糖尿病網膜症とは?症状や治療方法について解説!

公開日: 2023/12/30 更新日: 2024/05/22
糖尿病網膜症をご存じですか? 糖尿病腎症や糖尿病神経障害と並ぶ糖尿病の3大合併症の一つです。 糖尿病患者の15%が発症している病気で、具体的には、約140万人が糖尿病網膜症になると言われています。 日本の失明原因として、「緑内障」(40.7%)、「網膜色素変性」(13.0%)に次ぐ第3位(10.2%)の疾患です。 多数の方の失明原因にも関わらず、眼科を受診せず数年間放置している人が非常に多くいます。その理由は初期段階では自覚症状が無いことだと推測されます。 糖尿病網膜症は早期発見と早期治療が非常に重要な病気です。 この記事では、事前に知っておきたい糖尿病網膜症の症状・治療法について説明していきます。 また、糖尿病網膜症と関わりが深い、糖尿病黄斑浮腫やよくある疑問についても解説しています。 ぜひ、参考にしてみてください。
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目次

糖尿病網膜症とは?目の部位と共に解説

人間の眼球は水晶体や硝子体、網膜など複数の部位から構成されています。

糖尿病網膜症に関連する部位は4つあります。

  • 網膜
  • 黄斑
  • 中心窩
  • 硝子体

それぞれについて説明します。

網膜渦

目の一番内側にある透明な薄い膜で、カメラのフィルムにあたる部分です。目で見た光を映像に変換して脳に伝達する働きをします。

糖尿病網膜症や外傷により膜が剥がれて視力が低下することを網膜剥離と言います。

黄斑

網膜の中心部で黄色の為、黄斑と呼びます。明るさを感じる桿体細胞と色を感じる錐体細胞が存在し、視力の中心的役割を担っています。網膜の中でも重要な部位です。

中心窩

網膜にある黄斑の中心部です。色を感じる錐体細胞が集中し、眼球の中で最も視力が高い場所と言えます。

硝子体

眼球内の大部分を占める透明なゼリー状の組織です。眼球の形を保つ役割を担い、入ってくる光を屈折させます。

少量の出血があると飛蚊症になり、大量の出血があると視力低下や視界が霧がかる霧視(むし)になります。

糖尿病網膜症とは、糖尿病による網膜の障害や硝子体の出血により視力に異常が生じた状態です。

糖尿病の期間が長くなるにつれて、糖尿病網膜症になる可能性が高くなると言われています。

糖尿病網膜症の原因は?

糖尿病網膜症の原因は糖尿病です。

糖尿病は血液内ブドウ糖が多い高血糖状態と呼ばれ、血管を傷つけたり、流れを悪くしたりします。

健康な方の血液はサラサラとした水で、糖尿病患者の血液はザラザラ、ドロドロとした砂糖水をイメージしてください。

糖分によるザラザラが血管を傷つけ、ドロドロで血液の流れが悪くなるのが何となく想像できるのではないでしょうか?

高血糖による血管の障害は細い血管から影響が早くあらわれます。太い血管も時間の経過に伴い影響がでるので注意が必要です。

網膜には毛細血管と呼ばれる細い血管が多く存在します。

その為、高血糖状態の影響を受けやすく、血管内の出血や血液が十分に届かない虚血状態を引き起こし、糖尿病網膜症へ繋がっていきます。

元々ある血管が虚血状態になると、目の細部に血液(酸素)を届けられず、体は網膜で新たな血管である新生血管を作り対応します。これを血管新生と言います。

新生血管は短期間で作られる為、非常に脆く多量の出血を引き起こしやすい特徴があります。

複数の新生血管が出血した結果、硝子体出血や網膜剥離を引き起こし、最悪の場合は視力障害や失明に繋がる恐ろしい病気です。

また、急激な血糖値の低下も網膜に悪影響を与えます。現時点ではメカニズムは不明ですが、HbA1cが1か月に0.5〜1%以上変動しないように注意が必要です。

他人の介助を必要とする重度の低血糖症状が発生した場合、糖尿病網膜症の発生率が約 4 倍に増加すると言われています。

糖尿病網膜症の症状を進行度ごとに解説

日本で用いる主な糖尿病網膜症の重症度分類方法は複数あります。

今回は日本で広く使用されているDavis 分類を基に、治療後の状態を含めて詳しく説明していきます。

Davis 分類では、重症度に応じて3つに分類します。

  • 単純網膜症
  • 増殖前糖尿病網膜症
  • 増殖糖尿病網膜症

今回は上記に、治療後の増殖停止網膜症を加えて解説します。

単純糖尿病網膜症

糖尿病網膜症の初期段階は、単純糖尿病網膜症と呼びます。

血液中の糖により、眼内の血管が傷つき小さな出血をした状態です。また、出血時に漏れた脂質による硬性白斑と呼ばれる沈着が確認できます。

この段階では、黄斑部に出血していなければ、基本的には自覚症状はありません。

増殖前糖尿病網膜症

糖尿病網膜症の中期段階は、増殖前糖尿病網膜症です。

血液中の糖によって血管でできた傷に脂質が蓄積し、血管内にプラークと呼ばれる瘤(コブ)が出来ます。

そのため、血管が狭窄し、血液の流れが滞り血管閉塞へ繋がります。これは虚血と言い、網膜の神経細胞に血液が不足し浮腫みが発生した状態です。

生じた浮腫みは白く、シミのように見えることから軟性白斑と呼ばれます。

この段階の主な症状は、視界のかすみです。しかし、自覚症状が無い方も多数存在します。

増殖糖尿病網膜症

糖尿病網膜症の末期段階は、増殖糖尿病網膜症です。

血管が閉塞し、網膜の神経細胞が血液不足の為、本来存在しない新生血管を作成し、血液の供給を図る血管新生が生じます。

新生血管の特徴は、短期間で作られた影響で、非常に脆く多量の出血を引き起こしやすいことです。

新生血管の出血が続くことで、硝子体に出血が及び、視界に黒いゴミが見える飛蚊症や、急な視力低下を引き起こします。

また、新生血管の周囲が線維化し、網膜が引っ張られることで増殖膜網膜剥離を起こす場合もあり、危険な状態です。

増殖停止網膜症

治療により落ち着いた状態を増殖停止網膜症と呼びます。

一度症状が落ち着いても、再度悪化することがあります。

落ち着いた状態を保つためには、良好な血糖コントロールの維持と定期的な眼科検診が大切です。

糖尿病網膜症の主な検査は?

糖尿病網膜症の状態を調べる検査は、一般的な視力検査や眼圧検査の他に主に3つ検査を実施します。

  • 精密眼底検査
  • 蛍光眼底検査
  • 光断層断層計(OCT)

それぞれについて説明します。

精密眼底検査

眼球の奥底にある血管・網膜・視神経を調べる検査です。事前に瞳孔を開く散瞳薬を使用する必要があります。

散瞳薬により、点眼後5〜6時間は眩しく見えづらい状態が続きます。車の運転も控えなければいけません。

検査後はサングラスを着用することで眩しい状態を和らげることができます。

蛍光眼底検査

網膜血管の状態を細かく確認する検査です。

造影剤を静脈内に注射することで、血管内の血液の流れの状態や、通常の眼底検査では発見が困難な病変を詳しく調べることができます。

検査前に散瞳薬を使用します。精密眼底検査と同様で、点眼後5〜6時間は眩しく見えづらい状態が続きます。車の運転も控えなければいけません。

検査後はサングラスを着用することで眩しい状態を和らげることができます。

人によっては、造影剤でアレルギー症状が発現する為、注意が必要です。過去に造影剤でアレルギーを起こした経験がある方や心臓・腎臓疾患がある方は医師へ相談しましょう。

検査後は造影剤により、顔や皮膚・尿が黄色くなったり、便が緑色になったりすることがあります。 体調に影響は無いのでご安心ください。

光断層断層計(OCT)

網膜の断層画像を撮影する検査です。

網膜のむくみの程度や出血の範囲、深さ、視神経の状態を調べる事ができ、黄斑浮腫などの状態を確認することができます。

検査は10分と短時間で終了し、検査後の制限も特にありません。

適切な検査頻度は?

糖尿病網膜症の状態を確認する為、定期的な検査が必要になります。

症状の進行度ごとの推奨検査間隔は以下の通りです。

進行度

推奨検査間隔

網膜症無し

1年に1回

単純糖尿病網膜症

6か月に1回

増殖前糖尿病網膜症

2か月に1回

増殖糖尿病網膜症

1か月に1回

硝子体出血のある増殖糖尿病網膜症

2種間に1回

糖尿病網膜症は治る?治療方法を解説

糖尿病網膜症で低下した視力は回復しません。治療の主な目的は、高血糖による血管障害を防ぎ、病気の進行を遅らせることです。

進行段階を問わず、血糖値のコントロールが非常に大切です。糖尿病による合併症を防ぐ為、HbA1cは7.0%未満が目標になります。

野菜や果物、魚、地中海食の摂取を意識した食事療法やウォーキング・筋トレに取り組む運動療法、禁煙といった生活習慣の見直しをしましょう。

また、高血圧や脂質異常症も糖尿病網膜症を悪化させると言われているので注意が必要です。

糖尿病や高血圧、脂質異常症の薬を使用中の方は、医師の指示を守り継続した服用をしましょう。

増殖前糖尿病網膜症以降は、症状の進行を防ぐためレーザーを用いた網膜光凝固術や硝子体手術を検討します。

レーザー治療(網膜光凝固術)

レーザー治療(網膜光凝固術)は、レーザーを用いて虚血状態となった網膜を熱凝固する治療方法です。新生血管による、網膜出血がある場合に実施します。

新生血管の出血予防や新生血管の発生予防が期待できる為、糖尿病網膜症の悪化を防ぎます。

レーザー治療(網膜光凝固術)は日帰りで出来る?費用は?

レーザー治療は日帰りで受けることができます。

以前は、レーザー治療の際に痛みを感じる方が多くいました。現在では、治療に用いる機器の進歩により、痛みが軽減され、ほとんど感じない方やピリピリと感じる程度の方もいます。

施術時間も15分〜30分/回と短時間です。状態によっては複数回の実施が必要です。

レーザー治療後、2〜3日の間は視界がぼやける事があります。また、重い物を持ち上げたり、過激な運動、強い咳、長時間下を向く事、長時間の入浴に注意が必要です。

状態により左右されるため、詳細は医師にご確認ください。

1回の費用は、片目1割負担で約15,000円程度が目安です。

硝子体手術

糖尿病網膜症が進行し、硝子体出血や網膜剥離がある場合は、硝子体手術が必要になります。

硝子体は透明なゼリー状の組織です。眼の中にあるゼリー状の組織を微小なストローで吸い取る手術と考えるとイメージしやすいのではないでしょうか?

近年では、手術方法が発展し、体への負担が少なく安全性をより高く実施できるようになっています。

硝子体手術は日帰りで出来る?費用は?

病院によっては、硝子体手術は日帰りで受けることができます。しかし、症状の状態や医療機関によっては入院が必要になるためご注意ください。

施術時間は30分〜1時間程度です。

手術後は、保護メガネの装着や1週間を入浴禁止したり、洗顔・洗髪・シャワー・メイク・飲酒・喫煙・車の運転を1週間控えたりと注意すべき点が複数あります。

また、医療用ガスを注入した場合は、うつぶせ姿勢を維持しなければいけません。

医師の指示をしっかりと確認しましょう。

1回の費用は、片目1割負担で30,000円から70,000円が目安です。

高額療養費制度や生命保険を利用できる?

レーザー治療(網膜光凝固術)や硝子体手術では、高額療養費制度を利用できる場合があります。一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される制度です。

所得や年齢といった複数の条件により、自己負担限度額が異なります。詳しくは厚生労働省のホームページをご参照ください。

生命保険についても保険特約の内容により支払い対象の場合があります。

こちらも、各保険会社に契約内容をご確認ください。

糖尿病網膜症と関連する合併症!糖尿病黄斑浮腫とは?

糖尿病黄斑浮腫は視力に一番大切な黄斑に浮腫みが発生する病気です。網膜で生じた出血が黄斑に及ぶことが原因です。

糖尿病網膜症の約20%に合併し、重症度に問わず発症する可能性があります。

症状はゆがみや中心暗点(真ん中が暗く見える)、視力低下などの症状が出現します。

現在、主流の治療方法はルセンティスやアイリーアといった抗VEGF薬硝子体内注射です。

それ以外の治療方法は、抗炎症作用と血管を引き締める効果が期待できるステロイド薬の硝子注射があります。

糖尿病網膜症でも紹介したレーザー治療(網膜光凝固術)や硝子体手術を実施することもあります。

抗VEGF薬硝子体内注射とは?

新生血管の増殖や黄斑浮腫の悪化は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が悪影響を与えています。

抗VEGF薬の効果は、血管内皮細胞増殖因子の働きを阻害による糖尿病黄斑浮腫の進行抑制です。

糖尿病黄斑浮腫の治療の為、抗VEGF薬を白目部分から眼の中心部である硝子体に向けて行います。

硝子体注射は、目薬による局所麻酔を実施する為、硝子体注射による痛みはほとんどないと言われています。

また、治療時間も短く、5分から10分です。

治療初期は、1か月に1回で実施し病気の状態や薬によって2〜3か月に1回と調節して治療します。

注射後は、眼帯と感染予防の抗菌薬を使用します。当日の洗顔や洗髪や、数日間のメイクを控えることが必要です。

こちらも、必ず医師の指示に沿ってお過ごしください。

ルセンティスとアイリーアの違いは?

抗VEGF薬の代表的な薬剤はアイリーアとルセンティスの2種類です。

それぞれの効果や使い分けについても解説します

ルセンティス(ラニビズマブ)

2009年3月に販売した抗VEGF薬です。

有効成分の全身移行性が低いため、安全性が高い薬と言われています。

その為、妊婦や高齢の方でも、安心して使用することができます。

片目1割負担で1回実施した場合の費用目安は、約18,000円です。

アイリーア(アフリベルセプト)

2012年11月に販売し、ルセンティスよりも新しい抗VEGF薬になります。

ルセンティスと比較し、持続時間や効果が良好です。

しかし、微量の有効成分が眼から血管を通じて全身へ移行します。

妊婦または妊娠している可能性がある方は禁忌に該当し使用することができません。

ルセンティスで効果が不十分な場合や症状が重い場合にアイリーアを使用するケースが多くあります。

片目1割負担で1回実施した場合の費用目安は、約16,000円です。

Q&A

糖尿病網膜症にメガネは有効ですか?

メガネやコンタクトレンズといった視力矯正器具は近視や遠視など網膜にピントが合わない状態を矯正します。

仮に網膜へピントを調節しても、網膜自体に支障が出ている為、視力矯正器具で視力が回復することはありません。

糖尿病網膜症の進行は速いですか?

糖尿病になってから、約5〜10年経過後に発生すると言われています。

しかし、進行速度には個人差があります。

40歳以下の若年層は進行が早い傾向にある為、注意が必要です。

また、一般に、血糖コントロールが良好であれば糖尿病網膜症の進行も遅くなる傾向にあります。

白内障手術をすると糖尿病網膜症は悪化しますか?

現在の白内障手術では、糖尿病網膜症の悪化に繋がるケースは非常に稀です。

白内障手術の術式は、年々発展しています。過去に行われていた白内障手術は、強膜(白目の部分)の切開創が6〜11mmと長く、眼に対して大きな負担がかかりました。

この場合、術後に生じる眼内の炎症も強く、当時の白内障手術は糖尿病網膜症に悪影響を与える場合があります。

しかし、現在の術式は切開創3mm程度で実施できるようになり、眼に対しての負担もわずかです。

糖尿病網膜症は遺伝しますか?

糖尿病の合併症の一つである糖尿病網膜症の発症には遺伝要因が関与していることが知られています

糖尿病網膜症は、高血糖などの環境要因と遺伝要因の両方が関連する多因子疾患です。

その為、類似した血糖コントロール下においても、病気の発症・進展には個人差が認められます。

現在、どの遺伝子が関与しているかについての研究が進展し、今後は治療の遺伝的アプローチが期待されています。

まとめ

糖尿病網膜症は失明に繋がる恐ろしい病気です。

そして、糖尿病の方であれば、誰にでも発症する可能性があります。

自覚症状を感じてから受診しても、既に病気が進行しているケースも少なくありません。

そのため、早期発見、早期治療が非常に重要な病気です。

人間は視覚から8割の情報を得ていると言われ、視力は生活の質に密接に関係します。

糖尿病と診断された方は、自覚症状が無くても一度、眼科を受診し、医師の診察や検査を受けるようにしましょう。

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