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大人の傷が治りにくい理由は糖尿病だけじゃない!大人の傷が治りにくい理由

年を重ねるごとに「傷が治りにくいな」と感じた経験はありませんか?

もしかしたら、そこには加齢以外の原因が潜んでいるかもしれません。

傷が治りにくい疾患として糖尿病がよく知られています。

しかし、糖尿病の既往がないのに傷が治りにくい方は少なくありません。

この記事では糖尿病はもちろん糖尿病以外の疾患や原因をまとめました。

自然修復能力(自然治癒能力)を高めるためにはどうしたら良いのかも合わせて理解を深め、改善できる点は日常生活に取り入れていきましょう。

記事監修

名倉 義人 医師

○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院

○資格
救急科専門医

○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会

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傷が治るメカニズムとは

原因や病気を知る前に、どのようにして傷が治っていくか理解しましょう。

<傷が修復するまでの流れ>

①免疫細胞が傷口で細菌とたたかうケガややけどを負うと、皮膚は細菌感染を防ぐため、免疫細胞が傷口で細菌とたたかいます。以前までは当たり前に消毒薬を使用していましたが、最近では流水で傷を洗浄して清潔な状態を保つ方法が主流です。消毒薬を使用することで、細胞の自然治癒力が低下し、むしろ傷の修復を遅らせてしまうことが明らかになったためです。

②線維芽細胞が傷を修復しようと働く皮膚は、表面から順番に「表皮」「真皮」「皮下組織」によって成り立っており、線維芽細胞は「真皮」に存在します。
真皮には肌の3大構成要素である「ヒアルロン酸」「コラーゲン」「エラスチン」があり、線維芽細胞はこれらのメンテナンスの役割を担っています。
傷が治る環境が整うと、線維芽細胞がコラーゲンを作って傷を修復しようと働き、新しい血管ができて、酸素や栄養を届けるのです。
このとき、表皮になる組織も同時に再生されていきます。

③肉芽組織が形成される線維芽細胞が行う修復過程の中でできる新生組織のことを肉芽組織とよびます。肉芽組織はきれいな赤みを帯びていて、全体的にきゅっとしまっているものです。この修復過程で傷口の化膿や、血行不良が原因で修復がうまくいかないと、肉芽組織の色は赤みが少なくなったり、全体的にむくんで(浮腫)傷の修復に時間がかかったり、傷あととして残ったりします。

④治癒へ肉芽組織の周りから表皮細胞が移動して増殖した後、肉芽組織が小さくなって傷が治ります。

参考:通常の傷の治り方について|KISSEI

大人の傷が治りにくい病気・原因

傷が治る過程の中で、疾患や加齢によって弱まる力があり、大人の傷を治りにくくする原因となるものがあります。

治りにくい傷のことを医療用語で「難治性潰瘍」とよびます。

主に寝たきりの方にできやすい床ずれ(褥瘡)もそのひとつです。

難治性潰瘍の原因はさまざまで、代表的な疾患としては糖尿病が知られていますが、糖尿病の既往がなくても「傷が治りにくい」と感じている方もいるでしょう。

ではどんな理由があるのでしょうか。

傷の治りが遅い理由①糖尿病

まずは傷が治りにくい代表疾患ともいえる「糖尿病」です。

糖尿病患者の傷が治りにくい理由に、「血流障害」と「神経障害」、「免疫能低下」があります。

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血流障害

血液は酸素や栄養分を体の隅々に送る働きをしています。

糖尿病は血糖値が高い状態が続いている疾患で、高血糖状態では血液がドロドロになり血行が悪くなります。

また、高血糖状態が続くと「動脈硬化」が起きやすくなり、血流障害を引き起こすのです。

血流障害が起こると体に酸素や栄養分が行きわたりづらくなるため、傷が治りにくくなります。

神経障害

糖尿病の3大合併症のひとつに「神経障害」があり、足は特に症状が出やすいです。

神経障害がある場合は、傷への対応が遅れることで傷が治りにくくなります。

神経障害になると、本来であれば気づくレベルの傷ができても、感覚鈍麻によりすぐに気づけません。発見した時には悪化していたというケースが多く、それが理由で治りにくくなってしまいます。

免疫能低下

糖尿病による血流障害は、細胞の働きや必要なものを必要な場所に運搬する力を低下させます。

白血球もそのうちの一つで、働きが低下することと、感染と戦う白血球が感染した部位に到達しづらくなることから、感染しやすい状態になってしまうのです。

糖尿病だけでなく、膠原病などで内服するステロイドも免疫を下げる作用があり、易感染(感染が起きやすい)状態となります。

この易感染状態で傷が出来てしまうと、傷口が感染、化膿しやすくなり治癒遅延が起こります。

傷の治りが遅い理由②ストレス

創傷治癒とストレスは関連性があるといわれています。

人がストレスを感じると、副腎で産生される糖質コルチコイドが活発化します。

糖質コルチコイドは免疫・炎症抑制作用があり、この作用が創傷治癒を遅らせていると言われている原因です。

傷の治りが遅い理由③加齢に伴う皮膚再生能力の低下

皮膚の再生能力は加齢にともなって低下していきます。

そのため、若いころと比べると「傷が治りにくい」と感じるのです。

傷の治りが遅い理由④栄養・水分不足

傷の修復には十分な栄養・水分が不可欠です。

普段から偏った食事をしていたり、水分を控えたりする方は、傷の治りが遅い場合が多いです。

栄養をしっかり摂ることは、病気やケガからの早期回復につながります。

その中でも特に傷の修復に関連している、タンパク質や鉄分、ビタミンAを含む食品を意識的に摂取することが重要です。

タンパク質

傷の修復過程で、タンパク質の働きは重要です。

傷ができると、タンパク質が合成されて、新しい組織を作ります。

タンパク質が不足すると、通常は自らのタンパク(主に筋肉)を分解させてアミノ酸を作り出し、重要臓器の新陳代謝に役立ちます。

しかし、傷の場合は重要臓器として認識されないため、タンパク質不足の場合はそもそも傷の修復が行われなくなるのです。

したがって、傷が出来てしまった場合はタンパク質を積極的に摂取することが重要となります。

<タンパク質が豊富な食材>

肉類生ハム、鶏ささみ、牛もも肉、豚ロース肉、鶏砂肝など
魚類イワシ丸干し、いくら、焼きたらこ、魚肉ソーセージなど
乳製品牛乳、チーズ、ヨーグルトなど
卵黄、ゆで卵、うずらの卵など
大豆製品豆腐、きな粉、油揚げ、納豆、厚揚げなど

参考:タンパク質が多い食品を紹介。高タンパク食品を手軽に摂取!|森永

鉄分

傷の修復に不可欠な酸素を細胞に運んでくれる重要な栄養素です。

鉄分はタンパク質やビタミンCと一緒に摂取すると、吸収率が高くなります。

動物性食品に多く含まれるヘム鉄と野菜や穀類に多く含まれる非ヘム鉄に分類され、ヘム鉄の方が吸収率が高いと言われています。その分、過剰症には注意が必要です。

<鉄分が豊富な食材>

吸収率食材
ヘム鉄約15~25%レバー、赤身肉、かつお、まぐろなど
非ヘム鉄約2~5%レンズ豆、納豆、小松菜、ひじき、ほうれん草など

参考:鉄分の多い食べ物を知って、効率的に摂ろう インナーケアコラム|大正製薬

ビタミンA(レチノール)

脂溶性ビタミンのひとつで、皮膚や粘膜を正常に保つ働きをしています。

傷口の修復における粘膜の強化に役立っています。

<ビタミンAが豊富な食材>

肉類レバー、鶏むね肉など
魚類あんこう・うなぎの肝、ぎんだらなど
卵、乳製品鶏卵、牛乳、バター
緑黄色野菜ニンジン、かぼちゃ、しそ、モロヘイヤなど
海藻類味付海苔、焼き海苔、乾燥わかめ、乾燥ひじきなど

参考:ビタミンAが豊富な食べ物まとめ|効果的な摂り方や注意点も解説|ふるさと納税DISCOVERY

水分

水分不足により創傷部位が乾燥すると、生きている細胞は死滅、組織は壊死するため治癒遅延が起こります。

積極的に摂取するようにしましょう。

傷の治りが遅い理由⑤肝臓疾患

肝臓のはたらきが低下すると血液中の血液凝固因子が減少します。

血液凝固因子は、何らかの原因で血管が傷つくと、血を固めて出血を塞ごうとする働きをもっています。

したがって血液凝固因子の減少により傷口からの出血が止まりにくくなり、瘡蓋ができないために傷の治りが遅くなりやすいです。

傷の治りが遅い理由⑥傷の感染

糖尿病にともなう免疫力低下や内服の副作用などによる易感染状態で傷口は感染しやすくなります。

傷口が感染して化膿すると治癒遅延が起こります。

<傷の感染徴候>

・発赤(傷の周りが赤い)
・腫脹(傷や周りが腫れている)
・熱感(傷周囲が熱を持っている)
・圧痛(傷周囲を押すと痛い)

また、傷口の浸出液の性質も感染しているかの指標になります。

色がついてドロドロしている、臭気があるなどの場合は感染している可能性が高いです。

傷が赤いのは正常?異常?

傷口が赤い以外の症状の有無により、正常か異常かの判断ができます。

多くの場合、赤みがあるだけであれば正常です。

しかし傷を作ってから数日が経過し、創傷周囲が赤く腫れあがって痛みを伴っている場合は感染している可能性が高いです。

傷がジュクジュクしていて治らないのは感染しているから?

傷がジュクジュクしているのは、正常な修復過程を踏んでいる場合がほとんどです。

皮膚を再生するために、白血球や細菌感染を防いでくれるマクロファージを含む浸出液が出ているためジュクジュクしているのです。

ただし、浸出液が膿のように濁っている、臭気がある、赤みや腫脹があるといった場合は、傷口が感染を起こしている可能性がありますので、皮膚科や形成外科の受診をおすすめします。

参考:なぜ?ジュクジュク傷が治らない…大丈夫?病院に行くべき?

傷の治りが早い人の特徴とは

大人でも傷の治りが早い方ももちろんいます。

「傷の治りが早い=自然治癒力が高い」ということです。

自然治癒力とは傷だけでなく病気を自分の力だけで治す力のことと言われています。

傷を修復するために多くの細胞が働いています。

自然治癒力が高い方は、この細胞が活発に動いていることが多いです。

では、細胞が元気な自然治癒力が高い方はどんな生活をしているのでしょうか。

バランスの良い食事をとっている

先述した通り、傷の修復に重要な栄養素がいくつかあります。

また、糖尿病の方は傷が治りにくい、というように、糖分の多い食事などの偏った食生活を送っている方は傷が治りにくい傾向にありますので、バランスの摂れた食事を摂ることが大切です。

質の良い食生活を送ることで、元気な細胞が増殖し、自然治癒力が高まります。

適度な運動をしている

運動をすることで血流が良くなり、傷の修復を早めたり、怪我を治す白血球を沢山運んでくれたりします。

十分な睡眠習慣が身についている

十分な睡眠をとる習慣が身についている方は、成長ホルモンの分泌が促進され、傷の修復が促進されやすい状態になっています。

私たちの体は寝ている間に成長ホルモンを分泌しているのです。

成長ホルモンには、子供では体の成長を促し、成人では組織を修復して疲労を回復させるなどの重要な働きがあります。

(糖尿病患者の場合)血糖コントロールが良好に保たれている

すでにお伝えした通り、糖尿病の方は傷が治りにくい傾向にあります。

言い換えると、血糖コントロールが良好に保たれていれば傷が治りやすいと言えます。

そのため、糖尿病を患っている方は、食事療法や運動療法をしっかり行い、適切な治療を受けることが傷の治りを早くする近道です。

参考:自然治癒力が強い人と弱い人|上鷺宮接骨院

傷を作らないためにできること

治癒能力を高めるために生活改善することはもちろん大事ですが、傷を作らないように予防することも同じように大切です。

特に糖尿病を患っている場合は神経障害を合併している場合があるので注意しましょう。

裸足で歩かない

水虫予防や足の保護につながるため、室内でも靴下を履くようにしましょう。

重ね履きは血流を阻害することもあるため避けるようにしてください。

足の大きさに合った靴を選ぶ

つま先に1cmほどの余裕があり、自身の足の形に合った靴を選ぶようにしてください。

また、クッション性が良く、革や内貼りが柔らかい安定している靴を選ぶと転倒予防にもなります。

糖尿病神経障害を合併している方は、靴を履く前に異物が入っていないかよく確認しましょう。

爪を正しく切る

高齢になればなるほど、巻き爪などの爪トラブルが多くなってきます。

まずは爪を短く切りすぎないように注意しましょう。

もし巻き爪になっている場合は長めに残すようにして、爪の角を深く切るのは避けてください。

暖房器具による火傷に注意する

湯たんぽや電気あんかの使用による低温火傷に注意してください。

やむを得ず使用する場合は、寝る前にスイッチを切ったり、設定温度を低くしたりと予防行動をとることが大切です。

バスや電車を使用する方は、足元の温風吹き出し口にも注意を払いましょう。

参考:コンシェルジュ|糖尿病サイト

参考:フットケア|国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター

治りにくい傷(難治性潰瘍)の治療方法

傷の治りが遅い原因を取り除いても治らない場合、病院で適切な処置が必要なケースがあります。

外科的デブリードマン

壊死組織を外科的に除去する方法です。

傷に異物が付着していると、創傷治癒が遅れます。

壊死組織も体にとっては異物です。

その壊死組織を効率的に除去する方法の一つが外科的デブリードマンでハサミやメスを使用します。

ドレッシング材の使用

傷の状態に合ったドレッシング材を使用することで創傷治癒を促進します。

ドレッシング材は湿潤環境を作るために最適です。

デブリードマンの種類の一つであり、自己融解作用を利用します。

感染創には基本的に使用できません。病原微生物の逃げ場がなくなり、増殖をして悪化させる可能性が高いためです。

抗菌薬の内服

傷口が感染している場合に内服が処方されるケースもあります。

参考:傷の治りが遅いのは糖尿病が原因?~仕組みと対応をわかりやすく解説~|シンクヘルス株式会社

Q&A

治りにくい傷に関してよくある質問をまとめました。

傷がなかなか治らない原因とは?

傷の治りが遅い理由に以下が考えられます。

傷が治りにくくなる病気は?

傷が治りにくくなる疾患の代表として糖尿病があげられ、糖尿病による血流障害、神経障害、免疫能低下が創傷治癒を遅らせるとされています。

そのほか肝臓疾患がある場合も血液凝固因子が減少することで、傷の治りが悪くなります。

1週間経っても傷が治らないのはなぜですか?

通常は1〜2週間で傷の修復が完了します。

1週間以上経っても改善が見られない場合は、感染していたり、壊死組織が修復を妨げたりしていたりと修復過程に何らかの問題が生じているケースもあります。

長引く場合は皮膚科や形成外科を受診しましょう。

ストレスで傷が治りにくいのはなぜですか?

人がストレスを感じると副腎から糖質コルチコイドと呼ばれるホルモンが多く分泌されます。

糖質コルチコイドは免疫・炎症抑制作用があるため、創傷治癒を遅らせます。

傷が治りにくい理由に年齢は関係ありますか?

加齢に伴い皮膚の再生能力が低下するため、年齢を重ねるたびに自然と傷は治りにくくなります。

まとめ

大人の傷の修復が遅くなる理由として糖尿病やストレス、栄養・水分不足などがあげられます。

こうしたさまざまな要因により、創傷治癒遅延が引き起こされますが、自然治癒力を上げたり、血糖コントロールを良好に保ったりと、早期の治癒を期待できる対処方法があります。

治りが悪い場合、病院での処置が必要なケースもありますので、不安に思ったら皮膚科や形成外科を受診することも一つの手段です。

できることから少しずつ取り入れ、安心安全な日常生活を送りましょう。