【傷病手当金】完全ガイド|初心者でも分かりやすく解説

公開日: 2025/05/16 更新日: 2025/05/16
突然の病気やケガで働けなくなり、不安を感じていませんか? 「有給があと少ししかない」「このまま働けなかったら生活はどうなるんだろう」と心配になる人も多いかもしれません。 そのようなときは「傷病手当金」の利用を検討するのがおすすめです。 傷病手当金とは病気やケガで仕事を休んだ際に、一定の条件を満たせばお金が支給される制度です。 収入がゼロになるのを防ぎ、安心して療養できるようにサポートしてくれます。 この記事では、傷病手当金の仕組みや受給条件、申請方法をわかりやすく解説します。 休職中の経済的な不安を少しでも和らげ、ゆっくり休めるように傷病手当金について知りましょう。
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目次

傷病手当金とは?

傷病手当金は、病気やケガで働けなくなったときに健康保険から支給される給付金です。[1]

たとえば以下のようなケースで受給できます。

  • 病気で長期の入院が必要になった

  • 手術を受けたあと、しばらく療養が必要になった

  • 精神的な病気のため休職が必要になった

傷病手当金の対象となる傷病は、仕事に直接関係しない病気やケガで、インフルエンザなどの感染症も含まれます。

一方、仕事や通勤に関係する病気やケガは労災保険の対象です。[1]

「自分の場合はどちらに当てはまるんだろう?」と迷ったときは、加入している健康保険や勤務先の担当者に相談しましょう。

傷病手当金の申請の流れ

傷病手当金を受け取るまでの流れは、以下のとおりです。

  1. 病気やケガで4日以上仕事を休む

  2. 傷病手当金支給申請書に必要事項を記載する

  3. 必要に応じた添付書類を添えて、加入している健康保険へ提出する

  4. 審査終了後、2週間ほどで傷病手当金が支給される

「傷病手当金支給申請書」は、傷病手当金を申請するために必要な用紙です。

病気やケガの状況を自身で記入し、治療の状況については医師が記入します。

また勤務状況については、勤務先で記入してもらう必要があります。

申請書は、加入している健康保険のホームページから印刷するのが一般的です。

場合によっては、勤務先から申請書を入手できることもあります。

加入している健康保険ごとに、申請書の必要事項が異なる場合があります。

手続きをスムーズに進めるために、必要書類や記入方法を事前に確認しておきましょう。

傷病手当金申請に必要な資料をチェックしよう

傷病手当金の申請に必要な書類は、以下のとおりです。

書類の名称

詳細

傷病手当金支給申請書(必須)

  • 健康保険のホームページから印刷できます。

  • おもに以下の5つの情報について記載します。

申請者の情報(氏名・生年月日・住所など)

傷病の原因・経過

休業期間

振込先口座情報

年金や労災などによる報酬の有無

  • 勤務先には以下の情報を記載してもらいます。

休職期間の勤務状況

休職期間に支払った報酬の支給日と金額

会社名・住所・代表者の氏名・連絡先

  • 療養担当者(医師など)には以下の情報を記載してもらいます。

病気やケガで働けないと認めた期間

傷病名とその原因

初診日

治療内容・就労の可否に関する意見

医療機関の名称・医師の氏名・連絡先

以前の勤務先での使用期間がわかる書類

  • 以下に当てはまる人は、以前の勤務先の名称・所在地・使用期間がわかる書類が必要です。

傷病手当金の支給開始日以前の12か月以内に転職した人

定年後に再雇用された人

退職後に任意継続健康保険へ切り替えた人

障害厚生年金の給付額がわかる書類

  • 障害厚生年金を受給している人は、年金給付額などがわかる以下の2つの書類が必要です。

年金証書またはこれに準ずる書類のコピー

年金額改定通知書など直近の額を証明する書類のコピー

  • マイナンバーを利用した情報照会を希望しない人のみ提出する必要があります。

障害手当金の給付額がわかる書類

  • 障害手当金を受給している人は、障害手当金の支給を証明する書類のコピーが必要です。

  • マイナンバーを利用した情報照会を希望しない人のみ提出する必要があります。

老齢退職年金の給付額がわかる書類

  • 老齢退職年金を受給している人は、年金給付額がわかる以下の2つの書類が必要です。

年金証書またはこれに準ずる書類のコピー

年金額改定通知書など直近の額を証明する書類

  • 申請期間が資格喪失後の場合に提出が必要です。

  • マイナンバーを利用した情報照会を希望しない人のみ提出する必要があります。

労災保険を給付していることがわかる書類

  • 労災保険から休業補償を受けている人は、支給決定通知書のコピーが必要です。

第三者行為によって傷病が発生したことを証明する書類

  • 交通事故やけんかなどで傷病を負った場合は「第三者行為による傷病届」の提出が必要です。

  • 加入している健康保険のホームページから印刷するか、送付を依頼することで入手できます。

戸籍謄本など被保険者との続柄がわかる書類

  • 被保険者が亡くなり相続人が傷病手当金を請求する場合は、被保険者との関係がわかる書類が必要です。

特別な事情がなければ、傷病手当金支給申請書のみ準備します。

ただし支給開始日の1年以内に転職している場合や、給与以外の報酬を受け取っている場合など、追加の必要書類が必要になるケースもあります。

傷病手当金の申請時には必要な書類を確認し、漏れがないか十分確認しましょう。

傷病手当金|4つの支給条件を確認しよう

傷病手当金は、次の4つの条件を全て満たした場合に支給されます。

  1. 病気やケガのための療養である

  2. 病気やケガのため仕事に就くことができない

  3. 続けて3日以上休んでいる

  4. 休業した期間について給与の支払いがない

傷病手当金の支給条件を知り、自分が傷病手当金を受給できるのかを確認しましょう。

1.病気やケガのための療養である

傷病手当金は、病気やケガの治療・療養のために仕事を休んでいる場合に支給されます。[1]

【例】

支給されるケース

  • 入院しているとき

  • 通院しながら自宅療養をしているとき

支給されないケース

  • 医療機関等を受診せずに自己判断で仕事を休んでいるとき

  • 仕事中や通勤中に発生した病気やケガであるとき

  • 美容整形など、病気ではない理由で療養が必要なとき

医療機関に入院していなくても「自宅療養が必要」と医師が判断した場合は、支給対象となります。

たとえばメンタルヘルスの不調により、医師から自宅療養を指示されたときです。

健康保険が適応されない自費診療の場合でも「仕事ができない」ことを証明できれば、支給対象になる可能性があります。

また傷病手当金の申請時には医師から労務不能だと診断される必要があるため、自己判断で申請することはできません。

仕事に影響をきたす病気やケガが生じた場合は、早めに主治医に相談しましょう。

傷病手当金が支給されないケースとして、仕事中や通勤中に発生した病気やケガが挙げられます。

これらは傷病手当金の対象外で、労災保険の給付対象となります。[1]

「傷病手当金と労災保険のどちらに該当するのかわからない」という場合は、加入している健康保険や勤務先の担当者に確認しましょう。

2.病気やケガのため仕事に就くことができない

傷病手当金の申請では、医師の診断をもとに「仕事ができない状態」であることを証明する必要があります。

ただし業務内容により就労可否の判断が変わるため、必ずしも労務不能だと判断されるとは限りません。

たとえば足を骨折した場合、デスクワークなら「働ける」と判断されるかもしれません。

同じケガでも、接客業など立ち仕事が必要な人なら「働けない」と判断される可能性があります。

受給できるか不安な場合は、医師や勤務先に相談しながら手続きを進めると安心です。

3.続けて3日以上休んでいる

傷病手当金は、3日以上続けて休んでいる場合に支給されます。[1]

休業を開始した最初の3日間は「待期期間」とされ、4日目から傷病手当金の支給対象になります。

待期期間をカウントする際のルールは以下の3つです。

  • 連続して3日間以上休んでいる

  • 有給休暇や土日・祝日も休業日としてカウントされる[1]

  • 就業時間中に倒れた場合、その日が待期期間1日目になる

注意が必要なのは「連続して3日間」休まなければ、傷病手当金の支給対象にはならない点です。

たとえば2日間休んで3日目に出社した場合、4日目に休んでも待期期間はリセットされ1日目からカウントし直しになります。

休業状況によって、傷病手当金の支給対象となるかどうかが変わります。

「待期期間が正しくカウントされているかわからない」という場合は、健康保険や勤務先の担当者に確認してみましょう。

4.休業した期間について給与の支払いがない

休業期間中に給与が支払われている場合は、原則として傷病手当金を受け取ることはできません。

傷病手当金は休業中の生活を保障するための制度だからです。

ただし給与の日額に対して、傷病手当金の日額が少ないケースでは、その差額が支給されます。[2]

給与の支給状況によっては一部受給できる可能性があるため、詳しくは健康保険の担当者に問い合わせてみましょう。

支給される期間は?

傷病手当金が支給される期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。[3]

復職して給与の支払いがあった期間は、この期間に含まずに計算します。健康保険組合によっては、延長給付(+1年6か月)を行うケースもあります。

ただし支給開始日が、令和2年(2020年)7月1日以前の場合は例外です。

法改正前のルールが適応されるため、途中で復職期間があった場合も1年6か月に含まれます。

また傷病手当金は、病気やケガごとに受給期間が決まる制度です。

傷病手当金を受給中に新たな病気・ケガが発生して就労不能となったときは、別途申請が必要となります。

ただし、傷病の数が増えるごとに受給金額が増えるわけではありません。

同じ期間に複数の傷病に対して傷病手当金が支給される場合は、日額が高いほうのみ支給されます。

この場合に傷病手当金が支給される期間は、あとに申請した傷病手当金の受給期間が終わるまでです。

支給期間のルールは複雑なため、疑問点があれば健康保険の担当者に相談し、正確な情報を確認しましょう。

支給される傷病手当金の金額は?

傷病手当金は、休職前の給与をもとにして計算されます。

基本的な計算式は次のとおりです。[2]

【1日当たりの金額】

(支給開始月以前12か月間の標準報酬月額の平均) ÷ 30日×2/3

つまり、休職前の給与の約2/3が支給される仕組みです。

ただし支給開始日以前の期間が12か月未満の場合は、次のいずれか低い額を基準に計算されます。[2]

  • 支給開始月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額

  • 加入している健康保険の標準報酬月額の平均額

「転職したばかりで給与データが12か月分もない」という人も、傷病手当金の支給対象になります。

傷病手当金がもらえるか不安な場合は、勤務先や健康保険の担当者に相談してみましょう。

加入している健康保険によっては独自の付加給付を行う場合があります。

1日あたりの支給額の例

1日あたりの傷病手当金支給額の目安は以下のとおりです。

標準報酬月額

1日あたりの傷病手当金

20万円

約4,445円

25万円

約5,555円

30万円

約6,667円

35万円

約7,778円

40万円

約8,889円

※この金額は目安のため、実際に受け取る金額と差が生じる可能性があります。

「標準報酬月額」とは、給与(基本給+各種手当)を1〜50等級に区切った金額のことで、標準報酬月額表で確認できます。

たとえば1か月の給与が27万円と29万円の人では、2万円の差があっても等級は同じで標準報酬月額は28万円です。[4]

傷病手当金では1か月ごとに支給開始月以前12か月分の標準報酬月額を平均した金額を計算し、もとに支給額を決定します。[2]

「実際に自分はいくらもらえるの?」と気になった人は、勤務先の人事担当者に問い合わせてみましょう。

標準報酬月額を確認すれば、おおよその傷病手当金の支給額を事前に把握できます。

実際に計算してみよう

以下のケースをもとに、傷病手当金を実際に計算してみましょう。

  • 休職期間:30日間

  • 勤務歴:1年以上

  • 12か月間の標準報酬月額:毎月36万円

1日あたりの傷病手当金の支給額[2]

=(支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均) ÷ 30日×2/3

この式を使って、休職期間(30日間)における総支給額を計算します。

※「30日」で割ったところで1の位を四捨五入する必要があります。

※「2/3」で計算した金額に小数点がある場合は、小数点第1位を四捨五入します。

12か月間の標準報酬月額の平均額

(36万円×12か月)÷12=36万円

1日あたりの傷病手当金

36万円÷30日×2/3=8,000円

休職期間30日分の傷病手当金

8,000円×30日=240,000円

このケースの場合は、傷病手当金として合計240,000円が支給されます。

休職前の月給の約2/3が傷病手当金で給付されるとイメージしておきましょう。

傷病手当金が調整または停止されるケースもある

特定の条件に当てはまる場合、傷病手当金の支給額が調整されたり、支給自体が停止されたりすることがあります。

具体的には以下5つのケースが挙げられます。

給与の支払いがあった場合

  • 休業期間中に給与の支払いがある場合は、傷病手当金が支給されません。

  • ただし、給与が支払われても傷病手当金より少なければ差額が支給されます。

障害厚生年金または障害手当金を受けている場合

  • 障害厚生年金や障害手当金を受給している場合は、傷病手当金が支給されません。

  • 例外として障害厚生年金と障害基礎年金の1日あたりの金額(年額の360分の1)が、傷病手当金の日額よりも少ないときには差額が支給されます。

障害手当金を受け取っている場合も同様に、傷病手当金の総支給額が障害手当金の額に達するまで傷病手当金が支給されません。

障害手当金は一時金のため、傷病手当金の総額で比較します。

老齢退職年金を受けている場合

  • 老齢退職年金を受給している人は、原則として傷病手当金が支給されません。

  • ただし老齢退職年金の1日あたりの金額(年額の360分の1)が、傷病手当金の日額より少ない場合は差額が支給されます。

労災保険から休業補償給付を受けていた(受けている)場合

  • 労災保険と傷病手当金は同時に受給できません。[1]

傷病手当金は「業務外」の病気やケガに対する給付だからです。

また過去に労災保険から休業補償給付を受けていた場合、同じ病気・ケガでは傷病手当金は支給されません。

業務によって生じた病気や、通勤中のケガなどの場合は労災保険で申請しましょう。

  • ただし労災保険による給付額の日額が、傷病手当金の日額よりも少ないときは差額が支給されます。

出産手当金を同時に受けられるとき

  • 傷病手当金と出産手当金をどちらも受給できる場合、出産手当金が優先されます。

  • ただし傷病手当金の日額が出産手当金の日額よりも多ければ、その差額が傷病手当金により支給されます。

傷病手当金を受け取ったあと、これらの条件に該当するとわかった場合は傷病手当金の返還が必要なことがあります。

受給開始後に給与や報酬を受け取ったときは、早めに健康保険に報告しましょう。

退職などで資格喪失した場合はどうなるの?

退職し資格喪失した後も、条件を満たせば傷病手当金を引き続き受給できます。

条件は以下の5つで、全てを満たす場合に限ります。

  1. 退職日までに、協会けんぽや健康保険組合に1年以上継続して加入していること(任意継続の期間は除く)

  2. 退職日の前日までに、すでに3日以上連続で休職しており退職日も休職していること

  3. 失業給付を受けていないこと(失業給付は働ける人に対して支給される給付のため併用不可)[5]

  4. 退職後も同じ病気やケガで働けない状態が続いていること

  5. 療養が途切れず継続して就労不能であること

傷病手当金を受け取れるのは、支給開始日から通算1年6か月までです。

退職前から傷病手当金を受給していた場合、退職後は残りの期間のみ支給されます。

また退職後に一度仕事ができる状態になった場合、そのあと再び働けなくなっても傷病手当金は受給できません。

「退職後、いつまで傷病手当金がもらえるかわからない」という人は、早めに健康保険に問い合わせておくと安心です。

傷病手当金と出産手当金は同時に受けられる?

傷病手当金と出産手当金は、基本的に同時に受給できません。

どちらも働けない期間の収入を保障する制度で、重複して支給されることがないためです。

出産手当金の支給対象期間である産前42日・産後56日は、出産手当金が優先されます。[6]

ただし出産手当金の日額よりも、傷病手当金の日額のほうが高い場合は差額が支給されます。

申請後に混乱しないよう不明点は健康保険に確認し、受給条件や支給額をしっかり把握しておきましょう。

傷病手当金と障害厚生年金は同時に受けられる?

傷病手当金と障害厚生年金は、基本的に同時に受給できません。

どちらも受給できるときは障害厚生年金が優先され、差額が発生した場合のみ傷病手当金が同時に支払われます。

たとえば障害厚生年金の日額(年額の360分の1)が、傷病手当金の日額よりも少ないときです。

どちらが受け取れるかわからない場合は、年金事務所や健康保険の窓口に相談し、適切に受給できるようにしましょう。

受給中の生活で気をつけたいこと

傷病手当金を受給している間に気をつけるポイントは、以下の3つです。

  • 基本的に仕事をすることはできません[7]

  • 療養に専念する必要があります

  • 医師の指示に従う必要があります

傷病手当金では「仕事ができない状態」であることが支給条件の一つです。

短時間の労働や軽い仕事でも、収入があると「働ける状態」だと判断される可能性があります。

傷病手当金の支給が停止するおそれがあるため、基本的に仕事はしないようにしましょう。

また、傷病手当金は病気やケガが治るまでの生活をサポートするためのものです。

できるだけ早く治して、職場復帰できるよう療養に専念しましょう。

傷病手当金の申請時には、傷病手当金支給申請書の医師記入欄に労務不能の証明をもらうことが必要です。

長期療養する場合は基本的に1か月ごとの申請が必要なケースが多いため、定期受診を忘れないようにしましょう。

給料をもらいながら受給できる?

就労をして給料をもらうと、傷病手当金の支給が停止される可能性があります。

傷病手当金が病気やケガで働けない人を支援するための制度だからです。

ただし以下の収入の場合は、傷病手当金の審査に影響しません。

  • 株式投資の配当金

  • 不動産投資の賃貸収入

  • 年金や保険の給付金

傷病手当金を受給しながら収入を得たい場合は、不労所得が得られる方法を検討しましょう。

職場復帰するときの手続きについて

傷病手当金を受給していた人が、職場復帰するときの流れは以下のとおりです。[8]

  1. 主治医と相談して復職可能か確認する

  2. 勤務先の産業医との面談を受ける

  3. 勤務先で復職手続きをおこなう

「そろそろ仕事に戻れそうだ」と感じたら、まずは主治医に相談しましょう。

職場復帰を焦ってしまうと、再び体調を崩してしまう可能性があります。

主治医が復職可能だと判断するまでは、無理をせず治療を続けることが大切です。

主治医から職場復帰の許可がでた場合は、産業医との面談を受けます。

実際の業務に戻れるかを確認し、体調に応じた職場環境を調整するためのものです。

面談の結果によっては、時短勤務やリモート勤務など、体調に応じた働きかたが提案されることもあります。

また「いきなりフルタイムで働くのが心配」という場合は、リハビリ勤務(試し出勤)について勤務先に確認するのも一つの方法です。[9]

リハビリ勤務とは、短時間勤務から復帰するなど段階的に通常勤務に戻すための方法です。

復職後に体調を崩さないように、勤務先と相談しながら無理のない復職スケジュールを検討しましょう。

Q&A

よくある質問にお答えします。

会社への相談はどうすればいい?

まずは上司や人事部門に、自分の体調や休業の必要性について説明しましょう。

その際は以下のポイントをふまえると、自分の状況が伝わりやすいです。

  • 医師の診断をもとに、休業期間の見込みを伝える

  • 傷病手当金の申請手続きなど、必要な手続きの協力を依頼する

  • 体調や復帰の目安について、定期的に報告する旨を伝える

急に休業すると伝えた場合は、業務に支障をきたす可能性があります。

病気やケガで療養が必要だとわかったら、できるだけ早めに上司や人事部門に相談しましょう。

パート・アルバイトでももらえる?

社会保険に加入していれば、パート・アルバイトでも傷病手当金を受給できます。

社会保険の加入条件は、以下のいずれかに該当することです。[10]

  • 1週間の所定労働時間や1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であること

  • 社会保険の5つの加入条件を全て満たすこと

    1. 週の所定労働時間が20時間以上

    2. 賃金月額が8.8万円以上(年収106万円)

    3. 2か月を超えて雇用されることが見込まれていること

    4. 従業員51名以上の勤務先で働いていること(厚生年金の被保険者の数)

    5. 学生ではないこと(夜間や定時制の場合は学生でも加入できるケースがある)

国民健康保険に加入している人や勤務時間が短く社会保険に加入していない人は、傷病手当金の支給対象外になります。

パート・アルバイト勤務の人で条件に当てはまるかわからない場合は、勤務先に問い合わせてみましょう。

自分から退職する場合はどうなる?

退職後も条件を満たせば傷病手当金を受給できるケースがあります。

ただし、以下の条件を全て満たす必要があります。

  • 退職日までに健康保険の加入期間が1年以上あること

  • 退職日の前日までに3日以上休職し、退職日も出勤していないこと

  • 退職日に傷病手当金を受給していた病気・ケガで、退職後も療養が必要な状態が続くこと

この条件を全て満たしていない場合は、退職後の傷病手当金が支払われません。

傷病手当金の受給開始後に退職を考えているかたは、自分が受給条件を満たしているか事前に確認しましょう。

長期間受給する場合知っておいたほうがいいことは?

傷病手当金を長期間受給する場合は、定期的な手続きが必要です。

手続きのポイントは以下の3つです。

  • 定期的な申請書の提出が必要になる

  • 症状の経過報告を求められる場合がある

  • 1年6か月を超える場合は、ほかの制度の利用を検討する必要がある

傷病手当金は、通算で1年6か月までしか支給されません。

長期療養が必要な場合は、支給終了後の生活について早めに考えておくことが大切です。

たとえば、障害年金などの制度を利用できる可能性があります。

「傷病手当金が支給されなくなったあとの生活が心配」という人は、早めに公的支援制度を確認し、必要な準備を進めましょう。

ほかの助けになる制度も確認しよう

病気やケガにより長期間の療養が必要になった場合は、傷病手当金以外の制度も利用すると負担を減らせる可能性があります。

傷病手当金のほかの制度を知り、長期の休職にともなう負担を軽減させましょう。

医療費が高額な場合の支援制度

高額療養費制度を利用すると、毎月の医療費の負担を減らせます。[11]

高額療養費制度とは、1か月の医療費が一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた分の医療費が払い戻される制度です。

またあらかじめ健康保険に「限度額適用認定証」を申請しておくと、医療機関や薬局の窓口で支払う金額を減らすこともできます。マイナ保険証を通じた申請も可能です。

高額療養費制度と傷病手当金を併用すると、生活費と医療費の負担を軽減できます。

「医療費が高額になりそう」と感じたら、適用条件や申請方法を確認しておきましょう。

障害が残った場合の年金制度

病気やケガの治療を続けたものの、障害が残った場合は障害年金の受給を検討できます。[12]

傷病手当金は病気やケガで障害が残り働けない状態が続いても、通算1年6か月で支給が終了します。

一方で障害年金の場合は長期的な支援を受けられる制度のため、支給期間をさらに伸ばせるかもしれません。

障害年金の受給条件は以下の3つです。

  1. 初診日が公的年金(国民年金・厚生年金)に加入中であること[13]
    会社員:厚生年金の加入者であるため、障害厚生年金の支給対象です。

    自営業やフリーランス:国民年金の加入者であるため、障害基礎年金の支給対象です。

  2. 保険料の納付要件を満たしていること[13]
    過去に年金を納めていない期間が長いと、障害年金を受給できない場合があります。

  3. 障害認定日(初診日から1年6か月経過した日)に障害等級1級・2級(厚生年金の場合は1〜3級)に該当すること[13]

    障害年金は障害の程度に応じて1級・2級・3級に分類されます。[14]

    このうち3級は「仕事の内容が制限される程度」ともっとも程度が軽い障害で、厚生年金の加入者のみ支給対象です。

障害年金の支給額は、障害の等級や加入している年金の種類により決まります。

障害年金の受給条件に該当するかどうかわからない場合は、年金事務所に相談してみましょう。

失業給付との関係を知っておこう

傷病手当金と失業給付は、どちらも仕事ができない場合に生活を支える制度ですが、支給の条件が異なるため同時には受給できません。

傷病手当金と失業給付の特徴は次のとおりです。

 

傷病手当金

失業給付(基本手当)[15]

目的

病気やケガで働けない人の生活支援

働く意思・能力があるが仕事が見つからない人への支援

支給元

健康保険

雇用保険(ハローワーク)

受給期間

1年6か月

90〜360日

就職活動の必要性

なし(療養に専念する)

あり(積極的に求職活動が必要)

同じ人が両方の条件を満たすことはできないため、失業給付と傷病手当金を同時に受け取るのは不可能です。

どちらの手当を申請すれば良いか迷ったときは「すぐ働けるかどうか」を基準に判断しましょう。

病気やケガで働けない状態であれば傷病手当金、すぐに働ける状態であれば失業給付が対象となります。

まとめ

傷病手当金は、病気やケガで働けなくなったときに生活を支えてくれる大切な制度です。

先行きに不安を感じたときも、傷病手当金を利用すれば収入への不安を軽減しながら安心して療養に専念できます。

傷病手当金を受給するためには、受給のルールや手続きを理解し準備を進めることが必要です。

申請手続きでわからないことがあれば、一人で悩まず勤務先や健康保険に相談しながら進めていきましょう。

職場の悩み・休職相談をオンラインで

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参考文献

[1]生活を支えるための支援のご案内|厚生労働省

[2]社会保険加入に関するQ&A|厚生労働省

[3]令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省

[4]標準報酬月額の上限|厚生労働省

[5]失業等給付について|厚生労働省

[6]出産手当金|厚生労働省

[7]被用者保険の適応拡大 参考資料集|厚生労働省

[8]心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き|厚生労働省

[9]試し出勤|厚生労働省

[10]パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。|政府広報オンライン

[11]高額療養費制度を利用される皆さまへ|厚生労働省

[12]障害年金ガイド|日本年金機構

[13]障害年金制度について|日本年金機構

[14]障害等級表|日本年金機構

[15]基本手当について|厚生労働省

本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。

具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。

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    • 自分を傷つけたいと思う
    • 具体的に死ぬ方法について考えている
  • 身体疾患が強く疑われる場合
    • 高熱がある
    • 呼びかけてももうろうとしている
    • 意識がない
  • 緊急性が認められる場合
    • ここ数日の間で急激に状態が悪化している
    • 食事や水分をとることができない
TOP医療コラム【傷病手当金】完全ガイド|初心者でも分かりやすく解説