認知行動療法のスキル(技法)とは?
認知行動療法では、スキルを身に付けて実践し、困りごとを解決していきます。
認知行動療法のスキルには、自身の状況や感情を記録し客観視するものや体の緊張をほぐしてストレスを低減させるものなど、さまざまな種類があります。
困りごとによって合うスキルは異なるため、カウンセラーのアドバイスを受けながら一緒に練習をしていくことがおすすめです。
認知行動療法のスキルは、主にうつ病やパニック障害、強迫性障害、統合失調症などの治療や再発予防に使われますが、精神疾患の治療をしていない方でも日常的に使えるものばかりです。
認知行動療法のスキル(技法)にはどんな種類がある?
この記事では、次の8種類の認知行動療法スキルについて解説します。
- 行動活性化
- アサーションスキル
- 認知再構成法
- リラクセーション法
- マインドフルネススキル
- 問題解決技法
- エクスポージャー法
- スキーマの修正
具体例とともに紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
スキル(技法)1-行動活性化
行動活性化とは
行動活性化は、「なんだかやる気が出ない」と憂うつになっているときにおすすめのスキルです。
今するべきことがあるけれど「やる気が出ない」「落ち込んでいて憂うつ」という理由で、つい後回しにしてしまうこともありますよね。
ですが、するべきことをずっと避けていると、後ろめたく感じたり、より気分が落ち込んでしまうこともあるでしょう。
そこで行動活性化では、まずは行動を変えてみることで、気分の変化があるかどうか観察します。
実践例
例えば、部屋の散らかりをずっと放置してしまっていて、部屋を見るたびに嫌な気分になっているとしましょう。
そんなとき、あえて避けていた掃除に取り組んでみます。
きれいになっていく部屋を目の当たりにして気分が良くなったり、時間がかかって疲れたりするかもしれません。
そして、そのときの気分を記録していきます。
このように、行動活性化では行動と気分を記録して両者の関係性を客観視します。
今まで避けていたことにもチャレンジしてみて、どんな気分になるかも冷静に観察するのです。
そして、気分が良かったと感じる行動をピックアップし、少しずつ日常に取り入れていきます。
スキル(技法)2-アサーションスキル
アサーションスキルとは
自分と相手両方を尊重しながら自己表現を行うスキルです。主語を「自分」に置き換えたり前向きなお願いをしたりすることで、自分と相手の意見を弱めすぎることなく、心地よいコミュニケーションが取れます。
実践例
ここでは、アサーションスキルの一例として、厚生労働省もすすめる「ミカンていいな」という伝え方をご紹介します。
「ミカンていいな」を意識した伝え方
- 自分が見(ミ)た事実と感(カン)じている気持ちを交えて提(テイ)案する
- 提案を否(イナ)定された場合は、別の提案をしてみる
例えば、仕事で忙しいときに上司から「これお願いできる?」と別の仕事を頼まれたとします。
ここで「今忙しいから無理です!」と強く言ったり「やります」と無理に引き受けてしまったりするのは、自分も相手も尊重できていない状態です。
ここで「ミカンていいな」を意識すると、次のような伝え方ができるでしょう。
「ぜひ引き受けたいのですが、今は他にやることが多くてすぐに着手できません。明日で良ければやらせてください」
それでも上司に「どうしても頼むよ」と言われた時は、以下のように別の提案で乗り切れるかもしれません。
「わかりました。では今取り組んでいる仕事を明日に回すことにして、今日はそちらに取り掛かるようにします」
アサーションスキルが活用できると、職場や教育現場でのコミュニケーションも円滑になるでしょう。
スキル(技法)3-認知再構成法
認知再構成法とは
認知再構成法というスキルは、自身の出来事の捉え方(認知)を把握し、偏りを修正したり、別の捉え方を身に着ける技法です。
心理学では、出来事の捉え方を「認知」と呼びます。
認知はその人の今までの経験からくる信念によって異なり、認知が極端に偏ってしまうことがあります。
認知再構成法では、偏りのある認知に対して「こういう捉え方もできるよね」と柔軟に考え直す作業をしていきます。
実践例
例えば、恋人に電話をかけたのに出てくれず、いつまで経っても折り返してくれないとき「私のことが嫌いになってしまったんだ」と極端な考えをしてしまうこともあるでしょう。
ですが、恋人は仕事や予定で忙しいから電話ができない可能性もありますよね。
もしかしたら、スマートフォンの電源が切れてしまっているとか、そもそも電話が苦手なのかもしれません。
他にも色々な原因が考えられるでしょう。
このように、認知の偏りから抜け出すと、さまざまな捉え方ができるようになります。
認知再構成法は、極端にネガティブに物事を考えてしまう方に特に役立つスキルでしょう。
スキル(技法)4-リラクセーション法
リラクセーション法とは
リラクセーション法は、自分の体をほぐしてケアしていくスキルです。
私たちは緊張や不安を抱えていると、自然と筋肉が緊張して体がこわばってしまうものです。
そこで、緊張してしまった体に意識を向けリラックスさせていきます。
実践例
リラクセーション法はご自身で簡単にできて、日常に取り入れやすいものが多いです。
ここでは座ったままできるリラクセーション法を2つご紹介します。
記事を読んでいて疲れてしまった方は、実際にやってみてリラックスしてくださいね。
呼吸法
- 体の力を抜いていくイメージで、口から息を吐き出します
- 息を吐き切ったら、鼻から息をゆっくり吸い込みます
- 息を吸ったら2〜3秒呼吸を止めます
- 息を口から吐き出します
- 2〜4を数回繰り返します
ポイント
お腹に意識を向ける腹式呼吸を心がけましょう
漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)
①ゆったりとした服装で、リラックスした状態をつくります
②握りこぶしを作り、10秒ほど力を入れた状態をキープします。このとき、息を止めないように注意しましょう。
③手の力を抜きましょう
ポイント:力を抜いた瞬間、体の緊張が取れているか確認しましょう。手以外の部分で実施するのもおすすめです
ストレスや緊張で体がこわばりやすい方は、ぜひ取り入れてみましょう。
スキル(技法)5-マインドフルネス
マインドフルネスとは
マインドフルネスは「今、この瞬間に集中する」という技法です。
今のこころや身体の状態に集中することで、徐々に自分自身を落ち着いて客観視できるようになっていきます。
心理療法で活用されるほか、集中力が高まるという理由でビジネスの世界でも取り入れられるようになりました。
マインドフルネススキルは、次の手順で進めていきます。
マインドフルネススキルの手順
- リラックスできる状態で椅子か床に座る、または仰向けになります
- 自然な呼吸を続け、呼吸に伴う身体の感覚の変化に意識を集中し続けます
- 数分間2を続けましょう
ポイント
頭の中に考え事が浮かんでも問題ありません。気がそれていることに気づいたら、ゆっくりとまた呼吸に意識を戻しましょう。
行う時間は数分間でもかまいません。徐々に時間を伸ばしていくこともおすすめです
マインドフルネスに期待できる効果
不安やうつ状態は未来や過去のことを考えると起きる感情です。
マインドフルネススキルで今に集中することで不安や怒りを感じにくくなります。
また、今の状態に集中することで、「今、私は怒っているな」といったように、自分の感情を客観視できるようになるでしょう。
最初は上手くできないこともあるかもしれません。
しかし、そこで「私はダメなんだ」などと良し悪しを評価しないことが大切です。
無理のない範囲から少しずつ始めてみるとよいでしょう。
スキル(技法)6-問題解決技法
問題解決技法とは
問題解決技法は、ストレスに感じている問題を整理することで解決に導いていくスキルです。自分で解決できないと感じている問題も、客観的に整理したり優先順位を付けたりすると、解決の糸口が見つかることもあります。
問題解決技法の進め方
問題解決療法は以下の手順で進めていきます。
1.問題の整理
自分が困っている問題を見直し整理します。具体的な内容にすることがポイントです。
例)仕事がつらい
→残業するからつらい、満員電車で出社するのがつらい、上司が高圧的な態度でつらい
2.目標の設定
達成できる範囲で目標を設定します。期限や量など数値化ができる目標が望ましいです。
例)残業を減らす
「これから1ヶ月で、残業時間を1日30分減らす」
3.解決方法の提案
実現可能かどうかは置いておいて、できるだけ多くの解決方法を出してみましょう。カウンセラーや周りの人と意見を出し合うこともおすすめです。
例)残業時間を1日30分減らすための解決方法
「業務量を減らす、業務を自動化する、同僚に頼ってみる、急に頼まれた業務は断る」
4.実践と評価
結果を振り返り、感情に変化がないか評価していきます。
問題を整理するためには、紙に書き出す方法やカウンセラーと対話して整理していく方法があります。
ご自身に合った方法を選びましょう。
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スキル(技法)7-エクスポージャー法(曝露法・曝露反応法)
エクスポージャー法(曝露法・曝露反応法)とは
エクスポージャー法は曝露法・曝露反応法とも呼ばれます。
「曝露(ばくろ)」とは、苦手で避けている出来事に少しずつ慣れていくことです。
不安症やトラウマ(PTSD:心的外傷後ストレス障害)への心理療法としても活用されています。
苦手なことをすると、その刺激によりストレスや不安を感じることがありますよね。
しかし、苦手なことを避け続けてしまうと、かえってストレスや不安が慢性化して大きくなってしまうことがあります。
エクスポージャー法では、苦手なことを避けるのではなく、負担のない範囲からチャレンジして成功体験を増やしていき、苦手を克服していきます。
実践例
例えば、人前でスピーチをするときにひどく緊張してしまう場合は、まずは1人の前で練習し、徐々に人数を増やして慣れていくという方法もあるでしょう。
不安症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療として行う際は、治療者が同伴することで安心・安全を確保します。
スキル(技法)8-スキーマの修正
スキーマの修正とは
スキーマの修正は、物事の考え方(スキーマ)が極端に偏っている場合に修正をしていくスキルです。
スキーマとは
スキーマとは、簡単に言うとその人の「考え方(こころの法則)」のことです。
過去の経験やトラウマ、成功体験などからつくられた考え方のパターンで、実際に起きた出来事に対する捉え方(認知)にも影響を与えます。
例えば「人に頼ってはいけないんだ」というスキーマを持っていると、自分1人で解決できないような出来事が起きたとき、周りに頼れず自分を追い込んでしまうことでしょう。
「自分は何もできないんだ」と強く自己否定してしまうかもしれません。
ですが、実際は人に頼ることで上手くいくことも多いのではないでしょうか。
周りの意見を聞くことで、難しいと感じていた問題がすぐ解決したという経験がある方もいるでしょう。
スキーマの修正は、考え方を柔軟にしていくことでバランスの取れた自由な行動ができるように導いていくスキルです。
認知行動療法のスキル(技法)を習得するには?
認知行動療法のスキルを習得する方法には「アプリや本でセルフで学ぶ」「カウンセリングを受ける」の2種類があります。
アサーションスキルやリラクセーションスキルなど、すぐに実践できるタイプのスキルは、まずはアプリや本を使い、どのようなものなのか試してみることができます。
ですが、多くの認知行動療法スキルでは自分の考え方や感情を客観視する必要があり、認知行動療法を始めたばかりの頃は難しく感じることでしょう。
そんなときは、自分に合った認知行動療法のスキルを身に付けられるカウンセリングサービスを利用しましょう。
複数回のカウンセリングを通して医師やカウンセラーと対話すると、ご自身で新たな気づきを得られます。
また、次回のカウンセリングへ向けてホームワーク(宿題)に取り組むことで、スキルをより効果的に身に付けていくことが可能です。
まとめ
毎日の生活の中で不安やストレスを感じたら、まずは今の状況を客観視すると、解決方法が見えてきます。
自分自身で状況や考え方を整理できれば、認知行動療法のスキル(技法)を通じて解決することができるかもしれません。
また、スキルは日常生活で取り入れるだけでなく、時には得たスキルを今後どのように活かしていくか振り返り考えることも大切です。
この記事では、認知行動療法のスキルを8種類ご紹介しました。
自分に合ったスキルを知りたい方や継続的に認知行動療法を実践したい方は、カウンセリングサービスを通じてカウンセラーに相談してみるとよいでしょう。
認知行動療法に対応!自宅で受けられるファストドクターのメディカルカウンセリング
参考資料
厚生労働省「こころの耳|働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」15分でわかる認知行動変容アプローチ
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。