民間の救急車とは?119番との違いや利用方法を解説
119番通報をして来てもらう救急車は、怪我や病気によって緊急で治療が必要な方が要請する公的なサービスです。救急搬送数は年々増加していて、一件にかかる時間も増加しており、救急医療の負担は増加しています。
救急医療の負担が増えることで、救急車を呼んでから病院で治療や検査を受けられるまでの、待機時間が増えることにつながります。このような負担をなるべく軽減するための、解決策の1つとなるのが「民間救急」とも呼ばれる患者搬送の民間サービス(患者等搬送事業)です。
本記事では、民間救急についての基本的な知識とその利用方法について解説します。

名倉 義人 医師
○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院
○資格
救急科専門医
○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会
民間救急 患者等搬送事業とは?
患者等搬送事業とは運輸局や消防局の許可を得た、緊急時以外の「患者搬送」をおこなう民間のサービスのことです。緊急時に119番通報で駆けつけてくれる公的な救急車と区別して、「民間救急」と呼ばれることがあります。
患者等搬送事業(民間救急)の役割
患者等搬送事業(民間救急)は、「車椅子やストレッチャーのまま移動したい」「自分では動けない」などさまざまな事情の方の搬送をおこないます。「救急」という呼ばれ方をしていますが、緊急時の搬送に使うことは現状なく、公的な救急車とは役割が全く異なります。
民間救急は、ストレッチャーや車椅子を固定できる車両を用いておこなわれるもので、自治体の消防局から認定を受けなければなりません。認定にあたって、乗務員の方はAEDの使用方法など応急手当てに関する講習を受けています。
公的な救急車との大きな違いは「サイレンを鳴らした緊急走行ができない」という点です。したがって、民間救急を利用中に「緊急で受診が必要な状態」になった場合は、公的な救急車を呼ぶことになります。
また、公的な救急車には必ず救急救命士が乗務しているのに対し、患者等搬送事業の場合は救急救命士は必須ではありません。民間救急の利用するタイミングは以下の通りです。
<民間救急を利用する例>
- 退院にあたり、ストレッチャーや車椅子のまま移動する必要がある
- 病院から別の病院へうつる(転院搬送)
- 通院にサポートが必要
- スポーツの大会をするにあたって救護車を用意したい
民間救急の活用の場の1つとして、今とくに期待されているのが、転院搬送です。
病院はそれぞれに役割があり、その病院でなくてはできない治療が終了したけれども、まだ入院が必要という場合、別の病院へ転院することになります。たとえば、脳梗塞や交通事故によるケガの場合、まずは集中治療室を持つような「高度急性期機能」、状態を早期に安定化させることを目的とした「急性期機能」などへ搬送されます。
急性期機能を持った病院で治療をおこない、ある程度状態が落ち着いたら、リハビリをおこなう「回復期機能」や、長期療養を目的とした「療養機能」を持つ病院へとうつります。また逆に、回復期機能を持つ病院に入院している間に病状が急変し、急性期機能を持つ病院へ転院するということもあります。
このように、病院から病院へ転院する場合、点滴など何らかの医療処置が必要であれば、救急救命士が乗っている公的な救急車を使います。しかし、とくに医療処置は必要でない場合も多いです。
たとえば、交通事故のケガがある程度よくなり、これからリハビリをするためにリハビリ専門の病院へ転院するというような場合の多くは、医療処置は必要ありません。
そのような場合に、全例公的な救急車を使ってしまうと、数の限られた救急車が出払ってしまい、必要な救急要請に応えられないという事態が生じるかもしれません。
医療処置が必要でない安定した状態の転院搬送には民間救急を活用することで、救急車の適正利用をすすめよう、ということが現在考えられています。
介護タクシー・福祉タクシーも民間救急の一種
民間救急には、介護タクシー・福祉タクシーも含まれます。皆さんも、スロープやリフトがついて車椅子での乗り降りがしやすくなっている福祉車両を見かけたことがあるのではないでしょうか。
介護タクシーや福祉タクシーは、担当のケアマネジャーやかかりつけ医と相談の上、通院などに利用することができるサービスです。福祉車両が使われることがほとんどですが、乗務員の方が介護福祉士などの資格を持っている場合は、一般車両が使われることもあります。
介護タクシーは、要介護認定を受けた方の通院などのために、介護保険を適用して利用できるタクシーを指します。訪問介護サービスの一種で、乗務員は「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」という資格を持っているので、車の乗り降りをサポートしてもらうことが可能です。
ただし、介護保険を使ったサービスなので利用目的には制限があり、旅行やレジャーのための利用はできません。また、家族などが同乗することもできません。
福祉タクシーは、要介護認定を受けていない方でも、交通機関などを使った移動が難しい方なら年齢を問わず利用できます。身体障害者手帳や療育手帳をお持ちの方を主な対象としていますが、事業者によっては利用に条件を設けていない場合もあるようです。利用できるかどうかについては、個別に事業者へお問い合わせください。
介護タクシーと違い、乗務員の方は乗り降りのサポートをしてはいけないことになっているため、自分や介助者のサポートのもとで乗り降りができない方は利用が難しいかもしれません。介助料を別途設定している事業者もあります。保険を使ったサービスではなく自費なので、通院以外にも、レジャーなどさまざまな用事で使うことが可能です。
民間救急の利用を考えている方へ
これまで、民間救急が担っている業務について、ご紹介してきました。民間救急は今後発展していくことが期待される分野で、まだ全国で決まった定義や運用がなされていないのが現状です。都道府県によっては、統一の受付センターのようなものを持っている場合もあれば、各事業者ごとに受付をしている場合もあります。
たとえば東京都では、「東京民間救急コールセンター」という電話窓口があります。
各区や市ごとに登録されている事業者を紹介してもらえますので、ご興味のある方はこちらのページを参照してみてください。
https://www.tokyo-bousai.or.jp/tokyo-callcenter/index.html#gsc.tab=0
リハビリや定期受診・入退院などにあたって、通院方法にお困りの場合は、まず担当のケアマネジャーやかかりつけ医に相談されるのがよいでしょう。
「通院方法に困って、受診をやめてしまった」という方も少なくありません。そのような場合には、民間救急を利用するほか、オンライン診療・訪問診療へ切り替えるなど方法を考えることもできますので、かかりつけ医などへご相談ください。
まとめ
今回は、「救急車を呼ぶような状態ではないけど、自力での移動は難しい」という場合に活用が期待される「民間救急」についてご紹介しました。民間救急は公的な救急車と異なり、病院間の転院搬送から通院、レジャー利用など幅広い利用用途があり、今後の活躍が期待されている分野です。
まずはこのような制度があるということを知っておいてください。通院が難しい場合には、担当のケアマネジャーやかかりつけ医と相談の上、介護タクシーや福祉タクシーなど民間サービスの利用をご検討ください。
当院でもお気軽に相談に応じております。ご不明点や困っていることがある方は、ぜひ一度ご相談ください。あなた自身の健康を守るために、スタッフ一同全力でサポートします。
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※いずれも一部、対応エリア外があります。
詳しくはお電話にてお問合せください。
・東京防災救急協会
https://www.tokyo-bousai.or.jp/tokyo-callcenter/index.html#gsc.tab=0
・消防庁. 患者等搬送事業指導基準等の一部改正について
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/assets/291222_kyu216.pdf
・公益財団法人. 東京防災救急協会
https://www.tokyo-bousai.or.jp/tokyo-callcenter/index.html#gsc.tab=0