元気なのに下痢が続く大人の病気とは
下痢が4週間以上続く慢性下痢では以下の病気が考えられます。
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過敏性腸症候群
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潰瘍性大腸炎
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大腸がん
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慢性膵炎(すいえん)
発熱や嘔吐など、下痢以外の症状がみられず下痢だけが続くと、原因が気になってしまうでしょう。
ウイルスや細菌による感染症の場合、下痢の症状は3日~1週間程度でおさまります。しかし元気なのに下痢が続く場合は、感染症の可能性は低く、別の病気が隠れているかもしれません。
早期発見と早期治療のために、ご自分の症状と照らし合わせてみてください。
過敏性腸症候群
腸に潰瘍やポリープなど異常が無いにもかかわらず慢性的な便秘や下痢、または両方、腹痛、腹部膨満感などを繰り返す疾患です。男性では下痢型、女性では便秘型または下痢と便秘を繰り返す混合型が多くみられます。
過敏性腸症候群の割合は人口の10%~20%で、思春期から壮年期まで幅広い年代で発症します。発症のピークは20歳代~40歳代で、男性より女性に多いことが特徴です。
原因は精神的、身体的ストレスが大きく関与していて、性格や育った環境の影響に加えてなんらかのストレスがかかると発症すると考えられています。また細菌やウイルスによる感染性胃腸炎のあとに、過敏性腸症候群が発症するリスクがあがることも報告されています。[1]
潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性疾患です。おもな症状は軟便や下痢、たびたび起こる
腹痛で、血便をともなうこともあります。重症になると発熱や体重減少、貧血が起こります。
潰瘍性大腸炎は、症状が落ち着く寛解期(かんかいき)と症状が再び悪化する活動期を繰り返すのが特徴です。
原因は不明ですが、自分自身を守る免疫システムが正常に機能しなくなり自分の大腸を攻撃してしまった結果、下痢になると考えられています。
潰瘍性大腸炎の割合は人口10万人あたり100人程度で、厚生労働省が定める指定難病の一つです。
発症年齢は比較的若く10歳代後半~30歳代前半が最も多いですが、高齢者まで幅広い年代での発症が報告されています。
発症に遺伝や食事内容との関連があると考えられていますが、原因は不明です。[2]
大腸がん
大腸に発生するがんです。
初期では自覚症状がほとんどなく、進行すると血便、便秘、下痢、便が細くなる、残便感、貧血などがあらわれます。
下痢になる原因は、大腸の水分吸収機能が低下するほか、がんが大きくなると便の通り道である腸管がせまくなって便が通りづらくなるためです。
大腸がんと診断される人は40歳代から増え始め、年齢があがるほど多くなります。女性より男性に多く発症するのが特徴です。
原因には肥満や加齢、飲酒、喫煙、運動不足などの環境要因と遺伝的要因があります。
大腸がんの割合は、1年間で人口10万人あたり120人程度です。男性の10人に1人、女性の13人に1人が生涯のうち1回は発症するとされています。[3][4]
慢性膵炎
膵臓の細胞に慢性的な炎症が起こり、細胞が破壊され膵臓の機能が失われていく疾患です。
膵臓の機能が低下すると膵臓から消化液の分泌量が減り消化不良をおこし、下痢の原因となってしまうのです。
症状は長期間続く鈍い背中の痛みですが、初期では急性膵炎のような腹痛をともなう激しい背中の痛みを繰り返します。進行すると食欲低下、下痢、体重減少などがみられ、糖尿病を発症します。
原因のほとんどはアルコールです。ほかに胆石症や副甲状腺機能亢進症によるものや、原因不明のものもあります。
慢性膵炎の割合は人口10万人あたり37人で、男性患者数は女性の2.5倍にのぼります。[5]
元気なのに下痢となるメカニズム
下痢は口から入る水分と腸から分泌される水分のバランスが崩れ、便の水分量が増えた状態です。
口から入った食べ物は胃、十二指腸、小腸を通過し大腸へ運ばれて排泄されます。
食べ物は胃や十二指腸、小腸から分泌された消化液によって小さく分解され、小腸で体の中に栄養として吸収されます。吸収されずに残った食べ物は大腸に運ばれ、余分な水分を大腸が吸収したあと便となって排泄されるのです。
しかし、なんらかの原因で大腸から水分が吸収されなかったり、腸から余分に水分が分泌されたりすると便に水分が多く残り、下痢になります。 [6]
下痢の種類
下痢は原因や症状によって4つに分類されます。ご自分の症状と照らし合わせて確認してみましょう。
下痢の種類 |
下痢が起こるメカニズム |
原因となる疾患・食品など |
浸透圧性下痢(しんとうあつせいげり) |
腸からの水分吸収が妨げられ、便に水分が多く残り下痢になる。 |
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分泌性下痢(ぶんぴつせいげり) |
腸から分泌される腸液の量が多くなり、便の水分が増えて下痢になる。 |
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蠕動運動性下痢(ぜんどううんどうせいげり) |
蠕動運動が活発になり過ぎ、食べ物の腸を通過するスピードがはやくなり、水分が腸から吸収されないまま排泄されて下痢になる。 |
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滲出性下痢(しんしゅつせいげり) |
腸に炎症が起こると血液成分や細胞内の液体が腸ににじみ出て、便の水分量が増え下痢になる。 |
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元気なのに下痢、大人は何日続いたら危険?
下痢が2週間以上続く場合は深刻な病気が隠れているかもしれません。
元気なのに下痢が長引くと、どのタイミングで受診すればいいのか迷いますよね。
細菌やウイルス感染による胃腸炎では、下痢は3日〜1週間以内におさまることがほとんどです。
下痢以外に目立った症状がなくても医療機関を受診して、必要な検査を受けるようにしましょう。[7]
何科を受診したらよいか
下痢症状では消化器内科を受診します。かかりつけの内科があればそちらを受診してもよいでしょう。
受診をする際は、いつから下痢が始まったのか・1日の下痢の回数・便の状態(色やにおいなど)・下痢が起こる場面・質問したいことなどをまとめておくとスムーズに診察が受けられます。
検査方法
問診で症状や体調などの聞き取りをおこなったあと、触診、血液検査、便培養検査、腹部エコー検査、腹部レントゲン検査、大腸カメラ検査などを必要に応じておこないます。
検査方法 |
検査内容・目的 |
問診 |
下痢の回数や便の状態、ほかに飲んでいる薬やかかっている病気について、生活環境などを聞き取る。 |
血液検査 |
炎症の有無や程度、血液中の電解質異常について調べ、下痢の原因や進行度合いを確認する。 |
便培養検査 |
便の中の細菌を繁殖させて感染している菌を特定する。慢性下痢では感染症腸炎と区別するためにおこなう。 |
腹部エコー検査 |
下痢の原因となる炎症の程度や広がり、腸液が溜まっていないかどうかなどを確認する。 |
腹部レントゲン検査 |
下痢の原因となる腸の中のガスや便の有無などを確認する。 |
大腸カメラ検査 |
腸の炎症の有無など、病変がなか調べる。病変の一部をとり、組織検査をおこなう場合もある。 |
元気なのに下痢が続く人に対しておこなう治療法
治療法は「食事療法」と「薬剤療法」の2つです。
治療法は原因疾患によって異なります。食事をとると下痢を引き起こす疾患や薬を飲まないと改善しない疾患もあります。
不安な場合は医療機関を受診して医師の指示を受けるようにしましょう。
食事療法
食事療法の基本は、脱水を防ぐために水分補給をおこなうことと腸に負担をかけない消化のよい食事をとることです。
具体的にどのようなものを食べたらいいのか、悩みますよね。
下痢のときに避けたほうがよい食品と腸への負担が少ないおすすめの食品をまとめたので、参考にしてみてください。
避けたほうがよい食べ物
食品例 | |
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揚げ物・肉類・バター・マヨネーズなど |
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アルコール飲料・カフェイン・香辛料・炭酸飲料など |
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小麦・魚類・甲殻類・果物など |
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牛乳・チーズなど |
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根菜類・きのこ類・たけのこ・豆類など |
腸への負担が少ない食べ物
食品例 | |
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お粥・うどん・食パン・やわらかいご飯など |
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脂肪分の少ない肉(鶏ささみ肉、鶏むね肉など)・卵・白身魚(タラ、カレイ)・豆腐など |
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にんじん・白菜・ほうれん草・りんご・バナナなど |
下痢の原因によっては絶食をしなければ症状が改善しないことがあります。たとえば潰瘍性大腸炎の重症例では入院をして医師の管理のもと絶食をおこない、腸を休ませます。
下痢のときは脱水になりやすいため、経口補水液などを利用して水分補給を忘れないようにしましょう。
薬剤療法
下痢の薬剤療法に用いる薬には以下のようなものがあります。
ただし下痢の原因によっては使用できないものがあるため、下痢のタイプに応じた薬を選ぶことが大切です。処方された薬は指示どおりに飲み、市販薬を購入するときは薬剤師や登録販売者に相談するようにしましょう。
効果・注意点 | |
抗生剤 |
細菌感染で起きた下痢に用いる。医師が必要と判断したときのみ使用する。 |
整腸剤 |
腸内細菌のバランスを整えて下痢を和らげる。 |
下痢止め |
腸の働きを抑える、腸の炎症を抑える、下痢の原因物質を吸着するなどの効果で下痢を止める。 感染性の下痢では、下痢止めを飲むと細菌やウイルスを腸から排出できず回復が遅れるため使用できない。 |
安定剤 |
下痢症状を悪化させる不安や緊張を和らげる。ほかの薬と併用して使われることが多い。 |
よくある質問
元気なのに下痢が続く大人に関して、よくある質問にお答えします。
ずっと下痢が続いていたら何の病気ですか?
2週間以上続く慢性下痢症では次の病気の可能性があります。
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腸過敏性症候群
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潰瘍性大腸炎
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大腸がん
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慢性膵炎
上記以外の病気が隠れていることも考えられるため、できるだけ早めに医療機関を受診して必要な検査などを受けるようにしましょう。
腹痛がないのに下痢が続く原因は何ですか?
腹痛をともなわない下痢が続く場合には以下のような原因が考えられます。
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過敏性腸症候群
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大腸がん
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薬剤性の胃腸炎
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ストレス性の胃腸炎など
すぐに医療機関を受診できないときは薬剤師に相談して市販薬を利用してもよいでしょう。ただし深刻な病気が隠れていることもあるため、できるだけ早めに医療機関の受診をおすすめします。
元気なのに下痢が続いていたらがんですか?
がんであるとは限りません。さまざまな病気の可能性が考えられます。
医療機関を受診して医師に相談してみましょう。
まとめ|元気なのに下痢が続く大人はできるだけ早めに受診を
元気なのに続く大人の下痢について、原因や症状、治療法、受診の目安についてご紹介しました。
下痢が続く原因には、以下の病気の可能性があります。
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過敏性腸症候群
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潰瘍性大腸炎
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大腸がん
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慢性膵炎
治療法は「食事療法」と「薬剤療法」です。
食事療法の基本は水分補給と消化のよい食事をとることです。重症の場合は入院をして絶食をおこなうこともあります。薬剤療法で用いる薬は、抗生物質、整腸剤、下痢止め、安定剤などです。感染性の下痢では下痢止めを服用すると症状が悪化して回復が遅れてしまうため、自己判断での使用は注意が必要です。必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
発熱や腹痛などの症状がみられなくても下痢が2週間以上続く場合は、できるだけ早めに医療機関を受診して、適切な治療を受けることをおすすめします。
症状がつらくなったときに病院が休みだったらどこを頼ればよいのか困ってしまいますよね。
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参考文献
[7]感染性胃腸炎(ウイルス性胃腸炎を中心に) infectious gastroenteritis | 東京都感染症情報センター
本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。