ヘルパンギーナとは
ヘルパンギーナは、発熱と口の中の粘膜に出てくる水疱の発疹が特徴のウイルス性の咽頭炎のことです。
乳幼児を中心に夏季に流行します。
ヘルパンギーナは手足口病や咽頭結膜熱とともに夏かぜの代表的存在と言われています。
その感染を起こす大多数のウィルスはエンテロウイルス属に属するウィルスが原因で、主にコクサッキーウイルスA群である場合が多いですが、コクサッキーウイルスB群やエコーウイルスで発症する場合もあります。
感染が流行するパターンはエンテロウイルス属の特徴と合っています。
熱帯地域では年間を通して感染がみられますが、温帯地域では夏と秋に流行がみられます。
日本では毎年5 月頃よりヘルパンギーナが増加し始め、7月頃にかけて流行のピークとなり、8月頃から減少し始め、9~10月になる間にその感染はほとんど見られなくなります。
日本でのヘルパンギーナの流行は、例年西側から東側へと移動していく傾向にあります。
その流行の規模は、毎年ほぼ同様です。
ヘルパンギーナにかかる年齢は5歳以下が全体の90%以上を占めていて、1歳代がもっとも多く、それについで2.3.4歳代の順となり、0歳と5歳はほぼ同数程度の感染が報告されています。
エンテロウイルスとは、ピコルナウイルス科に属する多数のRNAウイルスの総称です。
ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルス、エンテロウイルスなど多くを含んでいます。
ヘルパンギーナに関してはコクサッキーウィルスA群が主な原因ウィルスですが、またコクサッキーB型Cやエコーウイルスなどが関係することもあります。
エンテロウイルス属が感染するのは人だけで、感染経路は接触感染と経口感染と飛沫感染 です。
感染して症状の出現している早い時期にもっともウイルスが排泄されるので、その時期は感染力が強いですが、エンテロウイルスの性質上、回復後にも2~4週間の長期に渡って、排便すると便からウイルスが検出されることがあります。
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症状とは?
ヘルパンギーナを発症すると2~4日の潜伏期を経て、突然の発熱に続いて咽頭痛が出現します。
口の中の粘膜の赤みがとても強くなり、口の中の、主にのどぼとけ周辺のあたりに直径1~2ミリか、場合によっては大きいもので5ミリほどの皮膚が、部分的に充血して赤く見える紅暈(こううん)と呼ばれる状態で囲まれた小さな水疱が出現します。
その小さな水疱はやがて破れて、浅い潰瘍をつくります。
潰瘍とは、病気のために粘膜や皮膚の表面が炎症を起こして崩れて、出来た傷が深くえぐれたようになった状態のことをさします。
(胃潰瘍や十二指腸潰瘍という言葉があるので、潰瘍自体が病気の言葉のようですが、そうではなく、潰瘍は状態を指す言葉でしかありません。)
その潰瘍には痛みが伴います。
発熱は2~4日程度で下がってきて、それに少し遅れて口の中の粘膜にできた発疹もなくなって消えていきます。
小さなお子さんでは、熱が上がり高熱になると熱性けいれんが出現したり、口の中の痛みのために不機嫌になったり、食事をしなくなったり、お乳を飲めなくなったりすることにより、脱水の症状を引きおこすこともありますが、ヘルパンギーナのそのほとんどの予後は良好です。
エンテロウイルスによる感染を起こすと様々な症状をおこす病気であり、ヘルパンギーナの場合でも、まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎などを合併することがあります。
無菌性髄膜炎の場合には発熱のほかに頭痛、嘔吐などに注意する必要がありますが、髄膜炎の特徴の症状である項部硬直は見られないことが多いです。
急性心筋炎の場合には、心不全徴候が出現するために、十分注意する必要があります。
似た病気に単純ヘルペスと手足口病、アフタ性口内炎があります。
これらと 鑑別する診断としては、単純ヘルペスウイルス1型は歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)が見られます。
手足口病はヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹があります。
アフタ性口内炎は発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い症状などがあげられ、ヘルパンギーナと鑑別されています。1)2)3)4)
<単純ヘルペス>
単純ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルスというウイルスに感染することで起こる病気です。
このウイルスは一度感染して免疫をもっていても、再感染や再発を繰り返すことが特徴で、大人に見られる口唇ヘルペスは年に1~2回程度再発することが多く、チクチク、ピリピリ、ムズムズといった皮膚の違和感が出現します。
<手足口病>
手足口病は微熱〜38℃程度の発熱と、口の中の発疹ができる病気です。
エンテロウイルス属のコクサッキーAによる感染が多く知られています。
合併症で髄膜炎・小脳失調症・脳炎などが知られています。
数か月後に爪の変化が現れる場合もあります。
<アフタ性口内炎>
口の中の粘膜にできる小さい良性の腫瘍で、発疹の表面が白か黄色の膜で覆われており、周りが赤くなった状態をアフタと言います。
アフタ性口内炎は、このアフタがたくさん出来、そのアフタの周りに炎症が伴っている症状です。
頬の内側や舌、唇の裏や歯ぐきに出来やすく、痛みがあるので食べ物を食べるとしみます。通常1~2週間程度で自然に治ります。1)2)3)4)
ヘルパンギーナに大人がかかると?
ヘルパンギーナは多くは子どもが感染する病気であることがわかりました。
しかし、大人も感染することがあります。
大人が感染すると乳幼児よりも症状が重くなり、また長引く傾向があります。
発熱は39~40度の高熱となり、その高熱に伴い、頭痛や倦怠感、関節痛、筋肉痛を伴います。
また、口の中の粘膜にできる発疹によるのどの痛みが生じ、痛みのせいで食事や水分が十分にとれなくなります。
大人が発症する原因には、寝不足や疲労など体のコンディションが崩れている場合や、免疫力が低下するような治療をしていることが挙げられます。
特に、ヘルパンギーナに感染した子どもを看病しているうちに家族で感染してしまうことが多く、子どもが治ったと思ったら、次は看病していた大人が発症するというパターンがよく見られます。
このため、子どもがヘルパンギーナに感染した場合は、感染予防対策を適切にとるとともに、看病している大人も発症しないように十分な休息をとるようにしましょう。
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治療とは?
ヘルパンギーナに対しては特効薬というものはなく、感染後の症状に合わせて、その症状を緩和する治療になります。
そのため、ヘルパンギーナの症状としてよく起こる発熱や頭痛などに対しては、アセトアミノフェンなどが処方されることもあります。
発熱で脱水に対する治療が必要になることもあります。
無菌性髄膜炎や心筋炎の合併症を起こした場合では入院治療が必要になりますが、心筋炎を起こした場合には特に循環器専門医による治療が望ましいとされています。
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合併症とは?
ヘルパンギーナは合併症を起こすことは少ない病気ですが、大人では感染すると重症化のリスクも高まります。
もし合併症を起こした場合には、熱性けいれん、無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを発症する場合があるので以下に説明していきます。1)2)3)4)
熱性けいれん
熱性けいれんとは「ひきつけ」のことです。
高熱が出たときに白目をむいて、全身を突っ張らせるけいれんは、強直性けいれんと呼ばれるけいれんで、ガクンガクンと手足をふるわせたりする状態になります。
0〜5歳くらいまでの間に38度以上の発熱に伴って起き、発症確率は7~8%とされています。
重くない熱性けいれんを単純型と呼びます。
この単純型と呼ばれる熱性けいれんにより知能低下や脳障害がおきることはありません。
身体をふるわせるけいれん発作が15分間以内で、24時間以内に1回のみ、けいれんによる体の反応が左右対称である、などの特徴があります。
しかし、確かに単純型であるという診断をつけるには様々な病気の否定が必要で、多くの検査を実施する必要もあります。
熱性けいれんが起きてしまった時の対処法です。
けいれんが起きると、ほとんどの人は動揺してしまうことが多いので、まずは落ち着いてください。
けいれんが起きている時間や回数を計り、けいれんの体の反応が左右対称であるかを確認します。
けいれんがおちついて来たら横向きに寝かせます。
けいれんでは嘔吐することがあるので、吐物で喉を塞ぎ呼吸が出来なくならないようにするためです。
けいれんが5分以内におさまって、その後によびかけに反応し、しっかり視線が合い、行ったことに従える様子があれば、救急車でなくても良いですが、必ず一度病院を受診しましょう。
発作が5分以上続く場合には救急車を呼ぶ必要があります。1)2)3)4)
無菌性髄膜炎
ヘルパンギーナの合併症には、その原因ウィルスであるエンテロウィルスの感染により発症する無菌性髄膜炎があります。
ウイルスが髄膜にまで炎症を起こすと髄膜炎を発症します。
発熱、頭痛、嘔吐が主な症状で、急に熱が出て、頭痛を訴え、ゲボゲボと何度も吐きます。
通常の髄膜炎では首の後ろ(うなじ)が硬くなり首が曲げづらくなります。
しかしヘルパンギーナによる髄膜炎では項部硬直は見られないことが多いと言われていますので、後部硬直はなくても、発熱に加え頭痛と嘔吐が出現したら注意をする必要があります。
特に、高熱でけいれんや意識がもうろうとしている様子が見られたら髄膜炎にとどまらず、脳炎への進展が強く疑われるのでその症状にも注意が必要です。
病気の診断や細菌性髄膜炎との鑑別には脳脊髄液を採取して検査する髄液検査が行われますが、もし症状が軽い場合には、症状を見た総合的な判断で実施しない場合もあります。
ウイルスの感染が原因による髄膜炎の場合は有効な薬がないため、症状を緩和する治療が中心となります。
熱や頭痛に対しては解熱・鎮痛剤を使用し、何度も吐く場合には点滴をおこないます。
もし症状が軽い場合には外来で治療することができますが、多くの場合には頭痛が強く、嘔吐が続くので入院が必要となります。
細菌性の髄膜炎は重い後遺症を残す場合がありますが、ヘルパンギーナによる髄膜炎はウイルスによる無菌性髄膜炎のため後遺症を残すことなく治りますのであまり心配はいりません。
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急性心筋炎
ヘルパンギーナの合併症の心筋炎も、エンテロウイルスの感染により心筋に炎症を起こす病気で、心筋に炎症を起こした部位から炎症がじわじわと広がっていき、その炎症を起こして広がった部位の細胞が壊れて心臓の機能に異常を起こす状態になります。
原因としては、ヘルパンギーナを起こすウィルスによるものが大半を占めています。
心筋炎になった早い時期に起こす症状では,発熱,頭痛,筋肉痛,だるさである全身倦怠感などの、かぜの様な症状や、嘔吐、食欲がなくなる食思不振,腹痛や下痢などの消化器症状が先に出現します。
しかし、この時点で心筋炎の特有の症状はありません。
数時間から数日が経過すると、心不全の徴候や胸痛や房室ブロックや期外収縮などの心臓の脈が不整になる不整脈が出現します。
血液検査では血液データに変化が出現しますし、心電図や心エコー上でも異常所見が見て取れるようになります。
診断の決め手としては、心筋の組織に異常がないか調べる生検検査があげられ、診断を確定することに役立ちます。
治療としては、呼吸や循環管理が大切で,免疫グロブリン療法が行われる場合が多く、経皮的心肺補助装置、大動脈内バルーンパンピング、体外式膜型人工肺(ECMO)などの機械で人工的に体の循環を助ける装置を装着する選択を余儀なくされるケースがあります。
しかし、とくに心筋炎のなかでもとても早く激しい経過をたどる、劇症型心筋炎の予後は依然として厳しく、上記の循環を助ける装置の高度医療をもってしても救命できないケースも多くあります。
合併症として起こる心筋炎は、初期のかぜ症状の段階で診断することは非常に難しいです。
おかしいなと思ったら早めに受診することが肝心です。1)2)3)4)
感染症法と学校保険法による取り扱いは?
ヘルパンギーナの感染症法と学校保険法による取り扱いについては以下となります。
感染症法における取り扱い(2014年7月23日現在)
ヘルパンギーナは5類感染症定点把握疾患に定められています。
全国約3,000カ所の小児科定点医療機関に設定された指定医療機関より毎週の報告がなされています。
報告のための基準は、臨床的な特徴として潜伏期は2~4日で初夏から秋にかけて、乳幼児に多い。
突然の38~40度の発熱が1~3日間続き、全身倦怠感、食欲不振、咽頭痛、嘔吐、四肢痛などがある場合もある。
喉の粘膜の所見は、軽度に発赤し、のどぼとけからその周辺にかけて1~5ミリの小さな水疱を作り、その水泡からできた小さな潰瘍とその潰瘍の周辺に赤みを伴ったものが数個認められる。
という臨床的な特徴を持っている者を診察した結果、症状や所見からヘルパンギーナが疑われ、かつ、 突然の高熱での発症と、のどぼとけ付近の水疱や潰瘍や赤みにより、ヘルパンギーナ患者と診断した場合となっています。
学校保健法における取り扱い(2014年7月23日現在)
ヘルパンギーナは学校において予防すべき伝染病の中には明らかに規定されていません。
そのため一律に「学校長の判断によっては、出席停止の扱いをするもの」とはなりません。
もし、授業の欠席者が多くなり、授業の進行に支障をきたしそうな場合は、流行の広がりや合併症の発生の程度や保護者の間で感染に対する不安が多い場合などは「学校長が学校医と相談をして第3種学校伝染病としての扱いをすることがあり得る病気」と解釈されています。
ヘルパンギーナは、主だった症状から回復した後も、ウイルスが長期にわたって便から排泄されることがあります。
感染した早い時期である急性期だけを登校・登園停止にし、学校・幼稚園・保育園などでの厳密な流行を阻止してもその感染予防効果は期待ができません。
ヘルパンギーナに感染した多くのひとは軽症で経過します。
登校・登園については、流行を止めるという目的よりも患者さん本人の状態によって判断する必要があると考えられています。
ヘルパンギーナは、感染症として医療機関によって症例の観察が必要な病気ではありますが、その特徴のために出欠席の取り決めは、通っている学校の指示に従うことになるようです。
感染して確定診断を受けたら、通っている、学校・保育園・幼稚園に報告し指示をもらうことが大切です。1)2)3)4)
感染予防対策とは?
ヘルパンギーナの感染は主にコクサッキーA群ウイルスが原因です。
感染経路は、ヘルパンギーナにかかった人のくしゃみ、つばなどのしぶきに含まれたウィルスによって感染する飛沫感染と、口のなかの水疱の中の内容物や便に排出されたウィルスが手などを介して口や眼などの粘膜に入って感染する経口・接触感染です。
ヘルパンギーナには有効なワクチンはなく、発病を予防できるものはありません。
ヘルパンギーナから治った後でも、比較的長い間排便からウイルスが排泄されることがあります。
また、感染しても発病はせずにウイルスだけを排泄している場合もあります。
そのためヘルパンギーナに発病した早い時期の人だけを長期間隔離しても有効な感染対策とはなりません。
予防には、手洗い、うがい、咳エチケットが有効になります。
手洗いやうがいは、手やのどなどの体に付着したウイルスを退治するために効果があるといわれています。
インフルエンザに限らず、感染症予防の基本となります。
外出先では咳エチケットを励行し、外出先から帰宅したら必ず手洗いとうがいをしましょう。1)2)3)4)6)7)
手洗い
・手の洗い方
- 流水でよく手を濡らした後、石けんをつけ、手のひらをよくこすります。
- 手の甲をのばすようにこすります。
- 指先・爪の間を念入りにこすります。
- 指の間を洗います。
- 親指と手のひらをねじり洗いします。
- 手首も忘れずに洗います。
- 石けんで洗い終わったら、十分に水で流し、清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って乾かします。
※手洗いの前に
・爪は短く切っておきましょう。
・時計や指輪ははずしておきましょう。
保育園や幼稚園では手洗いの歌があり、手洗いの工程が歌詞になっていて、手洗いの際に歌を歌いながら手を洗い、歌を歌い切ると上記の項目全てが手順通りに実施できるようになっています。
最近ではyoutubeで手洗い動画もあり、芸能人が手洗いの歌をつくり配信したりしていますね。
お気に入りの手洗いの歌をみつけて実施すると、手洗いの手順を頭で覚えるより楽しく早く自然に実施できると思うので試してみるのも良いですよ。
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うがい
うがいを行うと、口腔内にいるウイルスや細菌などを洗い流して減らし、インフルエンザやかぜを予防する効果があります。
口に含んでグシュグシュして2~3回洗い、次に上を向いて10秒くらいかけゴロゴロとしたうがいを数回繰り返します。
イソジンなどの消毒液は入れすぎると粘膜を弱らせ、逆効果になることがあるので注意しましょう。
コップ1杯に対し数的で十分効果がありますので、用法用量をよく読んで使用するようにしてください。1)2)3)4)6)7)
咳エチケット
1.マスクを着用する。
咳・くしゃみが出る時は、他の人にうつさないためにマスクを着用しましょう。
マスクをつけるときは取り扱い説明書をよく読んで、正しくつけるようにしましょう。
マスクの大きさが顔に対して小さすぎたり、大きすぎたりすると、顔にマスクがフィットせず、予防効果が半減してしまいます。
マスクは、鼻から顎までが覆えて顔に添わせたときに隙間がないものを選びましょう。
※咳エチケット用のマスクは、薬局やコンビニエンスストア等で市販されている不織布(ふしょくふ)製マスクの使用が推奨されます。
2.ティッシュやハンカチなどで口や鼻を覆う。
マスクを持っていない場合は、ティッシュや腕の内側などで口と鼻を押さえ、他の人から顔をそむけて1m以上離れましょう。
鼻汁・痰などを含んだティッシュはすぐにゴミ箱に捨て、 手のひらで咳やくしゃみを受け止めた時はすぐに手を洗いましょう。
ティッシュやハンカチを広げて、広げたまま鼻の根元あたりから当てます。
両手で鼻の両サイドから軽く押さえます。
口や鼻を覆ったティッシュはすぐにゴミ箱に捨てるようにしましょう。
3.上着の内側や服の袖(そで)で口元を覆う。
マスクもなくティッシュやハンカチも間に合わない時には、上着の内側や服の袖で口元を覆います。
肘を曲げて、ちょうど肘の内側が鼻の頭付近に当たるようにします。
鼻の頭から口元までを覆うことで咄嗟の時には飛沫を予防することができます。1)2)3)4)6)7)
嘔吐物・便 の取り扱い
嘔吐物や便が空気中に舞い、そのウィルスから感染することがあるため、嘔吐物や便の取り扱いに注意が必要です。
嘔吐物は、ゴム手袋、マスクをして、できればゴーグルを着用し、ペーパータオルや使い古した布で拭きとります。
拭き取ったものはビニール袋に二重に入れて密封して、廃棄します。
嘔吐物や下痢便のついた衣類などは廃棄するか、0.1%次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒しましょう。
処理後、石鹸、流水で手を洗いましょう。
感染しているが無症状の方は自分自身が病原体を排出していることに気付かず感染源となることがあります。
このため、下痢でなくとも排便後の手指の衛生管理には注意を払いましょう。
おむつ交換は、食事をする場所等と交差しない手洗い場のある一定の場所で実施しましょう。
おむつの排便処理の際には、使い捨て手袋を着用しましょう。
オムツ交換の、特に便処理後には、石鹸を用いて流水でしっかりと手洗いを行いましょう。
交換後のおむつは、ビニール袋に密閉した後に蓋つき容器等に捨てましょう。
保管場所は適宜消毒しましょう。1)2)3)4)6)7)
子どもの感染対策
衛生的な観念がまだ発達していない乳幼児の集団生活施設では、施設内での感染の広がりを防ぐことは難しい状態です。
感染を広げないために、職員と子ども達が、しっかりと手洗いをすることが大切です。
特におむつを交換する時には、便などの排泄物を適切に処理し、そのあとはしっかりと手洗いをしてください。
尿、便、血液、唾液、眼やに、傷口の浸出液などの体液に触れた場合は、必ずきちんと手洗いをしましょう。
石鹸は液体石鹸が良いですが、容器の中身を詰め替えるときには、残った液体石鹸は捨てて、容器をよく洗って乾燥させてから、新たな液体石鹸を入れるようにしましょう。
子どもに対する基本的な感染防止対策では、遊具を個人別にするといった対応も必要です。
おもちゃを使ったあとの消毒も有効です。1)2)3)4)5)9)
子どもが自分で行う感染対策への働きかけ
お子さんが幼児期、1歳~5歳くらいであれば、基本的生活習慣を学んで身につけ、清潔行動を獲得していく時期にあるため、感染防止対策の必要性や方法を伝え習得していくことができます。
自身で行うことで、より感染のリスクを下げることができます。
しかし、発達段階に合わせたかかわりで教えていくことが大切です。
幼児期前期の子どもには、教えるというより養育者が手本を示し、子ども自身が「真似をしたい」と思えるようなかかわりが必要です。
そのためには、保護者や保育を行う保育者の子どもへのかかわり方が重要になります。
幼児期後期には清潔のための手洗いなどの行動が自立して行えるようになります。
子ども自身が「健康の保持・増進のために行う」という目的を持って清潔行動が行え、習慣化できるようになることが大切です。
幼児前期は1歳6か月から3歳くらいの時期です。
この時期には自律性が育まれていきます。
言葉を話したり歩いたりするようになり、成長が早ければ走ったり何かを拒否するような反応を起こすこともあります。
これまで親や周囲にしてもらっていた着替えや排泄、食事などをどんどん自分でできるようになり自律性が養われます。
この時期になったら、子どもに食事をする方法を教えたり、排泄、着替えなどと、自分でやってみる機会を積極的に与えたりしましょう。
反対に、この時期になっても子どもに何もさせず親がすべてしているようでは、子どもの自律性は育ちません。
また、せっかくチャレンジしても失敗してしまった場合、必要以上に叱りつけると余計に子どもは萎縮してしまいます。
新しいことに挑戦しようという気持ちが弱まってしまう可能性もあります。
挑戦したことを褒め、子どもの気持ちが次のチャレンジにつながるように働きかけることが大切です。
3歳から5歳くらいの時期を幼児後期と呼びます。
この時期には自発性が生まれ発達していきます。
幼稚園や保育園に行く子どもも増えて、親の元以外で過ごす時間が多くなります。
すると自分から遊ぶものを見つけたり、友達に話しかけたりするようになっていきます。
自発的に何かしらの行動を起こすようになったら、間違った方向に自発性を発揮しないように見守りつつ子どもに反応してあげます。
この時期に子どもの自発性を無視して適当にあしらっていると、子どもは罪悪感を抱きやすくなります。
自己肯定感を下げてしまうことにもつながりますのでしっかり子どもに反応してあげるようにしましょう。
子どもにも感染対策を実施し、身につけてもらうことで感染リスクをさけていくことは大切です。
子どもの発達段階を理解したうえで、うまく清潔行動を身につけていけると良いですね。1)2)3)4)5)9)
看護
ヘルパンギーナの看護のポイントは、発熱と口の中の発疹に対するケアです。
高熱になることもあり、また口の中にできた発疹による痛みのせいで、水分摂取量が不足する状況も考えられます。
高熱時のケアや、飲水時のポイントなどを挙げていきます。
発熱時
高熱になると熱の上昇に伴って強いふるえが出現します。
その場合には、発熱に対するケアが必要になります。
部屋を温かくして、毛布などの掛け物を足すなどして保温します。
熱が上がりきると寒さはなくなります。
熱さを訴えてきたら、今度は身体を冷ますようにします。
掛け物を外して、汗をかいていれば寝衣を交換するのもよいでしょう。
小さなお子さんの場合、アイスノンや冷たいタオルを当てても、嫌がる子もいますので、無理やり冷やす必要はありません。
その場合には着ているものを調整したり、汗をかいていれば清拭したり、寝具のかけものを減らしたり、室内の空調をコントロールして体温を調整します。
また、市販で売られている冷却ジェルシートは爽快感は得られますが、解熱効果は期待できません。
シートがずれて口鼻を覆い、窒息する危険性があるため、小さな子に使用する場合には目をはなさないよう注意が必要です。
入浴やシャワー浴を行う場合には、長い時間になると体力を消費してしまうので、サッと入るようにしましょう。
しっかり身体の水分を拭き取り、冷えないようにしましょう。5)9)
脱水症状に注意しましょう
脱水の兆候を身体から知るには、体温や脈拍、脇の下が乾燥している、口の中が乾燥している、唇が乾燥している、目が陥没して見える、赤ちゃんではそれらの兆候に加えて頭の登頂部付近にある大泉門がへこんでいるといった現象により観察することができます。
おしっこは回数や量が減り、色は薄い黄色から濃いオレンジへと変化していると脱水に傾いている徴候です。
おしっこの回数や量、色の変化に注意するようにしましょう。
また、人間は、汗や唾液、それら以外に、人間が生きているだけで皮膚から放出して蒸発していく水分もあります。
少しは飲んでいるのに脱水傾向に陥る場合は、そういった体液の喪失も考えられるので、室温やかけものや衣服などで調整し、皮膚からの水分の喪失が少なくなるようにしましょう。
脱水症状を脱したあとは元気があるか、おしっこが出ているか、脈拍数や呼吸の数が多くないかといったことから、脱水症状が改善されているかどうかを見ていくようにしましょう。
ヘルパンギーナの好発年齢である、1歳くらいの赤ちゃんだと、まだ言葉があいまいで自分で上手に伝えることができないため、保護者の方が水分の摂取状況やおしっこの量や間隔といった情報を観察して脱水になってないか確認しましょう。
5)9)
低血糖
大人では、病気になっても低血糖症状を起こすまで何も口にしないことは少ないと思いますが、イオン系飲料水や、経口補水液などを利用すると予防できます。
口の中の発疹で何も口にできない時は低血糖を起こす可能性もあります。
低血糖状態になると、一般的には発汗がでたり、不安を訴えたり、顔色が白くなったり、脈が頻回になったりどきどきを感じたり、吐き気などが出現します。
他には、考える力が低下したり、身体の動きがのろのろしたり、呼びかけに対して反応があいまいだったり、反応がなくなったりするといった症状が現れます。
そのような症状が起きた場合は、受診して血糖値の測定について検討する必要があります。
小さなお子さんの場合、口から食事が取れなくなることにより、脱水と同じく、簡単に糖分が足りない状態になり低血糖を起こしやすくなりますので低血糖症状にならないように注意しましょう。
低血糖の予防には少しでも口に入れられれば、糖分の含むものを与えると良いですが、飲めない食べれないときには早めに受診するのがよいでしょう。5)9)
食事の工夫
口の中の発疹の痛みに対して鎮痛薬で痛みを和らげたり、粘膜保護剤の軟膏などが処方されることがあります。
少しでも食べられる場合にはその痛みが強くならないよう、食事による痛みへの負担を減らすことが必要になります。
のどに痛みがあるので、オレンジジュースなどのような刺激のあるものは避け、のどごしの良い少し冷たい飲みものがおすすめです。
例)麦茶や牛乳、冷めたスープ、ポカリなど。
食べものは、刺激が少なくかまずに飲み込める刺激の少ない食べ物にしましょう。
例)ゼリーやプリン、アイス、冷めたおじや、豆腐など。
飲み込むのが辛いときは、電解質や糖分を含むポカリなどのスポーツドリンクやOS-1などの経口補水液で脱水や低血糖を予防できる飲み物を飲むようにしましょう。
5)9)
小さな子どもの看護
子どもは、成長発達の途中にあり、言葉の発達と表現するちからが未熟なため、自分で症状や辛いことをその症状に合った言葉で訴えることができません。
また、伝えてきたとしても明らかではないため、伝わりにくい場合があります。
そのため、子どもの現在おかれている身体の症状が重いか軽いかを判断するには、子どもの言ったことだけを頼りにすると情報が不足してしまったり、重要な情報を逃してしまうことがあります。
お子さんを見たようすや呼吸のようす、おしっこの量や脈拍、皮膚の色を観察しておくことが大切なポイントになります。
お子さんを観察する上での保護者の方の「なんだかいつもと違う」という感覚もとても大切です。
遊ばない・・・今まで興味があったものに興味を示さない。
飲めない・・・食べることができない、食べさせようとすると嫌がる。
ぐずって眠らない・・・または眠り続ける。
といった「3つのできない」状況があった場合、それらを子どもの示す異常サインとしてとらえることがとても大切です。
お子さんの状態がいつもと違うのは何が違うのか把握しておくことは、受診の際にも医師に話しておくことで診断をする上でも、とても有効な情報になります。
5)9)
受診のタイミング
なかなか回復しない場合には、どんな症状があれば受診を考えたらよいのでしょうか。
ヘルパンギーナは症状が長引かないので、発熱が続く、頭痛、嘔吐、脱水、脱力など症状が長引くまたは強い場合には受診しましょう。
小さなお子さんで心配になる症状は、発熱が2日以上続く、嘔吐する、頭を痛がる、視線が合わない、呼びかけに答えない、呼吸が速くて息苦しそう、水分が取れずにおしっこがでない、ぐったりとしているなどの症状がみられた場合は、合併症へ移行している場合や、他の病気が潜んでいる場合もあるので受診して診てもらう必要があります。
すぐに医療機関を受診しましょう。5)9)
医療相談の専用電話の利用
自宅で療養しているものの、受診するほどの症状なのか、または、なかなかお子さまの症状が改善せず、心配だけど受診させるほどなのか、または受診したいけれども夜間や休日になってしまったけどどうしたらいいかなどを悩んでしまったら、相談に乗ってくれる窓口があります。
遠慮せず早めに相談することで重症化のリスクを下げることができます。
小さなお子さんの場合には、保護者の方の負担を減らし、お子さんの重症化を防ぐことにもつながります。
医療相談の専用電話を活用していきましょう。8)
大人は#7199に電話
#7199に電話することで大人が救急医療相談に乗ってもらえる窓口です。
専門の医師や看護師、相談員が病状に合わせ、緊急度判定プロトコルという指針を使い、受診で良いか、救急車を呼んだほうが良いかをアドバイスしてくれます。
受診が必要な場合には、受診できる病院を検索してくれます。
また救急要請が必要な場合には救急要請の段取りを指導してくれます。
まだ、全ての都道府県で実施されているわけではないですが、その取り組みは広がっています。
#7199の番号以外でも地域によって医療相談窓口を設けているところもあります。
もしもの時のためにお住まいの市区町村の取り組みを知っておくと良いです。8)
子どもは#8000に電話
#8000に電話することで子どもの救急医療相談に乗ってくれる窓口です。
全国どこでもこの番号でかけたら対応してくれる、国の子ども医療電話相談事業です。
保護者の方が、休日夜間のこどもの症状にどのように対応したら良いのか、病院を受診した方が良いのかなど判断に迷ったときに、医師・看護師が電話で相談に乗ってくれます。
この事業は全国同一の短縮番号#8000をプッシュすることにより、お住いの都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けられます。
電話ですぐに相談することができるのでとても便利です。
質問するときにはあらかじめメモ帳に質問したいことを箇条書きに書いておくと緊張せず話せておすすめです。
また、伝えておくと医師や看護師が判断できることがあるので、年齢、性別をまず伝え、今回の症状を時間を追って順番に話していくようにすると効率的です。
医師や看護師はお話しをしながら年齢や性別に合わせて疑われる病気やこれから起こり得る症状を予測しながらお話しを聞き、病気の予測をたてていきます。
もしうまく話せなくても大丈夫です。
医師や看護師が順を追ってお話しを聞いていきますので安心してください。
お子さんが心配で慌てる気持ちもあるかもしれませんが落ち着いて話すようにしましょう。8)
救急車要請数を減らすために
現在の日本の救急医療の問題点として、救急車の要請数が多く搬送に時間がかかってしまうケースが相次いでいます。
この原因は、救急車を要請するひとの多くが軽症であるのに、救急車を要請し、救急車を出動させてしまっているために、本当に救急車が必要な方の搬送に時間がかかってしまっていることが挙げられます。
日本はこれからますます高齢者が増えて、救急要請の数が増えると予測されています。
そのために、国民ひとりひとりがその現状を認識し、理解し、どうすれば良いのかを知ることが必要なのではないかと思います。
そこで、前項でご紹介した、救急医療相談窓口などの利用は、軽傷で自力で受診が可能で
救急車の出動が不要な救急要請数を減らすことに協力ができます。
心配な症状があったらまず医療相談窓口に電話してみることを心がける、かかりつけ医を持ち日中に電話で相談してみる、相談に行くようにするなど、できることから工夫していきましょう。
8)
まとめ
ヘルパンギーナはエンテロウィルス属が原因のウィルスの感染症です。
主な症状として、高熱と口の中の喉のあたりに発疹ができる病気です。
ヘルパンギーナは、手足口病、咽頭結膜熱と合わせて夏風邪のひとつといわれています。
症状は1週間ほどで軽快するのが通常です。
好発年齢は5歳以下が90%以上をしめます。
大人での感染は少ないですが、感染する場合には子どもの看病をしていて感染する方が多いようです。
大人は感染後、抵抗力が落ちていると発症することがあります。
大人では重症化するリスクが子どもよりも高くなるため注意が必要です。
ヘルパンギーナにはワクチン接種などの予防薬は存在せず、特効薬もありません。
症状緩和のために処方がでることもありますが、基本的には自然治癒にまかせます。
まれに合併症を起こすと、熱性けいれんや無菌性髄膜炎や心筋炎を発症することもあります。
熱性けいれんや無菌性髄膜炎では予後は良好ですが、心筋炎では予後が不良の場合もあります。
ヘルパンギーナは高熱により脱水症状を起こす可能性があるため注意が必要です。
小さな子どもの場合には脱水兆候をよく観察しておき、経口から飲めない時には早めに受診しましょう。
また、口の中の発疹の痛みが強い場合には、飲みものや食べ物に刺激が少ないものを選んで摂取できるようにしましょう。
必要に応じて解熱、鎮痛剤の使用も相談しましょう。
ヘルパンギーナの感染対策には、飛沫、経口、接触感染を予防することが大切ですが、普段の手洗い、うがい、咳エチケットを励行することで予防になります。
感染しているが無症状の方は自分自身が病原体を排出していることに気付かず感染源となることがあります。
感染の急性期を過ぎても、便からウィルスが排泄されていることもあるので、下痢でなくても便の取り扱いには注意する必要があります。
嘔吐物や下痢便のついた衣類などは廃棄するか、0.1%次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒しましょう。
処理後は必ず石鹸、流水で手を洗うことが感染を広げないために大切なことです。
ヘルパンギーナにかかって経過が長引いていたり、気になる症状がある時には早めにかかりつけや医療相談窓口に相談するようにしましょう。
#7199や#8000や、市区町村で行っている救急医療相談窓口を普段から確認しておきましょう。
ヘルパンギーナは比較的早く経過する病気ではありますが、その対応方法は知っていると安心ですね。
大人に感染することもあるので感染対策を適切に実施して、元気に夏を乗り切ってくださいね。
症状がつらくなったときに病院が休みだったらどこを頼ればよいのか困ってしまいますよね。
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参考文献
4)ヘルパンギーナ(夏風邪) 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。