インフルエンザの薬の種類にはどんなものがある?
インフルエンザの薬は、以下の3つに分かれます。
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ノイラミニダーゼ阻害薬
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キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬
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その他
ノイラミニダーゼ阻害薬は、2000年頃からインフルエンザの薬として使われています。
一方、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であるゾフルーザは、ノイラミニダーゼ阻害薬とは異なる作用機序を持つインフルエンザの薬として、2018年に承認されました。
それぞれの薬の特徴を解説します。
インフルエンザの薬:ノイラミニダーゼ阻害薬とは?
ノイラミニダーゼ阻害薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する薬です。
インフルエンザA型B型どちらにも効果があります。
インフルエンザウイルスの増え方は下記の通りです。
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インフルエンザウイルスが細胞の中に入る
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細胞内でウイルスの元が増える
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インフルエンザウイルスが細胞の外に出る
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インフルエンザウイルスが細胞から離れる
ノイラミニダーゼ阻害薬は、4)のインフルエンザウイルスが細胞から離れるのを阻止し、ウイルスの増殖を抑えます。
ノイラミニダーゼ阻害薬は現在、以下の4種類が用いられています。
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タミフル(一般名:オセルタミビル)
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リレンザ(一般名:ザナミビル)
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イナビル(一般名:ラニナミビル)
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ラピアクタ(一般名:ペラミビル)
それぞれの薬の違いについて説明します。
インフルエンザの薬:タミフル(一般名:オセルタミビル)
タミフルは、インフルエンザ治療薬の第一選択薬です。[1]
初期から用いられているため、使用経験が豊富にあります。
用法はカプセルまたはドライシロップを、1日2回5日間服用します。
用量は以下の通りで、0歳から服用できるのが特徴です。
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成人、体重37.5㎏以上の小児:1回75mg(1カプセル)
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幼小児(1歳以上):1回2mg/kg
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新生児乳児(1歳未満):1回3mg/kg
インフルエンザの薬には吸入薬もありますが、1〜9歳の子どもは吸入が上手にできないことがあるため、タミフルが推奨されています。
しかし、吐き気の症状が強く、薬を吐き出してしまうときは吸入薬を用います。
インフルエンザの薬:リレンザ(一般名:ザナミビル)
リレンザは、吸入薬です。
成人および小児(5歳以上)に関わらず、同じ用法用量です。
1回10mg(2吸入)を1日2回、5日間吸入します。
吸入の際は、吸入直前に息を吐き切り、喉の奥を広げて大きく吸い込むことが大切です。
吸入後は3〜5秒息を止め、鼻から息を吐きます。
その後うがいをして終了です。
インフルエンザの薬:イナビル(一般名:ラニナミビル)
イナビルも吸入薬です。
リレンザと異なり、1度の吸入で治療が終わります。
タミフルやリレンザは症状が軽快すると、薬を途中でやめてしまう人がいますが、耐性ウイルスができる可能性があるため危険です。
イナビルは1度きりの使用でよいため、途中でやめてしまうことによる耐性ウイルスの心配がありません。
イナビルの用法用量は以下の通りです。
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成人、10歳以上の小児:40mgを単回吸入
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10歳未満:20mgを単回吸入
1キットが20mgのため、10歳以上は1度に2キット吸入します。
インフルエンザの薬:ラピアクタ(一般名:ペラミビル)
ラピアクタは点滴で用いる薬です。
インフルエンザは重症化すると肺炎を合併する場合があります。
重症化例や肺炎を合併した場合は、タミフルかラピアクタを投与するのが基本です。[1]
タミフルが推奨されますが、経口投与が難しい場合はラピアクタを使用します。
ラピアクタの用量は以下の通りです。
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成人:300mgを15分以上かけて単回点滴静注
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小児:1日1回10mg/kgを15分以上かけて単回点滴静注
症状に応じて連日投与ができます。
新しいインフルエンザ治療薬:ゾフルーザとは?
ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル)は、2018年に承認された比較的新しいインフルエンザ薬です。
インフルエンザA型B型どちらにも効果があります。
ノイラミニダーゼ阻害薬とは異なる作用で、インフルエンザウイルスの増殖を抑えます。
インフルエンザウイルスが増える中で、ノイラミニダーゼ阻害薬は上記で4)インフルエンザウイルスが細胞から離れる過程を阻害すると解説しました。
ゾフルーザは、2)でウイルスの元が増えるのを抑えます。
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インフルエンザウイルスが細胞の中に入る
-
細胞内でウイルスの元が増える
-
インフルエンザウイルスが細胞の外に出る
-
インフルエンザウイルスが細胞から離れる
また、1度の服用で治療が完結するのも特徴です。
食事に関係なく服用できるため、薬をもらったらすぐに服用しましょう。
ゾフルーザの用量は以下の通りで、体重により服用量が異なります。
年齢 |
体重 |
用量 |
成人、12歳以上の小児 |
80kg未満 |
1回40mg(20mg錠を2錠または顆粒4包) |
80kg以上 |
1回80mg(20mg錠を4錠または顆粒8包) | |
12歳未満 |
40kg以上 |
1回40mg(20mg錠を2錠または顆粒4包) |
20~40kg未満 |
1回20mg(20mg錠を1錠または顆粒2包) | |
10~20kg未満 |
1回10mg(10mg錠を1錠) |
錠剤は20mg錠と10mg錠があります。
顆粒は1包10mgです。
12歳未満の10〜20kgにおける顆粒の服用は、適応にないため認められていません。
1度で治療が終わり画期的な薬であるゾフルーザですが、当初は耐性ウイルスの出現率が高いことで問題となりました。
現在でも検討が進められていますが、日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会では、「12歳未満の小児に対する同薬の積極的な投与を推奨しない」としています。[1]
その他のインフルエンザの薬について
その他のインフルエンザ薬として以下の2つを解説しますが、ほとんど使われていません。
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アビガン(一般名:ファビピラビル)
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シンメトレル(一般名:アマンタジン)
アビガンの添付文書には、以下のように記載されています。
“本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である。
”[2]
したがって、新型インフルエンザなどに対して国が緊急で使用を認めた場合のみ使われます。
途中で開発が中止になりましたが、新型コロナウイルス感染症に対する治療薬としても期待を寄せた医薬品です。
アビガンは錠剤で、1日目→1回1600mgを1日2回、2〜5日目→1回600mgを1日2回、計5日間服用します。
シンメトレルは、A型のインフルエンザのみに有効な薬です。
インフルエンザのほかに、パーキンソン病治療薬として用いられます。
インフルエンザ治療薬として日本で初めて承認された薬ですが、現在はノイラミニダーゼ阻害薬が第一選択のため、シンメトレルが使用されることはほとんどありません。
シンメトレルは錠剤と顆粒があり、1日100mgを1〜2回に分けて服用します。
インフルエンザ治療薬の一覧
本章で解説したインフルエンザ治療薬の一覧は以下の通りです。[3]
商品名 |
一般名 |
投与経路 |
用法用量 | |
ノイラミニダーゼ阻害薬 |
タミフル |
オセルタミビル |
経口(カプセル、ドライシロップ) |
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リレンザ |
ザナミビル |
吸入 |
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ラピアクタ |
ぺラミビル |
点滴静注 |
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イナビル |
ラニナミビル |
吸入 |
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キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 |
ゾフルーザ |
バロキサビル マルボキシル |
経口(錠剤、顆粒) |
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その他 |
アビガン |
ファビピラビル |
経口(錠剤) |
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シンメトレル |
アマンタジン |
経口(錠剤、細粒) |
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インフルエンザの薬を服用中の注意点
インフルエンザの薬を服用中の注意点について解説します。
インフルエンザの薬は48時間過ぎたら効果が下がる
インフルエンザの薬は、症状が現れて48時間経過してから服用しても意味がないと考えられています。
症状が出て48時間で、インフルエンザのウイルス量がピークとなるためです。
インフルエンザの薬はウイルスの増殖を抑えますが、ウイルスそのものを死滅させないため、ウイルスが増え切ってからインフルエンザ薬を服用しても効果が現れにくいです。
しかし、早く薬をもらうために症状が出てすぐに病院に行っても、ウイルス量が十分ではなく、検査でインフルエンザ陰性と判断されることがあります。
したがって、症状が出てから12時間〜48時間のうちに受診するのがおすすめです。
インフルエンザの治療中は異常行動に注意
インフルエンザの治療中は、異常行動に注意が必要です。
異常行動は、薬の服用有無に関わらず現れます。
異常行動の例としては、以下があげられます。
“
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突然立ち上がって部屋から出ようとする
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興奮状態となり、手を広げて部屋を駆け回り、意味のわからないことを言う
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興奮して窓を開けてベランダに出ようとする
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自宅から出て外を歩いていて、話しかけても反応しない
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人に襲われる感覚を覚え、外に飛び出す
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変なことを言い出し、泣きながら部屋の中を動き回る
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突然笑い出し、階段を駆け上がろうとする
”[4]
小児や未成年者がインフルエンザになった際は、治療開始から少なくとも2日間、一人にせず見守るようにしてください。[5]
インフルエンザの薬は決められた分飲み切る必要あり
医師から処方されたインフルエンザ薬は、指示された量を飲み切るようにしてください。
服用から2、3日すると症状が軽くなる人が多いため、途中で服用をやめてしまう人がいますが非常に危険です。
なぜなら、インフルエンザ薬に耐性を持ったウイルスが現れる可能性があるからです。
次にインフルエンザに感染した際に、インフルエンザ薬が効かなくなって重症化する可能性があります。
出された薬は指示通り飲み切りましょう。
インフルエンザの薬の副作用は?
インフルエンザの薬でよく起こる副作用は、以下の消化器症状です。
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下痢
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腹痛
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悪心
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嘔吐
これらの症状のうち、水のような下痢が1日に4〜5回出る、食事もとれないような悪心嘔吐であるといったひどい場合は、速やかに医療機関を受診してください。
少し便がゆるい程度であれば、薬を飲み切る方が良いでしょう。
判断に困ったら、医師や薬剤師に相談してください。
その他の副作用としては、頭痛やめまい、発疹などがあげられます。
また、インフルエンザの薬との関係は明らかになっていませんが、異常行動(急に走り出す、徘徊するなど)には注意が必要です。
とくに未成年の方においては、熱が出てから少なくとも2日間は、目を放さないようにしましょう。
インフルエンザの薬ない時代はどうしていた?
インフルエンザの薬は、1998年にアマンタジン、2000年にリレンザ、2001年にタミフルが承認されました。
それまではインフルエンザのウイルスに直接効く薬がなかったため、対症療法が行われていました。
対症療法とは、そのとき現れている症状に対して薬を使い、症状を和らげる方法です。
例えば、発熱に対して解熱薬、吐き気に対して吐き気止め、咳に対して咳止めを処方します。
あとは体の免疫力に任せて回復を待ちます。
健康な成人であれば、対症療法でインフルエンザが治ることも多いです。
インフルエンザ薬を使うと、重症化を防いだり、症状が消えるまでの期間を短くしたりできます。
Q&A
インフルエンザの薬に関する気になる疑問に答えます。
インフルエンザは市販薬で治せますか?
インフルエンザによって生じた症状は、市販薬で和らげることが可能です。
しかし、市販薬にはインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬はありません。
抗インフルエンザ作用のある薬は、医師による処方が必要です。
インフルエンザ治療薬によって、重症化を防いだり、症状から回復するまでの期間を短くしたりできます。
重症化を防ぐためにも、以下に該当する方は早めに受診しましょう。[6]
【インフルエンザですぐに受診が必要な人】
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持病のある方(慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、腎機能障害、ステロイド内服などによる免疫機能不全)
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妊婦
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乳幼児
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高齢者
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呼吸が苦しい
-
胸の痛みがある
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嘔吐や下痢が続いている
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高熱が続いている
-
症状が長引いて悪化している
抗インフルエンザ薬 48時間以内 なぜ?
インフルエンザウイルスは体内で増殖し、そのウイルス量は症状が出てから48時間でピークに達するためです。
抗インフルエンザ薬は、ウイルスの増殖を抑える作用があり、すでに増えてしまったウイルスを死滅させる作用がありません。
そのため、抗インフルエンザ薬は48時間以内の服用が最も効果を発揮します。
しかし、症状が出てからの受診が早すぎてもウイルス量が少なく、インフルエンザ陰性となることがあります。
受診をする際は、症状が出てから12時間以上48時間未満のタイミングがおすすめです。
インフルエンザにロキソニンはなぜダメなのでしょうか?
インフルエンザの時にロキソニンを服用すると、インフルエンザ脳症を引き起こす可能性があるためです。
ロキソニンのほかにも、バファリンやポンタール、ボルタレンも同様のリスクがあります。
インフルエンザで解熱鎮痛薬を使うときは、カロナールをはじめとしたアセトアミノフェン製剤を用いるのが安全とされています。[7]
インフルエンザ脳症とは、初期症状として意識障害、けいれん、異常行動を生じる脳の疾患です。
急激に発症・進行し、致死率と後遺症の確率が高い非常に危険な合併症です。
インフルエンザ脳症は子供の方がなりやすく、大人が発症する確率は極めて低いですがゼロではありません。[8]
インフルエンザで解熱鎮痛薬を使うときは、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
インフルエンザを早く治すには?
インフルエンザを早く治すには以下が大切です。[9]
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安静にして十分な睡眠をとる
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こまめに水分をとる
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食事がとれるようなら栄養をたっぷりとる
医師から抗インフルエンザ薬が処方されている場合は、指示通り飲み切りましょう。
まとめ
インフルエンザの治療に用いられる薬は、主にノイラミニダーゼ阻害薬です。
症状が出てから48時間以内に服用開始すれば、重症化を防ぎ、発熱している期間を短くできます。
1日で治療が完了する薬もあれば、5日間服用する薬もあり、患者の年齢や症状に応じて処方されます。
耐性ウイルスの危険性があるため、医師や薬剤師の指示通りきちんと飲み切ることが大切です。
インフルエンザの治療中は、薬の服用に関わらず異常行動に注意して安静に過ごしましょう。
ファストドクターでは無料の医療相談を行なっています。
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もし、ご家族やご自身の体調でご不安な点がありましたら、ファストドクターを頼ってください。
参考文献
[1]日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会|2022/23 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針
[3]堀 正二ら|治療薬ハンドブック2023|じほう|p.91・p.1442~1445
[5]厚生労働省 医薬・生活衛生局 医薬安全対策課|小児・未成年者がインフルエンザにかかった時は、異常行動にご注意下さい
[7]一般社団法人 日本小児神経学会|Q57:インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか?
[8]厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班|インフルエンザ脳症ガイドライン【改訂版】
引用
[2]アビガン添付文書
[4]厚生労働省 医薬・生活衛生局医薬安全対策課|抗インフルエンザウイルス薬の使用上の注意に関する注意喚起の徹底について
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。