熱中症の応急処置の正解と間違い
熱中症の応急処置には3つの方法があります。
正しい応急処置 |
間違った応急処置 |
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熱中症は間違った対処をしてしまうと、かえって症状を悪化させてしまう可能性があるので注意が必要です。最悪の場合は命に関わる危険な症状です。
現場ですみやかに応急処置をすることで、救急車を待っているあいだにも症状の悪化を防ぐことができます。
熱中症の正しい応急処置
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涼しい場所に移動させる
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身体を冷やす
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水分と塩分を補給する
熱中症は体温が通常よりも上昇している状態のため身体を冷やすことが重要です。汗をかいて失った水分と塩分を補給することも意識しましょう。
1.涼しい場所に移動させる
第一優先は体を冷やすために涼しい場所に移動させることです。
移動場所はクーラーの効いている室内や車内が良いです。屋外にいる場合は風通しのよい日陰に移動しましょう。
室内にいる時にも熱中症の危険が潜んでいます。
トイレなどの冷房の効いていない場所や、お風呂場など湿度の高くなりやすい場所も注意が必要です。
室温が高い場合は、夜間や就寝時にも熱中症になる可能性があります。
熱中症の危険性が少ないのは室温26度以下、湿度50~60%の環境とされています。
意識的に換気をし、冷却グッズを活用したりこまめに休憩をとったりして熱中症の対策をしましょう。
夜間であっても適切に冷房機器を使用することが必要です。
2.身体を冷やす
効果的に体温を下げるために冷やす部位を意識しましょう。
衣服をゆるめ、体の表面近くにある太い血管を冷やす
「クールネックリング」は首筋を冷やせるため熱中症対策に有効
冷たい水分の補給は身体を内部から冷やします
首筋、わきの下、足の付け根の前側(そけい部)にある太い血管には、大量の血液が流れているため効果的に体が冷えます。
冷やすものは保冷剤や氷枕、冷えたペットボトルや缶がよく、凍傷を防ぐためにタオルで包むことが望ましいです。
ジェルタイプのシートは貼ると冷たさを感じます。しかし冷感は気化熱(きかねつ)とメンソールによるもので効果は限定的です。
熱中症の応急処置に適しているものではありませんので注意しましょう。[6]
熱中症の応急処置で水をかけるのは大丈夫なの?
水をかけるのは「水道水散布法」といい「労作性」かつ「重度」熱中症の応急処置です。
スポーツや肉体労働による労作性の熱中症で、意識障害がある重度熱中症の場合におこないます。
水道につないだホースで全身に水を絶えずかけ続ける方法は身体全体の冷却ができます。
ただし「水道水散布法」を女性におこなう場合は注意が必要です。
誤解を招かぬようできるだけ慎重に対応し、できれば同性の救護者がおこなうとよいでしょう。
高齢者が屋内で熱中症になっている場合などの非労作性熱中症の場合は、基本的な応急処置をおこないます。
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涼しい場所に移動する
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衣服を脱がし、体温を下げる
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塩分と水分の補給をする
そしてすみやかに医療機関へ搬送しましょう。
3.水分と塩分を補給する
水分補給が自力でできるときに最も適しているのは経口補水液です。
経口補水液とは脱水症状の治療に効果があると世界保健機関(WHO)が提唱している飲み物です。[10]
脱水時に効率よく水分と電解質※を補給するために成分の配合割合が決められています。
※電解質とは:ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのこと。体液の浸透圧調節や、神経や筋肉を正常に保つために必要な物質。
熱中症の対処をするときは、水分と塩分をバランスよくとりましょう。
要注意!よくある熱中症の応急処置3つの間違い
熱中症の応急処置でおこないがちな3つの間違いについて解説していきます。
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ロキソニンなどの解熱剤を自己判断で飲んではいけない
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無理に水分補給をさせてはいけない
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水分・塩分補給に適さない飲み物を飲ませてはいけない
熱中症からのより早い回復のために、間違えた対処法をとらないように気をつけましょう。
1.ロキソニンなどの解熱剤を自己判断で飲むのはNG
熱中症になっているときは体温が上がっていたり頭痛が起きていたりするので、解熱鎮痛剤(頭痛薬)を使いたいと思われるかもしれません。
しかし、ロキソニンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)の使用は控えたほうがよいでしょう。
理由は2つあります。
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熱中症で体温上昇や頭痛が起こる仕組みと、NSAIDsが解熱鎮痛作用を示す仕組みが違うため効果が期待できない。
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脱水状態でNSAIDsを使用すると、腎障害のリスクを高める可能性がある。[2]
熱中症が疑われる場合は、自己判断で薬を服用せずに適切な応急処置をおこないましょう。
2.無理に水分補給させるのはNG
意識がない人、嘔吐している人に無理に水分補給させるのはやめましょう。
意識がない場合は誤って水分が気道に入ることがあり危険です。[1]
嘔吐している場合は脱水症状が進行していること、胃腸の働きが弱っていることから、自力の応急処置では水分補給が追いつきません。
これらの場合は医療機関での点滴が必要になります。[6]
3.塩分が含まれていない水・ジュース・コーヒー・お茶・お酒を飲ませるのはNG
応急処置として摂取する水分に向いていない飲み物には次のものがあります。
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塩分が含まれていない水
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ジュース
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コーヒー
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お茶
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お酒
塩分が含まれていない水やジュースが適していない理由は以下の2つです。
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塩分が足りずにけいれんを起こしやすくなる
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体内に浸透しづらく、尿となって出ていきやすい
コーヒー、お茶、お酒が適していない理由はこれらに含まれるカフェインやアルコールには利尿作用があるからです。
尿が出やすくなることで水分の排出を促してしまいます。
ただしお茶は、軽度脱水時や熱中症予防の水分補給には利用できますので無理に摂取を控える必要はありません。[3][4]
カフェインが含まれている飲み物の例は以下をご覧ください。[7]
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コーヒー
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緑茶
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紅茶
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ジャスミン茶
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ウーロン茶
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ココア
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エナジードリンク
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コーラ飲料
熱中症の対処をするときは、水分と塩分をバランスよくとりましょう。
熱中症の症状・状況別の対応方法について
熱中症の症状やケースにあわせて、より具体的な対処法を確認していきます。
熱中症になったら最初に何をしたらよいの?
まずは涼しい場所に移動しましょう。
体温の上昇を防ぎ、体の負担を軽減し、回復を促進するためです。
クーラーの効いている室内や車内がよいでしょう。
屋外にいるときなど、近くにそのような場所がない場合には風通しのよい日かげに移動します。
涼しい場所に移動したのち、体温を下げる処置と塩分・水分補給をしましょう。
熱中症を1秒でも早く治したいときは?
つらい症状の多い熱中症ですので、1秒でも早く治したいですよね。
しかし残念ながら熱中症に特効薬はなく、応急処置をすみやかにおこなうことが大切です。
応急処置の順番は次の3ステップでおこないましょう。
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涼しい場所に移動する
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衣服をゆるめ、体温を下げる
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塩分と水分を補給する
事前に知っておくことで、いざ熱中症になってしまったときでも慌てずに対処できるでしょう。
熱中症のときに何を飲ませるのが1番よいの?
熱中症の応急処置で飲むものとして1番適しているのは経口補水液です。
経口補水液とは脱水症状の治療に効果があると世界保健機関(WHO)が提唱している飲み物です。[10]
脱水時に効率よく水分と電解質※を補給するために成分の配合割合が決められています。
※電解質とは:ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのこと。体液の浸透圧調節や、神経や筋肉を正常に保つために必要な物質。
経口補水液と同じく電解質を含んでいる飲み物にはスポーツドリンクもありますが、この2つには以下の違いがあります。[9]
経口補水液 |
スポーツドリンク | |
販売の許可 |
消費者庁の許可を受けないと販売することができない |
不要 |
電解質の量 |
配合割合が決められている |
経口補水液より少ない |
糖分の量 |
配合割合が決められている |
経口補水液より多い |
スポーツドリンクを飲むことは熱中症の予防には効果があります。しかし、すでに熱中症の症状が出ている場合は経口補水液の方がより適しています。
経口補水液の商品のパッケージには「特別用途食品」という国の制度で決められたマークがついています。
本来は胃腸炎による脱水時に使用するものでしたが、近年は熱中症の脱水時に効果があるものも販売されるようになりました。
経口補水液を購入する場合はパッケージの表示をよく確認しましょう。[10]
熱中症の頭痛を速攻で治したいときは?
残念ながら熱中症による頭痛を速攻で治す方法はありません。
頭痛薬を飲みたくなるかもしれませんが、熱中症のときはロキソニンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤の使用は控えましょう。
なぜならロキソニンやイブプロフェンは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であり、熱中症のときに使用すると腎障害を引き起こすリスクがあるからです。[2]
また、熱中症による頭痛が起こる仕組みとNSAIDsが痛みを和らげる仕組みは異なるため、効果が期待できません。
熱中症による頭痛を治すには、医療機関で適切な処置を受けたり体を冷やすなどの対処をしたりする必要があります。
くわしくは以下の記事で解説していますので、ご覧ください。
関連記事:熱中症による頭痛を速攻で治す方法はある?対処法について解説
熱中症の頭痛が治らないときの対処法
熱中症の頭痛が治らないときは医療機関を受診しましょう。
なぜなら熱中症による頭痛は、3段階ある重症度のうちの2度(中等症)に分類されるからです。
2度(中等症)の熱中症は医療機関での処置が推奨されています。[6]
頭痛が治らないときはお近くの内科・総合診療科を受診するか、夜間であれば夜間救急を受診しましょう。
医療機関へ移動している間も熱中症の基本的な対処である
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体を冷やす
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水分と塩分を補給する
ことを継続しましょう。
熱中症で胃が気持ち悪いときの対処法
熱中症が原因で胃が気持ち悪いときは、まず基本的な応急処置をおこないます。
脱水症状を起こして胃の働きが弱っていると考えられるからです。
涼しい場所に移動し、体を冷やし、水分と塩分をとりましょう。
もし嘔吐もしている場合は、自力の応急処置では水分補給が追いつきません。
医療機関で点滴を受けて回復につなげることが必要です。
熱中症で気持ち悪い・吐き気があるときの対処法
熱中症で気持ち悪かったり吐き気があったりするときは医療機関を受診しましょう。
なぜなら脱水症状が進行しているので、応急処置として自力で塩分と水分を摂取しても体の機能を回復できないからです。
また、嘔吐してしまう可能性もあるので口から水分や塩分を摂取することにリスクがあります。[6][9]
放置すると重症化する可能性があるので、お近くの内科や総合診療科、夜間であれば夜間救急を受診してください。
以下の記事で吐き気の対処法や原因についてくわしく解説していますのでこちらもご覧ください。
関連記事:熱中症による吐き気の対処法は?なぜ吐いてしまうのか原因も解説
Q&A
ここでは熱中症の対処に関するよくある質問について回答します。
熱中症の応急処置で足を上げるのは効果的なの?
足を上げることは熱中症によるめまいや立ちくらみの応急処置として効果的です。
熱中症によるめまいや立ちくらみの原因が、血圧の低下や脳への血流の減少だからです。
足を上げることで心臓に血流が届きやすくなって血圧が上がり、脳への血流を改善させることができます。
足は10cm程度高く上げて寝ましょう。[1]
加えて基本的な応急処置である
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涼しい場所に移動する
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衣服をゆるめ、体温を下げる
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塩分と水分の補給をする
をおこない、症状が改善するか観察しましょう。
数十分で症状は改善するケースが多いですが、よくならない場合は医療機関を受診しましょう。
熱中症で寒いと感じたときの対処法
熱中症の代表的な症状に寒気はありませんが、暑い環境にいる、いたあとの体調不良は全て熱中症の可能性があります。[9]
そのため以下の熱中症の基本的な応急処置をおこないましょう。
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涼しい場所に移動する
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衣服を脱がし、体温を下げる
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塩分と水分の補給をする
体調が急変する可能性もありますので、熱中症の症状についてまとめたこちらの記事を確認しておくとよいでしょう。
関連記事:熱中症の症状チェック|頭痛も熱中症のサイン?治し方も解説
熱中症で夜になってから症状や吐き気が出た場合の対応は?
もし日中から熱中症が疑われる頭痛や吐き気などの体調不良があった場合は、夜間救急を受診しましょう。
熱中症による脱水症状の進行が考えられます。応急処置として自力で水分や塩分を摂取しても体の機能を回復できないため、医療機関で点滴などの処置を受けましょう。[6][9]
軽症の熱中症と考えられる場合は、基本的な応急処置である
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涼しい場所に移動する
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衣服をゆるめ、体温を下げる
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塩分と水分の補給をする
をおこなって様子を見ます。
軽症の熱中症の主な症状は
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一時的な失神
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めまい
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立ちくらみ
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大量の発汗
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筋肉痛
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こむら返り
です。
応急処置をおこなっても症状が改善しない場合は夜間救急を受診しましょう。
熱中症で倒れた人の応急処置方法を教えて
熱中症で倒れている人をみかけたらまず倒れた人に呼びかけ、意識があるかどうか確認しましょう。
意識がない場合はすぐに救急車を呼んでください。
到着を待つ間に、基本的な応急処置である
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涼しい場所に移動する
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衣服を脱がし、体温を下げる
-
塩分と水分の補給をする
をおこないます。
呼びかけへの反応が悪い場合は無理に水分を飲ませてはいけません。
誤って気道に水分が入ってしまう危険があるからです。
意識がある場合でも水分を自力で摂取できないときや、上記の応急処置をしても症状が改善しないときは医療機関を受診してください。
強いだるさがあったり判断力がにぶくなっていたりすることがほとんどなので、倒れたときの状況を把握している方が付き添うとよいでしょう。
まとめ
熱中症の正しい応急処置と間違った応急処置は次の表のとおりです。
熱中症の正しい応急処置 |
熱中症の間違った応急処置 |
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まずは、意識があるかないか確かめましょう。
意識がない場合はすぐに救急車を呼んでください。
熱中症の重症度は症状の軽い順に1~3度に分類されます。
意識のない熱中症は3度(重症)であり、命に関わる危険があります。
意識がある場合でも水分を自力で摂取できないときや、応急処置をしても症状が改善しないときは2度(中等症)にあたるため医療機関を受診しましょう。
強いだるさがあったり判断力がにぶくなっていたりすることがほとんどなので、状況を把握している方が付き添うとよいでしょう。
救急車を待つ間や、医療機関への移動中も応急処置は続けてください。
できるだけ症状の悪化を防ぐことが必要です。
1度(軽症)の場合は基本的な応急処置をおこない、症状が改善するか観察しましょう。
数十分で症状が改善するケースが多いですが、よくならない場合は医療機関を受診しましょう。
日常生活にも熱中症の危険は潜んでいます。
いざというときのために、この記事を読んで対処法を理解しておきましょう。
熱中症は、気付いた時にはかなり脱水症状が進行していたり、判断が遅れて重症化するケースがあります。
ファストドクターのオンライン診療では、熱中症が疑われる症状への対応が可能です。
緊急性の判断などにもご利用いただけます。
もしものときに備えてアプリをインストールし、情報登録までしておくと安心です。
参考文献
[3]軽度脱水時の緑茶飲料の飲用が、尿排泄を促進しないことを確認 | ニュースルーム | 伊藤園 企業情報サイト
[5]「日常生活における熱中症予防指針」Ver.4|日本生気象学会
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。