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インフルエンザの基礎知識
まずはインフルエンザについての基礎知識について解説します。インフルエンザは、風邪に似て鼻汁や咽頭痛、咳などの症状に加えて突然に現れる高熱や関節痛、頭痛、筋肉痛といった全身の症状が強く現れるのが特徴です。
インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスは、大きくはA型、B型、C型に分けられます。このうち、大流行の原因となるのはおもにA型とB型です。
インフルエンザの予防のためには、手洗いとうがい、ワクチンの接種が大切です。そして、もし感染してしまった場合には治療の基本スタンスとしては安静と休養が大切になります。
一方で、インフルエンザに対する治療薬である抗インフルエンザ薬には、熱が出る期間を短くする効果や重症化予防効果も報告されています。インフルエンザは自然に治ることが多い病気ですが、幼児や持病がある方などの重症化のリスクが高い方や、咳などの呼吸器症状が強い方には、抗インフルエンザ薬の投与が勧められます。
タミフル服用後の異常行動とは
インフルエンザの治療薬にはさまざまなものがありますが、よく使われているものにタミフル・リレンザ・イナビルなどがあります。なかでも最も広く使用されているタミフルに関して、過去にタミフルを内服した10代の方が飛び降りなどで亡くなった事例があります。
また、インターネットで「インフルエンザ 異常行動 」などと検索してみると、「幼いころにインフルエンザに感染した。その際、自分では覚えていないものの、突然起きて窓から飛び降りようとした」といった内容のエピソードも寄せられています。
一体、タミフルと異常行動には関連があるのでしょうか。
タミフルの基本知識
タミフルは一般名をオセルタミビルリン酸塩といいます。抗インフルエンザ薬で、カプセル製剤やドライシロップが販売されています。インフルエンザウイルスは、感染した細胞の中で遺伝子を増やし、さらにその増やした遺伝子を放出することで他の細胞に感染していきます。
これらのインフルエンザウイルス感染症に対しては、ノイラミニダーゼ阻害薬があります。この薬は、ヒトA型・B型インフルエンザウイルスの増殖をする際に必要なノイラミニダーゼという酵素を阻害することで、ウイルスの増殖を抑制する作用があります。
そして、タミフルには他の薬に比べて治療の経験も豊富で、ドライシロップもあるので小児に対しても使用しやすいという利点があります。
タミフルと異常行動の関係
では、タミフルと異常行動についてはどのような関係があるのでしょうか?
これまでにタミフル服用後の異常行動として報告されているものには、以下の例があります。
- タミフルを服用した10代の子供(中学生)が自宅マンションから転落死(2例)
- タミフルを服用した12歳の患者が2階から転落して骨折(2例)
そこで、薬を処方したり使用したりする医療関係者に注意を促すため、タミフルの重要な副作用に精神・神経症状が現れることがあるため、もしも患者に異常な行動などを始めた場合には投与を中止し、その上で観察を十分に行い、症状に応じて適切な処置を行うこと、と指示が出されました。
ここでいう精神・神経症状とは、意識障害や異常行動(飛び降りなど)、せん妄、幻覚、妄想、けいれんなどです。
具体的には、異常行動の例として、以下のようなものが厚生労働省からは注意喚起されています。
- 突然立ち上がり部屋から出ようとすること
- 興奮して窓を開け、ベランダに出て飛び降りようとすること
- 人に襲われるような感覚を覚え、外に走り出すこと
- 突然笑い出し、階段をかけあがろうとすること
- 自宅から外に出て、話しかけても反応しないこと
- 変なことを言い出し、泣きながら部屋の中を動き回ること
このため、特に小児・未成年者については、自宅で療養する際に異常行動が出る可能性を考え、2日間は保護者はこどもを1人にしないように配慮するようにと注意喚起がなされました。そして一時期、10歳以上の小児に対しては、原則としてタミフルの使用を差し控えるということになっていたのです。
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異常行動はインフルエンザそのものの症状?
しかしながら、その後の研究で平成30年の日本医療研究開発機構(AMED)研究班という調査チームが検討した結果、インフルエンザにかかった後の異常行動は、タミフルを使用した人に限った現象ではないと判断されました。
このときの調査結果からは、以下のようなことがわかっています。
・インフルエンザに感染した際には抗インフルエンザ薬を使用していなくても同様の異常行動が現れる
・服用した抗インフルエンザ薬の種類に関係なく、異常行動が現れる
・異常行動が現れたインフルエンザ患者の調査では、20歳以上の大人はおらず、未成年の患者で多くみられる
つまりインフルエンザにかかった後には、タミフルを飲んでなくても異常行動が出現する可能性があるということです。また、未成年の患者では異常行動が現れることがあるので十分な注意が必要である、ということがいえます。
このため、2018/2019シーズンのインフルエンザ治療方針からは、10歳以上の小児についてもタミフルの使用が推奨されることと変更されたのです。まとめると、少なくとも現時点では「タミフルによって異常行動がもたらされるとは言えない」という見解になります。
異常行動に対する対策は
しかし、たとえタミフルの影響ではなかったとしても、インフルエンザの発症直後には異常行動がみられる可能性があります。そこで、厚生労働省からは、異常行動で患者が負傷するのを防ぐために、以下のような予防策がすすめられています。
- 玄関や部屋の窓に鍵をかける
- 窓に格子がある場合には、その部屋で寝させる
- ベランダに面していない部屋で寝させる
- 一戸建ての場合には、できる限り1階で寝させる
大袈裟と思われるかもしれませんが、備えあれば憂なしということです。特に、10代の子がインフルエンザに感染し高熱が出たばかりの時期には、こうした対策をとるようにしたいですね。
タミフル以外のインフルエンザ治療薬と異常行動の関係
それでは、タミフル以外のインフルエンザ治療薬と異常行動の関係についても述べていきます。
リレンザ・イナビル・ラピアクタの基本知識
タミフル以外にも、抗インフルエンザ薬として、ノイラミニダーゼ阻害薬がいくつかあります。いずれも、インフルエンザの症状が発症したらできるだけ早く投与を開始するのがよいとされています。
リレンザ
リレンザは、タミフルと同様に治療に関してのエビデンスが豊富です。そのため、治療による効果や副作用についてもたくさんの経験が得られているものです。さらに、このイナビルは吸入薬であることから、全身への影響が少なく、ウイルスが増殖する部位の気道に直接かつ迅速に作用するという点が特徴です。
イナビル
イナビルも吸入薬です。気管や肺に長くとどまるので、長く作用し単回投与で治療が完了するという特性を持ちます。
ラピアクタ
ラピアクタは、インフルエンザの薬の中でも注射製剤であるという特徴があります。そのため、経口や吸入が難しい患者にも用いることができます。
イナビルやリレンザ、ラピアクタ使用後の異常行動はいつまで気をつければ良いか
イナビルやリレンザを使用したかどうかにかかわらず、インフルエンザ罹患時に異常行動を起こす例が報告されているので注意は必要です。そして、これらの治療薬の添付文書には、タミフルと同様に異常行動が現れるおそれがあるので、自宅療養を行う場合には少なくとも発熱から2日間、転落を予防するなどの対策を行うことが必要とされています。
さらに、こうした異常行動は、子供や未成年の男性で報告が多く、そして発熱から2日間以内で症状がでる可能性が高いということも知られています。そのため、インフルエンザにかかり発熱がみられてから、2日たつまでは、同居者や保護者などが気をつけると良いでしょう。
まとめ
今回の記事では、インフルエンザの治療薬であるタミフルと異常行動についての関係をまとめました。現状では、タミフルと異常行動には直接的な関係はなく、異常行動はインフルエンザに感染したことそのものによるということと結論づけられています。
しかしながら、飛び降りなどの異常行動は命に直結するものです。特に10代の未成年者がインフルエンザにかかり、高熱が出ている際にはそうした行動を予防するために、窓に鍵をかけておいたり、なるべく人の目がある場所に寝かせておくなどの対策をしておきましょう。
参考文献
インフルエンザの基礎知識 平成19年12月厚生労働省 p2
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/file/dl/File01.pdf
2018/2019 シーズンのインフルエンザ治療指針 日本小児科学会
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2018_2019_influenza_all.pdf
抗インフルエンザ薬ー新薬ファビピラビルを含めてー.耳展.2014;57(6):341-344. p343
https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/57/6/57_341/_pdf/-char/ja
タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/03/h0320-1.htm
インフルエンザの患者さん・ご家族・周囲の方々へ
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/pamphlet181207_01.pdf
2017/2018 シーズンのインフルエンザ治療指針 日本小児科学会
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2017_2018_influenza_all.pdf
インフルエンザ罹患に伴う 異常行動研究 2018/2019シーズン報告
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000560950.pdf
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本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
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