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第7波の主流は、オミクロン株のBA.5株に置き換わっている
新型コロナウイルスはこれまでも変異を繰り返し、多様な変異株が登場してきました。2022年の2~3月頃から流行してきた「オミクロン株」は、いくつかの変異株の総称です。
オミクロン株のうち「BA.2株」という変異株が第6波までの主流でしたが、世界中の地域で「BA.4株」や「BA.5株」に置き換わっていることが指摘されています。
日本でも、2022年6月下旬頃から拡大している第7波の流行では「BA.5株」系統の感染者が増加していると明らかになっています。
BA.5株は、懸念される変異株として分類されている
「BA.5株」は、2022年2月に南アフリカで発見され、5月以降に欧米を中心に広がりを見せました。
WHO(世界保健機関)によれば、6月25日の時点で世界で検出される新型コロナウイルスの52%を占めているとのことです。
アメリカではさらに拡大が進んでおり、7月9日には全体の65%を占めていると発表されました。
一般的に、ウイルスは増殖や感染を繰り返す中で少しずつ変異するものです。
新型コロナウイルスは約3万塩基により構成されたRNAウイルスですが、この塩基が約2週間で1カ所程度の速度で変異していると考えられています。
国立感染症研究所(以下「感染研」)は、このような変異のリスクを分析し、その評価に応じて変異株を以下のように分類しています。
懸念される変異株(VOC) | 主に感染性や重篤度が増す、ワクチン効果が減弱するなど、性質が変化した可能性が明らかな株 |
注目すべき変異株(VOI) | 主に感染性や重篤度、ワクチン効果などに影響を与える可能性が示唆されるかつ国内侵入・増加するリスク等がある株 |
監視下の変異株(VUM) | 主に感染性や重篤度、ワクチン効果などに影響を与える可能性が示唆される、またはVOCやVOIに分類されたもので世界的に検出数が著しく減少等している株 |
出典:第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年7月13日)
この分類に基づいて、2022年7月1日時点で登場している変異株を以下のように評価しています。
懸念される変異株(VOC) | オミクロン株 | 対応 |
|
注目すべき変異株(VOI) | 該当なし | 警戒 |
|
監視下の変異株(VUM) | アルファ株デルタ株 | 監視 |
|
※ゲノムサーベイランス:常に病原体を監視し、その遺伝的類似性と相違性を分析するプロセスで、研究者、疫学者、公衆衛生担当者が感染症病原体の進化を監視・警戒して、ワクチンなどの対抗策を開発するのに役立てるもの
出典:第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年7月13日)
この通り、感染研はオミクロン株を最も注視度の高い「VOC」に分類しているのです。
さらに、WHOの分類においても、BA.4株やBA.5株は「VOC-LUM」というカテゴリに分類されています。
「VOC-LUM」は、他の変異株よりも感染拡大のリスクが高く、特に力を入れて監視する必要がある変異株が属するカテゴリです。
BA.5株の感染力はこれまでのオミクロン株に比べて高い
東京大学医科学研究所の佐藤佳教授が主宰するグループ「G2P-Japan」は、BA.5株はこれまでのオミクロン株に比べて症状を引き起こす力が強まっている可能性があるとする実験結果を発表しました。
この研究は、正式な査読を受ける前の論文としてインターネット上で発表されたものです。
同グループでは、オミクロン株のBA.2株とBA.5株の特徴をそれぞれ再現したウイルスを作製し、培養細胞に感染させて増え方を調べました。
その結果、24時間後にはBA.5株のウイルスはBA.2株に比べて34倍の量に増えていたといいます。
また、そのウイルスをハムスターに感染させる実験の結果も発表しています。
BA.2株では体重減少が見られなかったのに対して、BA.5株では10%程度減少し、肺などに炎症が見られたそうです。
今回は動物実験による結果であることから、ヒトでの症状についてはさらに調べる必要があるとしたうえで、BA.5株は病気を引き起こす力がBA.2株よりも高まっている可能性があると言及しています。
そのほかにも、BA.4株やBA.5株はBA.2株に比べておよそ1.2倍の伝播力があることも動物実験における検証で示唆された調査結果もあります。
ウイルスが変異を繰り返しても、毒性は必ずしも弱まっていくわけではありません。今後も変異した新しいウイルスに対して注意を続ける必要がありそうです。
潜伏期間は短くなっている可能性が
BA.5株は、他のオミクロン株やデルタ株に比べて潜伏期間が短い傾向も持っています。
茨城県潮来保健所の調査によると、第6波の主流であったBA.1株より半日、デルタ株より1.3日潜伏期間が短いとわかりました。
発症までの潜伏期間
- デルタ株:3.7日
- BA.1株:2.9日
- BA.5株:2.4日
これほどまでに急速に感染が拡大している理由は?
2022年7月現在、新規感染者数は全ての都道府県で大幅に増加しており、急速に感染が拡大している状況です。
特に、沖縄県は他の地域よりも感染レベルが高く、これまでと比べても最も高い状況となっています。
今回の感染拡大の背景として、①BA.5株が免疫を免れる性質を持っている、②夜間滞留人口が大都市を中心に増加傾向にある、③気温上昇により換気されにくい、という3つの理由が考えられます。
1.免疫逃れる性質を持っている
BA.5株は「スパイクたんぱく質」に変異が起きたことで、免疫を逃れる性質を持っているとされています。
「スパイクたんぱく質」とはウイルスの表面にある突起で、ウイルスが細胞に感染する際の足がかりとなるものです。
BA.5株の持つ「L452R」などのスパイクたんぱく質に変異が起き、免疫を逃れる性質が強まったと考えられています。
WHOによると、2022年1月頃に流行したBA.1株に比べて、BA.5株はウイルスの働きを抑える中和抗体の効果が7分の1以下に弱まったという実験結果もあるのです。
この性質から、従来のオミクロン株より、過去に感染した人やワクチンを接種した人でも再感染しやすい可能性があるとも指摘されています。
さらに、ワクチン接種や感染によって得られた免疫が時間の経過とともに弱まってきていることも、感染の一因です。
厚生労働省の専門家会合において京都大学の西浦教授が提示した資料によると、7月13日時点でBA.4株とBA.5株に対する免疫を持つ人の割合は、20代で31.2%、30代で30.2%、40代で29%、50代で29.7%、60代で26.4%、70代以上で26%です。
いずれの年代でも、3回目のワクチン接種が進んだ4~6月ごろをピークに、割合が低下しています。
ただし、ワクチンが有効でないということはありません。
3回目のワクチンまで接種すると、デルタ株だけでなくBA.4株やBA.5株に対しても高い中和抗体価が得られるという調査結果も出ています。
こちらは対象サンプルが15名の医療従事者のみという、サンプル数の少ないデータではありますが、ワクチンの2回目接種と3回目接種で大きな差が出ていることは明らかであり、予防効果が期待できるといっていいでしょう。
4回目のワクチン接種も本格化しており、高齢者や重症化リスクの高い人は特に積極的なワクチン接種をおすすめします。
2.夜間滞留人口が大都市中心に増加傾向
繁華街夜間滞留人口の増減データと、その後の新規感染者数には関連があることが確認されています。
東京都医学総合研究の滞留人口モニタリングによれば、第7波の感染者数急増にともない、東京の夜間滞留人口は6月末から3週連続で減少傾向が続いていました。
しかし、7月中頃には下げ止まり、再び増加傾向に転じています。
このままハイリスクな行動を取る人が増え続けると状況がさらに悪化する可能性が高く、大人数での会食やマスクなしでの会談などは極力避けることが重要です。
3.気温の上昇により換気がされにくい
夏場に入り、冷房が使用されるようになって換気をしない環境が増えたことも原因と考えられます。
換気の不十分な室内はエアロゾルが滞留しやすく、長時間滞在すると感染リスクが高まるのです。
実際に、換気の不十分な環境において感染者と十分な距離をとっていたにも関わらず感染した事例が、国内外で報告されています。
夏場でも室内を十分に換気するには、5cmから15cmを目安に窓を2カ所、常時開放する方法が確実です。
ただし、夏場は熱中症予防も重要であるため、室温を28℃以下に保つよう注意してください。
常時換気することが難しい場合は、30分に1回を目安に、数分間窓を全開にするといいでしょう。
BA.5株の症状は?
BA.1株など従来のオミクロン株は、発熱や咳、喉の痛みなどが主な症状でした。
しかし、7月7日時点における海外渡航者の検疫結果によれば、BA.5株は半分以上の人が「無症状」となっています。
無症状だった人の割合は、7月に入ってからさらに増加傾向にあるようです。
ほかにも、フランスの保健機関「SantéPubliqueFrance」によると、BA.4株やBA.5株の代表的な症状は次の通りとなっています。
- 倦怠感:76%
- 咳:58%
- 発熱:58%
- 頭痛:52%
- 鼻水:51%
- 筋肉痛:41%
- 喉の痛み:40%
- 熱感:18%
- 吐き気:18%
- 味覚消失:17%
- 嗅覚低下:17%
また、この調査では、BA.1株よりもBA.4株やBA.5株の方が全体的な症状の出方は強くなっているとの結果も示されています。
さらに、これらの症状の持続期間が長い傾向があることもわかっています。
他のオミクロン株の症状持続期間は平均4日間だったのに対し、BA.4株やBA.5株では平均7日間でした。
肺で増殖しやすいともいわれている
BA.1株など従来のオミクロン株は鼻腔や咽頭などの上気道で増殖しやすく、肺では増殖しにくいとされていました。
しかし、東京大学医科学研究所の佐藤佳教授らが行った実験では「BA.5株は肺で増える可能性がある」ことが示唆されました。
この実験では、ヒトの肺細胞にてBA.2株とBA.4株/BA.5株の培養を行った結果、BA.2株よりもBA.4株/BA.5株の方が発育がいいことが明らかになっています。
佐藤教授はBA.4株/BA.5株について「デルタ株が持っていたような、肺で増えやすい特性を獲得したオミクロン株ともいえる」と答えています。
重症化のリスクは?
まだ調査が十分とはいえない状況であるものの、BA.4株やBA.5株は比較的重症化リスクや入院のリスクが低いといわれています。
実際、既にBA.4株やBA.5株への入れ替わりが進んでいる南アフリカでは、死者数の劇的な増加は見られていません。
同じくBA.5株の拡大が進むヨーロッパでも、重症者数の増加は見られておらず、重症化リスクは高くないと考えられています。
一方、現時点で分析されているオミクロン株感染による致命率は、季節性インフルエンザよりも高いとされています。
ほかにも、肺炎の発症率についても季節性インフルエンザより高いことが示唆されています。
また、高齢者や基礎疾患のある方の感染にも注意が必要です。今回の感染拡大における死亡者は、昨年夏の感染拡大と比べ、80歳以上の占める割合が高くなっています。
高齢者施設でのクラスター発生や、基礎疾患の悪化による死亡など、新型コロナウイルス感染症が直接の死因でない事例も報告されています。
高齢の感染者や基礎疾患を有する感染者については、基礎疾患悪化や心不全、誤嚥性肺炎等の発症などにも注意を払うべきでしょう。
私たちにできることは?
第7波の渦中にある現在、全国的に全ての年代で新規感染者が増加しており、特に50代以下の年齢層で増加幅が大きくなっています。
これは、学校や自宅が感染場所となるケースが増えているためです。東京都では、飲食店や職場での感染報告も増えています。
そのため、子どもや社員が少しでも体調不良を訴えた場合、休暇を取得できる環境を整備することが重要です。
あわせて、家庭内での感染対策の徹底や、職場でのテレワークの活用、休暇取得の促進といった取り組みが求められます。
夏は人の移動が増えることから、今後も多くの地域で新規感染者数の増加が続くものと予想されます。医療提供体制への影響も含めて、注視する必要があるでしょう。
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本記事に掲載されている情報は、一般的な医療知識の提供を目的としており、特定の医療行為を推奨するものではありません。
具体的な病状や治療法については、必ず医師などの専門家にご相談ください。