「タバコ、やめて」
大切な人に伝えたい10のこと –後編-

新型コロナウイルスが猛威を振るう一方、健康でいられることの大切さを改めて実感した人も多いのではないでしょうか。
一刻も早い事態の終息を祈るとともに、改めて自身の健康について見直してみませんか?
4月は医師監修のもと「予防医療」をテーマにお届けして参ります。
今こそ、禁煙はじめどき
喫煙が新型コロナウイルス重症化のリスクを高めるとして、WHOや国際結核肺疾患連合が禁煙を呼びかける最中、日本では4月1日より「受動喫煙防止条例」と「改正健康増進法」が施行されました。
これにより、屋内での喫煙が原則禁止に。
今まで当たり前にタバコが吸えていた居酒屋や飲食店、パチンコ店などでも一斉禁煙になったほか、これまでは「マナー」であったものが「罰則付ルール」へと変わりました。
国内外で受動喫煙に対する意識や禁煙を呼びかける声が高まっている今、タバコを吸う人も吸わない人も、改めて禁煙について考えてみませんか。
知ってほしいこと⑥
禁煙したら肌が若返る
まずはこちらの写真をご覧ください。
彼女たちは一卵性双子なのですがどちらが若く見えますか?

見比べてみると、左の人の方が肌にハリがありシワも少ないように見えます。
この写真はアメリカの形成外科の学会誌「Plastic and Reconstructive Surgery」に掲載された双子の写真で、タバコの害が見た目に現れることを示しています。
タバコを吸うと皮膚は血行障害を起こし、 肌は荒れ、やがてシワがふえていきます。そしてスモーカーズ・フェイスとも呼ばれる顔になっていきます。
でも禁煙すれば、肌は若返ります。
禁煙すると、今まで活性酸素の除去に使われていたビタミンCがメラニンの生成を抑制やコラーゲンの生成に使われるようになります。
またニコチンの作用で収縮していた毛細血管がリカバリーし、血行もよくなるため細胞の隅々まで栄養がいきわたるように。
すると肌はハリや透明感を徐々に取り戻し、シミ・シワ・くすみといった肌トラブルも改善・予防されるのです。
知ってほしいこと⑦
歯も歯茎も、息もキレイに!
喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病にかかりやすく、歯の本数の低下につながることは多くの調査から報告されています。
歯周病はキスなどでうつるリスクもあるうえ、歯周病の進行とともに口臭も強くなるので要注意です。
また、喫煙していると歯周病の治療効果は低く、治療後の治りも悪いといわれています。逆に考えると、禁煙をスタートしたときこそ、口腔内ケアのはじめどきです。

禁煙をすると歯を支える組織の状態がよくなるため、歯周病のリスクが下がり、治療効果が上がります。歯茎も弾力を取り戻し、みずみずしいピンク色に。
歯の治療を始めたら、歯医者での定期的なクリーニングもぜひ。歯石だけでなくタールによる黄ばみもとれてスッキリするでしょう。
キレイな息で、大切な人との距離も近づくはずです。
知ってほしいこと⑧
禁煙直後から変わること

タバコをやめることで得られることはたくさんありますが、一番のメリットはやはり健康になることではないでしょうか。
実は禁煙をスタートした瞬間から、体は喫煙による変化を元に戻そうと動き始めています。
20分後には、収縮していた血管が元に戻り、血圧と脈拍が正常化。
8時間後には血中の一酸化炭素濃度が下がり、運動能力が回復し始めます。
そして24時間後には血液中の一酸化炭素が正常に戻り、心臓発作の危険性も低下し、肺の浄化作用もスタート。
しかし、禁煙24時間後からは、離脱症状がつらくなる魔の期間がはじまります。ここでタバコを吸ってしまっては、ニコチン依存からは抜けられません。
徐々に本数を減らして禁煙に試みる人がいますが、それでは意味がないのです。
禁煙するということは、依存症から抜け出すこと。そのためにはきっぱり止めなければいけません。まずは3日間耐え抜いて。
というのも、ニコチンが体内から完全に抜けきり、離脱症状も緩和するのが3日目からだと言われているからです。
3日目を乗り切ったら、第一関門突破です。
さらに1ヶ月我慢できたら、第二関門突破に成功したと言えるでしょう。
この頃から、感染症や病気のリスクが減少し、お肌もキレイに! 胃の機能が正常化することで食欲がアップする人も多いかもしれません。
でもここで「1本だけ」と吸ってしまっては逆戻りです。
脳には”ニコチン摂取”=”快楽をもたらす”という神経回路(脳内報酬回路)ができてしまっていて、それを呼び覚ましてしまうのです。
知ってほしいこと⑦
1年経っても油断するなかれ
禁煙外来で禁煙の定義とされるのは『禁煙が3ヶ月以上続く』ことが目安とされていますが、実際には禁煙外来が終了した後に喫煙を再開してしまうケースも多いといいます。
そのきっかけとしては「ストレスを感じたから」、「飲み会でタバコを勧めらたから」などがほとんどです。
ニコチンは、ヘロインやコカインなどの麻薬と同じくらいの依存性があると言われており、禁煙するのはとても難しいことだと言われています。

それでも強い意志でタバコをやめることができたなら、禁煙1年後から様々な病気にかかるリスクは徐々に低くなります。
そして、10〜20年後には肺がんリスクも非喫煙者のレベルまで戻ると言われています。
知ってほしいこと⑩
禁煙外来に通うという選択
タバコをやめる方法一つとして知っておきたいのが、禁煙外来という選択です。
禁煙外来の標準的なプログラムでは、12週間(3カ月)にわたり合計5回の禁煙治療を受けます。
その後、初診から2週間後、4週間後、8週間後、12週間後に受診します。
日本医師会のデータによると、12週間の禁煙治療を5回すべて受けた人では、7割以上が禁煙に成功しているとの報告も。
自分の意志だけで禁煙しようとする場合の禁煙率は5~10%程度とされていることから比べると、禁煙治療プログラムの成功率はかなり高いといえるでしょう。

禁煙を始めて3日以内に現れるつらい離脱症状も、医療用医薬品の禁煙補助薬を使うことで和らげることができるといいます。
禁煙外来は保険も適用されるため、12週5回の治療でおよそ13000円〜20000円(使う補助薬などによって変動)です。
最近では禁煙のオンライン診療も増えており忙しい人も受診しやすくなってきています。
誰かがいるから、禁煙できる
受動喫煙やサードハンド・スモーク対策が啓蒙されて、禁煙が呼びかけられるいま、喫煙は趣味嗜好の問題ではなくなってきました。
さらに新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、周りの人を意識した行動が強く求められています。
そんな時代の波を感じて、禁煙にチャレンジする人も多いでしょう。
ですが、なかなかうまく行かない場合もあるかもしれません。
でもそんなとき、非喫煙者は喫煙者に対して冷たく厳しい目を向けるだけでなく、愛を持って禁煙を呼びかけることができたら何か変わるかもしれません。
禁煙を成功できたという人々の話を聞くと、その人たちのそばには、
「タバコ、やめて」と呼びかける人の姿が必ずあります。
”誰かがいるからできること”が世の中にはたくさんあります。
歴史的な緊急事態の渦中にあるいまだからこそ、大切な人のためにできること、隣の人のためにできることを一人一人が考えて行きたいものです。
監修_医師 名倉義人
文_諫山由梨子