アデノウイルスってどんな病気?
アデノウイルスは、一般的なかぜの原因となるウイルスのひとつです。
アデノウイルスが原因の感染症はまとめて「アデノウイルス感染症」とよばれ、子どもに流行することが多いです。
アデノウイルスは50種類以上の型があり、感染した型によって眼や呼吸器、胃腸など、症状が現れる部位や現れ方が異なり、大きく5つに分類されています。
症状のなかでもっとも注意したいのは「高熱」です。アデノウイルスにかかると39〜40℃の高熱がみられ、約5日間続くことがあります。
高熱は、アデノウイルス感染症のひとつである「咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)」いわゆる「プール熱」の特徴です。
高熱に加えてのどの痛みや目の充血が加わるとプール熱と診断されます。
アデノウイルスの感染時期に季節性はありません。プール熱は、その名称からも夏に流行りやすいと思う方も多いでしょう。
しかし夏に多いというだけで冬でも流行ることがあり、2023〜2024年の冬にかけてはその傾向があります。[2]
また、アデノウイルスは多くの型があるため、繰り返し感染することも珍しくありません。
ではアデノウイルス感染症は具体的にどのような症状が現れるのでしょうか。
アデノウイルス感染症の分類と症状の経過
アデノウイルス感染症は、感染したウイルスの型によって症状の現れ方が異なります。
症状の違いによって大きく以下の5つに分類されます。
- 咽頭結膜熱(プール熱)
- 流行性角結膜炎(はやり目)
- 胃腸炎
- 呼吸器感染症
- 出血性膀胱炎
それぞれ詳しくみていきましょう。
咽頭結膜熱(プール熱)
咽頭結膜炎いわゆるプール熱は、ヘルパンギーナ・手足口病とならんで「夏の三大感染症」といわれています。[3]
プールでの接触やタオルの共有などで感染が広がることもあるため、日本ではプール熱とよばれるようになりました。
プール熱は、一般的に以下の症状がみられます。
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39~40℃の高熱が約5日間続く
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高熱と37~38℃前後の微熱を1日にいったりきたりする
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頭痛がある
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腹痛や下痢症状がある
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のどの痛みや腫れがある(咽頭炎:いんとうえん)
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耳や首のリンパが腫れる
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白目(結膜)の充血、目やにがみられる(結膜症状:けつまくしょうじょう)
プール熱の症状でもっとも注意したいのは高熱です。
また、プール熱の場合1日の熱の振れ幅が大きいことが特徴で、この状態が約5日間続きます。[1]
プール熱は高熱やのどの症状に加えて、目の充血などの結膜症状をみとめた場合に診断されることが多いです。
結膜症状の特徴として、赤みなどの炎症が下まぶたに強くみられます。
最近ではプールの塩素消毒が徹底されていたりタオルの貸し借りが減ったりしたことなどから、プール熱の集団感染は少なくなりました。[4]
しかし、プール熱はプールを介さなくても、せきやくしゃみなどの飛沫やウイルスの付着したものに触れると簡単に感染します。
プールの使用以外でも感染が広がる可能性は大いにあるため、感染者と使用するものをわけるなど、感染対策を十分に行う必要があります。
プール熱の治療は、つらい症状をやわらげる対症療法が中心です。
1〜2週間で自然治癒することもありますが、吐き気や強い頭痛があったり、激しい咳が続いたりする場合は早めに医療機関を受診しましょう。
流行性角結膜炎(はやり目)
流行性角結膜炎(りゅうこうせいかくけつまくえん)は、アデノウイルスが付着した手で眼を触るなどして感染します。
流行性角結膜炎の別名は「はやり目」といい、こちらの呼び方になじみのある方が多いのではないでしょうか。
流行り目にかかると以下の症状が現れます。[5]
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白目(結膜)の充血
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大量の目やに
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まぶたの裏のぶつぶつ
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まぶたのむくみ
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涙目
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耳のリンパの腫れ
プール熱と同じく白目(結膜)に症状が現れますが、プール熱のような高熱はなく、のどの症状も強くありません。
通常は症状が出始めて1週間で症状のピークを迎えます。
約2週間で治癒し、感染力も弱くなっていくことがほとんどです。
結膜の症状が落ち着いた頃に、黒目(角膜:かくまく)の表面に小さな点々とした濁りがみえることがあります。
また、小さなお子さんでは偽膜性結膜炎(ぎまくせいけつまくえん)というまぶたの裏に膜のようなものができる目の病気になることがあります。
このタイミングで治療をやめてしまうと、濁りが強くなって視力がおちる可能性があるため、自分の判断で治療を中断することは絶対にやめましょう。[5]
胃腸炎
アデノウイルスは、世界的にもノロウイルスやロタウイルスとならんで、子どもの感染性胃腸炎から検出されることが多いウイルスです。
アデノウイルスによる胃腸炎の特徴として以下があげられます。[6]
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6歳以下の子どもに多い
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腹痛、嘔吐、下痢をともなう
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ノロウイルスやロタウイルスなど他のウイルスと比べて下痢の期間が長い
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発熱の程度は軽い
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食品を介する事例は少ない
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潜伏期間は3~10日と他のウイルス性胃腸炎より長い
下痢の症状は一般的に6日ほど続くといわれています。
また、胃腸炎が回復するまでには、ほとんどの場合で9〜12日の日数が必要です。[7]
下痢症状が長く続く分、ウイルスが便中に排出される期間も長いとされています。
そのため、アデノウイルス感染症患者と接触した際は、入念な手洗いなどの感染対策が必須です。
呼吸器感染症
アデノウイルスの飛沫感染によって呼吸器感染症が引き起こされることがあります。症状は以下の通りです。
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発熱
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せき
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喘鳴(ぜんめい:呼吸をするときにヒューヒュー、ゼーゼーと聞こえること)
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呼吸困難(呼吸がしづらい)
一般的なかぜやほかの疾患と比べて、特別症状が変わるわけではありません。
ただし、熱がだらだらと長く続いていたり、呼吸障害が起きたりなど症状が重くなることもあるため注意が必要です。[1]
アデノウイルスによる呼吸器感染症は、とくに子どもがかかりやすく、髄膜炎(ずいまくえん)や脳炎(のうえん)、心筋炎(しんきんえん)などを併発することもあります。[1]
なかでも脳炎を発症した場合、日常生活に影響のある後遺症が残ることもあるため注意が必要です。[8]
また、髄膜炎や心筋炎の場合も、重症になると集中治療室での管理が必要になるケースがあります。
少しでも様子が変わったり、気がかりなことがあったりする場合は迷わず医療機関に相談しましょう。
出血性膀胱炎
アデノウイルスに感染すると血尿がみられることがあり、多くは出血性膀胱炎(しゅっけつせいぼうこうえん)と診断されます。
子どもの出血性膀胱炎はアデノウイルスによるものが多いとされています。
以下の症状を認める場合は、出血性膀胱炎の可能性が高いため、まずは水分補給をしっかり行いましょう。[9]
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おしっこに血が混じる
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おしっこの回数が多い
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おしっこをしたときに痛がる
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残尿感がある(おしっこをしたあとにもぞもぞしている)
多くの場合、2〜3日程度で膀胱炎の症状は改善します。
また、目に見える出血も数日でなくなり、血尿の検査でも10日程度で反応がみられなくなります。
繰り返しになりますが、アデノウイルスに効く薬はありません。
診察の結果、出血性膀胱炎と診断されたら、十分な水分補給を行い、安静に過ごすようにしましょう。
アデノウイルスに感染しやすい期間と感染経路
潜伏期間が5〜7日と比較的長いアデノウイルスですが、もっとも感染しやすい期間はいつなのでしょうか。
感染経路と合わせて解説します。
感染しやすい期間
アデノウイルスは、一般的に感染力が強いとされています。
型によって感染力が強い期間は異なりますが「保育所における感染症対策ガイドライン」によると、プール熱は発熱、充血等の症状が出現した数日間、はやり目では充血や目やになどの結膜症状が出現した数日間です。[10]
また、アデノウイルスによる胃腸炎の場合、下痢などの症状がある間と症状が落ち着いてから1週間は感染しやすいです。時間経過とともにウイルス量は減りますが、数週間はウイルスが排出されるため、注意しましょう。
感染経路
アデノウイルス感染症は主に以下の経路で感染が広がります。[10]
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飛沫感染
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接触感染
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経口感染
アデノウイルス感染症にかかった人の咳やくしゃみによってウイルスを含んだ飛沫が飛び、それを吸い込むことで感染します。
一般的に飛沫は1〜2m飛ぶと言われているため、感染者と接触する際は2m以上の距離をとりましょう。
また、アデノウイルス感染症の方と直接握手などをしたり、アデノウイルスが付着したドアノブなどに触れたりすることで、手にウイルスが付着します。
その手を介して口や目などからウイルスが入り込む「接触感染」にも注意が必要です。
小さなお子さんの場合は、おむつの処理などを大人が行う場合もあるでしょう。
アデノウイルスは便に含まれて排出される場合も多く、おむつ交換をする大人に感染する(経口感染)リスクは高いです。
また、アデノウイルス感染症では下痢症状がみられることもあり、おむつ交換の頻度もあがるため、さらに可能性は高くなるでしょう。
おむつを交換する際はマスクを装着し、おむつ処理を行ったあとの手洗いを入念に行ってください。
おむつ処理だけでなく、トイレを共有する場合も同様に注意が必要です。
症状が落ち着いてからも数週間は便中にウイルスが排出されますので、症状がないからといって油断は禁物です。
アデノウイルス感染症の治療と予防
アデノウイルス感染症にかかったとしてもアデノウイルスに効果のある治療薬は存在しません。ではどのように治療をしていくのでしょうか。
また、感染力の強いアデノウイルスから身を守るためにどのようなことに注意すべきなのか、予防方法についても解説します。
アデノウイルス感染症の治療
先述した通り、アデノウイルスに直接効果を示す薬剤はありません。
予防効果のあるワクチンも、2024年2月現在では存在しません。
そのためアデノウイルス感染症にかかった場合、出ている症状をやわらげるための対症療法が中心となります。
眼の症状が強い場合は、ほかの細菌などによる二次感染を防ぐために抗菌薬入りの目薬を使用したり、炎症をおさえるためにステロイドの入った目薬を使用したりすることがあります。[5]
アデノウイルス感染症の予防法と対策
アデノウイルス感染症にかからないためには、先述した感染経路を断つことが重要です。
また、アデノウイルスは症状が落ち着いたあとも、のどから1〜2週間、尿や便から約1か月はウイルスが排出されると言われています。
ウイルスから身を守るために以下の予防策を徹底しましょう。[11]
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流水と石けんを使用して入念に手洗いをする
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ドアノブなどの共用部分を消毒する(消毒用エタノールは効果が弱いため、次亜塩素酸を使用)
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タオルの共有は絶対しない
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プールに入ったあとはシャワーをしっかりあびる、目を洗う
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感染者との密な接触をさける
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プールの塩素濃度を適正に保つ
近年の新型コロナウイルス感染症の感染対策として行われている手洗いやマスクの装着などが、アデノウイルス感染症患者を減少させたことが報告されています。[6]
自分がうつらない、人にうつさないために今行っている感染予防対策をしっかり続けていきましょう。
アデノウイルスに感染したら保育園や学校はどうしたらいい?
アデノウイルス感染症のひとつであるプール熱(咽頭結膜熱)とはやり目(流行性角結膜炎)は学校保健安全法施行規則で学校感染症に指定されており、以下のように出席停止期間が決められています。
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プール熱(咽頭結膜熱):主要症状が消失してから2日経過するまで出席停止(第二種学校感染症)
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はやり目(流行性角結膜炎):医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止(第三種学校感染症)
ただし、この対象となる施設は幼稚園および小学校~大学です。また、すべての場合で適応となるわけではないため、出席停止期間については主治医や学校とよく相談しましょう。
お子さんが保育園(こども園)に通っている場合は、園によって対応が異なります。
以下はプール熱とはやり目にかかった場合の一般的な登園目安です。[10]
あくまでも目安ですので、登園の際は必ず保育園に相談しましょう。
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プール熱(咽頭結膜熱)の場合
発熱や目の充血などの症状がなくなったあと2日経過してから登園可能
「感染の恐れがない」と診察した医師が判断した場合は早く登園ができる場合もある
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流行り目(流行性角結膜炎)の場合
症状がなくても感染力が残っている場合があるため、診察した医師が「感染の恐れがない」と判断するまで出席停止
お子さんが園児である場合、プール熱とはやり目については園によって登園の際に医師の意見書を求められることがあります。
また、アデノウイルスによる胃腸炎は、保護者が記入する登園届の提出が推奨されています。
各園で規定が異なりますので、事前に確認しておくと良いでしょう。
まとめ
アデノウイルスは50種類以上の型があり、それぞれ症状が異なります。
眼や胃腸、呼吸器などさまざまな部位に症状が現れ、それによって「プール熱(咽頭結膜熱)」や「はやり目(流行性角結膜炎)」など大きく5つに分類されます。
なかでもプール熱は39〜40℃の高熱が長く続くことが特徴です。
「プール熱」という名称ではありますが、プール以外でも感染し、季節に関係なく感染するリスクはあります。
実際に2023〜2024年の冬にかけてアデノウイルスの感染者数が増えているのです。
アデノウイルスは感染力が非常に強いため「プール熱」と「はやり目」は学校保健安全法施行規則で学校感染症に指定されています。
これらにかかった場合は出席停止期間が設けられているため、症状がなくなってもすぐに学校に行けるわけではありません。主治医に相談し、学校の決まりに従いましょう。
なお、お子さんが保育園に通う場合は園によって対応が異なりますので、確認しましょう。
早く回復するためには十分な休息をとることが重要です。
アデノウイルス感染症と診断されたあとでも、食事や水分がとれない、吐き気や頭痛が強い、せきが激しいときなどは早めに医療機関に相談して休める環境を整えましょう。
ファストドクターでは無料の医療相談を行なっています。
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参考文献
[1]アデノウイルス解説ページ-アデノウイルスの種類と病気|NIID国立感染症研究所
[2]アデノウイルス月別分離・検出報告数の推移、過去4年間との比較、2020~2024年|厚生労働省
[6]アデノウイルスによる感染性胃腸炎|NIID国立感染症研究所
[8]特集 第 56 回日本ウイルス学会シンポジウム特集 2. 小児の急性脳炎・脳症の現状:森島恒雄|日本ウイルス学会
[10]保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)|厚生労働省
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。