採血で起こりうる副作用や合併症|神経損傷などの症状について
採血は、健康診断や病気の診断、治療の効果の確認など、多くの医療現場で行われる基本的な検査の一つです。簡単で早い結果が得られる一方で、ごくまれに副作用が生じることもあります。
この記事では、採血の際に起こることがある副作用や、それに伴う注意点を分かりやすく説明します。採血が初めての方や、過去に採血時に不快な症状を経験された方に向けて、安心して検査を受けるための情報を提供します。
すべての医療機関で、安全に配慮して採血をおこなっていますが、副作用を完全にゼロにすることはできません。以下のような副作用が生じた場合には、すぐにお知らせください。

名倉 義人 医師
○経歴
・平成21年
名古屋市立大学医学部卒業後、研修先の春日井市民病院で救急医療に従事
・平成23年
東京女子医科大学病院 救急救命センターにて4年間勤務し専門医を取得
・平成27年
東戸塚記念病院で整形外科として勤務
・令和元年
新宿ホームクリニック開院
○資格
救急科専門医
○所属
日本救急医学会
日本整形外科学会
採血で起こりうる副作用(合併症)
採血で起こりうる副作用については以下のようなものがあります。
アレルギー
採血に用いる消毒液や手袋にアレルギーを起こすことがあります。
採血の際に「アルコールでかぶれませんか?」「ゴム(ラテックス)のアレルギーはないですか?」などと聞かれることが多いですが、アレルギーがわかっている場合には事前に申告していただけると安全です。
アルコールにアレルギー反応が出る方には、「クロルヘキシジン」などアルコール以外の消毒液を使用します。赤みやかゆみ、かぶれといった症状が出たことがある方はお知らせください。処置時に使用する手袋は、ラテックスフリーのものを使用している医療機関も多いですが、ラテックスが含まれている場合もあります。アレルギーのある方は、忘れずに申告しましょう。
血管迷走神経反射
交感神経と副交感神経のバランスが急激に乱れ、一時的に血圧低下やめまい、失神などを起こすことを血管迷走神経反射と呼びます。血管迷走神経反射は、緊張や不安が強いとき、睡眠不足や疲労が溜まっているときなどに生じやすく、頻度は1%ほどです。
いつもは大丈夫であっても、体調によって誰にでも生じる可能性があります。
若い年代の人で比較的生じやすい副作用です。予防策は対応策としては以下のものが挙げられます。
<予防策>
- 採血の前日はよく休む、しっかり眠る
- 深呼吸などをして気持ちを落ち着ける
- 横になって採血を受ける
- 採血のあと、激しいスポーツや重労働の予定を入れない
<対応策>
- 体を締め付ける洋服やベルトを緩める
- 横になって15分ほど休む
たいていは採血をしている最中に起こりますが、まれに帰宅途中などに気が遠くなることもあります。めまいを感じたら、転ばないように椅子や地面に座る、どこかにつかまるなどの対応をとってください。体を休めることができる場所に移動して、15分ほど安静にしましょう。
神経損傷
採血のあと、指先に痛み・しびれが生じて残ってしまうことがあります。神経損傷と聞くと怖くなってしまうかもしれませんが、10万回に1回程度と頻度はごくまれで、時間経過とともに少しずつよくなることが多いです。
腕の表面付近の神経がどのように位置しているかは、個人差が大きいため、完全に神経損傷を予防する方法は現在のところ見つかっていません。採血をしている最中に、指先の痛みやしびれを感じた場合には、すぐにお知らせください。
皮下出血、止血困難
採血をした部位に「あざ」ができたり、出血がなかなか止まらないことがあります。あざは1週間ほどで自然と消えますが、気になってしまう方もいるかもしれません。内出血の箇所の痛みや腫れがある場合は、氷で冷やしてください。あざは、はじめは赤紫のような色ですが、数日で濃い紫となり、その後黄色へと変化します。
皮下出血が起こる原因はいくつかあります。
- 針を刺したときに、血液が血管外に漏れた
- 採血中に腕を動かしてしまった
- 採血中、針の固定が不十分だった
- 採血後の圧迫が十分でなかった
皮下出血をゼロにするのは難しいのですが、患者さまにできることとして、採血中に腕を動かさないこと、採血後に絆創膏の上から少しおさえることをご協力ください。また、採血をした当日は、採血をした方の腕で重い荷物を持つなど負担をかけないようにしましょう。
高齢の方、血管が細い方、血管が少し深いところにある方は、そうでない方と比べると、少し皮下出血を起こしやすい傾向にあります。
また、「血液をサラサラにする薬」を服用中の方は、出血が止まりにくいことがあるため、採血後は長めに圧迫してください。圧迫のとき、採血部位を揉まないようにしましょう。
感染症
ごく稀ですが、採血をきっかけに感染症を引き起こすことがあります。皮膚には、どなたにも「常在菌」という細菌が住みついていますが、通常であれば皮膚の内側には入り込まないため、問題になりません。ところが、常在菌が採血や注射といった処置をきっかけに皮膚の内側や血液中に入り込み、感染症を起こすことがあります。
採血の前には皮膚を十分に消毒し、感染症を予防していますが、感染症のリスクはゼロにはなりません。アトピーで皮膚の状態が悪化している場合や、患者さん自身の免疫力が低下しているときなどは、ややリスクが高いといえます。
感染症を予防するため、できるだけ皮膚の状態のよい箇所から採血をいたします。
採血に配慮が必要な方
採血をするにあたり、配慮が必要な場合があります。以下に当てはまる方は、事前にお知らせください。
透析をしている方
一般的に、透析に使用している「シャント」のある腕は、採血や血圧測定などの医療処置には使いません。シャントを長持ちさせるためです。
乳房切除術をおこなった方
乳房切除をした側の腕は、炎症を起こしやすいです。採血や血圧測定が厳密に禁止されているわけではありませんが、主治医から避けるよう指示されていることもあります。「どちらの腕で採血してもよい」と言われている場合以外は、反対側の腕から採血をおこなうことが多いです。
CVポートを腕に入れている方
CVポート(中心静脈カテーテル)を腕に入れている方は、採血の部位に注意が必要です。駆血(血管を浮き出させるために腕を圧迫すること)する際に、内側のカテーテルを損傷するおそれがあるため、反対側の腕で採血や血圧測定をおこないます。
採血や注射が怖い、苦手な方
採血や注射が怖いというのは子どもに多いですが、大人でも10〜30%ほどおられます。注射が苦手な方は男女問わずよくあることですので、恥ずかしいことではありません。横になったり、リラックスする時間をとったりと、一人ひとりに合わせた対応をおこないますので、スタッフまで事前にお伝えください。
採血で気分が悪くなりやすい方
血管迷走神経反射を起こしやすい方は、事前にお伝えください。横になれるスペースで採血をおこないます。
採血で体調不良を起こしたら?
万が一、採血をした日にめまいや吐き気、失神などの症状が生じた場合には、まずはしばらく安静にしてください。とくに健康診断などでは、検査のために長時間の空腹状態で採血をおこなう場合も多く、そのような状況では通常よりも血管迷走神経反射が起こりやすくなっています。
気分が悪くなった際には横になって休み、何か水分をとりましょう。可能であればスポーツドリンクなど、カロリーやミネラルが含まれたものを選びます。血圧が下がって気分が悪くなっていることも多いので、横になり、クッションなどで少し足を高くすることもおすすめです。
そして医療機関内で体調不良を感じられた場合には、すぐにスタッフへお知らせください。15分〜30分ほど安静にしていると自然と回復することが多いです。慌てて起き上がったり活動をしたりせず、体調が落ち着くまでゆっくり過ごしましょう。
まとめ
今回は、採血で生じる副作用(合併症)についてご紹介しました。採血は一般的に安全な医療行為とされていますが、個人差や体調によっては軽い副作用が生じることがあります。
もし採血後に違和感や異常を感じた場合は、迷わず医療スタッフに相談することが大切です。採血は体の健康状態を知るための大切な手段です。適切な知識を持って、安心して検査を受けることが、健康を守る第一歩となります。
参考
・京都府医師会. 採血について
https://www.kyoto.med.or.jp/member/medical/pdf/blood%20draw201804A3.pdf
・厚生労働省「安全で安心な献血の在り方に関する懇親会」資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_128726.html