トキソプラズマ症の特徴・症状と治療法について

公開日: 2024/02/05 更新日: 2024/02/05
トキソプラズマ症とは「トキソプラズマ原虫」という寄生虫の一種により起こる感染症の一つです。 トキソプラズマ原虫は、猫に寄生する寄生虫の一種でトキソプラズマ原虫は5~7μm程度のごくごく小さな寄生虫で、顕微鏡などを使用しないと見えません。 この寄生虫は、猫以外の哺乳類や鳥類などにも感染します。 この寄生虫が人間に感染することで様々な症状を起こしたものを「トキソプラズマ症」と言います。
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目次

トキソプラズマ症の感染経路は?

トキソプラズマは猫に感染するとその体内で寄生虫の卵 (オーシスト)を作ります。

この段階では卵のようなもの(オーシスト)も未成熟で感染する能力はありません。

この寄生虫の卵(オーシスト)はトキソプラズマに感染した猫の糞便とともに排泄され、猫の身体の外に出てきます。

寄生虫の卵は猫の体の外に出てから一定の期間(2~3日)をかけて成熟し、他の動物へ感染することができるようになります。

その後、オーシストが混じった糞便が土などを介して手や野菜などにつき、口からトキソプラズマに感染してしまうのです。

そのほか、猫の糞便が混じった土の周囲の植物を食べた牛や豚などはトキソプラズマに感染します。

猫以外の動物に取り込まれたトキソプラズマは、腸管内から動物の身体の中に入っていき、様々な臓器に住み着きます。

そのため、感染した動物が牛や豚などであった場合はその肉を食べることによってトキソプラズマに感染する場合もあるのです。

トキソプラズマ症の症状について

大人がかかるとどうなる?

トキソプラズマは一度の感染で免疫がつき、一生そのまま免疫がついた状態となるため、大人が感染してもその免疫により防御されます。

そのため感染した場合の多くは無症状となります。

また、初めての感染などで症状が出た場合もトキソプラズマ症に特徴的な症状はあまりなく、発熱や身体のだるさ、リンパ節が腫れる等の症状が出るだけのことが多いため気づかれないことが多いのです。

ただし、白血病やAIDS、抗がん剤治療などで免疫力が落ちてしまっている場合(免疫不全)は肺炎を起こしたり、脳炎を起こしてしまい意識が悪くなったり痙攣を認めたりします。

眼への感染を起こすと、視力低下を起こしたり、見え方がおかしくなるなどの症状が出たりと様々な症状を起こすのです。

時にはその他様々な臓器への感染を起こし、重症となることもあります。一般的には感染してもなんともない感染症ですが、このような免疫力がなくなった人では重症となり得ますので、注意深く治療していくことが必要です。

子供がかかるとどうなる?

子供がトキソプラズマ症にかかったときもある程度の免疫力があるため、大人がかかった時と同じく無症状で経過することが大半です。

初めての感染で症状が出てしまった場合も大人と同様に熱が出たりといった症状が多く、トキソプラズマ症だからと特徴的な症状があるわけではありません。

ただし、なんらかの原因で免疫力がかなり落ちてしまっている場合は様々な症状が出ることがあります。

赤ちゃんがかかるとどうなる?

赤ちゃんがトキソプラズマ症にかかったときはどうでしょうか。

生まれてから感染した場合は、無症状のことが多いのですが、生まれる前にかかった場合は要注意です。

胎児の時期に感染した場合は生まれたときに症状が出ていることもありますが、生まれてすぐではなく、生後しばらくしてから症状が出てくることも多くあります。

これは後の項目で説明します。

トキソプラズマ症の診断と治療について

トキソプラズマ症の診断について

トキソプラズマ症では感染しても特徴的な症状がなく、症状が出ても熱や身体のだるさなどの身であることが多いため、

感染していると気づかれにくく「トキソプラズマ症である」と診断自体がつきにくい病気です。

トキソプラズマ症を疑った場合は、抗体検査やPCR検査を行います。

そのほか、この感染症では脳炎を起こすこともあるため、CTなどの画像検査を行い、重篤な症状が出ていないかということも同時に検査していくこととなります。

感染している臓器の一部を使用し、顕微鏡で直接寄生虫を確認する検査(病理学的評価)などもありますが、

身体への負担も大きくなるので、いきなり組織の検査ではなく、まずは血液などの検査を行うことが大半です。

トキソプラズマ症の治療について

トキソプラズマ症ではトキソプラズマに感染しても、先に述べたように無症状や軽症で終わることがほとんどです。

無症状及び軽症の場合は自然に治ることが多いため、大半は特に治療を行わずに様子を見ているだけになります。

トキソプラズマ症の中でも治療が必要となるのは、症状が重篤化している場合、新生児、妊婦、免疫力が落ちていたり働かなくなっている場合(免疫不全)などです。

実際の治療では一般的に薬をある程度の期間内服(ピリメタミン、スルファジアジン、ホリナートなど)します。

また、トキソプラズマは再発することも多く、一旦病気が治ったとしても再発することもあり、治ったからと完全に油断することはできません。

そのため、特に免疫不全になってしまい自分の免疫で感染を防げない人では、薬を飲み続けるなどして対抗する治療(維持療法)を行い、再発を予防することを検討したり行ったりします。

トキソプラズマ症と性格、うつ病等との関係について

寄生虫が「寄生している動物(宿主)」の行動を寄生虫自身に有利な行動に変えることを「宿主操作」と言いますが、これはさまざまな寄生虫感染で報告されています。

トキソプラズマの場合は、例えばマウスでの動物研究において、トキソプラズマが自身が有利になるよう(子孫を増やすため)に、マウスの行動を変えるということが報告されています。

トキソプラズマが卵を作れるのは猫の体内だけです。そのため、猫の体内に居ない場合には、何らかの方法で猫の体内に入り込まなければなりません。

マウスなどのげっ歯類では、トキソプラズマに感染しているものは猫に対しての警戒心が弱くなるなどが報告されています。

これは感染したマウスが猫に食べられやすくすることで、トキソプラズマが猫の身体に入り込みやすくするため、と考えられているのです。

最近の研究ではマウス等だけでなく、人間でも同様にトキソプラズマに感染することにより性格や行動が変わる、もしくは精神疾患と関係するということが報告されています。

感染している人は感染していない人に比べて失敗を恐れなくなる、また、リスクに対する警戒心が低くなるためか、交通事故を起こしやすいというデータも報告されています。

その他、自殺率も高い、統合失調症などの精神疾患の一因となる可能性があるとも報告されているのです。

ネズミなどでの研究では、トキソプラズマに感染したネズミでは脳でかなりの炎症が起こっていること、神経の遺伝子に影響が出ていることがわかってきています。

そのため、脳に影響が出て、このような行動の変化が起こっているのではないかと考えられているのです。

ただし、人でなぜこのようなことが起こるかということについては現時点でも研究段階ですし、はっきりと「トキソプラズマ症と性格や精神疾患が関係ある」と証明されているわけではありません。

妊婦がトキソプラズマ症にかかったら?

先にトキソプラズマ症で無症状、軽症の場合は様子を見て自然に治るのを待つ、と述べました。

しかしながら、健康な人でも妊婦の場合は治療の対象になります。妊婦が初めてトキソプラズマに感染した場合について詳しく説明します。

症状について

トキソプラズマに感染した場合、健康な妊婦であれば妊婦自身は十分な免疫を持っているため、大半は何も症状が出ずに経過します。

万一、トキソプラズマ症の症状が出たとしても、妊娠していない大人が感染した場合と同じく、軽い発熱や身体のだるさなどの症状で治まってしまうことがほとんどです。

胎児への影響について

しかしながら、妊婦自身に症状がない、または症状が軽くても、トキソプラズマ症に感染してしまった場合は、胎盤を通じて胎児へ感染する可能性があります。

なお、基本的には胎児への感染が起こるのは、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合です。

胎児が胎盤を通じてトキソプラズマに感染してしまうと先天性感染症の一つである「先天性トキソプラズマ症」になる可能性があります。

先天性トキソプラズマ症になると様々な症状が起こりますが、その中でも大きな症状は4つあると言われています。

  1. 水頭症:頭の中で脳を保護している髄液が溜まって量が多くなり、脳辞退を圧迫してしまいます。それにより、様々な症状(嘔吐、意識障害、てんかん発作など)を認めます。

  2. 網脈絡膜炎:眼球の中の膜に炎症が起こることで視力障害を起こしたり、視野が悪くなったりします。両方の眼で重篤な視力障碍を起こすことが多く、一旦治療しても再発することがあります。また、生まれた直後に無症状であっても、後になってから発症することもあります。

  3. 脳内石灰化:脳の中にカルシウムの固まりができることです。CTなどの画像検査で認めます。

  4. 精神運動機能障害:運動や精神の発達が遅れたりします。

そのほか、胎児の発育が遅れてしまい、低出生体重となってしまったり、肝脾腫(肝臓や脾臓が大きくなる)が出てたり、肝機能障害や血小板減少(血液を固める血液成分が減少する)などを認めたりと、様々な症状が起こることがあります。

さらに最悪の場合では流産もしくは死産になってしまうことも0ではありません。

また、ただし、生まれた直後に症状がない場合でも、生まれてしばらくしてから症状が出現する場合もあります。

胎児への感染の確率について

妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合は、母体から胎盤を経由して胎児へトキソプラズマが感染することがあります。

ただ、胎児への感染は100%起こるというわけではありません。

「妊娠期間中のどの時期に感染したか」によってもどのぐらいの割合で胎児へ感染するかは変わってきます。

例えば、妊娠14週未満では胎児へ感染する確率は10%程度と低めですが、妊娠週数が進んでからの感染になると胎児への感染する可能性は高くなってきます。

妊娠15週から妊娠30週では20%程度の確率で胎児へ感染しますし、妊娠31週以降では、胎児へ感染する確率も60-70%と高くなってくるのです。

ちなみに、先天性トキソプラズマ症が発症する確率は0.009-0.026% (1万人中0.9-2.6人程度)と言われています。

一方で、母体内で胎児がトキソプラズマに感染してしまったとしても、感染した全ての胎児で流産や死産、早産が起こったり、重い症状や障害が残ってしまうというわけではありません。

妊娠週数が早い時期にトキソプラズマに感染してしまうと重い症状(流産や死産、早産も含む)が出やすいといわれますが、妊娠週数が進んで後半になっての感染であれば、胎児も無症状や発症しても軽症となる可能性が高くなってきます。

つまり、「妊娠週数が遅くなればなるほど感染の確率は上がりますが、感染時期が早ければ早いほど高い(週数が遅くなればなるほど無症状の確率も高い)」ということです。

まとめると

  1. 妊娠14週未満…10%以下で感染。流産、早産、死産、重症度が高い。水頭症や精神発達地帯なども出てくることがある

  2. 15-30週…約20%で感染。脳や眼、心疾患などの症状が出現する場合も。無症状や軽症の場合もあり

  3. 31週以降…60-70%で感染。多くは無症状、症状が出ても軽症の場合あり。

となります。

繰り返しになりますが、妊娠中にトキソプラズマ症にかかってしまったからと言っても、必ず胎児に感染し、さらに生まれた子供が先天性トキソプラズマ症を発症するというわけではありません。

妊娠中はトキソプラズマに感染しないように気を付ける必要はありますが、心配しすぎないようにすることも大事です。

治療について

妊娠中にトキソプラズマに初めて感染した場合は、胎児への感染を予防することを目的に予防薬 (スピラマイシン)を内服します。

ただし、これはあくまで「予防」であり、胎児に対する「トキソプラズマ感染の治療」ではありません。

妊娠中に「胎児がトキソプラズマに感染している」と疑った場合は、出生前診断(羊水の検査)を行うことで診断することがあります。

ただしこの検査はどこの病院でも行っているという検査ではありません。

また、この方法で検査を行ったとしても、確実に白黒判断できるというわけでもありません。

羊水を取ってくる処置自体にも流産等の合併症があるため、検査を行うかどうかは十分に考える必要があります。

胎児へ感染している、と判断した場合は「予防薬」は効果がありません。

そのため、トキソプラズマ症に対する治療薬(ピリメタミン、スルファジアジン)を使って胎児の感染症治療を行うか検討することになります。

しかしながら、この治療薬は現在国内未承認のものです。

子供が生まれて先天性トキソプラズマ症と診断された場合、病気を発症してしまった新生児に対して治療を行っていくことになります。

まず、先天性トキソプラズマ症であれば早くからの治療が必要となるため、生まれてすぐにトキソプラズマに感染しているか判断することになります。

妊娠中にトキソプラズマに初めて感染した母親から生まれた新生児は、出来るだけ早く感染しているかどうかを診断するために、

生まれた時にトキソプラズマ症の診察を行うほか、トキソプラズマの検査(抗体検査やPCR、眼底検査、CTなどの画像検査)を行うことになるのです。

そして、トキソプラズマに感染していた場合は、早めに治療薬を使って治療をしていきます。

また、治療を行い一旦症状が良くなった後、もしくは生まれたときは感染していても無症状であった場合も、

一生にわたってトキソプラズマの症状(目の症状など)が出る可能性は残っているため、定期的に検査を行う方が良いとされています。

感染予防について

胎児への感染を起こさないためには、妊婦自身がトキソプラズマ症に感染しないように気を付けることが第一となってきます。

トキソプラズマ症の感染は先に述べた通り大きく分けて下の3つとなります。それぞれについての感染ルートとその予防法を説明します。

  1. トキソプラズマ(を含んだ猫の排泄物)に汚染された土やそこで育った野菜等を食べることによって感染する
    〈予防法〉
    トキソプラズマは「手などについたトキソプラズマ原虫という寄生虫が口の中に入る」ことによって感染します。
    そのため、基本的には手洗いをこまめに行うことである程度対応できます。
    特に土などを触った後は手をしっかりと洗うこと、野菜などの土がついている物に関してはよく土を洗い流して食べること(もちろん野菜を洗った後もしっかり手洗いをすることが必要です)なども必要です。

  2. トキソプラズマに感染している肉を食べることによって感染する
    〈予防法〉
    トキソプラズマに感染した牛や豚を食べるとき、加熱が弱いと食肉から感染を起こすことがあります。
    そのため、生肉などは絶対に食べず、よく火を通して加熱してから食べることで予防できます。

  3. トキソプラズマ症に感染した猫の排泄物が手について、口から感染する
    〈予防法〉
    これは猫には近づかないことが一番ではないでしょうか。ただ、家で猫を飼っている家庭では難しいことかと思います。
    その場合の対処としては猫自身への感染を防ぐ意味で室内飼いにするなどの対策も挙げられます(ちなみに猫が感染した場合も無症状のことが多いのですが、下痢を認める場合もあります)。

そのほか、「猫のトイレに近づかず、そのトイレもこまめに掃除をして清潔にしておくこと」も必要です(できれば妊婦自身ではなく、他の家族が行うようにしてください)。

トキソプラズマは猫の糞便中に感染源が含まれていますので、トイレが最も感染リスクの高い場所となります。

また、トキソプラズマは猫の体の外に出たときから感染する能力を持っているのではなく、ある程度の時間を経てから感染する能力を獲得します。

逆に言えば感染する能力がない状態で取り除いて駆除してしまえば、そこから感染することはありません。

Q&A

トキソプラズマ症の感染源となるものは?

生肉や土のついた野菜などです。トキソプラズマに感染した猫の糞尿が土、その周囲の野菜等が感染源です。

また、トキソプラズマに感染した牛や豚の食肉を加熱不十分のまま食べてしまうとトキソプラズマに感染します。

猫の糞尿が手についた場合は、誤って手から口に直接入ってしまい感染を引き起こすこともあります。

トキソプラズマ症はどのぐらいで治る?

トキソプラズマ症にかかった人は、免疫力が落ちているなどの特殊な状況でなければ、ほとんどの人は数か月程度で自然に回復します。

トキソプラズマに感染する確率は?日本での感染確率は?

トキソプラズマ症の感染率は国や地域などによって違いますが、

世界全体ではおおよそ1/3程度(数十億人)が感染しているとも言われ、世界中で蔓延していると感染症であると考えられます(ただし、日本では感染率10%未満)。

しかしながら、トキソプラズマ症は先に述べた通り、感染していても無症状であったり、症状が出ていたとしてもかなり軽く、一般的な風邪症状と変わらないため、

トキソプラズマに感染していることに気づかない場合も多いのが現状です。

そのため実際の感染者数を把握することは難しく、正確な値はわかりません。

まとめ

トキソプラズマ症について治療や症状などをまとめました。

トキソプラズマ症は現在の日本ではあまりかからない、かかったとしてもそこまで心配のない感染症となっています。

また、トキソプラズマ症に感染してもなかなか診断がつかない疾患でもあります。

唯一、妊婦では胎児のことを考えて注意が必要ですが、予防をしっかりとしておき、恐れすぎないことも重要です。

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参考文献

  1. 国立感染症研究所HP: https://www.niid.go.jp/niid/ja/

  2. The Journal of AIDS Research: 2004; 6: 22-23

  3. トキソプラズマ症診療の手引き 2014

  4. モダンメディア 2022; 68: 345-353

  5. 国立大学附置研究所・センター会議HP、未踏の領野に挑む、知の開拓者たち vol.61

  6. 日本周産期・新生児医学会雑誌 2023; 59: 1-12

  7. IASR 2022; 43: 62-63

記事監修
  • 名倉 義人
    救急科専門医

    ・平成21年 名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事 ・平成23年 東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得 ・平成27年 東戸塚記念病院で整形外科として勤務 ・令和元年 新宿ホームクリニック開院

    日本救急医学会、日本整形外科学会

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