「タバコ、やめて」
大切な人に伝えたい10のこと -前編-

新型コロナウイルスが猛威を振るう一方、健康でいられることの大切さを改めて実感した人も多いのではないでしょうか。
一刻も早い事態の終息を祈るとともに、改めて自身の健康について見直してみませんか?
4月は医師監修のもと「予防医療」をテーマにお届けして参ります。
喫煙。本当はやめたい=3割
「予防医療」という言葉を聞いたことがありますか?
予防医療とは、病気になってしまってから治療するのではなく、病気になりにくい心身をつくるというものです。
そして、予防医療の象徴的な課題のひとつにあげられるのが禁煙です。
厚生労働省による成人喫煙率によると、現在習慣的に喫煙している人の割合は17.8%で、うち男性 が29.0%、女性 8.1%でした。

一方、喫煙習慣があるけれど、たばこをやめたいと思う人の割合を出して見ると次のような結果になりました。

なんと禁煙したいと思っている女性が38%、男性も30%を上回っていたのです。このグラフから、喫煙者のうち3人に1人が、やめたくてもやめられないと思っていることがわかります。
知ってほしいこと①
一瞬の快楽が、依存症を招く
やめたいのにやめられない。
その理由として「タバコを吸うと落ち着く」「ストレスが紛れる」という人も少なくないと思います。でも、それって本当なのでしょうか?
タバコを吸うと、ニコチンが肺から血中に入りすぐに脳に達します。そしてニコチンが脳にあるニコチン受容体に結合し、ドーパミンという快楽物質を放出するのです。ですが30分もすると体内のニコチンが切れて、反対にイライラしたり、落ち着かないなどの離脱症状があらわれます。
そうしてまたタバコを口にくわえてしまうのです。
このルーティンが習慣となり、ニコチン依存と習慣性依存といった2つの依存を引き起こすのです。
知ってほしいこと②
あなたの肺に起きていること
皆さんの中には、誰かから「タバコをやめて」と言われ疎ましく思ったことがある人もいるかもしれません。
でもそれは、あなたを大切に思う人からの愛のメッセージです。
日本医師会によると、喫煙によって肺がん発生の確率が約5倍上がり、8〜10年も短命になることが分かっています
タバコの煙の中には、約5,300種類以上の化学物質が含まれており、その中には、ニコチン、一酸化炭素、シアン化水素など70種類以上の発がん性物質
をんでいます。ちなみにニコチンは、ゴキブリの殺虫剤の成分です。
喫煙が危害を与えるのは肺がんだけではありません。
喫煙は胃がん、咽頭喉頭がんなどの悪性腫瘍、心臓病や脳卒中、メタボリック症候群、消化性潰瘍、認知症、股関節骨折、虚血性心疾患、脳血管障害、肺気腫、糖尿病……などあらゆる病気のリスクを高めているのです。
喫煙することで、大切な家族と過ごす貴重な時間が10年短くなるのは悲しいことですよね。
知ってほしいこと③
喫煙はコロナ重症化のリスクも
3月末、新型コロナウイルスについてデータの蓄積を進めているヨーロッパ疾病予防管理センター(ECDC)は、喫煙がコロナを重症化するリスクを高めているという研究結果を発表しました。
その理由は、ウイルスの感染力を高める酵素が喫煙によって活性化しやすい環境になるためだそう。
そのほか、中国の医療チームが、武漢の入院患者78人について重症化の要因を分析すると、喫煙者は非喫煙者よりも重症化しやすい傾向が見られたというデータも発表されています。
知ってほしいこと④
笑えない。受動喫煙の恐ろしさ
タバコの害は、吸う人はもちろん受動喫煙という形で周りの人にも及びます。厚生労働省は「マナーからルールへ」と言うスローガンを掲げ、2020年4月1日までに健康増進法の改正案を段階的に施行してきました。

この改正では、望まない受動喫煙の防止を図るため、多くの人が利用する施設などの区分に応じて、一定の場所を除き喫煙を禁止することが定められています。ちなみに、この法案では加熱式タバコもタバコ製品に分類されています。
そもそも受動喫煙とは、意図せずともタバコの煙を吸ってしまうこと。
タバコの煙は、吸い口のフィルター部分から吸い込む「主流煙」と、タバコの先端から発生する「副流煙」、喫煙者が喫煙後に吐き出す「呼出煙」によって構成されています。
「副流煙」は「主流煙」に比べ、ニコチン・一酸化炭素などの有害物質が多く含まれており、受動喫煙の主な要因となっています。
厚生労働省の『喫煙の健康影響に関する検討会報告書』によると、喫煙者の夫を持つ妻は、肺がんのリスクが1.3倍になることがわかっています。
日本肺癌学会資料に、わかりやすい写真があったのでご覧ください。

また妊婦さんや子供は受動喫煙による健康影響が特に大きいことがわかっています。
子どもの受動喫煙による健康面での影響には、喘息のぶり返しや乳幼児突然死症候群(SIDS)などを発症するリスクも高まります。
妊婦さんや子供が受動喫煙を受けないよう、十分に配慮が必要です。
知ってほしいこと⑤
ママパパが吸うと、子供も吸う?
タバコを吸うことで周りの人にもたらす健康被害は、副流煙による受動喫煙だけではありません。
最近では、喫煙者の髪の毛や服や息、床やソファ、車内などに残留した有害成分による3次喫煙(サードハンド・スモーク)の害も指摘されています。
サードハンド・スモークは目には見えませんが、数ヶ月は消えずに残留するニコチンが大気中の亜硝酸と反応して発がん性物質の「ニトロソアミン」が生成されることが判明しています。
さらに大きな問題は、親がタバコを吸うと子どもがタバコを吸い始める率が高くなるという報告もある点です。
禁煙にチャレンジするという試みは、「大切なものを大切にする」ことであるように思えます。
新年度がスタートするこの時期、自分の健康はもちろん、自分の大切な人の健康にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
次回は、「禁煙することで変わること」をテーマに「タバコ、やめて」大切な人に伝えたい10のこと –後編-をお届けいたします。
それではまた来週!
監修_医師 名倉義人
文_諫山由梨子