シックデイをわかりやすく解説!食事がとれない時に糖尿病の薬はどうするの?
「糖尿病の薬を飲んでいるけれど、今日は体調が悪くて食事がとれない。」
そんなときはありませんか? 糖尿病の方が、体調不良により食事が取れない状態を「シックデイ」といいます。通常の時よりも血糖値の変動が大きいため、特別な対応が必要です。
シックデイ時の日常生活の注意点や、休薬のポイントについて、わかりやすく解説します。
名倉 義人 医師
○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院
○資格
救急科専門医
○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会
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シックデイとは
シックデイは、英語の「sick(病気)」+「day(日)」 に由来します。
糖尿病の方が、感染症などによる発熱や下痢、おう吐のために食事が十分にとれない状態を指します。
なぜ低血糖になったり、高血糖になったりするのか?
体調が悪くなると血糖値は低くなりすぎたり、高くなりすぎたりします。
主に、以下の理由が考えられます。
- 食事量が少ない状態で、いつも通りに薬を飲むことで低血糖になりやすい
- 食事がとれないのを理由に、薬を自己判断で中断することで高血糖になりやすい
- 様々なストレスにより、インスリンの作用と相反するホルモンが増加することで高血糖になりやすい
- 感染症により炎症を引き起こす因子が増加し、インスリンが効きにくくなり高血糖になりやすい
- 発熱や下痢などに伴う脱水状態により、体外へのブドウ糖が排泄されにくく高血糖になりやすい
このように、感染症による発熱や脱水状態、食欲不振になると、血糖値が大きく変動しやすいです。
低血糖も、高血糖も放置してしまうと、症状が進み、意識障害を起こします。場合によっては死に至ることもあるので適切な対応が必要です。
まず、シックデイの状態にならないために日頃の体調管理が大切です。しかし感染症を100%防ぐのは難しいでしょう。そのため、正しい対処方法をしっかり把握し、シックデイの時に備えることが重要です。
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シックデイ時の対処方法
糖尿病の方が、体調不良により食事を十分にとれないときの対応について紹介します。 「シックデイ・ルール」とも呼ばれています。
普通の体調不良時にもいえますが、安静と身体を温めることを第一に行いましょう。
1.病院の受診目安
以下の状態に当てはまるときは、医療機関の受診が必要です。
①おう吐や下痢が激しく、1日以上続くとき
②24時間にわたって食事がとれない/著しく少ないとき
③38℃以上の高熱が2日以上続き、改善がみられないとき
④血糖値 350mg/dL以上が1日以上続くとき
⑤腹痛/胸痛/息苦しさがあるときや、意識がもうろうとするとき
受診は、普段の病状や治療を把握しているかかりつけの病院が望ましいです。しかし、診療時間外や夜間など難しい場合には他の病院の救急外来を頼りましょう。初めての病院を受診するときは、現在使っている薬の種類や量がわかるもの(お薬手帳や薬の説明書など)、直近の検査値が記載されたものを一緒に持参すると良いでしょう。
2.水分補給と食事
脱水予防のため、十分に水分を摂取しましょう。少なくとも1日1,000〜1,500mLの水やお茶をとるようにします。
食事は、糖分の補給が大切です。おかゆやうどんなどの炭水化物、果物、固形が難しい場合はジュースやスープでも構いません。
3.血糖測定
血糖測定器を持っている方は、こまめに測定を行います。
通常の血糖値から大きく外れる値が持続する場合は、かかりつけの病院へ相談しましょう。
350mg/dL以上の高血糖が1日以上続くときは、すぐ受診が必要です。
食事量と休薬の目安
食事量とそれぞれの薬の中止目安について説明します。
休薬については、個人の病状や血糖値の状況、現在の食事摂取状況、治療によっても異なるため、あくまで目安となります。普段から主治医と話し合って決めておきましょう。
また、薬の中断は、異常な高血糖を引き起こす可能性があります。食事がとれない状態だからといって、自己判断で薬を止めてはいけません。
最近は、合剤(配合剤)と呼ばれる複数の成分をひとつにまとめた薬があります。薬の数が減り、飲み忘れを防げるため、利用されている方もいるでしょう。ただし薬の調整が難しいというデメリットもあります。配合されている成分を把握し、シックデイのときに注意すべき成分があるかも確認しておきましょう。
インスリンの場合
食事がとれないときでも、中間型または持続型のインスリンは継続します。
ただし、食事の前に打つ速効型のインスリンは、食事量や血糖値に応じてインスリン量の調整が必要となるため、主治医に確認をしましょう。
メトホルミン(ビグアナイト薬)の場合
肝臓からの糖放出を抑える作用やインスリンを効きやすくする作用、腸からの糖分吸収を抑える作用により、血糖値を下げる薬です。
シックデイのときは、脱水によりメトホルミンの副作用である乳酸アシドーシス*が起こりやすくなるため中止しましょう。
*乳酸アシドーシスとは:肝臓からの糖放出を抑える過程で生まれる乳酸が、脱水や腎不全により十分に代謝ができずに溜まり、体内が酸性に傾く状態。
インクレチン関連薬の場合(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)
インクレチンとは、膵臓からのインスリンの分泌を促すホルモンの一つです。インクレチン関連薬は、インクレチンの作用を強めることで血糖値を下げる薬です。
シックデイ時の休薬についてはまだ明確な基準がないため、事前に主治医と確認しておくと安心でしょう。
SGLT-2阻害薬の場合
腎臓での糖の再吸収を抑え、尿から糖を体外に排泄することで血糖値を下げる薬です。
薬の作用に付随して、尿量が増えることが報告されており、脱水状態になるおそれがあります。
シックデイのときは、食事や水分の摂取低下により脱水を助長する可能性があるため、中止する必要があります。
インスリン分泌促進薬の場合(SU薬、グリニド薬)
膵臓に働きかけ、インスリンの分泌を促し血糖値を下げる薬です。
他の薬と比較し、低血糖の副作用が起きやすい特徴があります。
食事摂取量によって薬の調整が必要なため、主治医と相談し中止もしくは減量をします。
αグルコシダーゼ阻害薬の場合
糖の分解を抑えることで、体内にブドウ糖を吸収しづらくし、血糖値が上がらないようにする薬です。
下痢やおう吐などの消化器症状が強いときには中止を検討します。
チアゾリジン薬の場合
インスリンが効きにくい体質を改善する薬です。
単独の服用では低血糖は起こしにくいですが、シックデイのときには中止できます。
イメグリミン(商品名:ツイミーグ)の場合
2021年に発売開始となった新しい薬です。ミトコンドリア機能改善薬という新たな機序で、インスリンを効きやすくする作用とインスリン分泌を促す作用の両方をもち、注目されています。
シックデイのときの対応は、新しい薬のため明確な基準がまだありません。製薬メーカーに問い合わせたところ、添付文書に「栄養不良状態、飢餓状態、不規則な食事摂取、食事摂取量の不足又は衰弱状態では、低血糖を起こすおそれがある」と記載されているため、シックデイの際は中止を検討するよう回答を得ました。
やはり中止については、主治医と事前に決めておく方がよいでしょう。
Q&A
糖尿病とシックデイについてよくある質問をまとめました。
ケトアシドーシスとは何ですか?
ケトアシドーシスとは、糖尿病の急性合併症のひとつで、ケトン体という物質が増えすぎて血液が酸性に傾いてしまう状態です。
インスリン治療を自己判断で中断したり、十分なインスリンが投与されなかったりすると、体内のインスリンが不足した状態になります。すると脂肪の分解が高まり、「ケトン体」という物質が体内に増えます。ケトン体が増えすぎて血液が酸性に傾く状態が、ケトアシド-シスです。
ケトアシドーシスになると、吐き気やおう吐、腹痛、意識障害が起こります。適切な処置を行わないと死に至ることもあるため、疑いがある場合にはすぐ救急車を呼びましょう。
ケトアシドーシスはインスリン治療をしている方に主にみられます。シックデイのときやインスリン注射を中断したときなどの極端にインスリンの必要性が増加したときに起こるので注意が必要です。
シックデイになったらどうすればいいですか?
まずは安静と身体を温めることを心がけましょう。
脱水や低血糖を防ぐために、こまめに水分摂取を行い、糖分を中心に消化の良いものや食べやすいものをとります。
血糖測定器を持っている方は、血糖値をこまめにはかるようにします。
高熱や高血糖が持続したり、下痢やおう吐があり十分に食事がとれない状態が続いたりする場合は、早めに医療機関に連絡・受診をしましょう。
シックデイになったら服薬は中止したほうがいいですか?
自己判断での中止は危険です。
シックデイのときは、血糖値を上昇させるホルモンの増加や、炎症・脱水により高血糖になりやすいといわれています。
服薬を中止するとさらに高血糖になり、ケトアシドーシスなどの急性合併症を起こす可能性もあります。
勝手に服薬は止めずに、主治医の指示を仰ぎましょう。事前に話し合っておくと安心です。
シックデイの注意すべき点は?
シックデイのときは、血糖値が低くなりすぎたり、高くなりすぎたりします。
感染症による発熱や脱水、食欲不振のために血糖値が大きく変動しやすいのです。
低血糖も高血糖も、適切な処置をしないと意識障害を起こし、場合によっては死に至ることもあります。
高熱や高血糖が続いたり、下痢やおう吐が続いたりする場合は、早めに医療機関に連絡・受診をしましょう。
シックデイルールの食事と薬は?
休薬については、飲んでいる薬の種類や個人の病状、普段の血糖値の状況、現在の食事摂取状況、治療によっても異なるため、一概に言えません。
普段より主治医と話し合って決めておくのがベストです。 診療時間外や夜間の場合、主治医に連絡がつくときには指示仰ぎましょう。それも難しい場合には、救急外来を行なっている病院を受診し、相談して下さい。
まとめ
糖尿病患者が、体調不良により食事が取れない状態を「シックデイ」といいます。 シックデイのときには、通常の時よりも血糖値の変動が大きく、日常生活において注意が必要となります。 安静と保温を心がけ、水分は十分に摂取しましょう。食事はとれそうであれば、炭水化物を中心に消化が良いものをとるのがおすすめです。 薬は食事摂取量に応じて調整が必要となる場合があります。 普段より主治医とよくコミュニケーションを取り、万が一に備えてみてはいかがでしょうか。
参考文献
日本糖尿病学会.「糖尿病診療ガイドライン2019」.公益財団法人 日本医療機能評価機構.
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0004/G0001154
日本糖尿病療養指導士認定機構.「「糖尿病療養指導ガイドブック2023」
─糖尿病療養指導士の学習目標と課題─」.株式会社メディカルレビュー社