インスリンの分泌はどこから?分泌量を増やすためにできること
「一生でインスリンを分泌できる量は大体決まっている」と言われているのはご存じですか?
言い換えれば、「一生で摂取できる糖分は大体決まっている」ということです。
では、インスリンがどのような働きをしているか知っていますか?
インスリンは体の中で唯一血糖値を下げてくれるホルモンです。
インスリンが血糖値を下げてくれるホルモンだと知っていても、実際にどういう働きで血中の糖の濃度を下げてくれるのかは知らない方がほとんどです。
血糖値を下げるためにインスリンがどう働いているのか、そしてインスリンの分泌量は私たちの努力で増やすことは可能なのかなど、この記事ではみなさんの疑問にお答えします。
名倉 義人 医師
○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院
○資格
救急科専門医
○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会
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インスリンとは
インスリンはすい臓のランゲルハンス島にあるβ細胞という場所から分泌される、血糖値を下げる唯一のホルモンです。
糖分を含む食べ物は消化酵素などでブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収されます。
血液中のブドウ糖が増えると、すい臓のβ細胞からインスリンが分泌され、その働きによりブドウ糖が筋肉などへ送り込まれてエネルギーとして利用されます。
糖(グルコース)は体にとって重要なエネルギー源です。体を動かすために各細胞で使用されるので、摂らない選択肢はありません。
インスリンが分泌されるメカニズム
私たちの体のグルコースの血中濃度、いわゆる血糖値は、インスリンやすい臓のα細胞から産生される「グルカゴン」と呼ばれる血糖値を上げるホルモンの働きによって調整されています。
インスリンとグルカゴンのどちらの働きがなくても、血糖値を一定に保ち続けることは不可能です。
ではインスリンはどのような働きで血糖値を下げるのでしょうか。
インスリンには主に2つの働きがあります。
①血中の糖分を肝臓や筋肉の細胞に運搬する ②過剰なブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪に合成する |
【インスリンの働き①血中の糖分を肝臓や筋肉の細胞に運搬】
栄養素が体内に吸収されると、小腸から「インクレチン」と呼ばれるすい臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促進させるホルモンが分泌されます。
肝臓、筋肉細胞、脂肪細胞の表面にはインスリン受容体があり、そこにインスリンがくっついて細胞への扉が開く仕組みになっています。
その出来た通り道から糖が細胞内に入るため、血中の糖の濃度(血糖値)が下がる、ということです。
【インスリンの働き②余ったブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪に合成】
筋肉細胞に入りこんだ糖は筋肉を使うことでエネルギーとして消費されます。
エネルギーとして使われなかった糖はインスリンによってグリコーゲンや中性脂肪に作りかえられて(合成されて)、肝臓や脂肪組織に蓄えられます。
インスリンは血糖値のコントロールのみでなく、効率よくエネルギーを消費することにも貢献しているのです。
こうしたインスリンの働きによって、血糖値はコントロールできていますが、糖の貯蔵量には限界があります。
貯蔵量の限界を超えた糖分は血中に残り、体は高血糖状態になります。
するとすい臓のβ細胞からさらにインスリンが分泌されて、「高インスリン血症」となり、この状態が続くことですい臓が疲弊し、2型糖尿病を発症するリスクが高まると言われているのです。
また、肝臓の異常(肝機能低下、脂肪肝など)や運動不足で糖が細胞に十分に取り込めなくなると、体は高血糖状態になりやすくなります。
インスリンの「基礎分泌」と「追加分泌」
インスリンの分泌には、「基礎分泌」と「追加分泌」があります。
私たちのよく知る、食後の血糖値調節に関わるものは「追加分泌」です。
【基礎分泌とは】生命を維持するために働くホルモンは、ほとんどが血糖値を上昇させる。高血糖を防ぐために常にインスリンは分泌されており、このことを「基礎分泌」と呼ぶ。 【追加分泌とは】食後の急激な血糖値の上昇を抑えるために大量のインスリンが分泌されることをいう。 |
1型糖尿病はどちらも低下もしくは消失、2型糖尿病では主に追加分泌が遅延、低下します。
インスリンの分泌能の検査方法
インスリンの感受性(効きやすさ)や分泌能(分泌量)は人種によって異なることがわかっています。
日本人を含む東アジア人は、インスリンの感受性は高いものの、分泌能が低いです。
そのため白人よりも肥満が少ないにも関わらず、糖尿病になりやすいのです。
ではインスリンの分泌能の検査方法はどんなものがあるのでしょうか。
内因性のインスリン分泌能、つまりインスリン注射の使用はせず、自身でどのくらいインスリンを作ることができているかを調べることができます。
インスリン分泌指数:血液検査
インスリン分泌指数は75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で調べます。
75gのブドウ糖が入った飲料を飲み、30分後の血中インスリン値の増加量と血糖値の増加量を以下の式にあてはめて計算します。
その数値が「インスリン分泌指数」です。
画像引用:糖代謝・インスリン抵抗性 臨床試験事業|株式会社 総合医科学研究所
C-ペプチドインデックス(CPI):血液検査
C-ペプチド(CPR)とはインスリンがすい臓のβ細胞で産生されるときにできる副産物のことです。
インスリンと同程度の割合で血中に分泌されるため、インスリン分泌の指標となります。
糖尿病患者のうちインスリンを使用している方は、血中のインスリンをそのまま調べるとインスリン注射の影響を受けるので、CPRを測定することで自分の体が作っているインスリンのみを推定することが可能です。
こちらが計算式です。
CPI=空腹時血清Cペプチド [ng/mL] ÷ 空腹時血糖値 [mg/dL] ×100 |
CPIはインスリンの導入基準にも使用されます。
24時間尿中CPR排泄量(尿検査)
インスリンやCPRは食事により増加し日内変動があるため、24時間尿中CPRを測定するとその日に作られたインスリンの総量が正確にわかります。
正確性を高めるために、連続3日間の蓄尿を実施します。
なぜ尿中なのかというとCPRの大部分は腎臓で代謝、排泄されるためです。
腎機能障害では血中CPRが上昇し、尿中CPRが低下するので注意してください。
血中CPR(血液検査)
CPIを計算するのに必要な数値です。
食前と食後にそれぞれ測定します。
食前=1.5〜3.5ng/ml、食後=2.0〜10.0ng/dl が基準値です。
HOMA-β
空腹時血糖と空腹時インスリン値をもとに、残存した内因性インスリン分泌能を推定します。
(空腹時インスリン値(μU/mL)x360) ÷ (空腹時血糖値(mg/dL)-63) |
この値が30%を下回るとインスリン分泌能が低下しているとされます。
インスリン分泌指数とインスリン注射の導入基準
糖尿病患者では、24時間尿中CPRが20μg/日以下、または空腹時血中CPRが0.5ng/mL以下であれば、インスリン分泌が非常に低下した状態(インスリン依存状態)と考えられ、インスリン治療が必要とされます。
以下はインスリン分泌能の各検査とインスリン依存状態の基準値をまとめたものです。
<インスリン分泌能とインスリン依存状態>
指標 | インスリン依存状態 |
空腹時血中CPR | 0.5 ng/ml未満 |
24時間尿中CPR | 20μg/日未満 |
CPI | 0.8mg/dl未満 |
インスリン分泌指数 | 0.4以下 |
HOMA-β | 30%未満 |
インスリンの分泌に年齢は関係あるのか
インスリン分泌量は加齢とともに減少します。
年齢を重ねると、インスリン分泌にかかわるすい臓だけでなく、糖代謝に非常に重要な役割を担っている肝臓や筋肉のはたらきも衰えてきます。
つまり、加齢にともなってすい臓の働きが衰えてインスリン分泌量が減る上に、糖の合成も進まなくなり、体が高血糖状態になりやすいということです。
それに加えて加齢にともなう活動量の減少により、慢性的な運動不足に陥って糖が十分に消費されなくなります。脂肪組織の割合も増えインスリン抵抗性が増し、インスリンが効きにくくなるため、糖尿病の発症リスクが高まるのです。
上記のことから、インスリン分泌は加齢による影響が大きいことがわかります。
インスリンの分泌を増やすためにできること
インスリンの分泌量を増やす、つまり血糖値を下げやすくするために、自身でできることはなにがあるでしょうか。
<インスリン分泌量を増やすためにできること>
・インスリン分泌量を増やす食べ物、飲み物を摂取する ・インスリン分泌量を増やすサプリを摂取する ・適度な運動を取り入れる |
1型糖尿病はインスリンを分泌するβ細胞が破壊されることで血糖コントロールができなくなる疾患です。
ただし、β細胞すべてが破壊されているわけではなく、わずかながら残っているとされているため、β細胞が増えさえすれば、血糖管理が楽になり糖尿病の状態から回復できることが期待できます。
糖尿病に対しての食事療法では、バランスよく摂取することが重要とされています。
今回はその中でも「インスリン分泌量を増やす」ということに着目しました。
インスリンの分泌量を増やす食べ物
「カルシウム」および「ビタミンD」を多く含む食材を摂取しましょう。
カルシウムもビタミンDもすい臓の細胞にはたらきかけ、インスリン分泌を促してくれます。
ただ、どちらか単独で多く摂取しても効果は薄れてしまうので、両方を摂取することが重要です。
カルシウムの吸収率を高めてくれるものが「活性型ビタミンD」です。
活性型ビタミンDとは体外から摂取したビタミンDが肝臓や腎臓で活性化されたもので、活性化されてはじめて体内で有用な物質になります。
腸からのカルシウム吸収を促進してくれる働きがあります。
カルシウムを多く含む食物は乳製品、小魚、青菜類がありますが、中でも乳製品は吸収率が約40〜50%と高めなのでおすすめです。
カルシウムはタンパク質と一緒に摂ると吸収率が上がります。ただし、タンパク質の摂りすぎで逆にカルシウムの吸収率を下げてしまうのでバランスよく摂取することが大切です。
<カルシウムを多く含む食べ物>
乳製品 | チーズ、ヨーグルト、アイスクリーム |
小魚 | いわし、しらす、サバ |
青菜 | モロヘイヤ、小松菜、水菜 |
<ビタミンDを多く含む食べ物>
きのこ類 | 乾燥きくらげ、乾燥しいたけ、まいたけ、エリンギなど |
魚介類 | あんこう(きも)、しらす干し、紅鮭、マイワシなど |
ビタミンDを豊富に含む食品にはほかに卵や乳製品もあります。
インスリンの分泌量を増やす飲み物
カルシウムが最も豊富に含まれる飲み物は牛乳です。
牛乳に含まれるホエイプロテインによってインクレチンの分泌が促進され、インスリン分泌が多くなり、血糖の上昇を抑えられます。
緑茶やコーヒーも血糖値の上昇をおさえますが、吸収を緩やかにしてくれる作用でインスリン分泌を増やす作用はありません。
インスリンの分泌量を増やすサプリメント
先述したインスリン分泌量を増やす働きのあるカルシウムやビタミンDを食べ物からすべて摂るのはなかなか難しいと思いませんか?
そこでサプリメントを摂取することで簡単に不足分を補えるのでおすすめです。
特にビタミンDは日光浴をする(紫外線を浴びる)ことで皮膚に存在するプロビタミンDから体内で作られます。
1日のほとんどを室内で過ごす方は不足しやすいので摂取した方が良いでしょう。
ただし、サプリメントを摂取するにあたって注意点があります。
- 大量のカルシウム摂取が続くことで腎臓や尿管で結石ができてしまう原因となる
- ビタミンDの過剰摂取で、食欲不振や吐き気、カルシウムの吸収促進に伴う組織の石灰化がみられるケースもある
食品から摂れる量を考えてサプリメントを上手く活用しましょう。
インスリン分泌量を増やすためには運動が効果的
筋肉細胞を使うことで糖がエネルギーとして消費されるので糖代謝が進みます。
すると血中からのグルコース(糖)が効率的に細胞に移行するため、血糖値が下がりやすくなります。
先述した通り、カルシウムの吸収を促進する働きのあるビタミンDは、紫外線をあびることで皮膚から作られるため、屋外のウォーキングなどが効果的です。
食事摂取1時間後にウォーキングなどの有酸素運動を取り入れると脂肪が消費され、インスリン分泌がさらに促進されます。
また、インスリンが効きにくくなる要因の一つに肥満があります。肥満予防にも適度な運動は不可欠です。
Q&A
インスリンはどこで生成、分泌されますか?
すい臓にあるランゲルハンス島のβ細胞から生成、分泌されます。
1型糖尿病はこのβ細胞が自己免疫などによって破壊されるために発症する病気です。
インスリンはどのように分泌されますか?
糖分を含む食品を摂取すると、酵素の働きによってブドウ糖に分解されます。
血中のブドウ糖が増えると、すい臓のβ細胞からインスリンが分泌され、血糖値が下がります。
インスリンが分泌されるしくみは?
栄養素が体内に吸収されると、まず小腸からインクレチンとよばれるホルモンが産生されます。
インクレチンがすい臓に栄養素が入ってきたことを伝え、グルコース(糖)の濃度に応じてすい臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。
インスリンが分泌されると、細胞への入口が開かれ、糖が肝細胞・筋肉細胞・脂肪細胞へと流入し血糖値が下がるしくみです。
また、過剰な糖分をグリコーゲンや中性脂肪に合成して貯蔵を促進させるのもインスリンの働きによるものです。
インスリンの分泌が多いとどうなる?
インスリンの血中濃度が通常より高い「高インスリン血症」とよばれる状態になり、インスリン抵抗性の高い肥満の方などに多くみられます。
この状態が長く続くほど、2型糖尿病を発症しやすくなると言われています。
インスリン抵抗性を改善するために、バランスの良い食事をすることや適度な運動をすることが効果的です。
まとめ
インスリンはすい臓にあるランゲルハンス島のβ細胞から分泌され、血糖値のコントロールを行っています。
体の中で唯一血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌量が減ったり、インスリンの効きが悪くなったりすることで糖尿病を発症しやすくなります。
インスリンの分泌量の減少は、加齢など生きていれば避けられない要因もありますが、生活改善で増やすことも期待できるので、快適に毎日を過ごすためにも、自身の生活を振り返り、できることから始めていきましょう。
参考文献
糖尿病|すみだブレインハートクリニック
vol.85 カルシウム+ビタミンDで糖尿病の予防・改善を|OMRON
インスリン|eヘルスネット 厚生労働省
ペンといっしょに|糖尿病サイト
インスリン分泌能はどのように調べますか?|CRC
糖尿病治療について|中井内科医院
糖代謝の老化|健康長寿ネット
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