インフルエンザの異常行動とは
インフルエンザの異常行動とは、インフルエンザウイルスに罹患した患者が急に走り出したり、うわごとを言ったりと普段ではしないような行動を起こすことを指しています。
異常行動についてわかっていることは以下の3点です。
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10歳代の男児に多く発現する(女児に発現することもある)
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発熱から2日以内に現れることが多い
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異常行動の原因は、「熱せん妄」、「インフルエンザウイルスによる脳炎・脳症」「薬の副作用」のいずれかであるが、薬との因果関係ははっきりとしておらず、ほとんどの場合「熱せん妄」または「脳炎・脳症」の可能性が高い
インフルエンザの異常行動例
実際にあった異常行動の例を紹介します。
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興奮してベランダに出て飛び降りようとする
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急に大きな声で笑う
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突然立ち上がり部屋から出ようとする
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自宅から出て外を歩きだし、話しかけても反応しない
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突然泣き出し部屋の中を動き回る
次に、報告の多い異常行動と事故防止のための対策を紹介します。
インフルエンザの異常行動①飛び降り
過去に、突然ベランダに出て飛び降りたという報告があがっています。
転落や飛び降りは死亡事故につながる可能性が極めて高いため、特に注意が必要です。
事故防止のための対策
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窓に格子の付いた部屋で寝かせる
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ベランダに面していない部屋で寝かせる
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戸建ての場合は1階で寝かせる
これらの対策は、厚生労働省からも推奨されている方法です。
幼児や就学以降の子どもの場合、最低でも発熱から2日間は保護者が近くで見守るようにしてください。
インフルエンザの異常行動②突然笑う・泣き出す
突然笑う、または泣き出す、うわごとを言うなどの異常行動も多く見られます。
笑ったり泣いたりしている時は、多くの場合話しかけても反応しません。
このような異常行動がみられたときは焦らず様子をみましょう。
速やかに意識が回復して、いつも通りの様子に戻った場合は特に心配する必要はありません。
ただし、何度も繰り返すときや意識がなかなか回復しないというときは医療機関を受診してください。
インフルエンザの異常行動③突然走り出す
飛び降りと同様に、事故に注意しなければならない異常行動のひとつです。
玄関から飛び出して走り出したという事例も報告されています。
事故防止のための対策
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窓やドアを必ず施錠する
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発症から少なくとも2日間は罹患者を1人にさせない
(幼児や10代の子どもの場合、保護者が必ず見守る)
事故防止のための対策は転落・飛び降りに対する対策と同じです。
インフルエンザの異常行動はなぜ起こる?タミフルやイナビルなど薬のせいではない!?
インフルエンザによる異常行動は、タミフルが関係しているのではないかと考えられていた時期があります。
タミフルが日本で使用され始めた2001年から2007年までの間に、8件の死亡事故が発生しています。
これを受け、タミフルとの因果関係はわかっていないものの10代による死亡事故が多いことから、10歳代へのタミフルの使用が原則禁止となった時期もありました。
その後も調査は継続され、様々な段階を経てインフルエンザの異常行動に対する新事実が報告されました。
タミフルが開発される前からインフルエンザによる異常行動の報告があったこと、更にタミフルやイナビルの服用の有無と異常行動の発現の有無に因果関係は証明されなかったのです。
最終的に2018年5月に厚生労働省から”タミフルと異常行動の因果関係は分からず、服用の有無や薬の種類で異常行動の発生に大きな差はない”との報告がされ、10歳代へのタミフルの使用禁止が解除されました。
しかし使用禁止が解除されてから数年以上経ちますが、いまだに「タミフルは異常行動を起こす薬である」と認識している人が多いのも事実です。
抗インフルエンザ薬について
ノイラミニダーゼ阻害剤であり、感染者の体内の細胞内で増殖したウイルスが細胞外に出るのを阻止することでウイルスの増殖を抑制する薬です。 発症後48~72時間でインフルエンザウイルスが最も多い状態になります。そのため、症状が出現してから48時間以内に服用することで、ウイルスの増殖を抑える ことができ、症状が軽くなります。
タミフルと同様のはたらきをします。リレンザは1日2回、イナビルは1日1回の吸入です。
タミフルと同様のはたらきをします。内服薬や吸入薬と比べ即効性がありますが、点滴静注で行うため痛みが伴います。
上記の薬とは作用機序が異なります。アビガンとゾフルーザは、インフルエンザウイルスの複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することで増殖を抑制します。 |
インフルエンザの異常行動について厚生労働省による報告
インフルエンザ罹患に伴う異常行動研究(2019年3月31日までのデータ取りまとめ)2018/2019シーズン報告によって、以下のようにまとめられています。
以下同じ)14件(8件)、アセトアミノフェン(OTC含む)38件(26件)、リレンザ7件(4件)、イナビル12件(11件)、ゾフルーザ25件(18件) 、ラピアクタ0件(0件)であり、これらの医薬品の服用がなかったのは10件(7件)であった。 (( )の件数は、突然走りだす・飛び降りの内数。 ) したがって、これまで同様に、抗インフルエンザウイルス薬の種類、使用の有無と異常行動については、特定の関係に限られるものではないと考えられた。 報告内容には、飛び降りなど、結果として重大な事案が発生しかねない報告もあった。 以上のことから、インフルエンザ罹患時における異常行動による重大な転帰の発生を抑止するために、抗インフルエンザウイルス薬の処方の有無に関わらず、インフルエンザ発症後の異常行動に関して、注意喚起を行うことが引き続き必要であると考えられる。 |
[1]引用
※重度の異常な行動:飛び降り、急に走り出すなど、制止しなければ生命に影響が及ぶ可能性のある行動を指す
インフルエンザの異常行動は発症何日目から始まっていつまで続く?
インフルエンザの異常行動はいつまで続くのか、治るのかと不安な方も多いのではないでしょうか。
何日まで続くかははっきりとわかっていませんが、最も発現が多いのは、発熱から2日間とされています。
いずれにしても、異常行動がみられて長引く場合には脳への影響が懸念されるため、医療機関への受診が必要です。
インフルエンザの異常行動が最も多い年齢は10歳
過去にタミフルの服用が原因と言われたときに報告された事例の8件すべてが12~17歳の未成年者でした。
厚生労働省の「インフルエンザ罹患に伴う異常行動研究(2019年3月31日までのデータ取りまとめ)2018/2019シーズン報告」によると、インフルエンザによる異常行動を起こした人の割合が最も多かったのは10歳であることが明らかになりました。
次に多いのも7~14歳の小児です。
また、女性は29%であるのに対し男性は71%と、男性の方が多いこともわかっています。
インフルエンザの異常行動 子供の事故防止のための対応
異常行動による子供の事故は過去に何件も報告されています。
したがって、万が一の事故を防止するためにも対策が必要です。
厚生労働省は以下のような対策を推奨しています。
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玄関や全ての部屋の窓を施錠する
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窓に格子がある部屋がある場合はその部屋で寝かせる
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ベランダに面していない部屋で寝かせる
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一戸建てに住んでいる場合はできるだけ1階で寝かせる
インフルエンザの異常行動による事故防止策はいつまで続ける?
上記の事故防止策は発熱から少なくとも2日は行うようにしてください。
子どもや大人に関わらず、できる限り一人にさせないようにしましょう。
また就寝中でも注意する必要があるため、子どもが罹患した場合は保護者が近くで見守るようにしてください。
インフルエンザの異常行動の原因は脳症または熱せん妄かも?
インフルエンザによる異常行動のほとんどが、熱せん妄であり、一部が脳症であると考えられています。
特に怖いのがインフルエンザ脳症です。
インフルエンザ脳症は発症後30%が死亡、25%が後遺症を残すといわれており、主に5歳以下の子どもに多く見られます。
インフルエンザ脳症は、発熱後1日以内にけいれんと意識障害が出現します。 その後全身の臓器障害が現れ、ショック・心肺停止となり死亡します。 異常行動の原因が熱性せん妄であればそれほど問題ではありませんが、脳症の前触れである可能性も頭に入れておきましょう。
子どもの場合、脳症でなくても高熱そのものが原因で異常な行動が見られることがあります。 この状態を熱せん妄と言います。 熱せん妄では主に、視線が合わずにボーッとしたり、訳の分からないことを言ったり、見えない物が見えるといった症状が挙げられます。 |
インフルエンザと異常行動 脳への影響と後遺症について
異常行動の原因がインフルエンザ脳症であった場合、後遺症率は前述の通り約25%とされています。
インフルエンザ脳症によって意識障害が長く続くと、精神障害が残る可能性があります。
精神障害の中でも、知的障害、てんかん、高次脳機能障害が多いです。
また、頻度としては稀ですが、身体障害が残る可能性もあり、場合によっては四肢麻痺が残ることもあります。
インフルエンザの異常行動の原因が熱せん妄であった場合は急いで病院に行く必要もなく、それほど心配は必要ありません。
一般的に熱せん妄は10分から15分という比較的短時間で改善することがほとんどです。
長くても数時間で、後遺症が残ることはほとんどないと考えられています。
もしも、数時間経っても意識障害や異常行動が治らない場合や、痙攣などを起こした場合には脳症の可能性が高いです。
状況によっては救急車を呼んでください。
Q&A
インフルエンザの異常行動と発熱は関係ある?熱なしでも異常行動は起こるの?
インフルエンザの異常行動はなぜ起こるのでしょうか。
異常行動の原因は主に3つ考えられています。
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熱性せん妄
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脳炎または脳症
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抗インフルエンザ薬による副作用
はっきりと解明はされていませんが、多くの場合熱せん妄の可能性が高いとされています。
そのため、異常行動の多くは高熱時にみられています。
インフルエンザの異常行動が解熱後に発現した例があるかは不明ですが、厚生労働省の調査報告によると、発熱から2日以内に異常行動を起こすことが多いようです。
また発生頻度として稀ではありますが、インフルエンザ脳症にも注意が必要です。
インフルエンザ脳症について詳しくはこちらをご参照ください。
インフルエンザの異常行動の原因は脳症または熱せん妄かも?
インフルエンザ脳症の場合発熱後1日以内に痙攣または意識障害が現れます。
この前兆として異常行動がみられることがあるのです。
タミフルなどの抗インフルエンザウイルス薬と異常行動には因果関係はないとされています。
ただしタミフルの発生頻度は低いですが、副作用として添付文書には以下のように記載されています。
“精神・神経症状(意識障害、譫妄、幻覚、妄想、痙攣等) があらわれることがある。
因果関係は不明であるものの、インフルエンザ罹患時には、転落等に至るおそれのある異常行動(急に走り出す、徘徊する等)があらわれることがある。
”[2]引用
インフルエンザの異常行動を予防する方法はある?
インフルエンザの異常行動を予防することは、熱せん妄やインフルエンザ脳症を予防することにも繋がります。
もちろん、インフルエンザに罹患しないことが何より大切ですが、もしも罹患してしまった場合は、以下の点が重要になります。
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高熱である期間を短くする
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重症化を予防する
具体的な予防方法は以下の2点です。
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予防接種を受けて重症化を予防すること
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発症後は48時間以内に抗ウイルス薬を服用しウイルスの増殖を防ぐこと
抗ウイルス薬についてはこちらをご参照ください。
インフルエンザの異常行動はなぜ起こる?タミフルやイナビルなど薬のせいではない!?
インフルエンザの異常行動に対する治療はある?
異常行動そのものを抑える薬はありません。
ただし、異常行動の原因は熱せん妄や脳症の可能性が高いといわれています。
そのため、インフルエンザに罹患しても重症化させないことが重要なのです。
重症化させないためには、予防接種を受ける事や発症後48時間以内に抗インフルエンザ薬を服用すること等が挙げられます。
また、本来ウイルス性の疾患は対症療法で自然治癒するのが基本です。
そのため、自身の免疫力が重要となります。
免疫力を上げるためには、食事・睡眠・運動などの基本的な生活習慣を整えることが必要です。
インフルエンザにかかったら何日休む?
学校保健安全法施行規則第 19 条第 2 項には、インフルエンザ(新型インフルエンザ・鳥インフルエンザ等を除く)の出席停止期間 について以下のように記載されています。
「発症した後 5 日を経過し、かつ、解熱した後 2 日(幼児にあっては 3 日)を経過するまで」
仕事に関しては、インフルエンザに罹患した旨を報告し、各職場での規定を確認することをおすすめします。
インフルエンザは何日で治るか?
インフルエンザは、一般的に3~4日ほど発熱が続き、症状が完全に回復するまで1週間ほどかかります。
インフルエンザに感染したらどうしたらいいですか?
インフルエンザの治療に使用されている抗インフルエンザ薬(タミフルなど)は、インフルエンザウイルスが増殖してしまう前に服用することで効果を発揮します。
そのため発症後48時間以内に服用しなければいけません。
ただし、検査で陽性が確認できるようになるまで最低でも発熱から12時間経過している必要があります。
したがって、インフルエンザが疑われる場合は発熱後12~48時間以内に受診し、抗インフルエンザ薬を服用することをおすすめします。
インフルエンザ罹患後48時間以上経ってしまったら検査できないと思っている方もいますが、検査自体は可能で陽性反応も出ます。
ただし、抗インフルエンザ薬の効果が得られない可能性が高いです。
また、自宅では安静にしこまめな水分補給を摂りましょう。
水分や食事が摂れないことによる脱水にも注意が必要です。
また、発熱から2日以内は異常行動を起こす可能性も高いため、事故防止対策も行ってください。
特に10歳代の子どもは異常行動の発現頻度が高いため注意が必要です。
インフルエンザは感染力も高く、症状が急激に発現するため、他者にうつさないことも大切です。
仕事や学校は必ず医師の指示に従って既定の期間休むようにしましょう。
インフルエンザの家族感染は何日で発症しますか?
インフルエンザの潜伏期間は2~3日です。
家族内感染があれば、数日で次の人が発症します。
インフルエンザの異常行動で死亡した人はいる?
インフルエンザの異常行動(転落・飛び降り)による事故で死亡した事例が複数件あります。
厚生労働省からも事故防止の対策が呼びかけられています。
インフルエンザで異常行動を起こしたら救急車を呼んでも良い?
インフルエンザの異常行動のほとんどが5~30分で収まりますので焦らずに対処してください。
すぐに収まった場合は様子を見て良いでしょう。
しかし、何度も出現したり長引く場合には注意が必要です。
脳症の場合は後遺症や死亡リスクも高いです。
また、痙攣や意識消失などがみられた場合にはすぐに救急車を呼んでください。
まとめ
新型コロナウイルス感染症の出現により、インフルエンザウイルスへの意識が薄れてきている現代ですが、インフルエンザの感染力の強さや、症状の辛さは今までと変わっていません。
更に、異常行動による事故やインフルエンザ脳症などによって命に関わる状態に陥る可能性もあるのです。
現時点で異常行動は10歳代の男児に多いことや、タミフルなどの服用は関係しないことがわかっています。
性別や年齢に問わず異常行動を起こす可能性を念頭に置き、異常行動を起こした際に事故に繋がらないよう対策しましょう。
また、重症化や異常行動を予防するために、インフルエンザの予防接種を受けることや発症後48時間以内に抗インフルエンザ薬を服用することも大切です。
食事・睡眠・運動などの基本的な生活習慣を整え自己免疫力を上げて、インフルエンザにかかりにくく、またかかっても重症化しにくい身体づくりをしましょう。
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参考文献
[1] インフルエンザ罹患に伴う 異常行動研究 2018/2019シーズン報告
[2] タミフルカプセル75
[3] タミフルと異常行動、リレンザは?
[4] インフルエンザ脳症 急性脳症 けいれん 意識障害 異常行動 インフルエンザワクチン タミフル イナビル
[5] インフルエンザの合併症−後遺症が残ることはある? | メディカルノート
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。