏期間は3~4日程度で、溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症を引き起こす可能性があります。おもな感染源は、生肉や加熱不十分な肉製品です。[8][9]
ノロウイルス
おもに冬季に流行する感染力が強いウイルスで、感染性胃腸炎の代表的な原因病原菌です。食品や水を介した感染のほか、患者の嘔吐物や便から発生するウイルスを含んだ飛沫による空気感染も起こります。
潜伏期間は24〜48時間程度で、突然の嘔吐や下痢、腹痛、37〜38度程度の発熱が特徴的な症状です。嘔吐のみ、もしくは下痢のみあらわれる場合もあり、おおむね低年齢層では嘔吐型の傾向があります。
症状は通常1〜3日程度で改善しますが、少量のウイルスでも感染する可能性があるため、学校や施設での集団発生が問題になります。また感染後も2週間程度は便中にウイルスが排出され続けるため、手洗いなどの衛生管理が重要です。[10]
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アデノウイルス
年間を通じて感染がみられるウイルスで、おもに呼吸器症状や結膜炎を引き起こすことで知られていますが、胃腸炎の原因にもなります。とくに夏季に流行する傾向があり、乳幼児や小児での発症が多いですが、稀に大人でも発症します。
潜伏期間は通常5〜7日程度です。胃腸炎の主症状としては発熱、下痢、嘔吐、腹痛があり、呼吸器症状(咳、鼻水)や結膜炎を伴うケースもあります。症状は通常5〜7日程度で改善しますが、ときに脱水症状が強く出ることがあるため、適切な水分補給が重要です。感染経路は、飛沫感染や接触感染がおもで、プールを介した感染も報告されています。
今後嘔吐する可能性は?
胃腸炎の症状は感染した病原体の種類や個人の体調によって異なり、下痢と発熱のあとから嘔吐症状があらわれることがあります。しかし必ずしもすべての方に嘔吐が起こるわけではありません。
また嘔吐症状は感染性胃炎、新型コロナ、カンピロバクター腸炎などの疾患以外でもあらわれることがあります。症状の変化には個人差が大きいため、急な症状に備えてタオルやビニール袋を用意しておくことをおすすめします。
下痢や発熱の症状がつらいときの対処法
下痢や発熱症状がつらいときは、できるだけ早めに医療機関を受診するのがよいでしょう。しかし医療機関があいていない時間帯や曜日もありますよね。
水分がとれず、食事もままならないと脱水を起こしたり体のエネルギーの元となる栄養がなくなり、症状が急変する可能性もあります。
そうならないように、対処法を紹介します。
脱水にならないよう水分を多くとる
食欲がなければ無理に食べる必要はありませんが、飲水可能なら下痢・嘔吐による脱水状態になるのを防ぐため、水分をとりましょう。
ただし一度に大量の水分を摂取すると胃腸への負担が大きくなるため、少量ずつこまめに飲むのが大切です。
水やお茶だけでなく、経口補水液やスポーツドリンクを適度に薄めて飲むことで、失われた電解質も補なえます。また室温に近い温度の飲み物を選ぶことで、胃腸への刺激を抑えられます。[11]
エネルギーがあり消化のよい食べ物を摂取する
発熱や下痢などの症状は、体力を消耗します。そのため、胃腸を休ませながらも必要なエネルギーを補給することが回復への近道です。
消化に負担のかからない、おかゆやうどんなどの炭水化物を中心とした食事がおすすめです。
症状が落ち着いてきたら、バナナやりんごのすりおろし、煮込んだ野菜など、食物繊維が少なく消化のよい食品を少しずつ取り入れていきます。
刺激物、脂っこい食べ物、乳製品、生もの、アルコールは避け、ゆでるなど胃腸への負担が少ない調理法を選びましょう。[12]
下痢や発熱だけでなく嘔吐を起こさないための予防法
胃腸炎の症状が出る順番として「嘔吐」は早い段階であらわれる傾向にありますが、現時点で下痢と発熱だけで済んでいる人もいるでしょう。胃腸炎の症状を最小限に抑えつつ、嘔吐を予防する方法を紹介します。
暴飲暴食をしない
嘔吐症状がないからといって、好きなものを好きなだけ食べるのは避けましょう。下痢をしているときは胃腸が弱っているため、お腹にやさしいものを食べるように心がけてください。
また一度に大量の食事をとることは胃腸に大きな負担をかけ、消化機能を低下させる原因となります。とくに生もの、加熱不十分な肉類、古くなった食品は避け、新鮮な食材を適切な量で摂取することを心がけましょう。
アルコールの摂取も胃腸の粘膜を刺激し免疫力を低下させる可能性があるため、胃腸炎になっているときは避けてください。
手洗いと換気は基本
ウイルスや細菌によっては、排便したものが間接的に口に感染して症状がさらに悪化する可能性があります。
手洗いは食事の前、調理の前後、トイレのあと、外出から帰宅した際など、こまめにおこなうことが重要です。石鹸を使用して丁寧に洗い、流水でよくすすぐことを心がけましょう。
汚れの残りやすい爪の間や手のしわ、手首などはとくに念入りに洗うようにしてください。
また、室内の適切な換気も重要です。部屋を換気しないとウイルスが室内に漂い続け、症状が続くことにより胃腸が弱って嘔吐する可能性があります。
とくに、冬場は換気が不足しがちですが1日数回おこなうようにしましょう。
まとめ|下痢や発熱があらわれているときは嘔吐にも注意しよう
嘔吐は胃腸炎の症状としては初めのころにあらわれやすいですが、下痢や発熱しかないからと油断することはできません。
おかゆやうどんなど胃腸に負担のかかりにくい食事をとる、暴飲暴食をしない、こまめに手洗い・換気をおこなうことを心がけ、胃腸炎の症状の悪化を抑えつつ嘔吐を予防しましょう。
症状がつらくなったときに病院が休みだったらどこを頼ればよいのか困ってしまいますよね。
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参考文献
[1]Nausea and Vomiting in 2021: A Comprehensive Update - PMC
[3]感染性胃腸炎
[6]カンピロバクター腸炎(Campylobacter enteritis)|症状からアプローチするインバウンド感染症への対応
[8]39 腸管出血性大腸菌感染症(enterohemorrhagic Escherichia coli)
[9]https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/439-ehec-intro.html
[10]https://www.iph.pref.hokkaido.jp/topics/norovirus1/norovirus1.htm
[12]下痢の正しい対処法
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。